投稿者: KOH
 それは秋だと言うのに妙に蒸し暑く寝苦しい夜の出来事だった。
 オレが寝ていると、唐突に顔の上に何かが被さってきた。
 暖かくて冷たくて妙に柔らかい。
 その異様な感触にオレは思わず。
「ぶわっ!」
 と、飛び起きた。
 同時に。
「ミギャー!」
 という表現しがたい悲鳴と共に何かが部屋の隅に飛んでいった。
 カーテンの隙間から微かに入る月の光に反射して、部屋の奥に妖しく光る二つの瞳。
「………猫?」
 こいつが顔の上に乗ったのか?
 一体どこから……あ、網戸が開いてる。
 どうやって二階に上がったかは知らないけど、どうやら網戸を開けて入ってきたみたいだ。
 オレも十分に驚いたが、猫もオレが飛び起きたんでびっくりしたんだろう。
 部屋の隅で何やら威嚇している。
「フーーーーー!」
「…おい、今出て行けば身の安全は保証はする。とっとと出て行け」
「フーーーーーー!」
「オレはお前のためを思って言っているんだぞ」
「フーーーーーーー!」
「…所詮は獣か。いいか、オレは寝るからな。もう顔の上なんぞに乗るんじゃないぞ」
「フーーーーーーーー!」

   ***

 カシャァッ!
 いつものようにカーテンの引かれる音と、そして目の奥を貫く陽光。
「ほら、起き…?…………………………みゃー」
 長森、ひょっとして今のは猫の鳴きまねか?
「おいで、怖くないよ」
 日本語が通じるならそいつは今、そこにいない筈だぞ。
「あ、お腹空いてるのね?今、瑞佳ママがご飯上げますからね…えーと、確か由起子さん、今朝の浩平の朝ご飯は焼き魚だって言ってたわよね」
 なんか物騒な事を言ってるような気がする…。
 ガチャ、トントントントン。
 扉を開け、階段を降りる足音。それはすぐに戻ってきた。
 ………トントントントン、ガチャ。
「ほ〜ら、お魚ですよ〜」
 がばぁ!
「おい!」
 部屋の隅で長森がしゃがみこんで向こうを向いている。
「あはは、おいしい〜?」
 その向こうで何やら黒っぽい毛玉がうにゃうにゃ言いながら何かを齧っている…恐らく、その『何か』はオレの朝飯だ。
「おいこら!そこの長森!」
 オレの声に長森は振返り。
「浩平。ちょっと静かにしててよ、この子が落着いてご飯食べられないよ」
 いや、平気で食っているようだが…。
「そのご飯の事なんだがな。ひょっとしてオレの…」
「パパが細かいこと、気にしちゃ駄目だよ」長森はすっと立ち上がると制服と鞄をオレに手渡した。「さ、早く行かないと」
 パパァ?何でそうなる。
「ちょっと待て、その猫、どうするつもりだ?」
「あれ?浩平の飼っている子じゃないの?」
「バカ、オレは猫なんて飼わないぞ」
「そんな、可哀相だよ。こんなに懐いてるのに、どうして飼ってあげないの?」
 オレには懐いてないぞ。懐かれているのは主に長森だ。後、オレの朝食。
「面倒だ。下に行くからそいつも連れてきてくれ。外に放り出す」
「えー、可哀相だよ。ほら、こんなに懐いてるのに…」
 長森は、自分の足に体を摺り付けている猫の頭を撫でながらそう言った。
「…そいつが懐いているのは長森、お前だろう」
「浩平もご飯上げればいいんだよ」
「その程度で懐くような多情な奴は知らん」
「そう、なら仕方ないね…」

   ***

「オレは知らないぞ」
 昇降口で、オレは猫を抱えた長森に釘を刺した。
「いいもん。私がちゃんと面倒見るもん」
 左手で猫を持ちながら…抱きながら、とは言い難いのだが、なぜか猫は抵抗しない…長森はそう言いきった。
 結局、長森は学校まで猫を連れてきてしまっていた。
 そういや、長森が最初に猫を拾ったときもこいつ、こう言い張って、結局おばさん達に飼うことを認めさせたんだっけ。
「よし、オレとその猫は無関係だ」

   ***

「みゃー!」
「ぎゃー!」
 瑞佳が連れてきた猫が七瀬のお下げにぶら下がろうとして、思いっきりお下げとその本体(七瀬だ)に爪を立てた。
 あー、やっぱりこうなったか…。
 枝毛が増えなきゃいいんだけどな。
「ちょっと、折原、見てないでこれなんとかしてよ!」
「オレはその猫とは無関係だ」
「瑞佳がこの猫、折原の部屋から連れて来たって言ってたけど嘘なの?」
 自力で背中に爪を立てる猫を排除しながら七瀬。
「いや、それは本当だけどな」
 しかし、そんな事言ったのか?長森は。
「じゃあ、関係ないことないじゃない」
 …えーと、どう説明したものかな。
 オレ達がそんな言い合いをしてる間に、猫は廊下の方に走っていった。
「あ、七瀬、あいつ外に出るぞ」
「早く追いかけなさいよ」
「長森がいるだろ?」
 あの猫は長森の管轄だ。
「瑞佳なら、先生に頼まれて午後の授業で使うプリント取りに行っちゃってるわよ」
「…っきしょー。結局こうなるのか?」

   ***

 猫はそのまま中庭へと走っていった。
 オレはそれを追いかけるが、四足と二足の差か、小回りの効く猫にどうしても追いつけない。

 くそ、一体どこに行ったんだ。
 いい加減諦めかけた頃、
「みゃー」
 という声が聞こえた。
 どこからだ?
「みゅー」
 あれ?
「みゃー、みゃー」
「みゅー、みゅー」
 二匹…いや、一人と一匹は中庭の木の根元で座り込んで見詰め合っていた。
 椎名はペタンと足を投げ出すように座り、猫はその足の間に綺麗な姿勢で座っている。
「みゃー、みゃー」
「みゅー、みゅー」
 か、会話してる…。
 椎名の細い指が猫の喉をくすぐる。
「ゴロゴロゴロ」
「…おかあさんとはぐれちゃったの?」
「ゴロゴロゴロ」
「さみしい?」
「にゃゴルルル…」
 怪しげな鳴き声で答える猫。
「わたしはね、もうさみしくないよ」
「グルルル…」
 うーん、会話、なのか?
 そう言えば椎名、前はフェレットが友達だったんだっけ。
 オレはこのまま猫を椎名に預けておこう、ときびすを返した。

 ガサッ。

「みゅー!どこいくの?」
 しまった。上着の裾が枝に引っかかって音を立てちまった。
「ふみゅー…にげちゃった…」
 ふと気付くと、上目遣いでオレをにらむ(?)椎名。
「あ、あの猫な、長森のだから、きっとまた会えるよ」
「おねえちゃんの?」
「ああ、ひょっとしたら長森の所に帰ったのかもしれないぞ。行って聞いてこいよ」
「…うー、うん!」

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次回予告

 椎名にはああ言ったものの、猫の逃げた方向は教室からちょっと外れていた。
 オレは椎名が教室に向かうのを確認した後、猫の後を追った。
 そしてオレがそこで見たものは!

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KOHです。

温泉に行こうなんてものを書いたせいかは不明ですが、温泉宿泊券を抽選で貰って水上温泉に行ってまいりました。
温泉ワッフルは流石になかったようです、後は概ねあんな感じでした。でも最近の温泉のゲームって割と新しいものも入っているんですね。
さて、今回は『猫』。
温泉に行こうと同じ流れのお話しになります。
一応、後1回か2回の予定です。

以下感想です。

@GOMIMUSIさん
幸せな日
 びっくりしました。こういう視点もありなんですね。最初はあの街って開発途上だっけか?とか思いながら読んでいたんですが…

@よもすえさん
めざせっ!ほのぼの!多重配役
 明けの明星になるぅううっ。で思いっきり笑わせていただきました。しかし、何にせよ、乙女になれて良かったね。七瀬。

@だよだよ星人さん
歌う詩子さん
 詩子がとっても生き生きしてて良いですね。歌詞は真中下の曲と見ました。あわせてみたらぴったりだったし。

@まてつやさん
怪盗ミラクルルミ!
 次回からは髪の中にサボテンでも隠しておきますか(^_^)。浩平もアイディアは良かったんだけど、「アレ」じゃ相手が悪い。
〜光と闇2〜
 次回、みさきさんの目は見えるようになるのでしょうか?とても気になります。ちなみn前回も書きましたがKOHの希望は見えるようになってほしい。です。

@kouさん
if
 こういう展開ですか。これから見逃せませんね。実は浩平、結構薄情だから、単に忘れただけだったりして(^_^;

@11番目の猫さん
エピローグ 「届いてください」
 いい話しです。泣けそうなくらいいい話しです。えらいぞ、繭。良かったね、繭。

@藤井勇気さん
ONE日本昔話 「浦島太郎」
 カメかぁ…そうかぁ、とうとう哺乳類ですら…ところであれ、七瀬の代金込みですか?(^_^)
特別企画 氷上シュン無謀SS
 一体、どんな噂なんでしょう?オフレコで聞いてみたいような気がします(^_^)
 物。ですか。浩平って七瀬に並ぶ不幸なキャラかも。

@いけだものさん
幼なじみの運動会
 いいですねぇ。ほのぼの系大好きです。住井の提案に抵抗する辺りは思わずにやけながら読んでました。

@ここにあるよ?さん
第一回早食い大会!!2
 待ってました(^_^)。さて、対戦相手は誰になるんでしょう?

@スライムさん
悪あるところに必ず正義あり(2nd)
 えーと…澪以外の発言にあんまり正義を感じないんですが(^_^;それも最後のほうでは…所で繭。そんな所で一体何を?

@いちごうさん
戦う乙女たち!! 〜3 〜(前編)
 だれ、ではなく、なに、と来ましたか。一体何なんだろう?ところで、これから誰がアナウンスや解説を…。

@偽善者Zさん
浩平犯科帳 第一部 第八話
浩平犯科帳 第一部 第九話
 緊迫感のある話しですね。とかいいながら、お瑞、浩平のやり取りや詩子の行動など、とても楽しいし。うまいですねぇ
 次回から本格的にお七が主人公ですか?(^_^)

@T.Kameさん
The Third Child
 とうとう終わってしまいましたか。エピローグ2を希望。大丈夫。まだきっと南君にもチャンスがあるに違いない。

@しーどりーふさん
卒業アルバム
 消えるときはゆっくりと存在を蝕まれていったんだから、帰ってくるときもそうあって良いわけですよね。
 所で詩子でぽん!がRになってますが、このRって一体…

@火消しの風さん
涙を越えて NO.3
 七瀬も浩平じゃなく繭をきっちり睨んでおけば髪を引っ張られることもなくなるだろうに…ところで、お願いって一体なんなんでしょう?

@mizukaさん
こうへいのくそやろう
 うーん、猟奇的かと思いきや、素直になれない長森の気持ちだったんですね。でも、普通怒るよなァ。あんな事されたら。