温泉に行こう−3− 投稿者: KOH

 私は駅に着くなり観光協会の窓口を探し、パンフレットを貰った。
 みんな、こういう基本が出来てないのよね。まあ、このしいこさんがついているから任せておきなさいって。
 駅からは宿のマイクロバスが出ていた。
 運転手さんの、面白いんだろうけど方言がきつくて落ちの良く分からない話しを聞きながら、バスに乗ること20分。
 私達は大きな川沿いの温泉街に到着した。
「へえ、結構いい宿じゃない」
 うん。これでこそ来た甲斐があったってもんよ。
「…そうですね」
 茜はそう返事をしたものの、心ここにあらず。といった風だった。
「どうしたの?」
「…いえ…この辺りにお土産屋さんはあるでしょうか?」
 私はウエストポーチから駅で貰ったこの辺りの観光案内を取り出した。
「まあ、普通は宿に小規模だけどあるわよね」そう言いながら小冊子になった観光案内のページをめくる。「うん、この辺りの温泉宿は全部、お土産売ってるみたいよ。それと、もう少し川沿いに下った辺りには、ちょっとした商店街みたいな所もあるみたいよ」
「…詩子」
「何?」
「行きましょう」
「待ってよ。荷物置いてからじゃないと」
「…分かりました」
 うーん、茜がこんなに懸命になるなんて、一体どうしちゃったんだろう?

 部屋割りはすんなりと決まった。
 折原君と住井君。これは当然として、私しいこさんと茜。みさきさんと深山さん。長森さんと繭ちゃん。七瀬さんと澪ちゃん
 と、まあ、一応の部屋割りだけど、実は女性陣の部屋は大部屋を襖で区切ったものなので実質的な部屋割りだと私・茜とみさき・深山。長森・繭と七瀬・澪。とこうなる。
 さて、とりあえず部屋に荷物を置いた私と茜。それからなぜか澪ちゃんは、近場のお土産屋さんめぐりをする事にした。

「あー、今時ペナントだって。これ、何に使うのかな?」
 お土産定番アイテムその一。本当に何に使うんだろう?
 書き書き。
『集めて丸くはるの』
 ペナントを集めて、丸くはった完成図も書いてくれた。丸いケーキを十二等分したみたいな絵ね。
「えー?本当?」
『従兄弟のお兄ちゃんがやってたの』
「へぇ…あ、見て見て大きな鉛筆」
 どの観光地でも見かける定番アイテムその二ね。
『これ、削れないの』
「うん、そうなんだよね、とても堅くてナイフじゃ削りにくいし鉛筆削りには入らないし…って、どうして知ってるの?」
『昔、買ったの』
「あ、やっぱり?そうよねぇ、やっぱり一度は買ってみるわよね」しかし、なんでもっと柔らかい木を使わないかな…。ん?「わー、これ可愛〜よ。ほらほら」
 何だろう、ハムスター?ちょっと大きめなのがまた可愛い。
『可愛いの』
 うん、澪ちゃんも気に入ってくれたみたい。って、あれ?
「茜?」
 辺りを見まわすがそれらしい姿は見当たらない。
『いないの』
「そうね。どこに行ったんだろ?」 再び辺りを見まわす。と、良い匂い…。甘い、バターの香り?「きっと、こっちよ」
 私の勘がそう告げている。んーと、勘じゃなくて嗅覚かも。

 匂いを辿っていくと沢山ののぼりが立てられた店に辿りついた。
《餡とカスタードクリーム。練乳と蜂蜜の奏でる甘さのハーモニー!》
《あの『山葉堂』と共同開発!幻の味。温泉ワッフル!》
《和洋折衷。この味は癖になる》
「…きっとここね」
『美味しそうなの』
 あう、ひょっとして澪ちゃんも茜と同じ味覚の持ち主なの?

 店内に入ると意外にも結構繁盛している様だった。
「うわー、結構並んでるね…って、澪ちゃんいきなり並んでるし…」
 見ると、澪ちゃんはいそいそと列の最後尾にくっついて品書きを一生懸命見つめている。
「…詩子、私もいます」
 列の中間辺りから呼ばれ、私はそちらに向かった。
「あ、茜、やっぱりここだったのね。所でこの店、ひょっとして知ってたの?」
「はい、前にテレビで宣伝を見たので是非一度来たかったんです」
 なるほど、だからこの温泉って聞いたとき、目の色が変わったのね。
「で、お目当ては?」
「温泉ワッフル・スペシャルスイート」
「その名前の一体どこが温泉よ」
 頭の温泉を除いたらみんな外国語じゃない。もっとも、それを言ったら温泉饅頭だって似たようなものなんだけど。
「餡が入っているんです…でも…」茜は悲しそうに目を伏せた。「一人一つしか買えないんです」
「一つじゃ駄目なの?」
「小倉と白餡があるそうなので…」
 そう言って、茜はちらっと私の方を見た。はぁーーー。
「分かったわよ、じゃあ、私も並んであげるから」
「ありがとう。詩子ならそう言ってくれると思ってました…では白餡をお願いします」

 温泉ワッフルの正体はワッフルの片面に搗き立ての甘いお餅を貼り付け、もう一面に餡を基調としたトッピングを施した凶悪な代物だった。
 試しに普通(?)の温泉ワッフルってのを買ってみたんだけど…。
 ううっ。このしいこさんだって甘いものは大好きなんだけど、さすがにこれは途中で投げ出したくなった。
 練乳も蜂蜜もカスタードクリームも、みんな単体で十分過ぎるくらいに甘い。
 唯一、餡だけはさほど甘くないんだけど、これが罠だった。
 餡に甘い練乳が加わった瞬間、甘さが飛躍的にアップ。飲み込んじゃえば!と思ったのもつかの間、餅が邪魔をして飲み込むに飲み込めない。
 でも、ちょっと涙目になりながらも食べ物を粗末にしちゃいけません。というオバアチャンの遺言を守り全部食べきった。
 うん、自分を誉めてあげたいわ。
「もう暫くは甘いもの、見たくもないわ…」
 ふう。と一息ついて、自動販売機で買った緑茶をすする。
 甘いものの後には渋いお茶。
 日本人ならやっぱりこれよね。
 …ちょっと甘すぎたけど…もう二度と匂いも嗅がないと思えば…
「…詩子」呼ばれて、顔を上げると茜の真剣な表情。「お願いがあります」
「何?」
「新製品があったんです。鶯とこし餡と栗入りとさつま芋…」
 茜の顔が悪魔に見えた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ども、KOHです。
えーと、今回は詩子さんでありながら茜だったかも…
またサブタイトル付けちゃいましょう。
『温泉湯煙紀行。詩子を襲う澪と茜の甘い誘惑』
しかしとうとうワッフルに手を出してしまいました。
次回は深山先輩視点で進みます。多分。

以下、感想です。

@スライムさん
アサッシン瑞佳
 …夢おちだと思ったのに…(^_^;

@よもすえさん
ありえないよ。の茜空(4)
 瑞佳、その鉄パイプ、どっから出した。七瀬、ストレス解消はちょっとちがうぞ。澪…それをいっちゃぁ…。
 深刻ななりそうなテーマを笑いに包んで楽しくまとめましたね。凄いなぁ

@静村 幸さん
地元紹介記
 先輩のまとめが全てを物語っているかも…つーか、爆笑(^O^)

@もうちゃん@さん
ミズエモン『今だ!勝利の大魔球』
 七瀬・スネオがみさき・ジャイアンよりも狂暴に見えるのはなぜ?(^_^;
 落ちがいーなー。とりあえず、浩平にエールを送ります。
 死ぬな浩平。負けるな浩平次回作からはスネオの天敵(?)出現だ!

@T.Kameさん
The Third Child
 南君、本気みたいですねぇ。45万円…しかし、茜、それはないんじゃぁ…
 ちなみに南君はおそらく「茜おねえちゃんのそばにいる知らないおにいちゃん」という認識ではないかと(^_^)

@いけだものさん
読書の秋
 起こしてやれよ、浩平(^_^;
 えーと、茜の行きたがるXX温泉の謎(?)でした。

@まてつやさん
〜光と闇〜
 うーん、娘がいるって事は既に結婚しているわけですね。手術に至る経過が気になります。みさき(先輩とは流石に言わないですよね)さんがどう考えたのか。
 続き、読んでみたいです。
 出きれば目が見えるようになってほしい。私、ほのぼの系が好きなので(^_^;

@偽善者Zさん
浩平犯科帳 第一部 第六話
 浩平のあの台詞はさりげないアレですか?味噌汁が飲みてぇってやつ…考え過ぎ?
 しかし、気付かなかった…違法なんですね、あれ。って、それ言ったら髪結わずに童姿だし。七瀬の不良〜

吾が輩はハムスターである4
 うん、確かに謎だ…(^_^)

@雫さん
髭の憂鬱(続後編)
 いやぁ、笑いました。
 茜ちゃん軍団がもう。髭もいい奥さんもって良かったですねぇ。