投稿者: KOH
 公園のベンチでジュースを飲みながら日向ぼっこ。
 浩平君の今日のデートコースは小鳥の声と菜の花の香りの道だった。今はその帰り道。
 最近、浩平君は色々な所に連れて行ってくれる。
 この前は小川のせせらぎと草の絨毯コースだった。
 音と香りと触感。それから美味しい物。浩平君はいつも私を驚かせてくれる。
 でもね、浩平君。私はこうやって浩平君の隣に座っている時が一番安心できるんだよ。
「浩平君」
「何?先輩、あ、ジュースお代り?」
 ムードがあまりないのがちょっと残念。
「もう……呼んでみただけって、言いたかったんだよ」私は浩平君の手を握ろうとするが、その手は空をつかんだ。「あれ?」
 浩平君の辺りの空気が動く。どうしたのかな?
「おーい、まこ。まこじゃないか。こっちだ、こっち!」
 マコ?知らない人だ。お友達かな?…真子、麻子…うーん女の子の名前にしかならないよ。
「誰?」
 しかし、私の声は浩平君の耳には届かなかった。
「まこー、久しぶりだな。元気だったか?」
 マコさんは浩平君に会えたのが嬉しいのか、何かを引きずりながら走ってきた。息苦しいのが、ハア、ハアと息が荒い。
「そーかー、よしよし。……こらこら。相変わらずだな。……ん?」
 おかしい…確かにそこに誰かいるのに声が聞こえないよ。まるで澪ちゃんと浩平君がお話をしているときみたいだよ。ひょっとしたらマコさんも話せないのだろうか?
「浩平君、寂しいよ〜」
「あ、悪い悪い。忘れてたわけじゃないんだけど、こいつに会うの久しぶりでさ」
 こいつ…ちょっと妬けてしまうよ。私はそんな風に誰かに紹介された事ないのに。
「あ、こいつもみさき先輩に挨拶したいらしいよ」浩平君はそう言って私の手を掴み、浩平君の膝の辺りに持っていった。「ほら」
 次の瞬間。
「きゃ〜〜〜!」私は悲鳴をあげ、何かに触れた手を抱きしめた。「何?ねえ、今の何?」
 暖かい。というかちょっと熱いくらいで湿っていて、柔らかくて…そういえば、触れる直前に何か暖かい風も感じたけど、まさか。
「何って…まこが舐めたんだけど…」
「マ、マ、マ、マコさんってまさか犬?犬なの?」
 お願い浩平君、違うって言ってよ。
「ああ、そうだけど…まさか先輩」
「う…うん、犬だけは駄目なんだよ」私はマコから少しでも離れるように、ベンチの上で後ずさりながら言った。「子供の頃。まだ目が見えていた頃に犬に追いかけられてから、どうしても怖いんだよ」
「大丈夫だよ。このマコは人懐っこい犬だし」
「噛まない?」
「軽く噛んだりするけど、それって手をつなぐくらいの力だし…」
「噛むんだ〜」
「いや、だから痛くないようにだって」
「でも、噛むんだ〜」
 思わず涙目になる。浩平君、あきれたかな。でもどうしても犬だけは駄目なんだよ。
「先輩…」
 急に浩平君がまじめな声を出す。
「何?どうしたの?」
 浩平君、今までにない真剣な声だ。
「ごめん。俺、嘘ついた」
「え?何?」
「実はこのまこ、凄い狂暴な犬でね。今まで何人も噛まれてる」
「ひっ!」
 目の前にそんな狂暴な犬がいると思っただけで体がすくんで動けなくなる。ひどいよ、浩平君。そんな狂暴な犬を呼ぶなんて。
「その、撫でてくれる人には軽く噛むだけなんだけど、触ろうともしない人には…いや、俺の口からはとてもこれ以上は…」
「触ると噛まれるのに、触らないともっとひどい目に遭うんだね?そうなんだね?最悪だよ〜」
「だから先輩、あきらめて軽く触ってみないか?噛まれないようにこいつ、押さえておくから」
「触るのも噛まれるのもいやだよ〜。あ、そうだ、私が逃げる間、浩平君がその犬を捕まえておいてくれるっていうのはどうかな?」
 われながらグッドアイディア。浩平君がちょっと可哀相な気もするけど、それは気のせいって事にしよう。
 でも、そのグッドアイディアも即座に却下されてしまったんだよ。
「そんなに長い時間は押さえていられないよ。駄目だ、きっと途中で追いつかれる」
「ひ〜ん…最悪だよ〜」
 浩平君がそっと私の左手を握る。
「さ、先輩」
 恐る恐る左手を伸ばす。と、途端に手に冷たいものが押し付けられる。
「ひっ!」
 思わず手を引っ込めようとするが、浩平君がしっかりと握っててまったく動かない。
 マコは私の手に鼻をつけて匂いを嗅ぎ指をぺろぺろと舐めた。なんか、ふぁさふぁさと音がするけどこれはなんだろう?
「どうやら、先輩はマコに気に入られたみたいだね」
 これで終わりかな?とちょっと安心しながら聞いてみる。
「気に入られるとどうなるの?」
「少し遊んであげないと嫌われる」
 そう言われても…犬と遊ぶって何すれば良いか知らないし…昔、TVで見た時は笑いながら走るってのをやってたけど…。
「遊ぶって言われても困るよ。私、ここでは走ったり出来ないし…」
「ああ、それなら大丈夫。掌を上に向けてお手って言えばいいんだ」
「こう?」私は言われた通りに掌を上に向ける。「お手」
 途端に何か堅いものが手に乗る。その形からそれが前足で、堅いものは爪だと分かった。
「ひ、引っかいたよ」
「大丈夫、そのまま軽く手を上下に振って」
「う、うん…」
 浩平君に言われた通りにそっと手を振る。と、あれ?私の手の動きに合わせてマコも前足を動かしてくれている。とても優しい動かし方だね。私は少し落ち着きを取り戻してきた。あ、今まで気付かなかったけど浩平君、両手で私の私の左手を掴んでいる。
「浩平君、嘘吐きだよ」
「え?」
「マコのこと、押さえておいてくれるって言ったのに、私の手を押さえているよ」
「へ?…あ」
 慌てて片方の手を離す浩平君。でも、もう分かったよ。浩平君がマコじゃなく、私のことだけを押さえていたのならマコは危ない犬なんかじゃないんだね。
「浩平君、逃げないから手を離して」
「あ、ああ」
 浩平君はゆっくりと私から手を離す。マコの前足が僅かに揺れた。きっと浩平君が私の手を離したのを不思議そうに見ているんだと思う。
「…マコ」
 マコの前足を離し、そっと両手を伸ばす。と、その両手の間に柔らかいものが入ってくる。毛皮の感触。暖かくてゴワゴワしてて、そして生きている。
 そのまま手探りでマコの頭を撫でる。あ、耳が柔らかくて気持ち良い。
「先輩、首の辺りから背中にかけてとか、ちょっと強めに撫でてやると喜ぶよ」
「えっと、こうかな?」
 ぐわしぐわし。と浩平君の教えてくれたように撫でる。ふぁさふぁさのいう音が早くなった。
「やっぱり浩平君は嘘吐きだよ」
「ああ、そうだな」
 浩平君、声が笑ってるよ。でも、きっと私も笑ってる。
「マコ、とても優しいよ。うん、触ったら良く分かる。人に触るのが好きで好きでしかたないんだ」
「うん。ねえ、まだ犬、怖い?」
「怖いよ。でも、マコは怖くない」
 マコは昔、私を追いかけた犬じゃない。あの犬よりもずっと大きいけど、とても優しい犬だって分かるよ。
 少し遠慮がちにマコが私の手にじゃれる。
「ねえ、浩平君」私はマコの頭を撫でながら言った。「今日はとても楽しかったよ。初めてちゃんと犬に触れたしね」

「ところで、昔犬に追いかけられたって言ってたけど…どんな犬?柴犬とか土佐犬みたいな大きいの?」
「うー…笑わない?」
「もちろん」
 力強く答える浩平君。
「…………マルチーズ」
 浩平君の反応はとっても鈍かった。きっと子供の頃の私が追いかけられている所を想像したんだと思うよ。
「は?…っぷ…っくっくっく」
「あ〜、浩平君、やっぱり嘘吐きだよ〜」

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今週はみさき先輩でしたっけ?
しかし、みさき先輩の一人称って難しいですね。
色、形、大きさ、目で見えるものを表現できないなんて…。
あ、ちなみにマコってのは近所に実在した犬です。

さて、感想…って1週間でこんなにですか?

済みません、全部書いたら本文のサイズ突破しましたので、今回は半分くらいに押さえておきます。
もっとこまめに書いておけば良かった…(2学期直前の小学生モードですね)。

@藤井勇気さん
ONE日本昔話『桃太郎』
 大将全員。しかもみさき先輩まで連れてくるなんて…きっと、宝物はすぐに食費に化けるな(^^)
 しかし七瀬の「舐めないでよっ…」は笑いました
いつもありがとう(後編)
 いー話やぁ。盛り上がって、最後にあの台詞。いいですねぇ

@WIL YOUさん
MOONinONE Second
 MOONってやった事ないんですが、これ読んだらほしくなりました。

@11番目の猫さん
エピローグ「盟約」
 ハッピーエンドにならないかと思ってたんですが。良かった。シーン毎の情景描写が決まってますね。

@しーどりーふさん
『雨』の歌詞
『虹のみえる小径』の歌詞
 はう、なんで皆さん、こんなに上手にタイトルにあった歌詞が作れるんでしょう。
 おまけに絵が浮かぶようだし。曲とも綺麗にあっているし。
『約束』
 澪がけな気でいいですねぇ。
反転する世界
 おばさん…聞かれたら茜の安全は保障できませんな。きっと。

@偽善者Zさん
吾が輩はハムスターである
 一瞬、マガ○ンのへなちょこ…ネタかと思いましたが実はしっかりまじめなお話でしたね。
 しかし、ペットに…浩平…うーんやられた(^^)
浩平犯科帳 第一部 第三話
 読みごたえありました。次回は繭ですね?楽しみにしてます。

@OZさん
永遠の盟約
 こうへいとみずかとみさお。そして浩平と瑞佳の関係が素直に納得できました。

@GOMIMUSIさん
ONE of the Daydreamers
 一体誰が思い出してくれるんでしょう。個人的にはがんばれみさき先輩。
『追憶』の歌詞です
 うーん、綺麗な歌詞です。全部の曲に歌詞をつけるなら、とりあえず、どなたか「見た目はお嬢様」の歌詞を作り直してくださいな。タイトルと歌詞があってねぇ(^^;

@天ノ月紘姫【DTK02】さん
わっふるな午後(その5)
 澪ってば一体…まさか、いつ寿司を食べに行っても大丈夫なように常備してたのか(^^;
@ここにあるよ?さん
みんなでキャンプ
 茜のカレーって普通の味なんでしょうか?
 しかし、茜ちゃんスペシャル…一体どんなお味でしょう?辛さと甘さのはぁもにぃ?

@いけだものさん
浩平サスペンス劇場
 うーん、良く考えるととても怖い話かもしれない(^^;
 しかし茜って結構楽しい性格かも。

@スライムさん
悪あるところに必ず正義あり
 え?続かないんですか?電子レンジャー対ワッフル。とか、電子レンジャー対猫。とか。あ、猫はまずいか。
Moonな日々(前編)
 是非、澪と話が出来る携帯のなぞを解明してほしい(^^)

@雫さん
髭の憂鬱
 七瀬ってば一体…

@白久鮎さん
学校
 さすが幼馴染。という事なんでしょうね。良く考えたら浩平と互角に渡り合ってるしなぁ。

@瑞希 龍星さん
The Spirit World Ver ONE No.1
 猫のにくきう…冬場は勘弁してください(^^;

@だよだよ星人さん
決戦!多食畜生!!
 明かりの下に出たみさき先輩がいいです。

@まてつやさん
こいびとのあいず
 いいですね、とても繭らしい。でもって、最後の台詞も決まってます。

でわ