『一緒に…』 投稿者:KOH

 いつの間にか放課後になっていたらしい。
 七瀬も長森も既に帰った後のようだ。
「ち、今日は寝過ごしたぜ」
 机に突っ伏して寝ていた俺は、のそのそと起きだし、一応、机の上に出してあった筆記用具をしまい始めた。と、突然暖かくて柔らかい感触と共に俺は視界を失った。
「だーれだ」
 突然の目隠し。
 一体誰だ?
 声は女性だった。それは間違いない。というか、男だったら恐いぞ。
 少なくとも七瀬じゃねーな。あいつがやるなら突然の目潰しって所だろう。
 じゃ、長森か?
 いや、これはあいつの声じゃないな。さすがに長森の声は間違えない位の付き合いだしな。
 澪…は話せないから違うだろ。
 みさき先輩はこういう事やりそうだけど、目が見えない状態で俺の頭の位置を正確につかみ、目隠しができるほど勘が良いとも思えないし、わざわざ目隠しをしに俺のクラスに来るとも思えない。
 茜…がこういう事をするわけないし、繭…も今は学校が違う。後は……。
「詩子?」
 学校は違うがあいつはその辺お構いなしだからな。それに今の声は詩子だったような気がする。
「は?」
 俺は両目にあてられた小さな手をそっと外し振り向いた。そこには。
「…澪?」
 俺がそう呟くと、澪の後ろに立っていた詩子がスケッチブックを開いて見せた。
『はずれなの』
 と書いてあった。
「私の声ってことは分かったんだ」
 詩子はスケッチブックを掲げながら感心したように呟いた。
「単なる消去法。こういう事をしそうな奴が他にいなかっただけだ」
 澪はにこにこしながら詩子からスケッチブックを受取り。
『外れたから一緒に帰るの』
 と、予め書かれていたページを見せてくれた。用意の良いやつ。
「罰ゲームか?まあ、それは良いんだけど…お前、クラスも学年も違うだろう」
『詩子さんに呼んでもらうように頼んだらこうなったの』
 なるほど。こいつも被害者なわけか。
「で、一緒に帰るのはいいけど、まっすぐ帰るのもつまらないな。どこか寄っていくか?」
 澪はうん、うん、と大きく頷いた。
『公園に行きたいの』
「公園?」
『サクラが見たいの』

 最初に飛びついてきたのはもちろん詩子だった。
「お花見?私も参加するわ。あ、ちょっと待ってて」そのまま廊下側に走る詩子。どうするのかと見ていると、机の上に鞄を置いたまま詩子を待っていたらしい茜を引っ張って来る。「茜も参加ね」
「説明してください」
 事情が分からないまま連れてこられた茜は、当然の要求をした。
「桜、好きだったわよね?」
「…ええ」
「一緒に見に行かない?」
 茜は困ったような表情で、俺と澪を見つめた。
『一緒に行くの』
 全身から楽しさが溢れ出しそうな笑顔で澪がスケッチブックを見せる。
「…判りました。行きます」
 うん、うん。と澪は思いっきり頷いた。
「なあ、浩平」俺達の話しがまとまったところへ住井が声をかけてきた。「とりあえず、食料と飲み物はこんなものかな」
 と、両手いっぱいのコンビニ袋を見せる。
「ああ、それだけあれば十分だぜ…っておい、いつお前も行くことになった!」
「ふ、いい突っ込みだぜ」
「とぼけやがって…まあ、良い。その両手いっぱいの食料に免じて一緒に連れていってやる」
「おお!心の友よー」
 …これ以上訳が分からなくなる前に行こう。

 そして、校門を出たところでそれは起こった。
 何かが土煙をあげて俺の方に走って来る。何か、じゃない七瀬だ。
「わー、たすけてー!」
「みゅーみゅーみゅー!!」
「繭、待ってぇ!」
 つまり、七瀬がお下げに繭をぶら下げてスタンピードしてて、その二人を長森が追いかけているんだな。分かってみればなんて事ないな。
「さ、行こうか」
「行こうかって、いいの?放っておいて」
 詩子が意外にも良識的な意見を述べる。
「繭は楽しんでいるし、長森も繭の面倒見るのは好きでやっている事だろ。被害者は七瀬だけだから問題無し。それより、早く行かないと桜の下、全部人で埋まっちまうぜ」
「理由になってません」
 茜の冷静な突っ込み。
「いーの、いーの、どうせ七瀬だから」
 と、歩きだそうとする俺に七瀬がしがみついてきた。
「こらぁー、薄情者!」
「るさい!お前も七瀬なら自分でなんとかしろ!」
「浩平、それはあんまりだよ」七瀬の髪に絡み付いた繭をほどきながら長森が苦笑する。「所で、みんな揃ってどこかに行くの?」
 その言葉を聞き付け、澪がさっき、俺と茜を口説くのに使ったページを開いて見せた。
『公園に行きたいの』
「公園?」
 うん。と頷きページをめくる。
『サクラが見たいの』
「あ、お花見ね?」
 うんうん。と頷き、更にページをめくる。そして、
『一緒に行くの』
 と書かれたページを見せ、澪はこぼれそうな笑みを浮かべた。

「浩平君、桜を見に行くんだ」
 突然、背後から声をかけられ、俺は思わず悲鳴をあげそうになった。
「…!…先輩、おどかさないでくれよ」
 胸の動悸を鎮めながら振り向くと、案の定みさき先輩だった。
 多分、先輩の家の前で騒いでいる俺達の声を聞きつけて出てきたのだろう。
「浩平君、ひどいよ」
「え?」
 こういう場面では『いけないいけない驚かせちゃったよ』だろう。と思っていた俺は虚を衝かれた形で固まってしまった。
「桜を見に行くなら公園でしょう?公園に行くのに私を連れて行かないなんてひどいよ」
 分かったような分からないような理由で責められ、俺はとりあえず謝る事にした。
「ごめん…一緒に行く?」
「うん、浩平君が一緒なら安心だよ」
 向こうでは七瀬達と澪の話し合いもまとまったらしい。仕方ない。
「よし、住井!」
「おう!」
「食料十人分追加、宜しくな」


 最初はレジャーシート1枚で足りる人数だった。


 俺達は公園に着くと荷物を広げ始めた。
「七瀬、そっち、もっと引っ張ってくれ」
「乙女になんてことさせるのよ!」


 それが今では6畳はあろうかというブルーシート(通称ドカシート。工事現場で良く見るあれだ)。


 食料だってコンビニ袋2つもあれば足りる筈だった。


 大量の食料と飲み物をシートの上に広げる。
 ポテトチップス等の渇き物が多いが、ハンバーガーやワッフルがあるあたり、住井もまめである。
「よし、じゃあ食料広げて、紙コップとジュース行き渡ったか?」
「あ、繭、まだ飲んじゃ駄目だよ」
「みゅ?」
 繭、そこで不思議そうな顔をするな。
「川名先輩、こういうとき、普通は乾杯するまでは食べないものです」
「お腹が空いたよ〜」
「大丈夫だって先輩。先輩が後2人位いても大丈夫なくらいの量があるんだから」
「本当?とっても嬉しいよ…でも、その表現はあまり嬉しくないな…」


 それが、今では…住井、お前の尊い犠牲は無駄にしないぞ。


「じゃあ、みんな、乾杯しよう。かんぱーい!」
「「かんぱ〜い!」」
『かんぱ〜い』
 若干名、飲むより先に食べてたり、乾杯する前にコップが空いていたりするが、まあ御愛敬だ。

 最初のうちは程々に賑やかな花見だった。
 しかし、住井が生来のまめさを発揮して、隠し持っていたアルコール類を注いで回り始めた辺りから怪しくなってきた。

「1番!長森、歌います…はーるのーうらぁらぁのーすーみーだーがーわー…」
 相変わらず、はやりの歌を歌えない奴。というか、こういう所で歌うか?それを。
「2番!七瀬。素振りをします!」
 いーけど七瀬。その竹刀、どこから出した?
「3番!川名みさき。食べます!」
 …いかん、いつもより食べる量が多いような気がする。
「4番住井&茜。口説きます。好きです。茜さん。付き合ってください」
「嫌です」
 体、張ってるなぁ。それにしても茜も即答してるし…
 …
 ……
 ………
『27番 澪。パントマイムします』
 …みさき先輩以外には受けているみたいだ。

 みんなの騒ぎの熱気にあてられた俺は、少し離れたところにあるベンチで休むことにした。
(みんな元気だなぁ)
 等と年寄り臭い事を考えていたら突然視界が暗闇に閉ざされた。
「…」
 しばらく待ってみたが、手の主は何も言わない。いや、違うか。
「澪」
 俺の目を覆っていた小さな手が外され、代わりにスケッチブックが目の前に現れる。
『当たりなの』

 澪も疲れていたのか、俺の隣に座って、それでもみんなの騒ぎを楽しいそうに眺めていた。
「なあ、澪」
 俺はさっきの目隠しで思い付いた疑問を澪に聞く事にした。
 澪は、何?という風に首を傾げる。
「今日のこれって罰ゲームだったよな」
 うん。と小さく頷き、スケッチブックを開く澪。
『そうなの』
 既にスケッチブックのページはあまり残っていないらしく、前に書いたページだ。
「もしも、あの時俺が澪だって当ててたらどうなってたんだ?やっぱり何かあったのか?」
 と聞くと、澪は、うんうん。と大きく頷き、ページをめくった。
『外れたから一緒に帰るの』
 これは罰ゲームの時のページだな。と、見ていると、澪はもう一枚ページをめくった。
 そこには。
『当たったから一緒に帰るの』
 と大きな字で書かれていた。

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長々と駄文入れてすいません。
今回はあまり目立ってませんがKOHの一押しは先輩だったりします。
ちなみに、SSなるものを書くのもこういう場に出すのも初めてだったりします。
ルール無視しているところとかあったら申し訳ありません。

でわでわ