茜様御乱心(前篇) 投稿者:nabe
-------------------------------------------------------------------
 茜様御乱心(前篇)

茜スペシャルウィークって事なので、前に書いたSSのプロトタイプに手を
入れてみました。プロトタイプなのでかなり稚拙で、恥ずかしいです…
茜シナリオがある程度進んだあたりの時期を想定してます。
特にネタバレは無いと思いますが、痕のオマケシナリオの小道具を使ってます。

2分割してありますが、それでもかなり長いです。文章が回りくどいもので…
--------------------------------------------------------------------

 昼休み、喧噪に包まれた教室で、俺は茜の姿を探し出した。
「茜、今日も裏庭で昼飯食うか?」
「…はい」
 俺と茜は、連れだって裏庭に向かって歩きだした。
裏庭に並んで座ると、茜がなにか言いたげにモジモジしている。
「どうした、茜?」
「…浩平、今日はお弁当食べませんか?」
「弁当?」
「はい。今日は二人分作ってきました」
 そう言うと、茜は弁当袋の中から、シンプルなデザインの男物の弁当箱を取り
出した。
「いいのか? じゃあ、遠慮無く食わせてもらおう」
 俺はありがたく弁当を受け取ると、さっそく蓋を開けてみた。中には、厚焼き
卵やら鶏の唐揚げ、ほうれん草のお浸しにキノコのソテー等々、色とりどりの
おかずがたっぷりと詰めてあった。
「すごいじゃないか、こんな豪華な弁当食うの、初めてだぜ」
 感心しながら、俺は弁当箱に向かって手を合わせて「いただきます」すると、
さっそく箸をとって食べ始めた。そんな俺を、不安そうな目で茜が見つめる。
「うまい。うまいぜ、茜。この唐揚げのキツネ色の揚がり具合といい、ダシの
効いた厚焼き卵といい…」
「そうですか、良かったです」
 俺が誉めると、それまで不安げな表情だった茜は、うれしそうに微笑んだ。
別にお世辞で誉めているわけじゃない。茜の弁当は本当にうまかった。
「特にこれ。このキノコソテー、今まで食った事がない味だな。口の中がとろけ
そうな、不思議な味だ」
「そうですね、私も初めて使いました。変わったキノコです」
 自分も箸をとって食べ始めた茜は、キノコソテーを口に運びながら答えた。
「初めて使う? じゃあ、毒キノコだったりしてな。ははは」
「大丈夫です、持ってきてくれた人も健康に害は無いって言ってました」
 …なんだかひっかかる言い方だが、まあいいだろう。うまいし。
「あー、うまかった。ごちそうさん、茜」
「……」
 食べ終わった弁当箱のフタを閉じて茜に礼を言った時だった。
茜は無言で下を向いていた。
「どうした、茜? 具合でも悪いのか?」
 茜の肩が、少し震えているようにも見える。心配になって、茜の肩を揺すって
みようと思った、その時だった。
「へへ〜、こ〜へ、つかまえたっ」
 いきなり顔を上げた茜が、俺に抱きついてきた。その勢いに、危うく押し倒され
そうになるのをなんとか踏みとどまった。
「ど、どうしたんだ茜?」
「どうしたって、私何かヘン? そんなわけないよね〜、私ふつ〜だも〜ん。
きゃはははは〜」
 楽しそうに笑いながら、茜は俺にしがみついてくる。
……悪い夢を見ているようだ、とは思ったものの、茜のひまわりのような明るい
笑顔に、俺は一瞬見とれてしまった。今まで、こんな茜の笑顔を見た事がない。
 ふと、周りの様子が気になる。茜の声に、何事かとこっちを見る生徒たちの
視線が集中していた。茜に抱きつかれた俺を見て、視線が冷やなそれに変わるの
を感じる。
まずい。これはたいへんまずい状況だ。
「とにかく離れろ、な、茜?」
 俺が茜をひき剥がそうとすると、ころころと笑っていた茜が突然顔を伏せた。
「…茜?」
「くすん、くすん…」
 うつむいた茜が鼻をならす。
「茜、なにも泣く事は…」
「わかったわ…こーへは、私のこと愛してないのね、そうなのね〜」
 明らかに嘘泣きとわかる声で思いっきり叫びながら、茜は突然校舎の方に向かっ
て走り去ってしまった。
 後に残された俺に、さっきより更に冷たい視線が何本も突き立てられているの
がわかった。これじゃ、まるで俺が悪者みたいじゃないか。
 俺は逃げるように、茜の後を追って校舎に走り込んだ。明日から学校来られるん
だろうか……俺はとても不安になった。

 あいかわらず嘘泣きしながら先を走っていく茜が、図書館に入っていくのが見
えた。
俺も迷わず後を追って図書館に飛び込む。
 まだ昼休みも早い時間だからか、図書室にはほとんど人がいなかった。
室内を見回し、茜を探す。
…いた。書架で本を選んでいたらしい長森に抱きついている。
長森は、目を丸くして呆然としていた。そりゃそうだろうなあ。あの茜に、いき
なり抱きつかれるとは思ってもみなかったんだろう。
「み〜ちゃん、お肌綺麗だね〜 スリスリ」
 長森に茜がほおずりする。
「み、み〜ちゃんって私? 私の事?」
「そ〜だよ、長森の瑞佳ちゃんだから、み〜ちゃん。何かヘン?」
「ううん、そんな事ないよ、ないけど…なんか普段の里村さんと違うから、驚い
たよ」
 茜のあまりに突飛な行動に、俺は声をかけるのも忘れて、呆然と二人を見てい
た。
「それにしても、み〜ちゃん良いなあ、毎朝こ〜へを起こしに行っているんで
しょ?」
「ええ〜? そんなの、全然良くないよ〜 私が起こさないと、浩平いつまでで
も寝てるんだもん。だから仕方なく起こしに行くだけだよ」
「そうなの? 寝起きのこ〜へって、可愛くないの?」
「ぜ〜んっぜん可愛くなんてないよ〜 この前なんて、私を驚かせるためだけに
クローゼットの中で寝てたし、その後なんて、私を驚かせるために裸で寝てたん
だよ〜」
 思いだしたのか、長森が真っ赤な顔をする。こら長森、そんな話を茜にするん
じゃない。
「あ〜、そんな事あったんだ、いいないいな〜 よ〜し、決めた! 明日から、
私がこ〜へを起こしに行くね。いいでしょ、み〜ちゃん?」
「そりゃ、わたしは楽になるし、きっと浩平も里村さんに起こしてもらった方が
うれしいと思うけど…」
 なんて事言うんだ長森。いつもの茜ならともかく、「今の」茜に起こしに来て
もらったりしたら…
    :
    :
    :
『おきろ〜、こ〜へ〜』
『あと5分経ったら起きるから、それまで寝かせてくれ〜』
『ダメ! おきろ〜』
『わあ、こら、くすぐるなって、こら、やめろ〜 パジャマを脱がせるな〜』
『あはははは〜、起きないとこうだぞ〜』
『やめてくれ〜、パンツだけは許してくれ〜 あ、こら茜、ベッドに入ってくる
な〜』
    :
    :
    :
 毎朝こんな事になったら、困るじゃないか。…ちょっとうれしい気もするけど。
俺は妄想を頭から振り払うと、茜を止めようと歩みだした。
…あれ? 茜の姿がいつの間にか消えている。後には呆然とした長森だけが残さ
れていた。
「長森、茜はどこに行った?」
「浩平がいるのに気付いたら、どこか行っちゃったよ」
 さすが茜、あなどれない奴。
「そーだ、浩平! 里村さんに何したの!」
 長森が、厳しい表情で俺に詰め寄ってくる。
「俺は何もしてないって。突然ああなったんだ」
「嘘だよ〜 きっと浩平が何かイタズラしたに違いないよ」
 すっかり決めつけている長森に反論したかったが、普段の行動が行動なだけに、
俺が何を言っても信じてくれないだろう。
「浩平、里村さんを騙して、何か変なもの食べさせたんじゃないの?」
「馬鹿言え、茜は自分で作った弁当食っただけ…だ…ぞ…???」
 …変なもの食べた? それってもしかして…
俺はひらめいて、長森に聞いた。
「図書館に、キノコ図鑑はあるか?」
「え? あると思うけど…」
 突然の俺の質問に戸惑いながらも、長森は図鑑の書架に案内してくれた。さっ
そく俺はキノコ図鑑を開いて、さっき食ったキノコを探し始める。
「…これだ!」
 思わず大声をあげてしまう。
「どうしたの、浩平、何を見つけたの?」
「これだよ、これ。昼に茜と俺が食った弁当の中に、このキノコが入ってたんだ」
「どれどれ、えーと…
『セイカクハンテンダケ。健康に害は無いが、食べた者の性格を反転させる作用
がある。しかしあまりの美味さゆえ、そうとわかっていても食べる者が後をたた
ない』
これって…」
「そうだよ、弁当に入っていたキノコはこれだったんだ」
 俺は、キノコの形状を思い出しながら言った。あの特徴的な形、まちがいなく
セイカクハンテンダケだ。茜はこれを食ってイカレちまったに違いない。
「でも、浩平も食べたんだよね? どうして平気なの?」
「わからん、わからんが、今は茜を止める事が先決だ。長森、茜はどっちへ行っ
た?」
「えーと、あっち」
 長森の返事を聞くやいなや、俺は図書室を飛び出して行った。
今の茜は危険すぎる。あのおとなしい茜が性格反転したら…想像するだけで恐ろ
しい。
 一刻も早く茜を捕まえなくては、新たな犠牲者が出るに違いない。

<後編に続く>


http://www.na.rim.or.jp/wnabe/game/g_one/g_one_ss1_1.html/