永遠の盟約 投稿者: OZ
ある晴れた3月の昼下がり・・・。
吹き抜けていく風はまだ冷たく、冬の名残を感じさせるけれど、
公園の日溜まりは暖かく、確実にうつろいでゆく季節を、
冬の終わりと春の到来を私たちに告げているようだった。
そう、世界は光溢れる季節へと変わろうとしているのだ。
それなのに・・・。

「・・・浩平。いま、何て言ったの?」
浩平の一言は、私にとってあまりに衝撃的すぎた。

「・・この・・世界から・・消える?」
嘘と言って欲しかった。
冗談だよ、そんなわけないだろって笑って言って欲しかった。
でも、浩平は非現実的なその言葉を否定することなく、
私に背中を向けてしまった。

「・・ほんと・・なんだ・・・」
いつ頃からだろう・・、
何かが変わりつつある、なんとなくそんな気はしていた。
どこか別の世界を見ているような浩平のまなざしに。
浩平の事を気にかけなくなっていったクラスのみんなに。
何かが変わりつつある。 本当は、わかっていた。
でも、だからって、浩平がこの世界から消えてしまうなんて!!

「何で!! どうしてあなたが消えてしまわなければいけないの!?」
「せっかく、浩平を、浩平を見つけることが出来たのに!!」
「なぜ、ねぇ、どうしてなの!?」
「ねぇ、教えて、教えて!! 浩平っ!!!」

浩平は、感情が高ぶっていた私を落ち着かせてくれると、
ぽつり、ぽつりと言葉のひとつ、ひとつを噛みしめるように
昔の話を語ってくれた。

(永遠に続くものと信じて疑わなかった、楽しかった日々。)
(父親の死、”家族”という絆の崩壊・・・。)
(”みさお”という名の少女の死と、楽しかった日々の終焉。)
(両手で膝を抱きかかえ、心を閉ざし、過去を振り返っていたあの日。)
・・・そして、
(”みずか”との出会い・・・。)
それが、永遠という名のメビウスの輪に飲み込まれようとしている浩平の話だった。

「・・・わたし・・・?」
どうしようもない焦燥感と脱力感が私の体を支配する。
幼い頃の私と浩平との約束が、この人をこの世界から消そうとしている!?。

「・・でもっ、わたしっ・・・。」
私、浩平が話してくれた「盟約」なんて憶えていない。

「・・・なんで・・・?」
私は、浩平と出会った頃からの思い出を、鮮明に憶えているハズなのに・・・。

(私と浩平が初めて出会ったとき・・・。)
(浩平が私の学校に転校してきたとき・・・。)

(私と浩平が初めて言葉を交わしたとき・・・。)
(小石を窓にぶつけて、私の話を聞いてもらおうとしたとき・・・。)

 そして、
(私と浩平が初めて交わしたことば・・・。)
(・・・・・・・。)

「・・・・・!!」
思い出せなかった。
いや、思い出せないなどと生やさしいものではなかった。
その記憶の1ページだけが、鋭利なナイフで切り取られたかのように
私の記憶から完全に欠落していた。

「・・・な・・・ぜ・・・?」
私は必死になって、記憶の糸をたぐり寄せ、欠落した記憶のかけらを
想い出の彼方から見つけようと努力した。
しかし、焦れば焦るほど、頭の中が混乱してきて、
想い出の迷宮はますます複雑になっていくばかりだった。

『・・・だ・・・め・・・』
混乱した頭の中で、誰かの声が響いたような気がした。
それでも、私は記憶のかけらを呼び醒まそうとしていた。
今の声が、たとえ警鐘であったとしても・・。

 ・・警鐘!?
『・・・だめっっっっ!!!!』
その声と同時に、私の中で何かがはじけた。

「・・・っっ、痛っ!!」
突然の頭痛に、私は頭を抱え膝を折った。
驚いた浩平は、私を抱きかかえると、
ゆっくりと芝生の上に座らせてくれる。

耳鳴りがして、目が霞む。あたまが・・・いたい・・。
現実の世界に白いもやがかかっていくように、意識が朦朧としていく。
それと同じくして、
私の頭の中は、あるビジョンで満たされていく。
それは、
思い出したくても思い出せなかった、
今まで閉ざされていた記憶の中に眠っていたビジョン。
それが、
嵐の荒れ狂った奔流の如く、無数の意思と交錯しながら
私の意識をも満たしていく。
そして、
心の中に声が響いてくる。
そう、その声は「音」として認識しているのではなく、
私の心に直接触れてくる、響いてくる。

「かなしいことがあったんだ・・。」
『・・・そう。』
「とっても、とっても悲しいことがあったんだ・・。」
『だから、ないているの?』
「そうさ、ぼくはこれからずっと、かなしみのなかでくらすんだ。」
『さびしくない?』
「・・・・」
『ひとりで、さびしくないの?』
「・・・さびしい。
 さびしいんだよ。 ・・だから、こうやってかなしんでいるんじゃないか!」
『・・もう、ひとりじゃないよ。』
「・・・えっ?」
『わたしが、いつもいてあげる。きみのそばに・・・。
 きみがさびしがらないように・・・。
 きみがかなしまないように・・・。
 ずっと・・・、ずっと、ずぅーっと・・。きみのそばにいてあげる。』
「うそだよ・・。
 ずぅーっとなんてむりなんだよ。」
『うそじゃないよ・・。』
「うそだよ! うそつき!! うそつき!!
 ずぅーっとなんてむりなんだよ。
 だって・・、だって、えいえんなんてないんだから!!
 みんな、いなくなったんだ。
 とうさんも、かあさんも、そして、”みさお”も・・。
 ずっといっしょにいられるとおもっていたのに、
 みんな・・、みんな、みんな、いなくなっちゃったんだから!!
 だから・・、だから、えいえんなんてないんだから!!!」
『・・・あるよ。
 ・・・えいえんは・・あるよ。』

・・・今まで思い出せなかった記憶のかけら・・・。
・・”みずか”と”こうへい”との”永遠の盟約”・・・。

『・・そう、”こうへい”と”みずか”の盟約』
私の心の中に、思い出の世界とは別の声が響く・・・。

『あの日、交わされた”盟約”。
 それは、”永遠”という名の”盟約”・・・。
 ”みずか”・・、あなたは”こうへい”との永遠を願い、
 今日まで、この”盟約”は履行されてきた。
 だけど、
 ”こうへい”・・、彼は”みずか”ではなくて”みさお”を
 選んでしまっていたの・・・。
 彼は”みさお”との永遠を願い、
 今日から、この”盟約”が履行される。
 浩平が、「永遠」の鍵を開けてしまったから・・・。
 瑞佳が、「永遠」の扉を開けてしまったから・・・。』

そう言って、白いワンピースを着た少女は、ゆっくりと顔を上げ、
まばたき一つせず、じっと私を見つめた。
そのルビーのように赤く輝く瞳は、
ただ、深い悲しみの色をたたえ、私に何かを訴えかけていた。

「・・・み、ずか・・・。」
小さい頃の”わたし”、浩平と出会った頃の”みずか”。
しかし、少女は首を横に振ると、こうつぶやいた。
『わたしは、”みずか”であって、”みさお”でもあります。
 わたしは、”盟約”の護人。
 「永遠」を望んだ二人の想いが作り上げた・・・まぼろし・・・。』
と・・・。

「浩平を返して・・・。」
今にも噴き出しそうな感情を必死で押さえながら、
私は、少女に向かって話しかけた。
『・・・できません。』
抑揚のない声でみずかが答える。

「・・な・・ぜ・・?」
少しの沈黙の後、みずかは静かに答えた。
『永遠の世界は、”こうへい”自身が望んだ世界。
 彼が作り出した、”こうへい”の世界・・。
 永遠の世界は、始まりもなく、終わりもない世界、
 果てることのない、閉じられた世界・・。
 永遠の世界は、”みさお”との想い出に満たされた世界、
 楽しい日々に彩られた世界・・・。
 ・・・だけど、
 虚構で塗り固められた世界・・・。』
淡々とした口調で、彼女はさらに話を続ける。
『そして、こちらの世界と永遠の世界とを繋いでいる
 閉ざされた扉は既に開かれました・・。
 やがて、”こうへい”は永遠の世界へと旅立つでしょう・・・。
 でもそれは、彼自身が望んだ結末・・・。
 彼自身の願い、希望そして、絶望・・・。
 だから・・、
 私には、ただ見守る事しか出来ないのです・・。
 どうすることはできないのです・・・、私には・・・。』
みずかは、自分のことを”まぼろし”と言っていた。
だとしたら、彼女自身は、他の世界へ干渉は一切出来ないのだろう。
それに、みずか自身にも分かっているのだろう、
浩平が永遠の世界を否定し始めている事を、
現世との絆を瑞佳に求めていることを・・・。

そして、私にも分かる。みずかの想いが・・。
「”みずか”は”こうへい”の事が大好きだったものね」
その言葉を肯定するかのように、みずかの顔が朱に染まる。
そうなのだ、みずかも瑞佳と同じように、”こうへい”に
恋をして、ずっと想い続けていたのだ・・、
たった1人、永遠の静寂の中で・・。
「寂しかったんだよね。たった1人で・・。
 よく頑張ってこれたね、”みずか”・・・。
 そして、ありがとうね。
 ずっと”浩平”の事を永遠の世界から助けてくれていたんだよね。
 みずかとして、そして、みさおとして・・・。」

私はゆっくりと、瞳に大粒の涙を浮かべたみずかのそばへと近寄り、
彼女を優しく抱きしめる。
すると、彼女は堰を切ったかのように泣き始めた。
『さび、さびしかったの・・。
 とっても、とっても・・。
 だから・・、だからっっ。』
「・・うん。がんばったよ、”みずか”は。
 だから、もう少し待っててね。
 もう少ししたら、”浩平”がそっちに行くから・・。
 そしたら、”浩平”に遊んでもらおうね。
 今までがんばった分、いっぱい、いっぱい・・。」

今なら、こう確信できる。
浩平は、盟約などにつれて行かれるのではない。
彼女と出会うために、
彼女の想いを無にしないために、
永遠の世界へと旅立たねばならないのだ・・と。

『うん、いっぱい、いっぱい遊んでもらうよ。
 それじゃあ、バイバイ、
 ・・そして、ありがとう。おねえちゃん。』
みずかは満面の笑みを瑞佳に向け、そう告げた。
その笑顔は、みずかであり、また、見知らぬ別の少女でもあった。
「・・彼女が、みさお・・ちゃん?」

その刹那、光のトンネルを抜けていく様な感覚に包まれる。
目を開けると、そこには心配そうに私の顔をのぞき込んでいる浩平がいた・・。

風を感じることが出来る。
風が木々の葉を揺らして流れていく・・。
光を感じることが出来る。
木漏れ日が水面でキラキラと宝石のように輝いている・・・。
そして、
ゆっくりと、しかし確実に時が刻まれていくことを実感できる。

「ねぇ、浩平?」
『悲しいことだったんだ。』
「・・・そう。」
『とっても、とっても悲しいことだったんだ。』
「だから、永遠を望んだの、”みさお”のいる世界を・・?」
『そう、あの時は。滅びに向かうこの世界から抜け出したくて。
 でも、今は違う。
 滅びに向かう世界だからこそ、今この瞬間を大切に思えた・・。
 お前の、”瑞佳”の住んでいる世界だからこそ、この世界との絆を求めた・・。』
「もう、悲しくはないの?」
『ああ。』
「さびしくはない?」
『ああ。さびしくはないよ。
 この世界には、お前がいるから・・・。』
「・・・うん。私、これからもずーっと浩平のそばにいてあげる。
 浩平・・・。だから・・、だから、必ずこの世界へ帰ってきて!!」
『・・・ああ。何があっても必ず戻ってくる。
 ・・・約束・・するよ。
 だから瑞佳ぁ、一つだけオレと約束してくれ。
 オレがこの世界からいなくなっても、いつも笑顔でいてくれ。
 オレが、いつこの世界に戻ってきてもいいように。
 ”みずか”が悲しまないように・・・。』
「うんっ。わかったよ、浩平・・・。
 二人の・・”盟約”だね。 新しい・・”盟約”。」

私にとって、辛く、悲しい季節が始まろうとしている・・・。
でも、”浩平”は私に約束してくれた。「きっと戻って来るって。」
だから、私は悲しまないでおこう。
いつも笑っていよう・・。
どんなに辛くたって、どんなに悲しくたって・・・。
「ねっ? 浩平?
 私、泣いてなんかいないよね?
 ちゃんと、笑っていれてるよね?
 だからね、浩平・・・、
 きっと・・、きっと帰ってきてね!!」

私と浩平は、互いの想いを確かめ合うように、長い口づけを交わす。
・・・そして、新たなる”盟約”が始まるのだ・・・。


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ようやく完結させることが出来た。(はうぅ、長かったよー)
えっと、「瑞佳SS:永遠の盟約」です。

これを書き始める動機としては、主人公が「永遠の世界」へと向かう
きっかけを作った本人が、その事をあまりにも知らなさすぎる!!
って事で、その理由付けと、
理由を知ったときに「永遠の世界」に対しての、瑞佳なりに
どう考えるかな?
って事を表現したかったのですが・・・。
考えている内容に対して、文章が稚拙なので分かりづらくなってますね。
(あぅぅ、自己嫌悪(XoX) )

そのうち、各シーンを章に分割して、もっとボリューム増やして再アップ
するかもしれませんが・・いつになることやら(^^;;

んでは。だよもん・・・(^^)/~~~