オチなし劇場 「To ONE」 投稿者: KEN、改め、白久鮎
「テスト終わったね」
テストを終え、心身の疲れを癒してた俺に瑞佳が声をかけてくる。
「打ち上げ代わりにどこかで遊んで帰らない」
「いや、ちょっと用があるんだ。先に帰っていいぞ」
「えー、浩平ちゃんどんな用事があるの。今朝は何も言ってなかったのに」
「まあ、ちょっとな」
そういって瑞佳の誘いを断った俺はある計画を実行しようとしていた。その計画とは
「彼女を作る」という事だ。いい加減彼女が欲しい年頃だからな。瑞佳に側にいられたら女の子に勘違いされる恐れがある。だから悪いが一人で帰ってもらおう。
と考えてるうちに一人候補の女生徒が現れた。
「おーい、保科。いいんちょー」
目の前を歩いてる茜を見つけ、今日こそは親しく話がするぞ、と心に決め話しかけた。
「なんですか」
「い、いや一緒に帰りたいなと思って」
「嫌です」
まさしく即答だった。
「そこをなんとか」
「嫌です」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「そんな事言わずに一緒に帰ろうぜ」
しつこく繰り返す俺に対して茜は、
「嫌やっちゅーとるんじゃ、どあほ」
その一言で勝敗は決した。
「・・・・・」
落ち込む俺の横を茜は無言で去っていった。



「あー、用事って保科さんを怒らせる事だったの?」
近くで見ていた瑞佳が皮肉を織り交ぜて話しかけてきた。
「保科さんを怒らせる位なら私と一緒に遊びに行けばいいのに」
「うるさい」
「そんな事言わずに遊びに行こうよ」
「・・・・・」
まだ懲りずに俺を誘う瑞佳を置いて俺は昇降口に向かって歩き出した。



一階の廊下を歩くうちに掃除をしている少女を見つけた。
「よー、ミオじゃねーか。頑張ってるな」
俺の声を聞いた途端ミオはこちらに笑顔とともに振り返った。
<こんにちはなの>
いつものようにスケッチブックに言葉を書いている。
「ミオ、今日も元気だな」
<元気なの、お掃除好きだから元気が出るの>
「へー、そうなのか。俺なんか掃除やろうとしたら元気無くなるけどな」
<お掃除をして綺麗になると気持ち良くなるの>
「まあ掃除の話はこれくらいにして、いまから一緒に帰らないか」
<だめなの>
いつもなら俺の誘いはすぐに乗ってくるミオが今日は断った。
<今日はお寿司を食べに行くからだめなの>
寿司はミオの大好物である。
「そっか、じゃあ仕方ないか」
<ごめんなの>
「謝るなって。じゃあ俺は帰るわ」
と言って俺はミオと別れた。



「また駄目だったね。いい加減私と帰ろうよ」
瑞佳がまたやってきた。
「きっと今日は私と帰る日なんだよ。だから一緒に帰ろうよ」
瑞佳がしつこいので俺は聞き流す事にした。
「分かった?今日は私と帰る日なんだよ。一緒にクレープ食べながら帰ろうよ」
「ああ、そうだな」
俺は適当に相槌を打ちながら返事をした。



昇降口まできた時、黒髪の美しい女生徒がこちらを眺めているのに気づいた。
「お、先輩今から帰るのか」
こくん
「そっか、じゃあ一緒に帰ろうぜ」
・・・・・。
「えっ、校門までならいいです、だって?」
こくん
「よし、帰ろう」



先輩と話しながら歩いていると、ゆっくり歩いてるつもりでも早く感じてしまう。それだけ話が盛り上がってるってことかな、と一人悦に入ってると
「姉さん、迎えに来たわよ」
と、見知らぬ女生徒が声をかけてきた。あたりを見回しても他に人は居ない。と、なると
「え、姉さんって事は先輩の妹?」
こくん
「ふーん、雪ちゃんていうのか。でもほんとに姉妹なのか。ぜんぜん似てないじゃないか」
「・・・・・」
「えっ、見た目は似てないけど、本質は似ているだって?」
先輩はそう言うけど本質こそかけ離れてると思えたりする。
俺は何度も二人を見比べていると
「君が藤田君ね」
雪ちゃんがいきなり尋ねてきた。
「どうしてしってるんだ」
俺が訝しく思っていると
「姉さん最近前にもまして良く食べるのよ。それでどうしたのかな、と思って聞いてみたら、あなたの事を話してくれたわけ」
雪ちゃんは一度先輩の方を見てから俺の方に向き直り
「姉さん嬉しそうにあなたの事話してくれたわよ」
「えっ」
と、驚きながら先輩の方を見ると顔を赤らめ俯いてしまっていた。
「そういう分けだから姉さんの事よろしくね、藤田君」
雪ちゃんはそう言って先輩の手を取り歩き出した。
「今日は急ぐから、バイバイ藤田君」
「・・・・・失礼します」
と言って二人は目の前の家の扉を開けて入っていった。
「あれ、先輩の家ってここだったけ」
横で俺達のやり取りを黙って聞いていた瑞佳に尋ねてみた。
「入っていったから、きっとそうだよ」
何か納得できないものを感じながらもとりあえずその疑問は打ち切った。



「誰も居なくなったね」
確かに周りを見ても知ってるやつは一人もいない。
「仕方ない、一緒に帰るか」
「うん!」
そして今日もまた「彼女を作る」プロジェクトは失敗に終わったのだった。





あとがき
このSSのキャラは


       藤田浩平   as hero
       神岸瑞佳   as heroine
       保科茜    as いいんちょ
       ミオ     as マルチ
       来栖川みさき as 芹香
       来栖川雪   as 綾香

と、なってます。
感想待ってます。

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