投稿者: KEN
どうして俺はこんな所にいるんだ。茜を、あんなに好きになった茜をおいて。
「こうへい、どうしたの。きぶんわるいの」
瑞佳が、いや、みずかが心配そうに聞いてくる。
「きぶんわるいならやすんだほうがいいよ。ここならずっと一緒にいられるんだから、あんまり無理しちゃだめだよ」
ずっとか・・・確かにここならずっと一緒にいられるだろう。夜もなければ朝もなく、暗くもなければ明るくもない・・・永遠のある世界か。しかし
「みずか、どうして俺はこんな所にいるんだ」
「そんなのきまってるじゃない」
なにを今更といった表情で
「こうへいがのぞんだからだよ」
「え・・・、何言ってるんだよ、おれがいつこんな世界を望んだっていうんだ」
先程から表情を変えずに
「いつというのはともかく、あなたがのぞんだっていうのはほんとうだよ」
その言い方を不自然に思い
「じゃあ、俺が望まなかったら元の世界に帰れるのか」
「まあいちおうそういうことになるかな。でも・・・」
「でも、いまさらかえったところでどうするの、だれもあなたのことなんておぼえてないよ」
「何故、消えそうだから忘れられた。だったら、元の場所に戻れば、実体を取り戻せばみんな思い出すんじゃないのか」
と、俺はみずかに詰め寄った。
「そんなかんたんじゃないよ。もともと、なんのめんしきもないひとがあらわれたってだれもなにもかわらないわ。まあ、あなたの事を消えちゃった今でも覚えているような人がいたら帰る事ができるかもしれないけど」
「なぜなんだ」
「えーと、人の記憶というのは個人個人で独立していると思ってるかもしれないけど、実際は知人、友人などとの共通意識で連鎖的につながっているのよ。だから一人でもあなたの事を強く覚えている人がいればその人の属するコミュニティではあなたに関する記憶を思い出すかもしれない」
なんだかみずかが突然(見かけの変化はないが)大人びて見えた。
「でも、そんな人がいるなら最初からここには来ないと思うわ」
「そうか、でも・・・茜、茜なら覚えていてくれるかもしれない。試させてくれないか」
「じゃあ試してみる、あなたが傷つくだけだと思うけど」
「ああ、やらせてくれ。でもどうやって試すんだ」
「まあ、試すという言い方もちょっと違うんだけどね」
そういってみずかが見つめる先が徐々に明るくなってゆく。そこには茜の姿が映し出されていた。
「要するに、その茜さんとかいう人の行動や心の中を覗いてみってるわけ」
「茜・・・。またあそこにいるのか」
茜は俺達の出会ったあの場所にいた。今日も雨の中で立ち尽くしていた。



<あいつを笑顔で迎えるために泣かないって決めたけど・・・。ここにくると・・・。>
「おいみずか、今の茜の声だったぜ」
「正確には心の声。私たちが心の中を覗くため擬似的に声となって伝わってきたのね」
<些細な、取るにならない事でも思い出してみる、あいつを忘れないように>
<平凡な日常でもあいつが居るから良かった。でも、あいつにとって、私は何だったんだろう>
<「ここにいて」という私の願いだけではあいつが消えてゆくのを止める事はできなかった>
<あの人が消えてから笑顔を失った私に浩平は笑みを取り戻してくれた>
<でも浩平まで消えてしまって、詩子がいるけど、私は孤独になった>



「茜は、茜は俺の事を覚えていてくれた。そして今悲しんでいる。もう一度笑顔を取り戻させるため、そしてなによりすぐ側でずっと抱きしめていてやりたい。悲しませてしまったけど、今度こそ、茜の笑顔を守りたいんだ」
振り向いて、みずかに叫んだ。
「どうやら戻っても大丈夫のようね。寂しくなるけど」
「ああ、すまないけど、戻らせてくれ、茜の所へ」
「まあ、仕方ないか」
そう言って俺の方を見つめた。
「じゃあ、お別れだね。ばいばい」
俺のからだが段々と軽くなってゆく。これで茜の所へ帰れるのか、こっちのみずかには悪い事をしたかもしれない。
「みずか、御免な」
と、言ってみずかの方を見ると、みずかの体が変化していた。それも俺の知ってる姿に。
「お兄ちゃん」
「あ・・・。み、みさお。みさおなのか」
「うん、そうだよ、今までずっと一緒にいたじゃない」
その時俺は思い出した。俺がこの世界を求めたわけを。
「じゃあね、お兄ちゃん。みさおの分も、あの人を大切にしてあげてね」
「あ、ああ・・・」
と言えた時には公園(茜と見つけた)に戻ってきていた。
そしてもう一度
「ああ、おまえの分までまとめて大切にするよ」
そう言って茜の待つあの場所へ向かって走っていった。



今日もあいつは帰ってこなかった。もうこのあいつのいない現実を受けて一人で生きていくしかないのでしょうか。
私は重い足取りで家へ帰ろうとしていた。しかし、不意に立ち止まった。
そこに居ない筈の人が私の事を呼んでいたのだ。
「あ・・・、あ・・・」
私は嬉しいのに、いいたい事も伝えたい事もたくさんあったのになにも言えなくなってしまいました。

「茜・・・。ただいま」



(茜の日記より)
あいつが帰ってきてくれました。あの日と同じ雨でした。
あいつが帰ってきても濡れないように傘を持っていたけど
関係なかったです。
傘を投げ出してあいつに抱きついていたから。
これからはずっと一緒です。あいつも約束してくれました。
「もう二度と茜を置いてどこかへ行ったりしない。行く時は
茜も連れて行く。ずっと一緒だ」と。
その後で
「僕のすぐ側に君の笑顔がほしい、なくせないもの一つだけ
この街で見つけたよ」
恥ずかしそうに言うあいつの姿がおかしくて、でも、嬉しく
て、私は泣き出しそうになってしまいました。
泣かないって決めてたけど、こういうのはいいですよね。





(後書き)
はじめまして、SSの書き込みはこれが初めてのKENです。
みなさんのSSを楽しく、感動しながら読んでたんですが、分不相応にも自分も書くぞ、と思い立ったわけです。そこで私的ベストキャラ3本の指に入る(みさき、瑞佳、茜)茜をネタに書いてみました。
ちなみに、「SOPHIA」の「街」の歌詞のイメージから話を作りました。
感想を頂けると嬉しいです。あと、ここはこうした方がよいというアドバイス等も待ってます。
それでは拙い文に付き合ってくれた方ありがとうございました。

以上KENでした。