年賀状のこと。 投稿者: MY
	年賀状


「来年はうさぎ年だからね。」

ぴんく色のサインペンで、きゅっきゅっと大きなうさぎの顔を描きます。

  ・・・そういえば、いつか雪ちゃんの描いたうさぎの絵に
  ちょび髭を描いたことがあったっけ。

「けっこうかわいいと思ったんだけどな。」

ふと、いま描いたばかりのうさぎにもちょび髭を付け足したくなってしまいました。
さっそく焦げ茶色のペンで、きゅっきゅっと描いてみます。

「これを見たら、浩平君おどろいてくれるかな。」

「そんなことでおどろかしてどうするの。」

いつの間にか後ろにはお母さんが立っています。
そして、いたずらにちょび髭を付けられたうさぎの年賀状をのぞき込んで言いました。

「珍しく年賀状を書くなんて言うから気になって見に来たんだけど、みさきはほんとに
 変なことをするのが好きねぇ。ちょび髭をはやしたうさぎの年賀状をもらっても、あ
 んまり嬉しくないと思うわよ。」

お母さんの意外な意見に、ちょっと戸惑ってしまいます。

「そうかなあ。こんなにかわいいのに。」

「きっと髭がない方が、もっとかわいいわよ。」

  う〜っ。・・・やり直し。

せっかくうさぎの描けた年賀状をあきらめて、仕方なく真っ白の新しい年賀状を取り出
しました。

きゅっきゅっ。

できるだけ丁寧に、一生懸命描いていきます。
なんといっても、ちょび髭なしでかわいく描かないといけないのですから。

「出来上がったらお母さんにも見せてね。」

そう言って部屋を出ていくお母さんにも気が付かないくらい熱心に描き上げます。

  こんなものかな。

自分では見ることができないのでちょっと不安です。

「次は『あけましておめでとう』だね。」

  本当はもっとたくさんたくさん、書きたいんだけどね。

黒の太いマジックペンで、ぴんくのうさぎの上から書いていきます。

「あけまして、おめでと・・・あっ、はみ出ちゃったよ〜〜」

  う〜っ。また、やり直し。

これで、うさぎを描くのも三回目です。

  雪ちゃんのうさぎみたいにかわいく描けてるといいな。

そんなことを思いながら、きゅっきゅっとぴんく色のペンを動かします。
うさぎの絵が終わると次は新年の挨拶です。

「今度は失敗しないんだから。」

慎重に、はみ出さないように、ゆっくりと書いていきます。

「あ・け・ま・し・て、お・め・で・と・・・う、と。うん、完成かな。」

やっと出来上がった年賀状を目の前にかざして、出来映えを見定めるようにじっくりと
眺めるしぐさをしてみます。

  この年賀状をもらったら、浩平君はなんて思うのかな。
  すごい年賀状を送るなんて言っちゃったけど、おどろいてくれるかな。
  そういえば、浩平君も私に年賀状送ってくれるって言ってたっけ。
  どんなのかな。

  きっと読めないけど、楽しみにしてるからね。

気がつけば、とってもうきうきした気分になっていました。
何だか今すぐにでもこの年賀状を送りたくなって、葉書の表に住所を書き込むと、近く
のポストまで駆け足で行きました。

真っ赤なポストの前に着くと、一度葉書を取り出してから、見えない目でゆっくりと眺
めます。
そして満足げにちょっと微笑むと、ポストの中にそっと葉書を滑り込ませました。

コトンッ。

確かに預かったからね、という返事。
しばらくの間ポストを見つめていましたが、やがて暮れ行く夕日と共に家へと帰って行
きました。

  ちゃんと、私の年賀状が浩平君に届いてくれますように。

そして、この日は布団に入って眠りにつくまで、心の中でそう呟いていました。

							・・・おしまい。

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 SSコーナーでは初めましてのMYです。こうやって長々と文章を書くなんて、かつ
て学校で書かされた作文以来です。上の文章については特に深い意味はなく、先輩が年
賀状を書いているときはどんな様子だったのかなと思って書きました。とりあえず、先
輩の割と幸せそうな雰囲気が感じとってもらえましたら、何も言うことはありません。