夕刻時の商店街、僕はその道をいつも通り歩いて帰宅していた。
まだ六時過ぎとはいえ、秋も深まるこの季節、もう陽は完全に沈んでいる。
本来なら闇が人間を支配する時間。
しかし辺りを照らす水銀灯やネオンの光がそれを許さない。
なんとなく空を見上げてみる。
本来ならそこには幾多ものの光点が存在しているはずだ。
だが、この人が造り出した「都市」という空間の中では、
数える程の星しか見ることが出来ない。
…星が見えないのは嫌だな…自分がどこに居るのか分からなくなる…
なんとなく感傷的になりながらそんなことを考えていた。
…疲れてるのかな…
商店街を抜け、閑静な住宅地に入る。
ふと、辺りに雑音が響いていることに気づく。
…雑音…いや、虫の鳴き声か…
右手にある公園からどうやらそれは聞こえてるようだ。
…そういえばここには公園があったっけ…
なんとなく…ほんとになんとなく、その公園に立ち寄ってみる。
小さな、辛うじて「公園」となんとか呼べる程度の場所だ。
わずかな緑地と遊戯施設で構成されている。
この時間になれば訪れる人間もいないだろう。
公園の中に入ってみる。
…そうだよな…前からあったはずなのに…
いつもなら気にすることもない、ただそこにあるだけの存在。
自分にとっては存在しないも同然の存在。
…そして自分も…
ベンチに腰掛けながらそんなことを考えてみる。
やはり疲れていたのかもしれない。
肉体的な疲れはない、精神を疲弊させていたわけでもない。
だが、ある種の「疲れ」を僕は確実に感じていた。
ベンチに座ったまま目を閉じてみる。
刹那、体に例えようのない感覚が浸透してきた。
睡魔でもなく疲労でもない、ただ優しく、静かに、その感覚は体を支配していく。
別に心地よくは無い、しかし不快でもない、非常にフラットな感覚。
形が形を失い、色が色を失っていく。
そう、まるで自分が世界に溶けていくような…
…このまま………
「お〜い」
ズッシャァァァァァッ!
僕の思考はその時点で中断された。
…っていうかなんで僕は地面に俯せになってるんだ…
事態を把握できないまま、何とか起きあがって辺りを見てみると、
大学生ぐらいだろうか?男の人がこちらを見ている。
…ひっくり返ったベンチを起こしながら…
「こんなところで寝てると風邪引くぞ」
「だからって人をベンチごとひっくり返さなくても良いでしょう!」
彼のあまりと言えばあまりな行動に憤りを覚えながら、僕は立ち上がる。
「いや、ちょっと急を要する事態だったんでな」
悪びれた風もなく彼が弁解する。
「公園でちょっと一休みしてただけなのがなんで緊急事態なんですか…」
制服に付いた砂を叩きながら僕はツッコミをいれた。
「まぁ、気にするな」
向こうは全く気にしてないようだ。
「…それに、そんなに急ぐことは無い。お前はまだここにいる事は出来るだろう?」
「?」
僕にはその人が言ってる意味が分からなかった。
ここ?…この公園のことだろうか?
「かわいい後輩に風邪を引かすのはかわいそうだという先輩の心遣いだ。
有り難く受け取ってやれ」
僕の制服を見ながら言う。
「あ、うちの高校の先輩なんですか」
「ああ、もう卒業して今は近くの大学だけどな」
ちょっと懐かしそうな目をしながらその「先輩」は言った。
「それで先輩はなんでこんなところに?」
別に特に意味はなかったが、なんとなく聞いてみた。
「まぁ、ちょっと野暮用だ」
なんとなくばつが悪そうに答える。
「彼女と待ち合わせですか? 全く羨ましいご身分ですねぇ、大学生様は」
多分に皮肉を込めて言ってやる。
その先輩はちょっと困ったような表情をして、
「まぁ、そう腐るな。 お前もそのうち…っと来たな」
彼の向いた方向を見ると公園の入り口に手を振ってる女性がいる。
この女の人がそうだろうか、見た感じとても優しそうな人だ。
「じゃあ、またな! それまでは元気にしてろよ」
「それまでって…また会えるかどうかは分かりませんよ」
「いや、多分近いうちにまた会うんじゃないか?」
「?」
向こうの真意を図りかねて、僕が黙っていると。
「まぁ今は深く考えなくてもいい、 じゃあな、同じ目をした後輩」
「?何ですかそれは??」
今度こそ完全に訳が分からなくて僕は混乱していた。
「昔、俺の親友がこう言ってたんだよ」
そう言って彼はこっちに手を振りながら女の人の方へ走っていった。
僕もそれを手を振りながら見送った。
そして、その先輩と女の人が去った後、公園は虫の声以外何も存在しなくなった。
…いや、僕がまだいるか…
「帰ろ」
誰に言うでもなく呟いて、僕は公園を出て家路に就いた。
…「また」、その言葉に意味があるとは思えなかったが、
なんとなく、あの人とはまた会いそうな気がする…
…少なくともそれまで僕はここに居るはずだ…
…ここ?
…どこだろう?
しかしそれ以上考える前にその思考は僕の頭から消えてしまった。
とりあえずは目前に迫った中間テストをどうにかするのかが一番の問題だ。
「うう…、気が重い…」
そんな一人言を呟きながら僕は自分の家の玄関を開けた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ねぇ、浩平。 さっきの子うちの高校の後輩だったみたいだけど…知り合い?」
「いや、さっき会ったばかりだ」
「そうなの? なんか親しげだったけど」
「…うん? いや、あいつを見てると、なんか昔の親友を思いだしてな」
「…浩平?」
「ん? なんだ長森?」
「ううん、なんでもないよ…」
「安心しろ、もう勝手にいなくなったりしないって」
「…うん」
…シュン、今度は俺があの時のおまえの場所に立つ番かもな…
−了−
どうも、しばらくの間SSから離れてましたHMR−28です(^^;
今回はなんとなく思いつきで書き上げたもので、
ほとんど目前に迫ってるレポート締め切り日をから目を背けるため執筆(ぉ
というわけでろくな出来じゃないです(^^;
出来たら感想&ツッコミをびしばし入れてやってください(^^;
ちなみに長森なのは作者の趣味です(ぉhttp://www.08.alphatec.or.jp/~kouhei/index.html