D.S 投稿者: GOMIMUSI
  act.5


 家に帰り着いたのは、暗くなってからだった。
 帰ってくるなりコウはすぐに出かけてしまい、ルウとアクアと、それに遺跡からつれてきた少女が広い家に残されてしまった。
「どうだった?」
 少女を部屋に寝かせ、戻ってきたアクアにルウが訊ねる。アクアは小さく微笑して答えた。
「うん、大丈夫。意識を失ってるだけだから…どこも怪我もないし、しばらくしたら起きると思う」
「そう…」
 会話がとぎれる。沈黙が重苦しくのしかかってきて、ルウは話題を探した。
「コウって、凄いね」
 とたんに、アクアは過剰なまでに反応した。びくっ、と肩をふるわせ、どこかおびえるような目でルウを見たのだ。
「え…? あ、その…」
 相手の反応に驚いたルウは、言葉に詰まる。しかしそれも一瞬のことで、アクアはふっと表情を和らげ、ほほえんで見せた。
「凄いのは、ルウさんだよ」
「え?」
「コウがあんな力を持ってるって知っても、全然怖がらないじゃない。コウ、あの姿だけは誰にも見せないように…秘密にしてるんだよ。ばれたら、町にいられないって」
「そうなんだ…」
 その気持ちは分からないでもない。あんな力が町中で暴走すれば、シィナの比ではない、地図の上から町自体が消えてしまうような事態になりかねない。ルウがあのとき感じた力は、それほど圧倒的なものだった。
「ジュールって人も、あのコウを知ってるの?」
 人形師の店での会話を思い出し、ルウは訊ねる。すると、アクアはうなずいた。
「うん。あの人を含めて、ギルド…あ、わたしたちみたいな仕事をするハンターを、管理している組織なんだけどね。その主要なメンバーが数人、それと黒竜亭のマスターも知ってる…それくらいかな」
 ぽつり、ぽつりとややうつむき加減で話すアクア。ひどく頼りなげに見える。
「ねえ、どうしたの?」
「なにが?」
「なんか、暗いわよ。せっかく生きて帰れたのに」
 生きて帰れた、という自分の一言に、思わずルウはぎょっとする。そう、この仕事は常に死と隣り合わせなのだ。今回助かっても、次は保証できない。
「そう…だね。でも、ちょっと…」
 ひどく弱々しい微笑を浮かべるアクア。何か、気にかかっているのだろうか。
「でも、アクアはいいよね」
「え?」
「コウがあんなに怒ったのって、アクアのためでしょ? そこまで思われて」
「違う!」
 突然、感情を爆発させるようにアクアは叫んだ。息をのむルウ。
 アクアの顔は青ざめて、全身が小刻みにふるえていた。何か激しいものを、必死で押さえつけようとしている…痛ましいほどに。
「違う、よ。そんなんじゃない。コウは、わたしのことなんか見てない…わたしは…だって、まだ、許してもらってない…」
「アクア…?」
 とまどうルウをおいて、アクアはやおら立ち上がると自分の部屋に駆け込み、ドアを閉めてしまった。取り残され、ただ唖然と立ちすくむルウ。
 ふと視線を感じて、振り返る。客間に続くドアが細く開いていて、そこから小さな少女の顔がのぞいていた。
「あ、起きたんだ」
 ほっとして、ルウは話しかけた。しかし、地族、とコウが言っていたその少女は、じっとルウの顔を見つめたまま動かない。
「えっと…どうしたの? おなかがすいた?」
 思わず小さな子供に話しかけるように、接してしまう。しかし少女はゆっくりと首を振り、ルウのそばに歩み寄ってきた。
 ルウの手を握り、アクアが閉じこもってしまったドアに目を向ける。その表情から、アクアのことを心配しているらしいと分かる。
「ああ、あの子ね…あたしもよく分からないの。あとで聞いてみるわ」
 ルウが言うと、少女はうん、とうなずいた。その間、まったくしゃべろうとしない。反応から見る限りでは、こちらの言うことは分かるようだが…。
「ねえ、名前はなんて言うの?」
 問いかけると、少女は小鳥のように小さく首を傾げてルウを見つめた。
「だから、あなたの名前…なんて呼べばいい?」
 重ねて質問しても、少女は黙ったまま。ルウは困惑してしまった。
「ねえ、しゃべれないとか言うんじゃないでしょ?」
 そう言ってみると、少女は大きくうなずいた。
「え? ほんとに? しゃべれないの?」
 うん、うん。
 今度は二回うなずく。疑う余地はないらしい。
「それは…困ったわね。コウにでも相談した方がいいかな…」
 困り果てたルウは、外を見た。時間はまだ、それほど遅くない。コウは黒竜亭か、ジュールの店…どちらかにいるだろう。
「じゃ、ちょっと出かけようか」
 少女の手を取って、促す。すると、少女はアクアの部屋を振り返り、何か言いたげにルウを見上げた。
「うん…でも、今はそっとした方がいいと思うから。あの様子だと」
「………」
 しばらくして、うなずく。それでも、目は部屋のドアを気にしたままだった。
「ねえ」
 少しあきれたような口調でルウは言った。
「あなた、急に現れて、死にそうだったアクアを助けてくれて…それで、知らない家で目を覚ましたと思ったら、また人の心配してるの? 人がいいって言うか、なんて言うか…地族って、みんなそうだったの?」
 少女は困惑した顔で、首を傾げるだけだった。


 港へ続く道の途中で、ルウ達はコウに出会った。
「あ、こんなところに…どうしたの? 怪我?」
 ルウが目を見張ったのは、コウが頬を少し腫らして、唇の端から血を流していたからだった。一目で、喧嘩のあとだということが分かる。
「ああ…あんたか。その子も一緒なのか」
 ルウ達を認めたコウは、ばつが悪そうな顔をしていた。
「ちょっと、喧嘩したくらいで怪我をするあんたじゃないでしょう。どうしたのよ…そんなに強いのでもいたの?」
「いいや。いつもと同じだ。ちょっと人数は多かったけど…」
「酔っぱらいでしょ? ちょっと増えたくらい、関係ないわ。わざと殴られたの?」 問いただすと、コウは顔をしかめて目をそらした。…図星、か。
「どうして…ひょっとして、アクアのため?」
「………」
 コウは答えず、沈黙していた。と、少女がすっとルウの手を離れ、コウのそばへ歩み寄った。背伸びをして、コウの頬に手を当てると、手は柔らかな光を発して薄闇に輝きだした。
「おい…」
 困惑した顔のコウにかまわず、少女は怪我の治療を終えて一歩下がった。もう、頬にはなんのあとも残っていない。
「よけいなことするなよ…」
 文句を言ったコウの頭を、ルウがぽかっとたたいた。
「てっ」
「よけいなこと、じゃないでしょ。素直にお礼言いなさい」
 しばらく不満そうにしていたコウだが、やがて覚悟を決めたらしく、馬鹿丁寧に少女に頭を下げて見せた。
「ありがとう」
 少女はどういたしまして、というように、こちらも頭を下げる。端から見ていて、間抜けな光景ではあった。
「さて、ちょっとつきあうか?」
 気を取り直したように、コウが親指で示したのは、黒竜亭の方角だった。
「いいけど…アクアは? ちょっと様子がおかしかったんだけど」
 ルウの言葉に、コウは顔をゆがめ、ふっと横を向いた。
「ああ…今は、一人にしといてやれ」
 そのまま背中を向けて歩き出す。ルウはとまどいながら、小さな手を引いてその後に付いていった。


「んあ〜?」
 寝ぼけたような声を上げて、黒竜亭のマスターはコウ達を迎えた。
「コウ、その子はおまえの子か?」
 見慣れない小さな少女をさして、マスターはそんなことを言った。苦い顔で少女の頭に手を乗せるコウ。
「馬鹿を言わないでくれ…この子は遺跡に眠っていたんだ。地族らしい」
 コウはごく簡潔に説明した。マスターはほう、という顔をして見せて、少女の顔をのぞき込むようにした。少女は、恥ずかしげにコウの背中に隠れようとする。
「それはまた、珍しいお客だな…甘いものは好きかね?」
 問いかけに少女は考えるように首を傾げ、おもむろにうなずいて見せた。
「そうか。じゃ、クリーム汁粉でも作るか。席で待っていろよ」
 言い残して、鼻歌でも歌い出しそうな調子で厨房へ戻っていく。ルウは何か、肩すかしを食らったような気分に陥った。
「ねえ…」
「なんだ?」
「地族って、昔いなくなったはずの種族じゃないの?」
「そうだな」
「なんで、マスターはあんなに平然としてるの?」
「ああいう人だからな…ペンギンが客としてきても、あんな対応をするんじゃないか? きっと」
 コウは肩をすくめて、カウンターのほうへと歩いていく。釈然としない顔ながら、ルウも少女の手を引いてついていった。
「おまえはなにを頼む?」
「えっと…」
 メニューを見ながら考え込むルウ。その隣に、誰かが座った。
「その声、コウ君だよね」
 驚いて振り返ると、黒い髪の少女が座っていた。見たところ、ルウより一つか二つ、上というところか。
「あんた…ミスティさん、だったか」
 コウがその顔を見て、驚いたように声を上げる。にっこりと笑ったミスティは、大きくうなずいた。
「うん。よかった、覚えていてくれたね」
「そりゃ、インパクトあったからな…こないだは、どうもな。シィナのこと教えてくれて」
 コウが礼を言うと、ミスティは困ったような笑みを浮かべた
「ううん。あれも、よけいな手出しには違いないから…」
「よけい? だけど、俺にしてみれば助かったけどな」
「だけど、シィナちゃん、泣いちゃったでしょ」
「そんなことまで知ってるのか」
「うん。本当は、泣かなくてもすむはずだったんだけどね…」
 会話に取り残されたルウは、コウの袖を引いて問いかけた。
「誰?」
「あ、そうか。こっちはミスティさんっていうんだ。ミスティさん、これ、ルウ。それから、…なんて名前だ? 彼女は」
 口をきかないままの少女を指さして、ルウに訊ねる。
「分からないのよ。全然しゃべらなくて…声をなくしちゃったみたいなの」
「そうか…そりゃ困ったな」
 頭をかくコウに、ミスティが話しかけた。
「ねえ、その子、そっちにいるの?」
「あ? ああ」
「どんな子?」
「どんなって…見ての通りだよ。小さくて、髪が短くて…」
「分からないよ。私、見えないから」
「え?」
 コウは目を見開く。遅まきながら、その目が光を映していないことに気づいたのだ。
「わ、悪い。全然気づかなかった」
「うん。別にいいよ、もう慣れてるから」
 にっこりと笑うミスティ。ふと、その手を小さな手が取った。
「きゃっ。…あれ、誰?」
 ミスティはとまどいながら、相手の手を握る。けれど、その相手は黙ったまま、ミスティの前に立っていた。
「そいつ、地族なんだ」
 コウが言い添えた。
「あ…そうなんだ。口が聞けないんだったね」
 地族の少女は、ためらいながらミスティの顔に手をのばす。そっと、目のあたりをなでる。ミスティは、黙ってされるがままにしていた。
「…うん。いいんだよ、私の目は。見えなくてもね」
 やがて、そっと相手の手を取って下におろす。
「君の手、温かいね。とってもやさしい感じがする。うん。ありがとうね」
 そう言って、急にミスティは少女を両腕で抱きしめた。少女はあわてふためいて、腕をぱたぱたと振り回していた。
「ねえ」
 ルウはふと思い出して訊ねた。
「そういえば、あたし地族っていうのがどんな人なのか全然聞いてなかったわ。いったい、なんなの?」
「ああ…」
 コウはいすの上で、身体を回してルウのほうに向き直った。
「伝説の種族だ。大災厄…三百年前の、一度目の魔界接触だな、あれ以来姿を消してしまったといわれている」
「三百年前?」
 ルウはぽかんとしてコウを見つめた。
「そんな、馬鹿な。だったら、そんな昔に消えたはずの種族が、どうしてこんなところにいるのよ」
「たぶん、ずっと…一人で生きていたんだろうな」
「そんな、いくら何でもありえない…」
「そんなことないよ」
 少女を抱きしめたままのミスティが、会話に割り込んできた。少女はすでに、あきらめたようにミスティの腕の中でおとなしくしていた。
「地族は『生命の器』と呼ばれていた種族。とても長い寿命と、常識を越えた生命力を持っていたの。だから、三百年っていう時間も、地族にはそんなに長い時間じゃないんだよ。きっと、この子は遺跡で眠っていたんでしょう?」
「ああ…よく分かるな」
「うん」
 意味ありげな笑みを浮かべて、ミスティは話を続けた。
「その生命力のおかげで、地族は仮死状態のままで百年でも、二百年でも眠り続けることができるんだよ。だから、ずっと眠っていたんだよね」
 最後のほうは、少女に向けた言葉だった。それに、少女は小さくうなずいた。ぎゅ、とミスティの腕に力がこもる。
 ――たった一人で。ずっと、寂しい思いをさせたね…ごめんね。
「だけど」
 ルウはふと気づいたように言った。
「そんなの、おかしいじゃない。大災厄って、ほとんどの生き物が死んでしまうほどの事件だったんでしょう? そんな中で、どうして人間が生き残って、生命力が強いはずの地族がいなくなっちゃうわけ?」
「それは…まだ、分かってない」
 コウは顔をしかめた。
「でも、地族は繁殖力がとても低かったらしいからな。ほとんど子供を産まず、一族だけで細々と生きていたらしいから…」
 そこまで話したとき、台車に満載された大量の料理が運ばれてきた。
「な、なによこの量は…」
 唖然とするルウの前で、ミスティが歓声を上げた。
「わーい、やっと来た。おなかがぺこぺこだよ〜」
 皿が全部並べられるのを待たず、自分の前に出されたものを手探りで食べ始める。あまり汚れないように、手づかみで食べられるようなものがほとんどだった。しかし、その量は尋常ではない。
「ちょっと…これ全部、一人で食べるの?」
 あきれかえった様子のルウに、カウンターの向こうからマスターの声がかかった。
「あ〜、その人はいつもそんな調子でな。今じゃ、この店の名物になっとるよ」
「マスター、ひどいよ。私見せ物じゃないよ」
 忙しく口を動かしながら、抗議するミスティ。それにコウは苦笑した。
「十分見せ物になると思うぞ」
「あ〜、コウ君までそんなこと言うんだ。ひどいよ〜」
 言いながらも、食べる手は休めないあたりさすがだった。
「ところで、コウ。これ、使うか?」
「なんだい?」
 マスターがカウンター越しに手渡したのは、黒っぽい板とチョークだった。
「学校で、読み書きを教えるのに使う石板だ。その子、口がきけなくても筆談ならできるんじゃないか?」
「なるほど…。字は書けるか?」
 コウは少女に向かって問いかける。うん、とうなずいて、少女はその石板を受け取った。
「んじゃ、まず名前を教えてくれないか。なんて読んだらいいか、分からんと困る」
 コウの言葉に、またうん、とうなずいて、少女は石板いっぱいに自分の名を書いた。
『マイオ・ムーンライズ』
 それをコウ達に向ける顔は、とても嬉しそうに輝いていた。


 食事を終え、コウ達はマイオが今後どうするべきか、協議に入った。カウンターでは、いまだにミスティが食事中だった。
「ま、しばらくうちで預かっておこう。慣れてきたら、こっちでアルバイトでもさせてやってくれないか?」
 コウが言うと、マスターは首をひねる。
「ん〜、そうだな。しかし注文を声で取れないとなると…難しいなあ」
「マイオが来るなら、家が狭いんじゃない?」
 ルウが遠慮がちに言った。
「あたし、あそこを出た方がいいかな。仕事のお金なら入ったし…」
「そういう気遣いはしないでくれ。アクアのためにも、あんたはいてくれた方がいい」
 コウはきっぱりとそう言った。
「アクアのため、って…」
 意味をとれずにきょとんとするルウに、コウは苦い笑いを浮かべた。
「俺は…あいつには、重荷なんだ」
「なんだ、また切れたのか、コウ」
 マスターが口を挟む。
「ああ、ちょっとな」
「いかんなあ。今度はなにがあった」
「バンダースナッチが出て…アクアが怪我をした。マイオのおかげで命拾いしたけどな」
 ふう、とため息をついて、こめかみを押さえる。
「駄目だな。危険な相手だと分かっているなら、一秒でも早く倒さないといけないのに…守りに入ったからな…」
 ルウは何とも言えない顔で、そんなコウの様子を見ていた。
 アクアは、コウが自分のことなんか見ていない、と、そう言った。けれど、コウの様子を見ていると、アクアを心から案じている、としか思えない。
(どういうことかしら?)
 内心で首をひねるルウに、マスターが話しかけた。
「そっちの人も、その場に居合わせたのか」
「え? あ、はい」
「そうか。…言わなくても分かると思うが」
「ええ、他言無用、ってことですよね。承知してます」
 ルウはうなずいた。
 アクアは、マスターがコウのことを知っていると言った。どのくらい知っているのだろう。彼らのことには、分からないことが多すぎる。だいたい、マスターと彼らの関係はなんなのだろう。
 好奇心が頭をもたげてくるが、あえて押さえつけた。その意志があれば、彼らのほうから話してくれるだろう。それまでは、なにも聞かない方がいい。
 だいたい、自分だって他人の手助けができるような立場ではないのだ。
「ごちそうさま」
 いきなりカウンターから声がかけられた。ミスティである。その前には、空の皿が山のように積まれていた。
「おいしかったよ、マスター」
「そうか、そりゃよかった…今日はまた、ずいぶん食べたな」
 マスターもあきれ顔で応じた。
「うん。これからいろいろと、大変だから」 いろいろとね、と、笑った顔がどことなくかげっているのは、気のせいだろうか。
「あれ、マイオ…」
 ルウがふと隣を見ると、マイオがこっくり、こっくりと船をこいでいた。話をしないので、まったく気づかなかった。
「眠っちゃったの? マイオちゃん」
「うん。よく寝るわねえ…」
「まだ身体が覚醒しきってないんだよ。三百年も眠っていたんだから、ほんとは最低一日、あまり動かずにいた方がいいんだけどね」
「あ、じゃあ連れ回したのはまずかった?」
「大丈夫だと思うけどね」
 小さく笑って、ミスティは彼らに手を振ってドアへ向かった。出ていってすぐに、大きな声が聞こえた。
「あーっ、いた! ミスティ!」
「あ、えっと、えっと、シアちゃん」
「あんたって人はっ!! また黙って抜け出して。今度という今度は…」
「あーっ、ごめんなさい、ごめんなさい! もうしないからぁ…」
 ドアの向こうで騒ぐ声が、遠ざかっていく。コウは軽く肩をすくめて、席を立った。
「マスター、今日はもう帰るよ」
「ああ。アクアにもよろしくな」
「…ああ」
 コウはマイオを背負いあげ、ルウをつれて黒竜亭をでた。
 外はすでに、夜が深い。二人は黙ったまま、しばらく歩いていた。
「…ねえ」
 ルウが最初に口を開いた。
「やっぱり、どうしても聞いておきたいんだけど…アクアのこと」
 コウは黙ったまま、歩き続けていた。拒絶の意志がないと見て、ルウは続ける。
「なんだか、とても苦しんでるみたいだったのよね…いったいどうしたのかな」
「あいつ、何か言ってたか?」
 コウはつぶやくように言った。その声の弱々しさに、ルウは驚いた。
「えっと、コウは自分のことなんか見てない、とか、まだ許してもらってない、とか…」
「…そうか」
 またしばらく、黙ったまま歩いていた。家が近くなって、コウはずり落ちてきたマイオを背負いなおしながら言った。
「帰ってから、話そう…ちょっと、長い話になるから」
 コウの言葉に、ルウはただうなずいた。


 黒竜亭は、コウ達が帰ってすぐに店を閉めてしまった。
 照明を落とし、カウンターでのんびりとグラスを磨いていたマスターは、ドアが開く気配に顔を上げた。
「もう閉店だぞ」
 来客は、ジュールだった。ジュールは険しい顔で、一直線にマスターのところへ向かっていった。
「悪いニュースだ」
「ほう」
「例の魔剣…炎舞羅の片割れが、人の手に渡っている。しかも、明確な害意がある」
 長い沈黙をおいて、マスターは静かに手にしていたグラスをカウンターの上に乗せた。
「魔剣の片割れ…氷禍魅(ひかみ)、か」

**********
美沙「そうだ、吉田さんやいけだものさんから質問があったんだけど」
 はい?
美沙「この話の主人公って誰なの?」
 うーん、一応コウとルウでダブル、ヒロインはアクア…最大のキーキャラはまだ出てないです。そして真の主役は、あの人!
美沙「思い入れだけで書いてるわよね…」
 この人の設定ができたとき、D.Sが動き出したと言っても過言ではないです。
美沙「むちゃくちゃな設定よね、これ。諸悪の根元みたいに書いてある」
 設定を読むなぁっ!
美沙「あら? これはまだ出てこないあの子の…どれどれ」
 ああっ、だから駄目だってば!(奪取)
美沙「………殺されるわよ、ファンの人に」
 え、ええと…まあ、一番不幸な役ではあるけど…。
美沙「夜道に気をつけてね」
 は、はい…(汗)。

>まねき猫様
連載お疲れさまです。だけど、また続きそうですね…新婚早々、瑞佳を一人にしたらいけないよな〜。

>神凪 了様
広瀬が壊れてる…。シュンの影もちらちらと…。しかし、深山先輩が一番危ない気がするよやっぱり。みさき先輩、あんまり不幸にしないでください。お願いだから…

>天王寺澪様
結局、シュン君が黒幕だったんですか…そんな気はしてたけど、みさき大人や澪に対する態度を見ていたら、そうも思えなくて…。瑞佳(猫)はどうなるのでしょう。

>PELSONA様
あのシナリオで浩平が嫌いになった人、多数いるようですが。なんとなく、瑞佳らしいと言うかなんというか…いかにも、っていう話です。

>雀バル雀様
徳島製粉、分かりません。でもヤクルトラーメンなら分かる。結構おいしかった気がします(笑)。澪、そんなのばっかり食べてると健康に悪いぞ…。

どんどん深みにはまりこんでいるのが分かる。こうなると、もう先のことは分かりません。誰か代わりに書いて…(泣)
一応次回でコウの過去、秘密など少しばらします。相当暗い話になる予定です。今回も十分暗いけど。
PSの「輝く季節へ」、買っちゃったよ。本当は壊れたトースターの代わり探しに行ったのに…。
またお会いしましょう。ではでは。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/4203/