D.S 投稿者: GOMIMUSI
  act4


 どうして…?
 どうして、みんないなくなったのに。一人になってしまったのに。
 わたしは、ここにいるの。ここで、なにを待っているの。
 もう、泣き疲れたの。眠りたい。休みたい。なのに、どうしてわたしはまだ、こんなところにいるの。
 どうして、生きているの…。


「近道していこうぜ」
 町を出たところで、コウが言った
「コウ、無茶だよ」
 困ったような顔でアクアが答える。
「二人だけじゃないんだよ?」
「なに、近道があるの?」
 背負った剣の位置をなおしながら、ルウは訊ねた。目的地はスバル南西にある、小さな廃墟だという。隊商が通り道にしている、経済的に重要な拠点なのだが、そこに最近バジリスクが棲みついたというのだ。いくつかの群が合流して、かなりの数になっているという。
「うん。でも、危ないんだよ、ほんとに。森をまっすぐに抜けていく道なんだけど…」
「嫌な生き物がわんさかいてな。地面に足をつけただけで、その地面がぱくりと人を飲み込むことなんて、ざらなんだ」
「へ、へえ…そんな道を、どうやって通るの?」
「枝を伝っていくのさ。木の梢あたりまで上がれば、そんな危ないやつはいない」
「だから、無理だってば。コウはともかく、ルウさんは…」
「できるわよ」
 あっさりとルウは言った。
「え?」
「アクアこそ、そんな芸当できるの? 言っちゃ悪いけど、そんなに運動神経、良さそうに見えないわよ」
 少々、ライバル意識を刺激されたらしい。何かムキになって見えるルウに、コウはにやにや笑いながら言った。
「こいつは問題ない。空を飛ぶからな」
「ほんと?」
「ああ。アクア、見せてやれよ」
「う、うん…」
 うなずいてアクアは、かすかな声で何かを唱えた。右手の平を上に向け、空中の何かをすくい取るような動作をする。
 緑色の光がその手にあふれた。光はアクアの身体を伝って地面に流れ落ち、わだかまると、ひとつの形になっていく。
「わっ…」
 驚いたルウは、思わず一歩下がった。アクアの足下に緑色の燐光を放つチーターが現れて、むくりと身体を起こしたのだ。
「げ、幻獣?」
 話には聞いたことがあった。精霊召還魔法の一形態。イメージで構築した生き物の形に精霊を封じ、それを呼び出すという高度な術である。
「そうさ。こいつはハウルっつって風の幻獣…こいつの他に、アクアは七頭の幻獣を持ってる」
 自分のことでもないのに、なにやら自慢げな声でコウが説明した。
「ってことは、あわせて八頭もいるの? それが、全部違うエレメント(元素)?」
「当然だろ」
「凄い…」
 ルウはうなる。
 自然界の力を具現した存在である元素霊――エレメンタルの種類は一般に四種と言われる。地、水、火、風の有名な四大元素だ。それに雷、冷、光、闇の四つを加えると、八大元素となる。そこまで使いこなせる魔道士は、それほど多くない。
 幻獣で八大を使えるとなれば、それは大変な実力である。ルウは先日、シィナが力を暴走させて木の根を増殖させる中に、単身飛び込んでいったアクアのことを思い出した。なるほど、あれが幻獣の力だったわけだ。
「でも、ルウさんはほんとに大丈夫なの? かなり危ない道だよ?」
 心配そうな顔でアクアが確かめる。
「できると思うわよ」
「ま、こいつなら心配ないさ。なんて言ったっけ? あの技。鏡割りだったか」
「鏡渡り」
「そう、それだ。あれなら枝の上を跳ぶくらい、なんでもないだろ?」
「まあね…」
「よっしゃ。いくか」
 言うなりコウは木に登り始める。アクアはまだ心配そうな顔をしていたが、ルウが身軽に木の枝に飛び移るのを見ると、それ以上は言わなかった。
 ハウルの姿が崩れ、また緑色の光の帯となると、アクアの身体を包むようにしてまとわりつく。そのまま、光の尾を引きながらアクアの身体は宙に浮かんだ。
「よーい…どん!」
 コウの合図と同時に、二人は枝を蹴った。ふたつの影が木の間を縫いつつ走り出し、それを追って緑の光が飛翔する。
 風が吹きすぎたあとのように、その場に静寂が訪れた。


 そのころ、人形師ジュールは、店で暇を持て余していた。
 仕事の依頼もない、作ってみたい人形の題材も尽きた。かといって、知り合い連中はみんな自分の仕事で忙しい。八方ふさがりである。
「ちぇ。今頃、コウ達はどのあたりかな…」
 独り言のようにつぶやいたとき、突然、かすかな違和感を感じた。
 それは、微風が頬をなでた程度のわずかなもの。だがジュールは目を上げたとき、驚愕して目を見張ることになった。
「あんたは…」
 そこには白いローブをまとった、一人の女性の姿があった。漆黒の艶やかな髪。冷たさと暖かさを同時に感じる、不思議な黒瞳。
「こんにちは」
 にっこりと、場違いなほど無邪気な声で挨拶した相手を、ジュールは目を細めて見つめた。
「確か…ミスティ・アークケープさんだったか。黒竜亭で会ったな」
「記憶力、いいね」
 そう言って、得体の知れない盲目の少女はほほえんだ。
「なにをしに来た?」
 警戒をあらわにするジュール。すると、ミスティは小さく首を傾げた。
「お礼を言おうと思って」
「礼………?」
「依頼、ちゃんと果たしてくれたでしょ? だから、ね」
「あんたから、依頼を受けた覚えはない」
「三日前だけど」
 そこまで言うと、ジュールの表情に変化があった。記憶のすみに引っかかっていた、得体の知れない一件。
「あれか…バジリスク退治。それを実行する人員まで勘定に入れてあったな。コウとアクア、追加で一名を後日指定…それが、町に来たばかりのフラウ・ルウ・ミイ。どうも変だとは思ったが」
 ジュールは立ち上がって、鋭い目でミスティをにらんだ。
「なにを考えている?」
「なにって?」
 小首を傾げて問い返すミスティ。しかしジュールは態度を和らげようとしなかった。
「俺達は、普通なら依頼人がはっきりしていない仕事は受けない。それを、ギルドに根回しまでして受けさせたのは、あんただろう?」
「ちょっと、回りくどかったかな」
 ミスティはぺろっと舌を出す。そういった仕草のひとつひとつが、ひどくあどけなく、愛らしくて…逆にジュールの神経を逆撫でた。
「あいつは…コウは、俺の友達なんだ」
 ジュールの低い声に、店内の気配が変わる。
 展示してあった北方オオカミの模型が、低いうなり声をあげた。
 グリフォンが、首を巡らせてミスティをにらむ。ラミアのしっぽが、耳障りな威嚇音をたてはじめた。
 店内の人形すべてが、突然息を吹き返したように動き出し、ミスティを囲んでいた。ジュールの合図ひとつで、そいつらは一斉に襲いかかるはずだ。
「もう一度訊く。なにを考えている」
 これが最後の通告だ、と言わんばかりの冷たく固い声で、ジュールは言った。静かにたたずむミスティの表情は、変わったように見えない。
「…たぶん」
 やがてミスティは言った。
「私は、よけいなことをしているんだろうね」
「なに?」
「コウ君達なら、心配いらないよ。アクアちゃんが怪我をするかも知れないけど…でも、平気だよ。今はね」
「今は?」
 ジュールの表情が険しくなる。それを、声の調子から察しているだろうに、ミスティはゆっくりとした動作で背中を向けた。
「おい…」
「まだだよ」
 ミスティは背中越しに言った。ひどく静かな、低い、抑揚のない声。
「まだ、だよ。私のことが殺したくなるくらい嫌いになるのは、まだ先だよ」
「だから、なにを言って…」
「償えないから。そんな軽い罪じゃないのは分かってるから。今は、コウ君達のためにできることを、精一杯やるだけ。それがよけいな手出しだとしても、なにもしなければ後悔するだけだから。だから、まだ…殺されてあげないよ」
 背筋を冷たい汗が流れ落ちた。凝固したようなジュールの前で、カウベルの涼やかな音色とともに、店のドアが閉まる。
 緊張の糸が切れたように、ジュールはがっくりといすに崩れ落ちた。
「なんなんだ、今のは…」
 店内の人形は、もうただの置物に戻っている。あのとき…たとえ自分が命じても、人形達があの得体の知れない少女に襲いかからなかったであろうことを、理由もなくジュールは確信していた。


「凄いねえ」
 アクアは目的地に着くなり、感嘆の声を上げた。
「ルウさん、コウと競走して勝っちゃうなんて…」
 二人は膝に手をついて身体を支えながら、荒い呼吸を整えていた。さすがに休憩も挟まず、一気に駆け抜けたのは無謀だったかも知れない。
「…あ、あんたもね、アクア。空飛べるのって、便利ね」
「ちっきしょ、追い込みが甘かったな…」
 結局一番最後に森を飛び出したコウだった。しかし、ルウとはほんのわずかな差だったのである。木の幹を蹴り、そのしなう力を利用して跳ぶ豪快な移動法は、さすがとしか言えなかった。
「さて」
 顔を上げたコウは、すでに戦う準備を整えている。
「なんか、うじゃうじゃいやがるな」
 遠くを見ると、朽ち果てようとしている神殿のような建物が見える。かなり大きな、石造りの建築物だった。こういう遺跡が、この大陸のあちらこちらに残っているらしい。
 その下は一面丈の低い草が覆っていた。その草地の上に、褐色の大きなトカゲが何匹もうずくまっていた。全長一メートル半にも達する。それが、コウ達のほうへぞろぞろ這ってきているのだ。
「ルウ、言ったことちゃんと覚えてるか?」
「ええ。牙に気をつけろ、でしょ」
「そうだ。噛まれさえしなけりゃ、こいつらはそんなに怖い相手じゃない。それじゃ、いくぞ」
 言うなりコウは地面を蹴った。反応した一匹が、跳ね上がるようにコウに飛びかかる。コウは空中で拳を繰り出し、噛みつこうとした口を避けて、横から抜き手でバジリスクの喉を突き破った。
「素手で…」
 ルウは呆気にとられた。硬い鱗に包まれたバジリスクの皮を、素手で突き破るというのは生半可なことではできない。
「フロス!」
 アクアの声が響き渡った。その手から、ハウルとは違う薄青い光がこぼれ落ちる。
 地面に落ちてユキヒョウの姿になった光は、咆吼してバジリスクの群に突進した。
 ぶつかる直前でフロスの姿が消える。
 パアン!
 空気が弾ける音がして、気づくとバジリスクの形をした氷塊が、数個転がっていた。フロスは冷気の幻獣らしい。
 凄い。思わず二人の戦いぶりに見ほれてしまうルウ。その間に、バジリスクの数はどんどん減っていく。
「こりゃ、うかうかしてられないわ…」
 唇をなめて、ルウは剣を構える。空気を切る軽い音とともに、ルウを襲おうとした一頭がまっぷたつに両断された。


 二十頭ほどいたバジリスクも、三十分ほどもたつとほとんど片が付いていた。
「あとは、隠れている奴がいないか気をつけて…」
 歩きながら言いかけたアクアが、不自然に言葉を切る。
「なんだ?」
 気配で察したコウが、振り返る。アクアは廃墟のほうに鋭い視線を向けていた。
「何かいる…」
「何かって、なにが?」
 ルウはアクア達のところへ駆け寄ろうとした。刹那、アクアが叫ぶ。
「危ない!」
 ちっ。
 かすかな音をたてて、黒い影が駆け抜けるのが、かろうじて見えた。反射的にかわして、地面に転がるルウ。
 起きあがろうとした瞬間、嫌な予感がした。本能的につま先を地面に潜らせ、蹴りつける。恐ろしいスピードで、ルウが倒れていた位置を何かが駆け抜けた。
「バンダースナッチか!」
 コウが叫んだ。その声から、かなり深刻な相手らしいと分かる。
「なんなの、それ!」
「バジリスクの天敵だよ。エサ場を荒らされたと思って、怒ってるみたい」
 アクアが早口で説明する。地面を猛スピードで走っていた影が一瞬だけ止まり、姿が確認できた。バジリスクより一回り小さい。二足歩行する小型恐竜のようなフォルムだ。
「ふん、こんな奴…」
 剣を構え、向かっていこうとするルウにコウは慌てて叫んだ。
「馬鹿っ、うかつに近づくな! そいつは…」
 また相手は走り出す。目で追うのが難しいほどの速さだ。しかも、小刻みに方向転換して攪乱しようとする。
「そいつは、爪にバジリスクの毒を持ってるんだぞ!!」
 え?
 一瞬の意識の空白。気づくと、背後をとられていた。振り返るのが間に合わない。
 やられる。そう思った瞬間に、何かがルウとバンダースナッチの間に割り込んで、ルウは思い切り突き飛ばされた。
「きゃあっ!!」
 悲鳴はルウのものではなかった。目を見開いたルウは、アクアが肩から鮮血をまき散らしながら倒れるのを見た。
 その情景が、脳裏に焼き付いて凍る。うずくまったアクアの肩からは、もう出血していない。そのかわり、奇妙な色の斑点が傷の周囲に現れている。石化しつつあるのだ。
「このっ………」
 バンダースナッチと油断していた自分、双方への怒りにふるえながら立ち上がった。
 視界の隅にコウが映る。それを、ルウは見た。
 怒りも後悔も、一瞬で頭から消えた。それほどすさまじいプレッシャーのために。
 プレッシャーの源は、コウだった。
「こ、コウ…」
 アクアのかすれた声が、遠くで聞こえた。
 目の前で、コウは、まったく違う生き物に変貌していた。
「だっ…駄目ぇっ、コウ!!」
 アクアが絶叫した。
 コウの目。深紅にたぎる、炎のような。
 人間の目ではなかった。
「て………めええぇぇェェェッ!!!」
 コウだったものが、吼えた。
 ほとんど物理的な衝撃となって、それはバンダースナッチを打ちのめした。びくん、と雷に撃たれたように、その動きが一瞬止まる。
 その身体を、黒い風のようなものがひきさらい、遺跡の壁に向かって草原を駆け抜けた。石の壁に向かって。
 激突し、爆音が起こる。風化してはいるが、かなり巨大な石造りの壁が、粉々に砕けて吹き飛んだ。
「あ………な、なに………………」
 ルウは、目を見開いたまま硬直していた。
 目の前で、信じられないような光景が展開されている。神殿を、直線的に破壊していく暴風。
 荒れ狂ったコウはバンダースナッチがミンチになっても、まだ静まらなかった。神殿をほとんど縦断し、さらに遠くで数本の木が倒れるのが見えた。
 これが、人の姿をしたもののもたらす破壊だろうか。そんなことが、可能なのだろうか。全長三十メートルのランドワームが暴れた跡のような光景が、目の前にあった。
「………コウ………」
 アクアが、かすかな声でうめいた。


 神殿内部の玄室。
 暴風が過ぎ去ったあと。瓦礫に埋もれた小さな部屋…忘れられた部屋。
 とても長い時間を隔てて、そこに外からの光が射し込む。
 そこに、密やかに呼吸するものがあった。落石がよけていったような、小さな空間に。


 破壊を終えて、コウは呆然と立ちつくしていた。理性が戻ってくると、急に虚脱状態に陥ってしまったのだ。
 彼は破壊した遺跡を背に、森の入り口に立っていた。その手には、バンダースナッチだったものの一部がこびりついている。
「コウ! アクアが!!」
 その耳に、かろうじてルウの声が届いた。アクア。そうだ、アクアはどうなった?
「くっ…」
 コウは振り返り、一気に駆けだした。自分の破壊した跡を走り抜け、アクアとルウの元に駆け戻る。横たわったアクアのそばにルウが膝をついて、青い顔をしていた。
「コウ………」
 顔を上げたルウは、唇をふるわせていた。アクアの怪我のためか、今見たものに衝撃を受けたためかは自分でも分からない。
「…ふふっ。運が悪いねえ、わたし…」
 アクアが目を閉じたまま、つぶやいた。
「なにを言って…!!」
 コウは思わず叫びかけた。アクアの左肩。すでにそこには、石の色をした膜が広がりつつある。
「駄目だよ…分かってるでしょ? バジリスクの毒には解毒剤はないんだよ。手の先とかなら、切り落とせばどうにかなったのにね…」
 淡々と、自分の運命を受け入れた声でアクアはささやく。
 左肩から脇にかけて付けられた傷。心臓に近すぎて、もう処置の施しようもないのは明らかだった。
「ごめん、アクア…あたしのせいで…」
 うなだれるルウ。アクアはゆっくりと首を振った。
「ルウさんのせいじゃないよ…誰も、バンダースナッチがでるなんて予想できなかったんだもん。もしよければ、わたしがいなくなったら…コウのこと、お願いね」
 一見、平静に話しているアクア。しかし、今の彼女は内臓が石化していく、おぞましい苦痛に耐えているはずだった。
「ルウさんなら、コウと組んで仕事ができるよね。あのコウを見ても、大丈夫だったんだから…」
「なにを言ってるんだ、アクア!!」
 いたたまれず、コウは絶叫した。今にも泣き出しそうに、顔をゆがめて。
「冗談じゃないぞ…死ぬなんて認めないぞ。勝手に先に行くんじゃねえ。それくらいなら、どうしてあの時俺を助けたりした!」
 アクアはうっすらと目を開いた。そして、微笑する。その目に、コウやルウの顔が映っているのかどうか、定かではない。
「ごめんね…」
 まだ動く右手を動かして、コウの手に重ねる。その手はひどく冷たかった。
 ルウはのろのろと首を振った。信じたくない…けれど、もう打つ手がない。
 そのとき。
 足音を聞いてルウは目を上げた。遠くに見える、倒壊した遺跡のほう…何かが来る。
「なに………」
 ひどく小さな、普通なら聞き逃すような足音。ゆっくりと近づいてくる。ひどく小柄な、人影。
 短い髪、大きな黒い目が目に付く、それは少女だった。大きな頭飾り、白と赤を基調にした服。
 静かに、その少女は彼らの元へ歩み寄っていた。確かな足取り、しかしその顔は未だ深い眠りの中にあるかのように見えた。
 ――魔物?
 立ち上がって、ルウは身構える。しかし、なんの悪意も感じられない。ルウが放った殺気は、得体の知れない少女を素通りしてなんの反応もなかった。
 敵なのか、それとも味方なのか。判断が付きかねるまま、ルウはその少女が近づくのを見守っていた。コウもルウの様子に気づき、振り返って、同じものを見つけた。
「なんだ…」
「さあ…でも、敵意はないわね…」
 小声を交わしても、対応の仕方は決まらない。少女はやがて二人のすぐ前へやってきた。そして、二人の間をすり抜けて倒れているアクアのそばに立つ。
「おい…」
 肩に手をかけようとした、コウの動きが中断した。突然、まばゆい光があたりを照らしたのだ。
「なっ………!」
 二人は思わず目をかばった。光は少女の両手から発していた。少女はそっとかがんで、アクアの傷ついた肩に両手を重ねておいた。
「な、なにをする気だおまえ!」
 少女につかみかかろうとしたコウを、ルウが引き留めた。
「見て、コウ…アクアの傷が!」
 アクアの肩。石化して変色した部分が、まるで火にあぶられた薄氷のように消えていく。その下からは、もとの肌の色が現れ、さらに爪にえぐられた傷が急速にふさがっていく。
「治癒魔法…」
 コウは信じられない、というようにつぶやいた。
「馬鹿な…こんなの、伝説でしか聞いたことがないぞ…」
 やがて光が収まると、少女はその場に倒れて動かなくなった。代わりにアクアが目を開く。
「え…な、なに?」
 起きあがったアクアはとまどいながら、自分に覆い被さるようにしていた少女を、軽く抱き起こした。その途中で自分の肩を見て、服が破れている以外まったく傷が残っていないのを見ると、さらに目を丸くした。
「コウ、いったい…」
「ああ…この子が、おまえを助けてくれたみたいだな」
 コウは慎重に手をのばして、少女の身体に触れた。脈はある。呼吸もしている。どうやら、意識を失っただけのようだ。眠っている少女の顔は、ひどくあどけなかった。
「バジリスクの毒を消して、傷もふさいじまった…こんなまねができるとはね」
「なんなの、この子?」
 ルウが説明を求めて目を向けると、コウは少女から手を離してゆっくりと首を振った。
「分からん。が、治癒魔法は使い手である地族とともに滅びて久しい。それが使えるとなると、この女の子は…地族、ってことになる」

**********
美沙「はあっ………」
 な、なんですかいきなり
美沙「なんですかもなにも…いきなりこんな展開で、誰かついてこれる人がいると思うの?
 分からない…かなあ、やっぱ。
美沙「当たり前です。言ったでしょ、派手にすればいいってもんじゃないって」
 伏線張りまくったしねえ。もう滅茶苦茶…。
美沙「それに、今更だけど…これじゃ、ONEのキャラ使う意味がないわ」
 あははは…。でも、根幹はONEだから。
美沙「そこまでつきあってくれる人がいればいいけど…」

>いけだもの様
花より団子じゃない、と言っても花がいいわけじゃないんですね。さすがというか、なんというか…やっぱり茜ですね。詩子もいいタイミング。

>ニュー偽善者R様
思いっきり屈折しているようで、茜になでられるときだけおとなしいみけ…まねき猫さんの性格が反映されたんですか?(笑)なんか憎めないですね。

>YOSHI様
ぐはっ…もろにきた。「誰も来なくなったときに、この墓には名前が刻まれることになっている」浩平と瑞佳の墓標。もうなにも言えません。しかしまだ続くんですよねえ…。茜を殺すとか言ってるし。

>神凪 了様
だから凄いんだってば…。ここまで追いつめてしまってもいいの? って感じです。一人一人が絶望から必死にはい上がろうとして、その上にまた被さってくる闇。最後には、笑顔でいられるんでしょうか?

>もうちゃん@様
浩平、茜に起こしてもらうときはやっぱり…いやいや、そうじゃなくて。迎えに来た幼なじみ、その手を取る茜。でも、今茜が好きなのは浩平であって…彼は茜をどこへ連れて行くんでしょう?

>いいんちょ様
やっぱり詩子がでると引き締まりますね(笑)。物語紹介のところでも、詩子は相変わらずとばしてるし。この人のテンションが下がることってないんでしょうか。で、また改造?(笑)。

最大の問題は、この世界でラーメンを主人公の背中にぶっかけるにはどうしたらいいか、ということだったりします(爆)。ということで、今回の新キャラは分かっていただけたでしょうか。声を持たないあの人です。
とりあえず一通りのキャラが出そろったら第一部完、ということにしたいのですが、いかんせんもう一人を出すタイミングがなかなかつかめません…ま、なんとかなるか(いい加減)
あまりONEと関係ない話になってますが、楽しんでいただけたら幸いです。またお会いしましょう。ではでは。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/4203/