D.S 投稿者: GOMIMUSI
  act3


 大陸サイファを、かつて災厄が襲った。
 ふたつの世界があまりに接近しすぎて、その一部が重なり合った。現在ではそのように解釈されている。それが、いわゆる『魔界』との最初の接触。
 想像をはるかに越える、膨大なエネルギーを内包した空間は、接触すると同時にこの世界を酸のように浸食した。そのために、一時は人類はほとんど死に絶えたとさえ言う。
 空間の接触により、開いた裂け目は、ちょうどサイファの中央部、上空であった。それ以降、いまだにひずみがその場所に残って、サイファの生態系に影響を与えているらしい。モンスターとしか呼べない生物が、ここに出現するのはそのせいだった。
 そして、人も。さほど高い確率ではないが、きわめて特異な能力を備えた赤ん坊が、この地で生まれるようになったのも、魔界の影響とされている。このような、呪われた子供達に対する周囲の反応は様々だった。
 この大陸で生き延びるために、天から与えられた切り札と歓迎する者。魔物と同様、畏怖し忌み嫌う者。そして…利用しようとする者。


 バルハラ王国サザンクロス王朝。ミグ・サザンクロスは開国始まって以来、十六代目に当たる国王の第二王子だった。
 緋色の外套をまとって、ミグは大股に回廊を歩いていた。外套の縫い取りは、王家の証である聖南十字紋章。その背中が、ひどく不機嫌そうに見えるのは、先ほどまでの会議のせいだった。
 国を軍事的に強化し、他国に侵攻する事しか頭にない猿ども…それが、現在王国を支えている重鎮達に対する、ミグの感想だった。勝手に連中が潰し合いをしている間はまだいい。だが、やがて確実に他国を巻き込むようになる。学習機能のない奴らのことだ。また戦死者を量産して、恥じ入ることもないのだろう。それではこの国は、民は、いったいどうなる?
「なんか、ご機嫌斜めだね」
 突然、横手から声がかけられて、ミグは足を止めて振り返る。
 大理石の噴水がある、広大な庭園。その向こうから聞こえたようだった。いや、もう少し高い位置…そうか。
「またあなたか、ラインワード伯」
 舌打ちして、ミグは視線をあげ、声をかけてきた人物を見出した。チャザの木の太い枝に腰掛けて、黄色い実をかじっている少女の姿がある。貴族とは思えない、というより少女を感じさせない軽装。革の上着に短いズボン。背中までかかる焦げ茶の髪。そして、いたずらっぽく輝いている瞳。
 ラインワード伯爵家当主、シトローネ・ラインワード。それが彼女の肩書きだった。二週間ほど前に前伯爵が死去したのだが、残念ながらラインワード伯には男子の後継者がいなかった。そこで、暫定的に唯一の実子であるシトローネ嬢が家督を継ぐことになった…そういうことになっている。
 しかし、ミグは伯爵の本心を知っていた。シトローネは過去に誕生したラインワード家後継者の中でも、最も高い能力を秘めている。それ故、彼女以外の後継者を意図的に作らなかったのだ。
「いくらラインワード伯爵家が治外法権だからといって、こんなところまで勝手に侵入なさるのはどうかと思うが」
「心配ないよ」
 シトローネはにっこりと笑って言った。
「その根拠は?」
「もう慣れたからね」
 ミグはあきれかえった。不法侵入に慣れるもなにもあったものか。まあ、彼女のそういう破天荒なところは嫌いではない。頭の固い爺さん達よりは、よほど刺激的で有意義な話ができる。
 シトローネはひらりと木から飛び降りて、弾むような足取りでミグのところへ駆けてきた。五メートルほどの高さを飛び降りても危なげがないのはいつものこと。驚くことではない。
「で、相変わらず王様の飼い犬御一行は、強気にやってるわけね」
「不敬だぞ、伯爵。あれでも国の要だ」
「あれでも、ってところに王子の本心が見えるね」
 鈴を転がすような声で、シトローネはくすくすと笑った。ミグも、つられて苦笑する。
「連中は、どうあってもスバルの武力制圧がしたいらしい。あそこは、外界との唯一の接点だ。しかも、十七年前の例の一件以来、異能者が誕生する確率がずば抜けて高い…そんなものを当てにするようでは、この国も先が見えたというものだがな」
 ミグは投げやりに言って、肩をそびやかせる。シトローネは笑いながら、うんうんとうなずいた。
「王様、最近お年で弱気になってるのかなあ。昔だったら、あの一喝でみんな静かになったのに」
「伯爵…それは言わないでくれ。同じ一喝であの愚挙を推進したのも、同じ王。その子としては、頭を抱えるしかない」
「弱気だね。…ま、しかたないか。一万人だからね」
「ああ。一夜にして一万人が、戦場に散ったのだ。あの悪夢は、決して忘れられるものではない…」
 深いため息を付いて、ミグはうつむく。
「…ねえ、王子」
 長い沈黙の後、シトローネは意を決したように言葉を発した。
「なにかな」
「あたしの家が、なんのためにあるかは王子も知ってるよね」
「ガーディアンの血筋のことか。無論だ。先代伯爵のときから、その精勤ぶりは見ているからな」
 ラインワード家に伝わる秘された義務。それは、王家のために命を捨てること。王家はその忠誠故に、ラインワード家を特に栄誉ある家系として様々な特権を認めてきた。地位では他の大貴族に譲っても、ラインワード家は常に王家に最も近い位置を占めてきたのだ。
「もし…もしもだよ」
 シトローネの声には落ち着きがなかった。視線もあらぬところを見つめ、正面からミグの目を見ようとしない。シトローネには珍しいことだった。
「あたしが、最後のガーディアンであるとして…その義務を、王家以外の者に果たしたいと言ったら…王子は、あたしを罰する?」
 ミグは険しい顔になってシトローネを眺めた。
「そんなことは、俺に相談するようなことではないな。誰かの耳に入れば、反逆罪で幽閉されるところだ」
「だから、王子に訊いてるんだけど。王子も、その人達と同じことをする?」
 あきれるを通り越して、ミグは思わず笑い出す。この少女は、昔からそうだった。隠し事が得意なくせに、ミグにはすべて、自分から話してしまう。それも信頼しているからではない、ミグが、他人には言わない性格だから…言ってしまえば、ひねくれ者だからだ。その点で、ミグとシトローネは同類なのかも知れない。
「さてな。ガーディアンの役目は、守るに値するものを守ること…先代伯爵は口癖のようにそう言っていた」
「じゃあ…」
「先代伯爵を尊敬する俺としてはだ。守るべきと感じないもののために、命を捨てることはない。そう言うしかないな。誰にしても命は貴重なものだ。使いどころくらい、自分で決めてもいいだろう」
 そう言うと、ミグは軽く一礼してからシトローネの横を通り、回廊を歩み去った。
 シトローネが口にした、王家以外で守るべきと思う存在…その心当たりは、もうついている。しかし、それを確かめる気にはなれなかった。
 たとえ、彼女の守るべき者が王家を滅ぼす者だとしても…今の王家では、惜しむには当たらない。


 それはコウの提案から始まった。
「仕事を手伝う?」
 食事の手を休めて、ルウは顔を上げる。宿を取る金もないので、結局ここに居候することになったのだった。
「ああ。今、暇なんだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたし、こんなところまで遊びに来たんじゃないわよ」
「あ、そういや、ここに来た理由ってまだ訊いてなかったな。なんでだ?」
 そう問われて、ルウは何となくまじまじと、コウの顔を見つめてしまった。
 考えてみれば、お互い自分のことはほとんど話してないのだ。それなのに、コウやアクアはまるで古くからの知り合いのように振る舞い、家に泊めてくれた上に、今度は仕事を手伝ってくれ、などという。いったいなにを基準に、そこまで自分を信頼するような行動がとれるのだろう。
 そういえば、自分もまったく彼らに警戒心がわかなかった。本当に不思議な連中だ…。
「どうした?」
 気づくと、間近に怪訝そうなコウの顔があった。
「な、なに人の顔のぞき込んでるのよ!」
 思わず赤面しながら、飛び退いてしまう。そんなルウの反応を、コウはさらに不思議そうに見ていた。
「いや、ぼうっとしてたからさ。で、なんだっけ? ああ、どうしてこの大陸に来たかって話だったよな。なんでだ?」
「なんでって…探し物があるのよ」
「探し物?」
「そう。ここにあるって聞いたの。魔剣、炎舞羅が」
「へ?」
 コウは目を丸くして、穴のあくほどルウの顔を見つめた。
「なによ」
「おまえ、世界征服でもしたいの?」
「なによそれ…くだんない」
「ってもさ、炎舞羅といや、世界を滅ぼせるとまで言われた魔剣だろ? そんなもん探し出して、なにする気だよ」
「復讐」
 短く答えた彼女に、コウは言葉を失う。その一瞬、自分の表情がひどく冷たく、硬くなるのをルウも自覚していた。
 ――炎舞羅。この世界に存在するという二振りの魔剣のひとつ。かつて魔界がこの世界と重なり合ったとき、空間に生じた裂け目をもう一度閉じるため、何者かが造り出したという。それほどの力を持つ故に、炎舞羅を手にしたものはこの世の理を破砕するほどの力を手に入れるという。
 それは伝説。しかし、そんなことに彼女の興味は向いてない。考えられる限りで、あの男と対等以上に戦える武器といえば、炎舞羅以外に考えられない。なぜなら。
「復讐って…そんな、炎舞羅なんか持ち出さなければならない相手って」
「そうよ。あいつは、もう一本の魔剣を持っているの」
 そう言って黙り込んだルウに、さらにコウが何か言おうとしたとき。
「きゃあっ。ちょっと、シィナ! ああん、待ってよぉ〜〜〜」
 アクアの悲鳴が聞こえて、二人は振り返る。勢いよく開いたドアから、シィナと、それに続いてアクアが駆け込んでくるところだった。
「みゅーーーっ!」
 なにやら意味不明の声を上げながら、シィナはうれしそうにコウに飛びついた。
「おっ、シィナ、起きてたのか」
「ふいふい」
 甘えるように、コウの胸に顔をすり寄せるシィナ。その様子を、アクアが笑いながら眺めていた。
(………ああ、これだわ)
 ルウは何となく、それを見て思った。コウもアクアも、まったく打算というものがない。自分たちが異能者であるから、そのために疎んじられる者の苦しみを知っているから、だから相手の背景にはいっさい目をつぶり、両手を広げて受け入れてしまうのだ。そんな度量の広さが、この家にはある。
 コウはアクアを見上げ、訊ねた。
「ファラさんに連絡は入れたのか?」
「うん。昨日、ちゃんと家に知らせておいた。ちょっと遅くなっちゃったけど」
「ファラさん?」
 聞き慣れない名に、コウが説明を添える。
「こいつの母親だよ。義理、っていうか、拾った人だけどな」
「え? じゃあ、本当のお母さんは…」
「さあ。捨てたのか、死んだのか。こいつは顔を覚えてないみたいだし」
 さらりと、そう言った。しかし本人の前で、こんな会話をしていいのだろうか? 気が引けたルウは、シィナを見る。まるで動物のような、感情を読めない瞳が見返してくる。
 シィナはコウの腕を抜け出すと、ルウのそばに歩み寄ってきた。じっと、ルウを見上げる。
「な、なに?」
 意味もなく緊張しながら、ルウは愛想笑いなど浮かべてみる。シィナは、ルウの長い髪をほけ〜っと眺め、それから、おもむろに両手でつかんで思い切り引っ張った。
「ぎゃーーーーーっ! 痛い痛い痛い痛い痛い!!」
「こらっ、シィナ!」
 アクアはテーブルを飛び越えてくると、シィナをルウから引き離そうとした。しかし、シィナはなにが気に入ったのか、ルウの青みがかって見えるような黒い髪をつかんで放さない。
「みゅ〜っ」
「や、やめなさい! 抜けちゃったらどうするのよぉ!」
「ルウ、間違ってもシィナの機嫌を損ねるんじゃないぞ。家の床を木の根っこにぶち破られたりして、すげー大変なんだからな」
 離れて声をかけるコウは、完全に面白がっている。
 シィナは、ネイチャー・エンパシスト。自然界のすべての生き物と通じ合い、感情が高まると、動植物がシィナのために動きだすという代物だった。その能力の凄まじさは、森でルウが目にしたとおり。故に、彼女は町中から敬遠されるようになっていたのである。確かにこれでは、泣かせるなどとんでもない話だった。
「勘弁してよぉ………」
 ようやく解放されたルウは、ぐしゃぐしゃに乱れた髪を直す気にもならず、座り込んでひたすら深いため息をついた。


 小高い丘にある店のドアは、涼やかなカウベルの音とともに開いた。
「うわあ…」
 一歩踏み込んで、ルウは息をのむ。ルウに向けられる、無数の視線。
 生きているものではなかった。恐ろしく精緻に作られた、それは人形。といっても、人型のものはあまりない。動物、魔獣、キメラ(合成生物)など、ありとあらゆる種類の生物が、生きているとしか思えないリアリティをもってそこに並んでいた。
「やあ、いらっしゃい」
 奥から現れた若い店主は、思わず立ちすくんでいたルウににこやかに声をかけた。
 ジュール・ガーディ。仕事を始めるに当たってコウがルウに要求したのは、この男に会うことだった。ここで仕事ができるかどうかをこの男がテストしているらしい。そうしなければ、この外に出てもあっさり死んでしまう者があまりに多すぎるからだそうである。道理で仕事にありつけなかったわけだ、とルウは内心で深く納得した。
(でも、ずいぶん若い人ね)
 内心、ルウはとまどっていた。目の前でルウのためにお茶を入れている男は、どう考えてもルウと同年代、いいとこひとつかふたつ上という若さだ。こんな男に、仕事が勤まるかどうか…技量などというものがわかるのだろうか?
「やっぱり、意外?」
 ジュールはそんなルウの視線を感じてか、にっこりと笑って彼女を見た。
「え? ええと…まあ、正直なところ」
 気後れしながらも、ルウはうなずく。ジュールは軽く笑った。
「確かに俺は若造だけど、目のよさには自信があるんだ。俺、何でも屋みたいなこともしてるんだけどさ」
「何でも屋?」
「そう。といっても、いろいろな調査やら手紙の配達やら、いわゆる情報関係がメインだけど。ほら、熱いから気をつけてね」
「あ、いただきます」
 ジュールの手からカップを受け取って、一口すする。ふくよかな香りで、上質の茶葉を使っているのが分かった。器自体もかなり高級だ。
「そういう仕事を、うちは長いこと続けてきた。生まれながらに物事の本質を見抜く目、鑑定眼を培われる環境にいるってことだね。まあ、それを言うならあなたもかなりなものみたいだけど」
「え?」
「剣。かなり使えるんでしょ。小さいときから本格的にやってないと、そこまではならない」
 ジュールはやや上目遣いに、にやりと笑った。なにもかも見通しているような目だ。
「さて、仕事をしたいってことだけど」
「あ、はい」
 不意に雰囲気が変わって、ルウは反射的に背筋を伸ばした。
「コウ達と組んでやってもらう。もう仕事の話はしてあるから、詳しいことはコウから聞くといいよ」
「………は?」
 思わず呆気にとられて、ルウはジュールを見つめてしまった。さあ、これから自分の力量を試されるのか、と緊張しまくっていたところへ肩すかしを食わされた気分だった。
「それじゃ、あたしはもう仕事ができるってこと?」
「そうだけど」
 そんな。いくら鑑定眼があるからといって、実際にどれくらい使えるかも分からないのにまかせてしまえるものなのか?
「コウがほめていたからね。あなたの腕は、それで保証されたことになってる」
「…それって凄くいい加減じゃないの?」
 自分としてはありがたいが。
「そんなことはないさ。コウは滅多なことじゃ、相手の腕をほめたりしない。コウに、一度喧嘩がしたい、なんて言わせるのは大変なことなんだから」
「喧嘩? あいつがそう言ってたの?」
「うん、まあ。あいつは強いよ。技の優劣はともかく、荒事にかけては右に出る奴はいないね。だから」
 ジュールは、急に怖いくらい真剣な顔をして言った。
「あいつを怒らせないことだよ。滅多に本気で怒ったりはしないけど」
「はあ…」
 ルウはうなずいたものの、いまいち納得しきれない顔だった。確かに強いとは感じたが…。
「それじゃ、以後よろしく。フラウ・ルウ・ミイさん」
 ジュールは立ち上がって、握手を求めてきた。ルウもあわてて立ち上がり、その手を握る。こうして晴れて、ルウはスバルで働く権利を手に入れたことになる。
 彼らに回ってくる仕事は魔物退治など。場合によっては暗殺まがいの仕事も持ち込まれるらしいが、そのたぐいはジュールとは別のルートで処理されるということだった。
「あ、そうだ」
 思いついてルウは言った。
「何でも屋っていうか、情報屋みたいな仕事もしてるんでしょ? あなたは」
「そうだけど」
「じゃ、炎舞羅って剣、知らない?」
 その名を口にした一瞬だけ、空気が凍り付くのが分かった。全身の体毛が、立ち上がっていくような悪寒。
「…どこでその名を?」
 ジュールはひどく静かな声で、訊ねた。
「それは…」
「ま、いい。炎舞羅の名は、あまり気軽に口にしない方がいい。場合によっては命を落とす」
 ルウは息をのむ。そのときのジュールの目に、彼女は相手の本質をかいま見た気がした。
 まったく、人は見かけで判断できない。
「忠告は承っておくわ」
「ほんとに、気をつけてくれよ。せっかく得た労働力を手放すほど、うちは余裕ないんだから」
 そう言って笑ったジュールは、もう刃のような鋭さを跡形もなく消していた。
 そして、ルウはそのまま店を出た。


「あ、お帰りなさい」
 家に帰ると、アクアが笑顔で出迎えた。何とも家庭的な娘だった。思わずルウもただいま、と応じて、意味もなく気恥ずかしくなったりする。
「あれ? アクアだけ?」
 ルウはいつにもまして広く感じられる家を見回した。もとよりそれほど広い家ではないが、コウとシィナがいないと、何か物寂しい。
「うん。シィナは家に帰った。コウは港の見回り」
「見回り? あいつ、そんなことしてるの?」
 立派なものだ、と感心しかけたルウにアクアは笑って首を振る。
「喧嘩しに行っただけだよ」
「喧嘩?」
「ん。夕方になるとあのあたりは、酔っぱらいが騒ぎを起こすんだよね。だから、コウはそういうのを相手にして喧嘩してるの」
「なんか…心配じゃないの?」
 コウが傷を負わされることは、まずないだろう。酔っぱらいがあいてでは、並の剣士が十人かかったところであの男の敵ではない。しかし逆に、相手に怪我をさせてしまうことは考えられる。そのために捕まったりはしないのだろうか。
「うん、まあ…」
 アクアは複雑な顔をして、うつむいた。
「コウって、強いんだよ。凄く強い」
「それは、聞いたけど」
「でも、それだけじゃ駄目だって、コウは言うの。ただ力がある、それだけじゃ本当に強いとは言えないって…でも、よく分からない。コウも分かってないと思う」
「なんか、事情がありそうね」
「うん。ちょっとね…」
 ひどくつらそうな顔をするアクアを前にして、ルウはとまどっていた。あまり人の事情に踏み込むのはどうかと思うし…。
「ただいま」
 突然ドアが開いて、コウが入ってきた。見たところ、服に血が付いているとか、そんな様子はない。
「喧嘩してきたの?」
 半信半疑の口調で、ルウは言った。
「おう。なんだ、アクアから聞いたのか」
「なにも、酔っぱらい相手に喧嘩することなんてないじゃない。なんか意味あるの?」
「ない」
 胸を張って言うコウ。
「そこでふんぞり返られても…」
「俺はこう見えても、無意味なことに一生懸命な男だ…で、ジュールのとこには行って来たのか」
「あ、うん。あんた達と組んで仕事しろって」
「そうか、慣れるまではそのほうがいいな。そんじゃ寝るか。明日は早いぞ」
「あ、待って。内容聞いてないんだけど、どんなの?」
「バジリスク退治だ」
 あっさりと出てきた名前に、ルウは硬直する。
「ば…バジリスクぅ!?」
 サイファの外まで、その名は知られている。石化麻痺毒を持つ、きわめて危険な大型爬虫類。常に数頭の群で行動するため、ひとつの町が滅びたという話もあった。
「別に珍しいことじゃない。以前、バジリスクを狩って黒竜亭に持ってきた奴もいたらしいからな」
「で、料理したの?」
「ああ。鳥の胸肉に似た味がしたらしいぞ」
「へ、へえ…」
 しかしバジリスクが珍しくないというなら、うかつに半端な腕の者を外に出すわけにはいかないだろう。ジュールのように、ふるいにかける者が必要なわけだ。
 そして、ジュールはコウを強いと言った。どれほどのものか、この目で確かめる機会でもある。ルウは、わくわくしている自分にきづいていた。

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 だいぶ間が空いてしまいました。
美沙「すでに息切れがきているとはね…」
 …あう。
美沙「それに今回のは、つまんないし。はあ…」
 だってえ。今回は、世界背景の説明とか、あいつらの登場とか…いろいろあるんだから。
美沙「ずいぶんかっこいい役にしてもらった人がいるわね」
 みんな扱いひどいけどね。でも、自分の頭の中じゃ、あれは結構クールな奴じゃないかというイメージがあって。
美沙「それで王子様。…べたべたな設定よね。だいたい、王国なんてもの描写できるほどよく知っているわけじゃないんでしょ?」
 ま、その辺は適当にごまかします。
美沙「あと、まだ登場してないキャラは?」
 下のが次に出る予定。うまくいけばもう一人も出る。それで、第一部ってとこかな。
美沙「だけど、平気なの? もうほとんどネタつきてるのに」
 …先のことは考えないようにします。

>神凪 了様
『メサイア』も『アルテミス』も、やたらかっこいい。実際のところ、こういうのが書きたい。アルテミスのほうも気になるけど、メサイアの住井と葉子さんが…いいなあ。

>ニュー偽善者R様
どうも最近、読むペースが落ちていて、あまり話の全容が把握できない…すいません。でも、やっぱり茜は一途な子…双葉、少しかわいそうですね。

>雀バル雀様
…シビア。その場で下さなければならない選択。片方を選べば、片方を捨てることになって…しかも、選んだ方が手元に残るとは限らない。言ってることよくわからんけど、勘弁。ちょっとショック受けてます。

>ひさ様
こういう浩平もいいです。結構自分のことには無頓着なくせに、他人事で一生懸命になってしまうようなとこ、ありますよねこいつは。いや、なかなか。

>てやくの様
ぶっとんでますね。性格の変わった瑞佳と七瀬がやたら怖い。でもって、桃太郎と瓜子姫…瑞佳はかぐや姫だったりして(爆)。映画部作品は…分からないからパス。すいません。ところで、妖狐雪見さんが唱えていた呪文なんですか? やたらかっこいいね☆

>WILYOU様
こ、浩平ロボ…しかも結構いい奴。加速装置とかロケットパンチが、ああ住井だな(笑)という感じですが、長森の気持ち考えると…うーん。
ちょっとさかのぼりますが、さわやかな朝もよかった。皿回しする繭が(笑)

>いけだもの様
あ〜か〜ね〜〜〜!!(核爆)…無性にこう、なんていうか…健気ですねえ。浩平の行動も心憎いというか、なんというか…。ああ、ほのぼの。

 D.Sはおそらく、自分で思っていたよりは短く済むはずです。間が持たないから(^^;
勘のいい人には、敵の正体が分かっていることでしょう。というか、もうばらしてますね、今回。感覚的には「レベル99から始めるRPG」というイメージがありますので、全員最強。しかし、誰が味方で誰が敵かということについては、予断を許さない状況です。期待しないで待っていてね…まだ設定も完全に固まってない(爆)
一番重要なキャラが、一番最後に出る予定。今回はこれまでです。ではでは。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/4203/