D.S 投稿者: GOMIMUSI
  act2


 東方独特の、布を多用したゆったりとした衣装に身を包んだ少女は、ほの暗い森の中で不思議な陰影をまとい、現実離れした存在に見えた。並はずれて整った目鼻立ちが、その印象をさらに強くする。
 戦乙女、というものがある。もし実在するなら、こんな姿をしているのではないだろうか。そんな考えが、ちらと頭の隅をかすめた。
「おまえ…人間か?」
 そんな問いが、コウの口をついて出る。するとルウは、ぴくりと眉を動かして心外さを表明した。
「魔物だとでもいうつもり?」
「いや…そうだな。人間にできる動きだとは思えなかったからな、今のは」
 木の間を縫いながら、というより、木を足場としてめまぐるしく動いていたルウ。そんな無茶な動きをしていれば、弾みをつけるなどの『ため』の部分がなければならない。それが、ルウの動きはまるで影が移動するかのように軽やかだった。あまりにも鮮やかな動きに、位置をとらえることさえできなかったのだ。
 なにより、その間足場になっているはずの木々はいっさい沈黙を守り、枝のそよぎさえ変わらなかったのである。空気も動かさず、宙を飛び回っていたとしか思えない動きだった。人間業ではない。
「鏡渡り、よ」
 ルウは何でもなさそうな声で言った。
「鏡…?」
「うちの流派で伝えられる、体さばきの極意。己の気を大気と同化させ、体重も気配も消して移動するの。自らを影となし、水面の静謐を汚すことなくその面をわたるべし…つまり、極めればさざ波ひとつたてることなく、水面を歩いてわたることさえ可能という話よ」
 コウは目を見開いて、感嘆を率直に表した。
「そりゃ凄いな…」
 気配を消したまま、思いのままに移動する。それは剣での戦いにおいて、絶対的な優位を意味する。相手の位置をとらえられなければ、自分から攻撃しても当たらないからだ。
「体重を消す武術の話は聞いたことがある。軽功とかと、似たようなもんか」
「軽功? それは知らないけど」
 ルウは首をひねる。戦う技術については、彼女は疎い方だ。自分の剣を極めるだけで精一杯なのに、他人がしていることまで関心は持てない。
「で、あんたはこのあいだ、あたしと町でぶつかった人だったわね。どうしてこんなところにいるわけ?」
 ルウは、コウが敵ではないと認識しているものの、完全に警戒を解いたわけでもない。だいたい、あの印象的な出会いから、ルウはコウに対して好感を持っているとは、お世辞にも言えなかった。
「しまった。無駄話しに来たんじゃないんだ」
 コウは本来の目的を思い出し、急いで周囲を見回した。離れたところからこちらをうかがう子供達を見つけ、ほっとして駆け寄った。
「シィナ! ケンタ! 無事だったか」
「顔見知りなの?」
「ああ、家族みたいなもんでな…」
 安堵したコウは、気がゆるんでいた。それはルウも同様だ。戦いの決着が付いた後は、人間は油断しやすい。
 突然、木の影から男が飛び出して、子供の一人を抱きかかえると、喉元に短剣を突きつけた。
「動くんじゃねえ!!」
 われ鐘のような声で男はがなり立てた。不覚に気づいたときは、後の祭りである。コウは飛びかかろうとした姿勢で、ルウは剣の柄に手をかけたまま動けなくなった。
「まずい…」
 コウはうめいた。男が人質に取ったのは、剣を目の前に突きつけられてなお表情を動かさない、少年にも見える短い髪の少女。シィナ・ミウだ。こんな事態にならないように、ここまで急いで走ってきたというのに。
「へっ…なにがあるか分かったもんじゃねえよな、剣士さんよ?」
 顔をゆがめて男は嘲笑した。鋭い視線で男を射抜きながら、ルウは静かに剣の柄から手を離す。
「小さな子供を盾にしたことが、そんなに自慢なのかしら?」
 冷笑を含んだ挑発に、男の顔に血が上った。
「うっせえ!! 四の五の言わずに武器を捨てやがれ。さもねえと…」
 短剣を持つ手に力がこもる。遠目に、その手がふるえているのが分かった。おびえているのだ。危険な兆候だった。
 精神的に追いつめられた人間はもっとも危険だ。どんな行動に出るかまったく予測できないし、自棄になれば周りを巻き添えにして死ぬような暴挙にも出る。理屈が通じないのだ。下手に刺激するわけにはいかない。
 ルウは剣を鞘ごと背中からはずす。それを無造作に放り投げようとしたとき。
「ぐあっ!!」
 男が顔を押さえてのけぞった。小さな動物が、その顔に張り付いている。イタチのような細長い獣だった。
「みゅうっ!」
 そのとき初めて、シィナが声を発した。男に飛びかかった動物は、この少女の友達らしい。
「シィナ、離れろ!」
 コウは叫んだ。しかし、シィナは自分をかばうように男に飛びかかっていった獣を気にしてか、動こうとしない。業を煮やしたコウが駆け寄ろうとした瞬間、男の短剣が顔面近くを払いのけた。
「キィッ!!」
 鮮血が飛び散った。背中をを切り裂かれ、苦悶して獣は地面にぽとりと落ちた。そのまま、ぐったりと動かない。
「あ………」
 コウの表情が凍り付く。シィナの、目。呆然と、骸と化した獣に注がれて…。
「いっ…いかん! 逃げろ!」
 コウは男に向かって怒鳴りつけた。
「あ?」
「ぼやぼやするな! そいつのそばにいたら、森に殺されちまうぞ!」
 が、その警告は遅かった。
 シィナの両眼に涙の雫が盛り上がり、唇がゆがむ。ぺたん、と獣のそばに膝をつき。
「う………うわああぁぁぁぁぁ………!!」
 その瞬間、森が泣き叫んだ。


 どおぉ…ん。
 突き上げるような振動が、足下から襲いかかった。
「な、なに!?」
 突然のことにルウはバランスを失った。転倒しかけたその腕をコウがつかみ、抱え上げると同時に大きく跳躍した。
(こいつ………!)
 ルウは目を見張った。人間を抱えているとは思えないほどの距離を跳んで、さらに木を蹴って森から半ば外へ出る。着地と同時にルウを放り出すように地面におろした。顔はシィナ達のほうへ向けたままだ。歯ぎしりしながらうなり声をあげる。
「あの馬鹿野郎、寝た子を起こしやがって…」
 そのつぶやきの意味は、目の前の異変を見れば一目瞭然だった。地面が割れ、骨のような色をした木の根が飛び出してきたのだ。まるで生き物の触手のように、無数の太い根が絡み合いながら一点を目指して集まってきている。その地点に、シィナを人質に取ろうとした男がいた。
「う、うわあぁぁ!!」
 恐怖に男は絶叫した。逃げようとした男の足をを根がからめ取る。シィナの心を傷つけた、その罪に報復しようとするように、森全体が男を敵と見なして襲いかかったのだ。
 めきめきときしむ音、葉のざわめく音がどんどん高まっていく。今や、森全体が一個の意志を持つ生き物だった。
「駄目だ、シィナ! 落ち着け!」
 コウの張り上げる声に、落ち着きなど一片もない。シィナはまだ全身で慟哭していた。「うわあぁぁ…あぁぁぁ…ん!」
 嘆き悲しむその声は、高まる一方だ。森にとらえられた男の身体はすでに空中高く持ち上げられ、どうなっているのかここからではよく分からない。
「シィナ!」
 コウはもう一度叫んだ。だが、近寄ることすらできない。無尽蔵に伸びる根と、張り出す枝が少女に接近しようとするものを妨げるのである。今の森にとって、シィナに近づくものすべてが敵なのだ。
 ぱしゅっ。
 鋭い音が響いた。同時に、植物の壁に裂け目が生じる。音は連続して響き、かろうじて道を切り開いた。その一瞬の隙をついて、人影がまっすぐにシィナの元へ向かっていった。
 アクアだった。いつの間にか間近に接近していたアクアは、どうやってか障害物を切り払いながらシィナに駆け寄っていたのだ。その手には武器のようなものは握られていない。
ただ、全身を淡い緑色の光に包まれている。その光に木がふれるたびに、風を切るような音がして、根や枝の破片が飛び散った。
「シィナ!」
 アクアはシィナのそばへ立つと、その小さな身体を抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だよ。もう泣かなくていいの。強い子でしょ、シィナは。もういいから…」
 赤ん坊をあやすように、アクアはシィナの頭をなでながら耳元でささやきかけた。シィナの頭を胸に抱くようにして、なだめすかそうとする。その周囲にだけ、穏やかな空気が流れた。
 発狂したような森の喧噪は、やがて徐々に収まり始めた。


 男は、かろうじて生きていた。
 肩の関節が外れ、顔にひっかき傷を負った以外、怪我らしい怪我もなかった。アクアがもう少し遅ければ、この男の骨はすべて砕かれていたに違いない。
 しかし、限界をはるかに越えた恐怖に見舞われ、男の精神は崩壊してしまっていた。だらしなく口を開け、涎を流しながら目を見開き、座り込んだまま、何の反応も示そうとしなかった。
 静寂を取り戻した森は、ねじれた枝や根をそのままにして動かなくなっていた。古木に宿る精霊、トレントが夜通しお祭り騒ぎをした後のような光景だった。
「すまん、アクア」
 コウはアクアに向かって、悄然と頭を下げた。
「こっちの油断だ。注意を怠って、隠れていた奴に気がつかなかった…」
「コウは悪くないよ」
 泣き疲れて眠ったらしいシィナを抱きしめたまま、アクアは穏やかな顔で首を振った。
「ただちょっと、運が悪かっただけ。…あの子、死んじゃったんだね。シィナの一番の友達だったのに…」
「ねえ…いったい、どうなってるの?」
 ルウはこらえきれずに問いただす。
「今の騒ぎ、この子が起こしたのね? いったいどういう力なの、これは。植物が、自分の意志を持って暴れ出すなんて…」
「それは…」
 コウは躊躇する様子を見せた。そのとき、彼らの前で折り重なった木の一部が動いて、子供の腕がにゅっと生えてきた。
「あ、忘れてた!」
 あわててコウが駆け寄り、横倒しになった木の幹に手をかけて、ぐいっと持ち上げる。一抱え以上もある木を軽々と片手で支えたまま、隙間に手を突っ込んで、少年の身体を引っぱり出す。それはシィナとともにここまでつれてこられてしまった少年…コウがケンタと呼んでいた男の子だった。
「ひどいや、コウにいちゃん」
 ケンタはぷうっと頬を膨らませて抗議した。
「オレのことを忘れていっちまうなんて…」
「わ、悪かった。しかしよく無事だったな」
「まあ、こんなこと初めてじゃないしね。こいつらも」
 と、折り重なった木を蹴飛ばす。
「オレが敵じゃないってのは分かってたみたいだし。地面に伏せてやりすごしてたんだけどさ。今みたいに閉じこめられたままだったら、いくらなんでも…」
「すまん。謝る。今度、黒竜亭でおごるから」
 コウは両手をあわせて、ケンタを拝むように謝っていた。小さな子供相手に頭が上がらない図というのも、なにやらほほえましいものがある。
 しかし、とルウは思った。
 この男は尋常でなく強い。単に瞬発力があるだけではない。こういった事態には慣れている感じがあった。場数を踏んでいるのだろう。さすが、暗黒大陸サイファというべきか。
「あ…」
 ケンタはすぐそばに立っていたルウの顔を見上げたとたん、しまった、という顔をした。どうやら財布をすったことを、覚えていたらしい。少なくとも、記憶力はしっかりしているようだ。
「んで、どうなの?」
 ケンタのことはとりあえず後回しにして、ルウはコウを問いつめた。
「あ、ああ…そうだな、話してもいいが、とりあえず場所を変えないか?」
「どこ?」
「俺らが住んでいる家だ。アクアの家なんだけどな」
「へえ…一緒に住んでるんだ」
 何気なく言ったとたん、アクアの顔がかあっと赤くなった。
「あ、あの、べつにそんなんじゃないから。わたしが小さいときからずっといて、兄妹みたいに育ったの。だから…」
「誰もそんなこと聞いてないだろ。落ち着け、アクア」
 あたふたと弁明する、アクアの頭をくしゃくしゃと乱暴になでてコウは笑った。本当に兄妹のようだ。なんとなく、家族の暖かさを感じてルウの顔もゆるむ。
「あ、ねえ」
 ルウは不意に、ケンタのほうに顔を向けた。傍目に分かるほど、びくりとケンタの身体がこわばる。
「さっきみたいなのが初めてじゃないって、この子みたいなのがそんなにいるわけ? この町には」
「え…ううん、そうじゃないけど。こいつ、この力のせいで、大人たちが気味悪がるから…オレたちが面倒見ないと…」
「で、あんなことがたまに起きる、と。怖くないの?」
「ちょっと。でも、だからって、ほっとくことなんてできないし…いいやつなんだ、こいつ。食べられる木の実とか、いろいろ教えてくれるし」
「ふうん…偉いじゃない」
 ルウが素直にほめると、ケンタは照れたようにうつむいた。
「さて、そろそろ行くか。日が暮れる前に帰り着いた方がいい」
 コウはぱん、と手をたたいて立ち上がる。それに続いてアクアとルウも腰を上げた。
「あ、あのっ、ねえちゃん!」
 思い詰めたようにケンタが叫んだ。
「なに?」
「さ、財布のこと…」
「え? 返してくれるっていうの?」
「う、ううん。もう使っちまったから、返せないけど。でも…」
「じゃ、いいわ。このおにいちゃんにたかることにするから」
「おい」
 異論ありげなコウを無視して、ルウはにっこりと笑った。
「ま、とられたのはこっちの不注意なんだから、文句は言えないわよ。でも、次はないからね。覚えときなさい」
 ケンタはつばを飲み込んで、うなずいた。
「太っ腹じゃないか」
 ケンタと分かれて歩き出して、コウはにやにや笑いながらルウに言った。ルウはため息をつく。
「だって、あの子。そのシィナをかばって、あの男達にくってかかっていたのよ。一人で六人も相手にして…あんなところを見たら、ねえ…」


 木々の間にそびえるように、その神殿はある。風の神殿――そう呼ばれる理由は、建物の中心部にある、螺旋状の階段を持った塔にある。
 この塔は、山の稜線から風が吹き下ろしてくる、そのちょうど正面にある。この上では、風がやむことは滅多にない。いつも、一定の方向から穏やかな風が吹き続けている。
 そして、その塔の最上階。狭い祭壇のような場所に、しばしば伝説の巫女が姿を表す。過去、現在、未来。すべてを見通す未来視(さきみ)の能力を秘めた美しい巫女の噂を、この町に住むもので知らぬ者はない。けれど、その素顔を知る者は皆無に等しかった。
 塔の上に現れる影は、いつも逆光となって輪郭を伺い知ることができるのみ。背中までかかるような風になびく長い髪、それだけが、巫女について知られている唯一の特徴。
 神殿は未来視の能力を持つ巫女を、極端なまでの警戒をしいて人々の目から隠していた。その理由については、憶測を含めて様々に取りざたされていた。彼女が語る未来は、占いなどとは違う。すべて、言葉のままに現実となるのだ。その巫女を手中に収めようと、様々な手管を用いて神殿に近づこうとする者は後を絶たなかった。しかし、それはすべて徒労に終わる。そして、今日も巫女は塔の最上階にいた。
「いい風だね」
 巫女は手すりに手をかけて、静かな声でつぶやいた。
 白い、精緻な刺繍を施された聖衣。その白さに映える、夜の闇を切り取ったような漆黒の髪が背中にかかる。
 遠い景色を眺めるような風情で、巫女は言葉を継ぐ。
「こんないい景色を奪う権利が、君にあるのかな?」
「あなたに、景色は見えないはずだけどね」
 笑いを含んだ声が、その背後から響く。
「いい景色じゃないんだ?」
「いいや、そんなことはないよ。見渡す限り、夕焼けに染まってきれいだよ」
「ふうん。今日は夕焼けなんだ」
 かすかに、声に笑いを含んで。巫女は、その姿勢を変えないまま、背後に語りかける。
「やめておいた方がいいよ」
「もう遅いよ。あなたには悪いけどね。剣の一本は、もう僕が持っている」
 かちゃ。剣の鞘が、腰帯の留め金とぶつかってかすかな音をたてた。
「あと一本。それで、僕の願いが叶う」
「すべての滅びと引き替えに?」
「そう」
 巫女ははあっ、と大きなため息をついた。そして振り返る。
 見えない目を、まっすぐに相手に向けて。
「間違っていたんだよ、私たちは。なにもかも。私たちは、力がただそこに存在するだけでは、破壊的な働きしかしないということに気づかなかった」
「………」
「だから、その過ちを私が正すよ。私はそのためにここにいる。君の思うようにはさせない」
「…それなら、あなたはなぜそうまで無力な姿になった?」
「同じ過ちを繰り返さないためだよ」
 ふふっ。笑う声は、嘲笑だったのか。
「なら、あなたは僕の敵ということだね…悪いけど、遠慮はしないよ」
 声はそれを最後に、気配とともに途絶えた。巫女は長い間、その場にたたずんでいた。すでに西の山に日は沈んで、夕闇が降りつつあった。
 冷たい風が吹き抜けて、巫女の黒髪を大きくかき乱していった。


 ルウ達は、アクアの家に着くなり食事を始めた。コウは、シィナの件で緊張して腹が減った、と言い、ルウは先日からなにも食べてないと不平を漏らしたので、急いでアクアが用意したのだった。五人前ほどの食べ物は、すべてきれいに二人が片づけてしまった。アクアは、「備蓄の分だったのに」と文句を言いながら、食器を流しに運んでいく。その姿を見て、ふと七瀬は周囲を見回した。
「あれ? 二人とも、ご両親は?」
 すると、アクアは宙に視線を泳がせた。
「お父さんは、覚えてない。お母さんは、私が十歳の時に死んじゃった」
「あ、ごめん…」
 自分の不用意な言葉を悔やんで、ルウはあわてて頭を下げる。コウは笑って首を振った。
「気にするこたない。この町にそんなのは珍しくないんだ…ま、あんただって似たような事情があるんじゃないか?」
「え?」
「だからその歳で、そんな危ない橋を渡っている。違うか?」
 ルウは目を丸くする。この男、外見以上に鋭い。
「そういや自己紹介が、お互いまだだったな」
 ぽん、と手を打ち合わせてコウは言った。
「あ、ああ、そうだっけね。あなたがコウ、で、そちらがアクアさん?」
「うん。わたしはアクア・ロングウッド。それでこっちが、コウ・フラットフィールドっていうの」
「変わった名前ね」
「そうかな?」
 アクアは首を傾げた。
「えっと、あたしはフラウ・ルウ・ミイ…ルウでいいわ」
「ルウ? 男の名じゃないか?」
 コウは首を傾げた。
「いいのよ、女なんて捨てたようなもんなんだから」
「ほう、なるほど。故郷で本性がばれて居づらくなったので、こっちに渡ってきた、と」
 妙に納得した顔でコウはうんうんとうなずいた。ぎらり、とルウの目が光る。
「冗談だ」
「ちょっとコウ、失礼だよ。…ルウさんも、気にしちゃだめだよ。コウっていつもこんなだから」
 アクアが取りなし、ルウはとりあえず自分を抑えることにした。相手の喉元に突きつけた剣を、また鞘に戻す。
「それで、とりあえずなにを聞きたい?」
 いすに座ってくつろいだ格好で、コウはルウに顔を向ける。何か、食事を終えた後の獅子…そんなイメージが脳裏に浮かぶ。危険、という感じはないが、油断もできない。
 ルウは少し考え、口を開いた。
「まず、あの子…シィナだっけ?あの力がいったい何なのか。それから、あんた達の力とか、そんなことも聞きたいわね。ほとんど噂通りみたいじゃない」
「ほう? どんな噂だ」
 にやり、と笑った顔。相手の言うことを予期しているのが分かったが、ルウはあえて気にしなかった。
「サイファに住んでいるのは、人間の姿をしていてもまったく違う生き物だって。人ならざるものとならなければ、あの大陸で生き抜くことは難しい…そう聞いたわ。あんた達みたいなのが、この町にはごろごろしているんじゃない? だったら、あのごろつきどもは災難だったってことね」
 これでは、大陸の外から来た腕自慢がいくらがんばったところで、ネズミが巨大な象に挑みかかるようなものだ。踏みつぶされて終わりである。
 コウはじっと、考え込む様子を見せた。アクアはそのそばで、コウの決断を待つ構えだ。やがて、コウは顔を上げた。
「そうだな、順を追って話そう…」

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 二話目です。思ったよりは早かったな。
「遅い…(ぼそっ)」
 ぐはっ…美沙さん!?
「先が長いんだから、このペースじゃとても終わらないわよ。絶対この先、詰まるんだから。四話構成でさえ煮詰まっていたんだから」
 え、ええ。まあ、善処はします(^^;
「それにしても派手ね」
 ま、序の口。盛り上げんといかんし。
「派手ならいいってものでもないけどね」
 あう…美沙さん、話の中より厳しくなってない?
「なに言ってるの。やさしいだけで瑞佳ちゃんの母親役が務まりますか」
 まあ、ごもっとも…。
「それじゃ、がんばりなさい。期待はしないから」
 やっぱり厳しい…黒が入ってるな、こりゃ。

>火消しの風様
ひょっとして、黒い心の炎、ですか? 全部見てないんですが…そのうちどこかで全部まとめて掲載されませんか? 気になってるんです。

>ひろやん様
どちらを選んだのですか? が、効いてます。繭…浩平がいなくても強く生きるんだぞ〜。
繭のお母さんの心の揺れ、よく出てます。うまいです。

>PELSONA様
顔がにやけて、なおらん…。こんなかわいい詩子、初めて見た。失礼な言いぐさかもしれんけど、そう思った。男だぜ、住井。

>WTTS様
かろうじて分かるのは、彼を待ちたい(虹になりたい)といつかきっと! だけだったりします。しかしこのネタが豊富なんですね。こんな多量の歌詞、出ませんよ、僕じゃ。

>変身動物ポン太様
ご冥福をお祈りします…しかし、他人事じゃないんだよな。うちのも時々起動途中で止まったりするから。今全部のファイルが消えたりしたら…泣くな、絶対。

>雀バル雀様
ぐ、グラップラー?? よもすえさんのとこで修行してきたのか?(だれもわからんネタだった)しかし、子分ズの必殺技って…?

>スライム様
「澪は瑞佳の前では浩平に抱きつかない」…女の子の心配りですねぇ。う〜、なんか無性に愛しい。こんな、鋭い視点がいいですね。

蛇足の補足です。act1にDanger Signと銘打ったのは章の名前であり、物語のタイトル「D.S」はいくつかの意味を持ちます。最後になぜD.Sなのか、ということが明らかに…なるといいな(ぉぃ)。
忘れられないうちに次を書くつもりですが、うちのHPにこいつをUPするのはしばらく先になるようです。くれぐれも、期待しないでお待ちください。最後まで続けられる自信ないから…。では、これで。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/4203/