D.S 投稿者: GOMIMUSI
 Danger Sign――危険信号

 ――永遠を望むなら与えよう。ただし、数え切れぬ悲しみと引き替えに。


  act1


 揺れる足下を踏みしめながら、少女は港に降り立った。両側で束ねた長い髪が、海からの風になびいて一瞬視界を遮る。それを払いのけながら、船の上で少しこわばっていた身体を大きく伸ばす。
「…切ろうかな、これ」
 自分の髪の先をもてあそびながら、少女はぽつりとこぼした。別に、こんなものに未練があるわけではない。昔、「きれいだね」とほめられたことが忘れられないだけで…やっぱり未練なのかな、これも。
 ため息をひとつ、そして少女は歩き出す。自分が道行く人から、ちらちらと見られていることは先刻から感じていた。それはそうだろう。この国には珍しい東方系の顔立ち、それに布を多用した服。さらには背中に斜めに背負った太刀も、注目される理由として十分だろう。目立つのは得策ではない。さっさと今日の宿を確保しなければ。
 港の前はすぐ商店が軒を並べていて、かなり込み合っていた。宿の看板を物色しながら、少女はしばらく歩き続けた。やがて、一軒のこぢんまりした建物の前で立ち止まる。その瞬間。
 どんっ
 小さくない衝撃に少女はよろけそうになった。小さな子供が、彼女をつきのけるようにして走り去っていく背中が見えた。直感的に、自分の懐を探る。財布がなくなっていた。
「くっ………こらあっ、待ちなさい!!」
 叫んで、少女は走り出した。


「だから、早く出ようっていったんだよ〜。コウが寝坊するから、遅れちゃうじゃない。もういい仕事なんて、残ってないよ〜」
「やかましい、こんな朝早くから店を開ける方がどうかしてるぞ。…朝の心地よいまどろみを捨ててまで、日々の糧を得ることに執心したくないぞ、俺は」
「そんなのコウだけだよ」
「今度からはアクア一人でいけ。そうすれば遅れずにすむ。うむ、いい考えだ」
「また自分に都合のいいことばっかり…そしたらコウ、仕事の割り当てに入れてもらえないよ。全部わたし一人でやることになるよ?」
「おまえなら平気だ。だいたい、今まで俺達二人が力を合わせなけりゃならないほどの大仕事なんてあったか?」
「わたしはねぇ、コウのために言ってるの!」
「ああ、分かった分かった。それじゃ急ぐぞ」
「あ、待って、コウ!」


「このっ、逃がすかぁ!!」
 脚力には自信があった。相手はそれほど体格のよくない、栄養不良という様子の少年だ。逃げられてたまるものか。
 しかし、相手は手強かった。人混みの間を巧みにすり抜けながら、まっすぐに走らず、少女を翻弄するように走っていた。たぶん、こういうことが彼には日常茶飯事なのだろう。逃げることにかけては、プロフェッショナルというわけだ。なかなか差が縮まらない。
 それでも、彼女としても必死になる理由がある。すられた財布には彼女の全財産が入っているのだ。逃がしてしまうわけにはいかなかった。
 商店街を駆け抜けると、少し人混みが薄くなる。そこを狙って、一気に間を詰めようとした瞬間。
「コウ、前!」
 甲高い声が聞こえた。同時に、横手の路地から誰かが飛び出してくる。避けようとしたが、勢いがつきすぎていた。
 ほとんど真っ正面から衝突した。はじき飛ばされた彼女は、かろうじて受け身をとりながら後転し、その勢いを殺しきれずに地面にはいつくばるようにして止まる。
(ううっ、かっこわるい…)
 顔を伏せたまま、しばし自己嫌悪に陥った。彼女の反射神経であれば、よけきれないタイミングではなかった。注意が足りなかったということもある。しかし、直接の原因は、やはり逃げる相手に集中しすぎていたということだろう。
「…これじゃ、まるで俺が悪いみたいじゃないか」
 憮然としたつぶやきが聞こえた。
「って、当たり前でしょ!」
 がばっと顔を上げ、少女は叫んだ。
「どうしてくれるのよ! スリを逃がしちゃったじゃない!!」
 にらみつけた先にいた相手は、彼女とそれほど変わらない年頃の青年だった。特に体格がいいとか、鍛えられているという印象はない。しかし、衝突時にまったく揺らぎもせず、一方的に彼女がはねとばされたのはどういうことだろう。
 彼女とて、外見こそ華奢だが剣士としての鍛錬は人並み以上に積んでいる。そうやすやすと、当たり負けするようなことはないはずなのだが。
「あ、あの、ごめんなさい。大丈夫?」
 おろおろと、彼女と同年代の少女が傍らに膝をついた。背中にかかる、緩くウェーブのかかった髪、鳶色の瞳。取り立てて特徴はないものの、それは愛らしいと言える顔立ちだった。
「ほっとけ、アクア」
 少女が答えようとした矢先、腕を組んで凝然と立っていた青年が素っ気ない口調で言った。
「でも、コウ…」
 アクアと呼ばれた少女は、困惑して青年の顔を振り仰ぐ。すると、青年――コウは、やや顔をしかめながら言った。
「ぶつかったことについては、こちらの不注意もある。それについては謝ろう。しかしスリのほうまでは面倒見切れないな。見たところ、あんたは剣士だろう。だったら、ある程度注意を払っていれば自分の懐くらいは守れたはずだ」
「くっ………」
 少女は唇をかみしめた。確かにこの、コウとかいう青年の言うとおりだった。治安の悪い町に初めて入ったわけではない。観光気分で気を抜いていた、と言われれば、返す言葉はなかった。
「さて、こっちも急いでるんだった。アクア、行くぞ」
「あ、待ってよコウ!」
 青年はさっさと走っていってしまう。その後を追おうとしたアクアは、一瞬立ち止まり、振り返って、ごめんね、と小声でつぶやくように言って、駆け去ってしまった。
 取り残された少女は、ゆっくりと立ち上がり、服に付いたほこりを手で払った。ややあって空を見上げ、ため息をつく。
「あーあ…今日の宿、どうしよう」
 がっくりと肩を落として、歩き出す。目的などない、しかしとりあえずは仕事なりなんなり、稼ぐ方法を見つけなければならない。こんなところまで来て行き倒れなど、まっぴらだ。
 商店街を抜ける直前、ふと少女は足を止めた。
 ――フラウ。
 名を呼ばれた気がしたのだ。思わず、振り返った先には夕暮れ時の喧噪。
 夕食の買い出しににぎわう市場。その中のどこにも、彼女を見ている人間はいない。時折、好奇心から視線を投げてくる者もいるが…違う。彼らではない。
「気のせいかな?」
 フラウ。懐かしい呼び名。けれど、今の彼女はその名を捨てたようなものだった。今の彼女はルウ。剣士ルウだ。
 首をひねりながら、また少女は歩き出す。その背中を、遠くから見つめる視線があることに、最後まで気づかないまま。


 最果ての大陸。サイファは、外の国の人間達からそう呼ばれている。
 ここにまつわる奇妙な伝説は、枚挙にいとまがない。曰く、人ならざる力を持つものでなければここで生きていくのは難しい、一度足を踏み入れたら、たとえ生きて抜け出すことができても以前とは別の存在になっている、すべての魔はここに発している…など。無論、ある程度の誇張はあるだろう。しかし、そこを訪れたことのある者は、それが決して大げさにすぎるものではないと口をそろえて言う。
 海岸線に沿って散在する小さな国々。しがみつくようにして暮らしている、人間達の領域でさえ、何かが違う、と感じさせるものがある。そして、大陸中央部に関しては…語れるものはいない。
 地図上では、空白となっているその部分に赴いて、生きて戻ったものはないとされている。かつて何度となく、世界の歴史を震撼させるような凶事の震源地となっていながら、その詳細はようとして知られていないという、魔大陸。それがサイファ。
 その中でも比較的穏やかであるとされる、西海岸沿いにある小さな町、スバル。そこに少女――フラウ・ルウ・ミイは降り立ったのである。
 これから待つものが、どんなに過酷であるか、彼女はまだ知らない。


「いったいなんなのよ、ここは…」
 貿易商の屋敷から出てきたフラウは、何度目かのため息をついた。ここでも、仕事にありつくことができなかったのだ。
 サイファは魔物の横行する危険地帯。ならば剣士は、かなり需要のある職種のはずである。なのに、どこへ行っても門前払い同然に追い返されてしまう。彼女が女であり、異邦人であることを差し引いても、この町の反応は閉鎖的すぎる。
 考えられるのは、かなり強固な組織があって、そこの紹介が必要だということ、あるいは何らかの妨害があること。妨害という線はないだろう。フラウはここへ来てまだ日が浅く、恨みを買うような覚えもない。するとそういう組織が存在するということか。だが、知り合いもいないルウにつてがあるはずもない。
「となると、あたしは干物になるのを待つばかりってことじゃない。冗談じゃないわよね…」
 空きっ腹を抱えながら、ルウは裏通りをとぼとぼと歩いていた。
 そのとき、ふと言い争うような声が耳をかすめた。人数は…五人、いや、六人? なぜか子供の声も聞こえる。ルウはそちらへ足を向けた。
 袋小路になっている路地裏で、数人の男達が二人の子供を取り囲んで険悪な雰囲気になっているところだった。二人のうち、一人は状況がよく分かってないのか、表情の浮かばない目で自分を取り囲む男達を眺めている。聞き耳を立てていると、子供の片方が連中の一人にぶつかった程度のことらしいと分かってきた。それが、無表情な方らしい。
 もう一方の男の子は、恐怖に顔をこわばらせながら必死にもう一人をかばおうとしているのが分かる。その顔に見覚えがある気がして、ルウは眉根を寄せる。しかし疑問はすぐに解けた。何のことはない、先日ルウから財布をすりとった子供だった。
(世の中狭いわ…)
 ため息をつきながら、ルウは物陰を出て彼らのほうへ歩み寄っていった。
「ちょっと、いいかしら?」
 突然かけられた声に、男達は一斉にルウに視線を向ける。どれも、知性を感じさせない荒くれ者の顔をしていた。
「大人げないまねはやめない?」
 にっこりと笑って、子供に言い聞かせるような口調でルウはそう言った。


 スバル中心部付近の、小高い場所に位置する黒竜亭は、このあたりでは名の通った料理屋である。
 手頃な値段で十分な量を食べさせてくれる上、味も悪くない。店主は髭の、おおらかな中年男で、その人柄を慕ってくる者も多い。もっとも、店内でもめ事など起こそうものなら、店主はそれに断固たる態度で望むことを常としていたので、荒くれ者がここから病院送りになることも珍しいことではなかった。
 コウとアクアは、その日はもう一人を交えてその黒竜亭で料理を楽しんでいた。もう一人というのは、ひょうひょうとした雰囲気を持ちながら、時折鋭い目を見せる、コウと同年代の青年だった。
「んじゃ、その件についてはよろしくな」
 彼はコウに向かって言った。コウは口の中の食べ物を飲み込んでからうなずいた。
「おう、まかしとけ。俺達コンビの前に敵はないっ!」
「コンビって、コウがほとんど片づけちゃうじゃない」
 アクアがその隣で、不満そうに言った。
「二人の仕事なんだから、わたしにも手伝わせてよね」
「おまえは後方支援が仕事。前に出て怪我でもされたら、嫌だからな」
「まったく…仲がいいなあ、おまえら」
 肩をすくめてみせる青年。もうこの二人とのつきあいも、一年以上になる。
「アクアさんも幸せだよね、これだけ大切にしてもらえると」
「ちょっと、ガーディ君。変なこと言わないでよ」
 アクアは顔を赤らめて抗議した。その反応がかわいいから、よけいにからかいたくなるのだということがわかっていない。
「大切にしてもらってるって…そんなんじゃないもん。だいたい、コウが…」
「ま、その話はおいといて。アクアさんだって、無理はしない方がいいよ。性格的に、この仕事には向いてないと思うから」
「だけど、わたしにできることがあるんなら、やらなくちゃいけないし」
「そういう責任感が強いところは、アクアさんのいいところだけどね」
 そういって彼――ジュール・ガーディは肩をすくめる。
 彼の本業は人形師である。人形師といっても、人型のものはほとんど作らない。動物や魔獣、キメラ(合成生物)などを本物以上に精密に作ることを得意としていて、その評判はかなり高い。剥製の代わりに買っていった金持ちが、あまりに出来がよすぎるためにかえって制作者を見破られてしまった、という逸話さえある。
 そして副業として、特殊な仕事を斡旋する仲介者の顔も持っている。その件でコウ達はジュールに会いに来たのだった。それから、そのあとはいつものごとく、遅い朝食をとることになったのである。
「ところで、気がついてるか?」
 話の途中で、ジュールが意味ありげに言った。その視線の方向から、コウはすぐに意図を察してうなずく。
「最近よく見かけるよな。いったいどこにあれだけ入るんだか…」
 そういって振り返った先には、カウンター席がある。そこには人垣ができていて、食事中の人物を取り巻きながらがやがやと騒いでいた。
 その騒ぎの中心にいるのは、長く黒い髪を持つ若い女性だった。その女性の周囲には、からになった皿が山と積まれている。この女性以外に、カウンター席に着いている者はいない。皆野次馬となっているからだ。
「んあ〜、ミスティ。思うんだが…」
 珍しく、困ったような顔をした店主が、その女性にカウンター越しに話しかけていた。
「なに? マスター」
 忙しくスプーンを動かしながら、女性はそちらに顔を向ける。どこか高貴なものを感じさせる、繊細な容貌だが、浮かべる表情はあどけないほどに人なつこい。
「いくら何でも、食い過ぎじゃないかね? 太っても知らんぞ」
「おいしいからね」
 その女性、ミスティはにっこりと笑って応じた。
「ここの料理、昔から好きなんだ」
「いくら好きだからといってなあ…」
「心配ないよ、運動だってしてるんだから」
「そういう問題じゃなかろう。それに、そろそろお迎えのくる時間ではないのか?」
「え、もう?」
 その言葉が終わるか否かというタイミングで、ドアを開ける音と女性の声が響いた。
「ミスティーーーっ!!」
 いきなりの大声に首をすくめた女性は、いすの上で小さくなって振り返る。
「え、えっと、シアちゃん?」
「シアちゃんじゃない! またこんなところで人外なところ見せて…恥ずかしいでしょう!」
 大股にカウンターに近づいてきたのは、ミスティという女性と同じくらいの年格好の、少しきつい目をした人物だった。シア、という名にコウは首を傾げる。
「シア…シンシア・スノウフレイク? 神殿の聖剣士が、なんでこんなところに?」
「え、コウ、あの人を知ってるの?」
「いや、風の神殿ってあるだろ。あそこで初めて、女性の聖剣士が衛士の任についたって…」
 小声を交わしていたコウ達の前で、ミスティは連行されようとしていた。しかし、ミスティは扉の前で立ち止まり、店内を見回すようにした。
「えっと、コウ・フラットフィールドって人、この店にいませんか?」
 突然名を呼ばれ、コウは食事をのどに詰まらせた。
「だ、大丈夫? コウ」
 アクアがその背中をたたく。かろうじて窒息を免れたコウは、ようやく顔を上げた。テーブルの前に、店内の注目を一心に受けながらミスティが立っている。
「こんにちは。君がコウ・フラットフィールド君だね。それから…アクア・ロングウッドさん? 初めまして」
「…あんたは?」
 あからさまに不審そうな声に、ミスティはにっこり笑って答えた。
「私は、ミスティ・アークケープ。ちょっと聞いてほしいことがあってね」
「聞いてほしいこと?」
「うん。シィナっていう子を知ってる?」
 その名を聞いたとたん、コウの表情が引き締まる。
「ああ、知り合いだが…あいつがどうした?」
「私が見た訳じゃないけどね、この東南に小さな森があるでしょ。あそこにつれて行かれたみたいだよ」
「…誰に?」
「あんまり人相のよくない男の人たちに。大丈夫だとは思うけど、見に行った方がいいよ」
「ミスティ!」
 シアが鋭い声を上げ、ミスティを制止しようとしていた。だが、ミスティは意に介した様子もなく、じっとコウの顔を見ているようだ。
 コウは険しい顔で、ミスティを見上げていた。
「なんであんたが、そんなことを知っている?」
「内緒だよ」
 にっこりと、子供のような邪気のない笑顔でミスティは言った。コウは素早く決断して立ち上がる。
「ジュール、支払いのほう頼む」
「お、おい、コウ!」
 ジュールがあわてた声を上げる。すると、ミスティは驚いたような顔をした。
「え…?」
 その横を、コウは勢いよく駆け抜けていった。それを追って、アクアも店を出ていく。残されたジュールは舌打ちして、どっかといすに座り直し、まだそこにいたミスティに顔を向ける。
「あんた、目が見えないだろ」
「え…よく分かったね」
 ミスティは感心したように言った。
「まあ、これでも目端の利く方だからな。さっき、俺の声を聞いて驚いていた。いることに気づいていなかったんだ」
「さすがだね。ジュール…人形師のジュール・ガーディ君だね。噂は聞いてるよ」
「恐縮だな。それで、あんたはいったい、何なんだ? どうしてコウ達のことを知っている?」
「ごめんね、それも内緒なんだ」
 申し訳なさそうにミスティは言った。ふん、とジュールは鼻を鳴らす。
「よくよく謎の多い人だな。ところで、そこで聖剣士さんが怖い顔でにらんでるが」
「あ、そうだった」
 あわててミスティは振り返る。
「シアちゃんごめんね、すぐ行くよ」
「………」
 シアは難しい顔のまま、ミスティの手を引いて店を出る。正面の通りに二頭立ての馬車があり、二人はそれに乗り込んだ。
「ミスティ様」
 二人きりになったとたん、シアはがらりと口調を改めた。
「先ほどは心臓が止まるかと思いました。いたずらに人の時をのぞくようなことはおやめください」
「いたずらに、じゃないよ」
 ミスティもまた、店にいた時のミスティではなかった。上げた顔の、光を宿さない双眸。
「シアの言いたいことは分かってる。ここで私が何者かであるか知れたら、周りの人たちが私をどう扱うか分からない」
「それをご承知なら…いくらご身分を隠してのこととはいえ、このような場所においでになることは」
「シア」
 年経たもののような、深い落ち着きと威厳を持って、ミスティは言った。
「これは意味のないことじゃない。これから未来が動こうとしている。この大陸すべてを巻き込むほどに、大きな未来が」
「はい…」
「その中心にいるのが、彼ら。私は、それを助けなければならない。私に与えられた力は、そのためのものだと思う。だから、ね」
 そこまで言って、ミスティはふっと表情をゆるめた。
「でも、ちょっとうれしいな。シアちゃん、さっき昔みたいに話してくれたよね。ちゃんと怒ってくれたし」
「ミスティ様…」
「ねえ、シアちゃん。今は周りに誰もいないんだから。そういうかしこまった態度はやめようよ。ね?」
 シアは、困ったような顔でミスティを見つめていた。そして、深いため息をついてこう言った。
「…うん。わかった」


 コウは全力で走っていた。彼が本気で走れば、アクアはついてこれない。それを気にすることもなく、走り続けた。
 一刻も早く、駆けつける必要があった。シィナ・ミウ…彼女に手を出すような馬鹿は、この町に住むものの中にはいない。おそらく外から来た、荒くれ男達だろう。一攫千金の夢を見ながら、中途半端な腕のために町の外にもでられないあぶれ者達だ。そういった連中がシィナに手を出せばどうなるか。下手をすれば、町が巻き込まれる。
 風のように町を駆け抜けて、森へ踏み込んだ。気配は…ある。こっちか。
「シィナ!」
 気配を目指して一直線に走った。その先で、剣の打ち合う音が響いた。
 少し開けたような空間で、戦いが繰り広げられていた。一対多数、しかし、圧倒しているのは一人のほうだった。その光景に、コウは目を見開いて立ちすくむ。
 影が木の間を飛び交っているようだった。障害物の多いこの場所で、姿を視認することさえ難しいような動きでその少女は男達をたたき伏せていた。すでに地面には、五人以上の男がのびている。
 ほとんど足音もたてずに、剣を手にした少女は降り立った。その前には、受けた衝撃の大きさを顔中で表現している男がいた。身体の大きさだけならコウの二倍近い体積差がある。少女は、そのコウよりさらに一回り小柄だ。その少女を、男は化け物でも見るようにふるえながらにらんでいた。
「お、おめえ…いったいなんなんだ?」
 少女は答えない。さらに一歩、間合いを詰めた。その緊張に耐えきれず、男は奇声をあげながら斬りかかっていった。
「なんなんだよおめえはぁーーーっ!!」
 斬撃は空をないだ。一瞬で男の背後をとった少女は、手にした剣の峰を男の首筋にたたき込む。げっ、と短い苦鳴のあと、男はゆっくりと崩れ落ちた。
 ぱちん、と剣をさやに収め、少女は初めてコウを振り返る。
 フラウ・ルウ・ミイと、コウ・フラットフィールド…彼らは、二度目の邂逅を果たした。

**********
 プロジェクトD・S始動!

「ついにやったのね…」
 あ、あは。あはははは…(乾いた笑い)
「この話を書くのに、二ヶ月以上かかってるじゃない。ネタができたのなんて十一月だし」
 いや、とっかかりって大事だしっ。
「ぜぇんぶ、オリジナルでしょ? ONEの設定で書く必要、あるの?」
 だって、ONEのキャラでないと動かないから…
「これを書いてる間、ほとんどSSらしいものも書いてないし」
 これにかかっていたら、なにも思いつかなくて。もともと、同時進行で話書くのって苦手だし。
「実はあなた、作家には向いてないわよね…」
 ぐさぁ! 美沙さん、そりゃないよ〜。
「だいたい、なんでここにわたしが出るの? もうみなさん、忘れてるんじゃない?」
 ほら、吉田樹さんのとこでヒロイン大戦出場したし。一応出た方が。
「それは黒のほうでしょ。わたしは知りませんよ」
 ま、まあそれはそれとして。今後も、時間かけて続けるつもりです。
「史上最大の計画倒れになる可能性大ね…」
 えぐえぐっ。

>ここにあるよ?様
泣いている浩平が気になる。しかし、チーズウインナーとかツナマヨネーズの鯛焼き…? 食べてみたいようなみたくないような(^^;

>ひさ様
長森シナリオでも浩平は風邪をひいてましたね。それ以前の話のようですが、学校になにがあるの? 浩平のぼけっぷりがいい。

>PELSONA様
替え歌のほうは元の歌を知りません。すいません。
恥的生命体…柚木がそうなんですか? 謎。

>スライム様
見る目がある奴はいるものです。澪はいい子だからね。うんうん。けど、これ全部、スライムさんが出したラブレターってことはないよね?

>ブラック火消しの風様
好きだから、頬をたたく。すごく、揺さぶられるなあ。こういうの。消えていく直前なんでしょうけど、また違う感じになってますね。

>ニュー偽善者R様
絶対こんな真似できん! どうしたらこうぽんぽんと…書けないなあ、やっぱり。
住井がまずそうです。でも、浩平は大丈夫そうですね。

>吉田樹様
お疲れさまでした。いや、やっぱりね、この人凄い。なにが凄いって、見るものが。永遠の世界で浩平が見たもの、その向こう。こうくるか…。

今回書き始めたのは、「○○○エターナル」というタイトルで出した一発芸の続きというか、本編です。もとの原型はとどめていません。しかも、やたらとでっかくなって収まりきらないんです。ここに投稿していいものかどうか、長いこと悩みました。
もう書くなと言われても書きたいし、続きを待ってますと言われても、いつまでかかるか分かりません。とりあえず、見えない先を楽しみたいと思います。
長くなってしまいましたが、とりあえずここまでです。ではでは。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/4203/