幸せな日 投稿者: GOMIMUSI
 カシャアッ!
 カーテンの開く音と、瞼の裏を刺すまぶしい光。いつも通りの朝。
「浩平、起きてよーっ」
 幼なじみの声に、よけい布団を被って抵抗してしまうあたりもいつも通り。
「バカ、学校に行くわけでもないのに、どうしてこんなに早く起きないといけないんだ…」
「学校がなくても、人間は規則正しく生活するものなの! 朝ごはん、できてるよ」
「…おまえが作ったのか?」
「そだよ。だから起きて、食べようよ。あ、それから今日、繭といっしょに遊びに行くけど、浩平はどうする?」
「んー…俺はパス。適当に楽しんできてくれよ」
「うん、分かった」

 結局長森に押し切られて、いっしょに朝食となる。
「やっぱり、由起子さんよりおまえのほうがまめだな」
「そりゃ、比べる相手が違うよ。あの人、忙しい人なんだから。手の込んだことなんてできないでしょ」
 魚の煮付けやら、筑前煮やら、手の込んだものもいろいろと入っている純和風の朝食。こんな朝御飯は、何年ぶりだろう。
 いや…もう、そんなことも考えられない。なんて遠くに来たのだろう。そんな感慨がわいてくる。
「おいしい?」
「ああ」
 ご飯をかき込みながら、とりあえずうなずいておくと、長森はにっこりと笑って浩平の食事風景を眺めている。
「何見てるんだよ」
「ふふっ。別にぃ」
 女の子にしてみれば、自分の作ったものを、気持ちよく食べてくれる相手というのは嬉しいものだろう。
「おまえもちゃんと食っとけよ。あんまり食べるのが遅いと、おまえの分まで俺が食っちまうぞ」
「うん。…ねえ、浩平は今日、どうするの?」
「ああ、そうだな。とりあえず、ぶらぶらしてるかな」
「でも、まだあまりおもしろいものってないでしょ、この辺。あ、この間ゲームセンターが移ってきたっけ」
「ゲーセンもいいが、増えたもの見ているだけでも結構楽しいぞ」
「そうかな?」
「ま、結局はどこかで昼寝でもしているかもな」
「あんまり寝てると、脳味噌溶けちゃうよ」
「ほっとけ」
 そうして、二人とも食事を終えると、連れ立って玄関に出ていく。
「じゃ、またね」
「おう」
 家の前で、それぞれ別の方向に歩いていった。長森は繭の家に向かい、浩平は町外れに向かう。
 町は隙間だらけで、家も少ない。それでも、ここ数日で着実に増えてきている。
 できたばかりの町という印象の強い、真新しい雰囲気。最初はなじめなかったが、それが古くなってなじむにつれ、味になりつつある。古い建物と、新しい建物の違いが際だっていた。
「おっ、このあたりはもう埋まったな」
 町の一角に目をむけ、浩平は立ちどまる。その向こうから、誰かが歩いてくるのが見えた。
「よっ、茜」
 声をかけると、茜は立ちどまって軽く会釈をした。
「嬉しそうだな」
「はい。この近所に、鯛焼き屋さんができたんです」
「ほお? ワッフルはまだか」
「はい…残念ですが。でも、クレープ屋さんもありますよ」
「あー、あれは駄目。パタポ屋でないと」
「そうですか」
 茜はふふっと笑う。以前に比べて、表情がだいぶ豊かになった。やはり、彼女のような人間にはこちらのほうがあっていたのだろうか。
「で、例の幼なじみはどうした」
「元気ですよ。会いに行くところです」
「なんだ、デートか?」
「そんなこともないですけど。浩平もいっしょに行きますか?」
「いいのか?」
「はい。きっと、気が合うと思います。彼となら」
「じゃあ、ついてこうかな」
 それから、二人はならんで歩き出す。
「だいぶ、にぎやかになってきましたね」
 茜の声は明るい。
「ああ…いいことなのか、悪いことなのか」
「でも、わたしは嬉しいです」
「そりゃな。でも、寂しくないか? 澪とか来ないから」
「…そうですね。上月さんはきっと、来ませんね。詩子も」
「あと、みさき先輩だな。あんだけ幸せそうに食べられる人なら、ちょっとな」
「残念です。お会いしたかったのに」
「七瀬は、どうかな」
「どうでしょうね。挫折とかには強そうですが」
「でも、寂しがり屋だからな、あいつも」

「んあー…やけに少ないな」
 髭が教室を見渡して言った。
「だけど、全員出席か…おかしいな。こんな人数だったか?」
 盛んに首をかしげながら、出席簿を閉じる。七瀬は、ふと後ろを見た。
 誰も座っていない、空白。
 そんな空きが、この教室だけで三名分ほどある。どういうことか、それは誰にも意識されることはない。
 窓から見える空。その向こうが、やけに懐かしく思えた。
「…次は、あたしか」
 ぽつりとつぶやいて、ノートを開く。どうやら、気の合う連中は今のこの教室にはいないようであった。

**********
休むって言ってなかったか、前に書いたとき。
でも感想も書きたかったんですよね。読んでいて楽しいこと楽しいこと。参加せずにはいられない。
その割に、書いてるのはなんだか、どっと力の抜けそうな話。いや、永遠の世界って、たくさん人が移ってきていてもおかしくないな、と。何しろ、最初からいないことになっている人ばかりだし、矛盾は出ないでしょ。(そうか?)

>11番目の猫様
届いてください…繭が哀しい。とにかく、泣くでも鳴くでもなく、哭くという感じがします。心が慟哭している。そんな感じです。

>まてつや様
折原少年、ひょっとしてコ○ンの役所ですか? いや、金田一…知らないところかな。
続き、ありますか? みさき先輩も出てないし…。

>だよだよ星人様
やばいぞ、これ…このSSで、いったい何人が自分のなかに眠っていた詩子ファンの血に目覚めることか(笑)。シャウトする茜もなかなか…似合うじゃないか。
四年後は、浩平一人? 寂しい…澪が頭なでて、元気づけてやりなさい。

>kou様
なんだか、胸に迫ります。瑞佳の必死なまなざしが痛い。続き、待ちます。

>KOH様
とにかく、七瀬らしい歌詞です。というか、七瀬の妄想を結集したような(笑)
温泉のほうも、まとめがきれいです。「と、いうわけで…行け、みさき!」「お〜っ!」とか、見ている分には非常に面白い物体と化した澪とか…うますぎ。

>T.kame様
南は報われるのか? 茜の幼なじみと、浩平の決着は?
でも、南は報われそうにない…成仏せいよ。

>天ノ月紘姫様
本当に息抜き。肩肘張らずに読めて、自然に頬がゆるむ。いい感じです。

>藤井勇気様
いろいろな意味でやばい。浩平、そっちのほうは…戻れなくなるぞ(笑)
そうか、シュンと誰かが、浩平を奪い合うのか。人権は無視して。

>偽善者Z様
やっぱりアクションがかける人はいいですね。自分でも書きたいけど、どうしても下手なんです…(T^T)
ハムスター、おまえさん、茜に…いかんぞ。それは。

>雫様
繭母、強し! 大人気です。でも、そういうポジションにいますね、この人は。CGだって一枚あるし。

>いけだもの様
浩平、死ぬなよ…。きっと冬になったら、ワカサギも釣るぞ。氷に穴を開けて。それとも、ペンギンをとってこいとか…(汗)

>いちごう様
ロスト体三人と七瀬の戦い、希望! いや、死なない程度にね。

>よもすえ様
ありえないよ、で浸っているところにこんなものもってくるから、反動でギャグのメーターが振り切っちゃったよ(笑の三乗)。笑いまくりました。
「椎名がとっても嬉しそうである」…一番強いのはこの子か。秘密兵器だし。

結局、感想を書くために書いたような…書ききれなかった人、ごめんなさい。
次の主役は、澪になりそうです。またシリアスというより、ダーク。でも澪は、笑顔が似合うのです(謎)
またお会いしましょう。ではでは。