「みさきーーーーーーーーーっ!」
下の方からそんな声が聞こえる。
「……」
「みさきっ! どこよっ!!」
屋上の扉の向こう側、4階の廊下からだろうか。
「…先輩のこと呼んでるみたいだけど」
「…気のせいだよっ」
「みさきーーーーーーーーーっ!!」
「…間違いなく呼び声が聞こえるけど?」
「目の錯覚だよ」
「…目は関係ないと思うけど…」
「川名みさきっ! いるのは分かってるんだからねっ!」
「…やっぱり先輩のことじゃないか?」
「他人のそら似だよ」
「…そういうのは同姓同名って言うんじゃないか?」
「うん。それだよ」
バタバタバタ…。
屋上への階段を駆け上がる音。
「えっとえっと」
なぜか慌てる先輩。
「わたしはいないって言ってね」
言い残して先輩は消えた。
「…なんだ?」
だんっ!
先輩と入れ違いに、一人の女の子が扉を開ける。
「……あれ?」
その女の子は不思議そうに屋上を見回していた。
「…絶対にここだと思ったんだけど」
「……」
「…勘が鈍ったのかな…?」
いや。たいしたものだ。
「ねえ、あなた」
「オレか?」
「そう」
うん、と頷く。
「ここに、ぼーーーーっとしてて脳天気そうな女の子来なかった?」
…なかなか酷い言われようだな、先輩。
「それで、どうなの?」
「確かに来たぞ」
「それで、どこに?」
「そこのフェンスをよじ登って飛び降りた」
「ええっ」
大慌てでフェンスに駆け寄り下を見る。
「なにしてるのよ、みさきっ!!」
女の子は悲鳴をあげた。
「浩平君、ひどいよ〜」
みさき先輩は悲しそうな声で、フェンスの下からオレを非難した。
「だって、そのままほっといたら、危ないだろ? あがってきなよ」
そう、恐ろしいことに先輩は、フェンスの向こうで屋上の端っこにしがみつき、ぶら下がっていたのである。しかも片手一本で。まるで巨大なヤモリだ。
「あんたって人はっ! そんなに掃除当番が嫌なのかっ!!」
「なんだ、掃除当番から逃げていたのか」
要するに、オレと同類であった。だから、あまりつっこむ気にもなれない。
…しかし、それだけで屋上からぶら下がるか、普通。
「ごめんね、雪ちゃん」
先輩はフェンスを乗り越えながら、探しに来た女の子に謝っていた。
「だけど先輩、そんなことして怖くないのか?」
オレは先輩に向かって訊ねた。
「怖い?」
「だって、高いだろ?」
「うーん、目が見えないから、高いとかは関係ないよ」
…そういう問題だろうか。
「あ、そういや先輩、目が見えなかったら掃除もうまくできないんじゃないか?」
「大丈夫よ、この子にはちゃんと分担場所があるから」
先輩の同級生らしい女の子は、そう言って先輩を引きずりながらドアへ向かっていく。
「どこ?」
「天井」
…………………………。
天井に張りついて、蛍光灯やら梁やらを雑巾で拭く先輩の姿を思い浮かべてみる。
…駄目だ。想像力の範疇を越えている。
一人になった屋上で、しばらく呆然とたたずんでいたオレは、酷く冷たい風に身震いしてそこをあとにした。
…今度から、掃除当番はさぼらないことにしよう。
帰り道、オレは密かに心に誓った。
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最初からギャグで書くのは、これが初めてです。って、これギャグになってるのか?
みさき先輩がすごいことになってますが、まあそこはそれ(どこのどれだよ、をい)。結局は、「みさき先輩が一番だーーーっ!!」ってことです。ではでは。