EinsturZ DeR WelT (2)  投稿者:D&P


○路地



浩平は一人で道を歩いている。
行き交う人々も結構いるが、ほとんどが男性だ。
中崎町には自警団があるとはいえ、女性の一人歩きは危険だからだ。

人々の表情は基本的には無表情だ。
ただ、共通しているのは誰もが何かしらの武装をしている事だろう。
学生服の少年も、スーツ姿のサラリーマンも内ポケットや目立たない所に刃物を隠し持っている。

・・・彼等は、違うのだろう。

浩平の頭をそんな思いが過ぎる。
どこかに集団疎開するわけでもなく、スポーツをして、一時でも絶望を頭から振り払うわけでもなく。
ただ、日常のわずかな残滓にしがみついている、制服の、彼等――――――

「・・・雨になりそうだ」


家を出た時よりも雲が黒い。
いつしか、雨が降る。
雨が降ったら外は歩けない。
いつからか、それが当たり前になっていた。


強酸性の雨。


雨にうたれれば、服はぼろぼろになり、皮膚が焼けこげる。
傘には何の意味もない。
建物によっては倒壊すらする。
現実に学校の屋上に出てみれば、そこはでこぼこな地面―――地球から見た月のような光景が広がっているくらいだ。


ふと、視線を上げると浩平は一人の知り合いに気づいて声をかける。


「おーい、南?」

前方からこの世の終わりのような顔で歩いてくる南明義。

「・・・ああ、折原か。」

ちらり、と浩平の手に持つものに目をやる南。
だが、別にそれはそれだけだった。

「・・何でまたこんな所にいるんだ?」

浩平の家はこっちとは逆側だ。
商店街に行くにも、ましてや学校に行くにもこっちに来る必要はない。

「ああ、ちょっと茜に会おうと思ってな。
お前こそ、家にいるって住井から聞いたけど?」

「・・オレは今、里村さんの家に行ってきたんだ。」
「ああ、そうなのか。
茜どうしてる? 相変わらず、お下げが長いか?」

冗談めかして言う浩平。
だが、南はピクリとも反応しない。

「・・・・お前、里村さんのなんだ?」
「・・・はぃ? 何って、そりゃ・・・」

浩平が硬直する。
南の瞳に涙が溜まっていた。

「ど、どうしたんだよ?」
「・・・・恋人・・・なのか?」

・・・ぽつ、と水滴が浩平の頬を打つ。
雨の先触れだった。


「・・・茜はどう思ってるかわからないけどな」


なるべく、どっちともとれる言い方で返す。


「それなら・・・折原・・・」


ぽつり、と。
また雨が。
そして、南明義の涙も。


「里村さんを・・・・助けてやってくれ・・・」



○里村宅、前



「どうしたものかな・・・」

浩平は里村茜の家の前まで来ていた。
南は結局、行けば分かるの一点しか言わなかった。
浩平には色々と気になる事もあったが雨が降ってきてしまったのではそうも行かない。

「雨か・・・」

雨といえば思い出す事が浩平にはある。
空き地に一人で佇んでいる里村茜の姿。
ともすれば消えてしまいそうだったという記憶がある。


消える――――


実際はそうだったのかもしれないな、とも思う。
消えた人間を待っていた。
今ならそんな突拍子もない考えを素直に受け入れる事ができる。

何しろ、浩平自身が消えて戻ってきた人間だからだ。


「・・・はぁ・・鬼が出るか蛇が出るか・・・」


以前より、少し瓦が溶けたな、と屋根を見上げる。
二階建ての、よくある住宅。
里村という表札が無かったら気に求めないで通り過ぎるだけの存在。

でも、ここには知っている少女がいるという事実だけで。
それだけでこの建物は特別な意味を持っている。


さすがに引き返すわけにはいかなかった。
ここからでは走って帰ったとしても、服が一着台無しになってしまう。


インターフォンを鳴らす。
しばらく待っても返答はない。


また、インターフォンを鳴らす。
返答はなかった。


仕方なく、浩平はためらいがちにドアノブに手をかけた――――







ドアを開け、玄関に足を踏み入れる。


「おじゃましまーす」


一応、形式上の挨拶を済ませると靴を脱ぎ、階段へと向かう。
目指しているのは茜の部屋だ。
階段に向かい、足を踏み出しながらも浩平は思う。


――いつからだろうな


遠慮をすることもなく、茜の家に立ち居る様になってしまったのは。

世界の終わり。
そんなものが眼前にせまってきても、茜は変わることが無かった。
何時のように消えた幼馴染みを待つだけの日々。
もはや日常となってしまった無為な時間を茜は過ごしていた。
朝、空き地に向かい
夜の訪れと共に自宅に帰る。
今まで間を挟んでいた学校と云う物が抜け落ちただけだ。
茜は、変わらなかった。
偶に家に行けば普段どうりに話しもした。
気まぐれに、料理を作ってくれることもあった。

恋人なんかじゃない。
ただの――馴れ合いだ。


階段を一段一段踏みしめながら、茜が変わった日を思い出す。
其れは、よく晴れた日の出来事だった…らしい。
本人の口から聞いたわけではないからだ。
何時もと同じように空き地に向かった茜は其処に見知らぬ人が大勢いるのを見つける。
暴徒、だ。
目的も持たずに只、己の欲望を満たす為だけに彼らは結束していた。
そんな彼らにとってあの開けた場所は酷く居心地が良かった。
ようやく得た安住の地。
次に彼らは別の欲望を満たそうとしていた。

食欲、物欲、睡眠欲、性欲。

それは、たまたま偶然が重なったに過ぎない。
たまたま彼らが其れを望み、たまたま其処に茜が現れた。
只、其れだけのこと。


階段を上がり切ると、廊下に出る。
茜の部屋を眼で確認すると其処に向かって歩き出した。


―――っ…


扉を開けようとした浩平に、声が聞こえる。


―――あっ…くうっ……


何かに耐えているような声。


―――はあっ……


茜の声だ。

浩平はしばらく、呆然と其れを聞いていたがしばらくする問いを決した様に手を持ち上げる。
コンコン…と、躊躇いがちに扉をたたく。


「――茜?」


もしかしたら、自分は凄く無粋な人間では無いのだろうか。
そんな考えが一瞬頭をもたげたが、再度、扉をたたく。


―――里村さんを……助けてやってくれ………


そんな南の言葉があったからだろうか。
それとも、自分の中で何かが働きかけていたのだろうか。

それは、わからない。


「茜、開けるぞ」


わからない、が。

浩平は其れを確かめる為、扉を開いた。




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仮面葉子「お久しぶりです。後半担当の仮面葉子です」

覆面みさき「前半担当のみさきだよっ」

仮面葉子「懲りもせず、第弐回目です」

覆面みさき「ずいぶん間があいちゃったね。おぼえていてくれた人、いるかな?」

仮面葉子「感想くれたヒトがいたから、読んでくれた人はいるみたいですよ」

覆面みさき「じゃあ、今回の後書きは〜・・私たちも感想を書くのかな?」

仮面葉子「というか、この作品。ファンの方には殺されそうです…」

覆面みさき「次回も投稿、できるのかなっ?」(汗)

仮面葉子「…………」(汗)

覆面みさき「・・・・・て、てへっ☆」(汗)

仮面葉子「と、兎に角。感想くれたかた、有難う御座いました」(ぺこり)

覆面みさき「あ、ありがとうだよっ」(ぺこり)

仮面葉子「次回以降、恨まれないことを祈ります…」

覆面みさき「で、でも、ほら、私たち、正体隠してるし・・」

仮面葉子「……ですよね。大丈夫、ですよね…」

覆面みさき「・・・一部の人にはばればれらしいけどね・・・(ぼそっ)」

仮面葉子「ええっと……で、では、この辺で失礼しましょうか?」(滝汗)

覆面みさき「そ、そうだねっ。葉子さんはいろいろと忙しいもんねっっ」(汗)

仮面葉子「ハイ……。では、又お会いできる日を…」(そそくさ)

覆面みさき「また会えるといいねっ」(こそこそ)