EinsturZ DeR WelT  投稿者:D&P


 『EinsturZ DeR WelT』


第1話



――終わり。
すべての物事には、終わりがある。
好きだったTV番組が、放送を終了した。
買ってきたアイスクリームを、食べてしまった。
CDラジカセが、動かなくなった。
昨日まで笑っていた人が、死んでしまった。


すべての存在は、何時かは消えてしまう。
わかっていた。
そんなことは。
でも、終わらないものもあるのではないかと思っていた。
そんな、希望。
そんな、確信。


でも―――
終わりは訪れる。
確実に。
唐突に。
それが、生まれた時から僕らが背負った宿命だから。


――それは、必然。





1999年。
どこかの国の、高名な学者が言った。

「地球はもう、おしまいだ」

と。
其れは、誰もが感じていたことであり、
誰もが口にできなかったことでもある。
張り詰めた、糸。
限界まで引き伸ばされた糸をぷつり、と切った学者。
そんな勇気ある愚者の行動の後、さまざまなもの達が騒ぎ出した。
各国の、権威ある学者。
宗教の、教祖達。
国の最高権力者。
皆、分かっていたのだ。
この星が、永遠にありつづけると思っていた母が、いなくなることに。

大気汚染。
森林伐採。
地球の温暖化。
オゾンホールの拡大。
勃発する地震。
活動を休めていた火山の、噴火。
疫病の流行。

すべての物事は、語っていた。

「ここは、もうだめだ」

と。
そして、同じことを皆、思っていた。


2000年。
世界は、一変した。
法の力が無くなり、日常は崩壊していた。
人々は働くこともせず、好きな様に暮らした。
そう、本能の赴くままに。

だが、秩序は未だかろうじて、残っていた。
正義感の強い人々は警察の変わりを果たした。
交通機関も、極一部は働いていた。
そんな状態だからこそ、日常に浸っていたかったのだろう。
そして、人々の大半はゆるやかに、日々を消化していた。
欲望――Es――と戦いながら。




日々は穏やかに過ぎていく。
希望と絶望の間をたゆたいながら。
そして、冬が訪れた。
終わりを告げる、冬が。





○ 自宅前 折原浩平
 
 
 
 どんよりと曇った空。
 服の隙間から進入してくる冷気。
 風に飛ばされた落ち葉の地を撫でる音。
 そんな音の中に新たに混じる『ガチャッ』と扉の開く音。
 続いて『キィ…』と、少しさびた門が開く音。
 後を追うように
 
 「…ふぅ」
 
 ためいき。
 『トントントンッ』っと靴を履き直す音。
 最後に『ガチャンッ』と、門が閉まる音。
 浩平、曇った空を見上げ
 
 「…いい天気だな」
 
 自嘲気味に呟く。
 再び視線を前に戻し、歩き出す。
 2、3件の家の前をとおると、立ち止まりある家の二階。
 窓を見上げる。
 表札には『長森』との文字。
 数秒、瑞佳の部屋のあたりを見上げる。
 微かに、猫の鳴き声。
 尚もしばらく見つめていたが、ピンクのカーテンは動かない。
 視線を戻し、その場を立ち去ろうとした。
 その瞬間に聞こえる声。
 
 『フギャァァァッ!!』
 
 猫の、悲鳴とでも言うのだろうか。
 あるいは、断末魔の声。
 浩平、気になり足を止めるが、しばらくすると歩き出す。
 
 
 
○ 数分後 学校前


なんとなく、学校まで歩いてきた浩平。
グラウンドにはスポーツに興じる人達が見える。
大人、子供、学生入り乱れての、サッカー。
反対方向では野球が行われている。
ぼんやりと見入っている浩平。
と、肩をたたかれ振り向いた。

「よぉ。暇そうだな」

振りかえる浩平。
目の前に、いつもの顔で立っている住井護。

「まぁな。そっちも暇そうだな」

いつもの調子で返す浩平。
続く様に、住井が口を開く。

「まぁ、な。
 世界ももうすぐ終わりだーなんて言って、みんな職場放棄して好き勝手にしてるだろ?
 で、学校が無いのはありがたいんだが、な。
 遊びにいこうにもやってはいないし、電力配給の制限のお蔭でゲームもやれはしねぇ。
 結局、こうしてぶらぶらするしかないって訳だ」
「ま、発電所も動いてないから当然と言えば当然だけどな。
 ボランティアで動かす奴なんていないだろ」
「それもそうだ」

互いに顔を見合わせる二人。
なんとなく、互いに笑みを浮かべる。

「でも、久しぶりに逢ったけど元気そうで安心したぜ。
 終末思考――って言うのか?
 残された時間を好き勝手にしようってめちゃくちゃやってる奴もいるしな」
「ああ。暴徒って奴だろ?
 あんなことしてもなんの解決にもならないのにな」
「全く。
 みんな俺みたいにラヴ&ペースをモットーに生きれば良いのによ。
 そうしたら皆、少しはマシに人生終われるぜ?」
「其れを言うならラヴ&ピース、だろ?
 慣れない横文字を使うなって」

再び、顔を見合わせ笑う二人。
「ツッコミが厳しくなったな」などと、住井。
が、次の瞬間ふと、真顔に戻る住井。
グラウンドでスポーツをする人を横目に、

「でも、な。
 ああやってる人達は幸せだよ。
 里村さんなんて、大変らしいぜ?」
「―――里村が?」

驚いた表情の浩平。
反対に、冷静なままの住井。

「ああ、聞いた話しだけどな。
 具体的にどうなってる、とかは知らないが、南が言ってたな」
「南…か。
 そういえば、アイツは?」
「ああ、元気でやってるみたいだゼ?
 家にいるよ。
 気が向いたら言ってみたらどうだ?」
「ああ……気が向いたら、な。

そこで、ふっと、元の表情に戻る住井。

「さってと、俺は未だ巡回するところがあるから、これでサヨナラだ」
「巡回…って」

苦笑する浩平。

「いいのいいの。
 ま、俺に用が会ったらこの時間にでもここにきな。
 どうせ、毎日来てるしな」
「――そっか。
 じゃ、コレで一旦サヨナラ、だな」
「――ああ。
 また、機会があればお目にかかりましょう」

冗談めいてお辞儀をしながら言う住井。
「ばーか」とからかいながら、

「じゅあ、またな」

と浩平。
そして、再びスポーツに興じる人の群れを見ながら、何処へ行こうか考える。

「とりあえず、歩きながら決めるか」

そして、再び浩平は歩き出した。





○学校付近


浩平は歩きながら、手の中で拳銃を弄ぶ。
ずっしりとした、黒い金属隗。

モデルガンではない。

以前、この町に暴徒が押し寄せた時、警官の死体から浩平が奪った。

比較的平和なこの町にも悪夢は押し寄せる。
逃げる場所はどこにも無かった。

浩平は拳銃の名前は知らない。
だが、警官に普通に支給されているものだという事は知っていた。

最初にこの引き金を引いた時にはその反動の凄まじさと――





・・・・物も言わずに吹っ飛ぶ、暴徒。





・・罪の意識に怯えたものだった。

そして、それ以来彼女たちとは会っていない―――そう。
あの六人の彼女たち。

自分が、何処か血で薄汚れているような気がして。





・・ふっと。




(都心の方ではゲームみたいに人間狩りが行われているらしいな・・・)




不良やチーマーと呼ばれる人種。
そんな人間たちが、この状況で何をするか・・・・


人々は思った。
殺られる前に殺れと。



今も不毛な戦争はまだ続いている。




「・・・今日の飯でも確保しないとな」


ぽつり、と呟いて商店街の方に足を向ける。




○商店街


閑散とした商店街。
動くものも無い。


略奪の最初の目的地はこういった商店街だ。
大抵の場合、壊滅的被害を受ける。


今現在、貨幣というものに価値はない。
貴金属や宝石にも。
物を手に入れるのは物々交換が主流だ。


ちらり、と一軒の建物に目をやる。
ゲームセンター。


中の機械はほとんどが破壊し尽くされている。
浩平も、以前にラムネ菓子などの入った筐体を破壊して、中の物を持っていった事がある。
そういった嗜好品は、物々交換のいい材料になるからだ。


今回、物々交換に使うのは電池。
由起子が、どういうわけか大量に買い込んで置いていたらしい。
家には腐るほどあった。


由起子は帰ってきていない。
多分、もう帰ってくる事もないだろう。
だから。
食糧は自分で確保しなければならないのだ。


いつもの場所で、電池1ケースと引き換えに食パンを手に入れる。
暴利ともいえるが。


「さて・・・」


いつまでも食べ物をもってうろついているわけにもいかない。
略奪に遭うのは目に見えている。
応戦する事も可能だが、人を殺す事はなるべく避けたいと思っている。


(これ以上・・・血で汚れるのは嫌だからな。)




○一週間前・商店街



呆然と見つめていた。
血で、視界が赤く染まってる。

南森、というクラスメート。
クラスの中でも十分秀才に入るような人種だった。

それを。

自分を守るための、武器。
それは裏を返せば邪魔物を殺すための凶器。


物陰から突然、ナイフを振りかざして飛び掛かってきた南森。
浩平は反射的に、構えを取り。


ぱんっ





○現在・商店街



「・・・。」


浩平は無言だ。
話す相手がいるわけでもないのだが。


(・・・。)


『里村さんなんて、大変らしいぜ?』


里村茜。
ただのクラスメート。

少なくとも、浩平はここに帰ってくるまではそう思っていた。
帰ってきてからは・・・何かと気になって仕方が無かった。
別に下心があるわけでもない。


(大変・・・ね。)


父親は戻ってきていなかったはずと、そう浩平は記憶していた。
女二人では食糧を確保するのも大変なのだろう。
あいにく、それ以外の『大変な事』は思い付かない。


「久々に、パンにはジャムを塗りたいよな・・・」


里村家とは交流が無かったわけでもない。
ずいぶんと浩平には心を許してくれているのだろう。
こういった状況に世界が陥った後でも家にあげてくれるのだから。

手の中の食パンを見る。
三斤。
一つは・・・かびてしまうかもしれない。
どうせ、二斤あればしばらくは持つだろう。


(茜の顔も見たいしな・・・)


心の中で、表向きはジャムが目当てということにして。
浩平は里村家の方向に足を向けた。


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覆面みさき「正体がばれないようにね」(ぼそぼそ)

仮面葉子「大丈夫。絶対に気付かれないよ」(ぼそぼそ)

覆面みさき「じゃあ、後書きだから解説でも書こうか?」

仮面葉子「だね。今回のお話しの前半は私が――」

覆面みさき「後半を私が書いた、タクSSでは初のSSなのかな?」

仮面葉子「うんっ。こう言う形で―――書くのは初めてだねっ」

覆面みさき「問題は・・・この続きが書けるかどうかだね」

仮面葉子「………兎に角、頑張ろうね(滝汗)」

覆面みさき「ま、まあ、みんなの反応次第って所もあるからね(滝汗)」

仮面葉子「そ、そうだねっ。無闇に駄作を量産するのもアレだし、ねっ(滝汗)」

覆面みさき「じゃ、じゃあ、この辺にしておこうかっ?」

仮面葉子「そっ、そうだねっ。ぼろが出る前に―――あわわわわっ(汗)」

覆面みさき「じゃ、じゃあ、さよならっ」(たたたっ)

仮面葉子「また、逢えると良いねッ」(とたたたたたたっ)