戦う乙女たち!! 〜 4 〜 投稿者: いちごう
 ONE女子プロレス‥‥‥そこでは日本の選りすぐりのレスラーたちが、日夜熱い戦いを
繰り広げていた。

 そして今日、ここ小田原アリーナでは、今世紀最大の熱い戦いが行われようとしていた!!


 「みなさんこんにちは!実況の住井護です。きょうのメインイベントは非常に興味深い内容
になっております。なんと、あの東京ドーム大会の時にONE女と戦ったMOON.から刺客が
送られてきているんですね〜。え〜、解説の折原浩平さん、今日もよろしくお願いします」
 「はい、よろしく」
 「そしてゲスト解説は、元WF王者の柚木さん‥‥‥‥‥じゃなくって、なんと椎名選手の
お母さんの、通称『繭ママ』さんです!よろしくお願いします」
 「はい、よろしくお願いします。‥‥‥ちなみにWWWWFですよ?住井さん」
 繭ママはにっこりと微笑みながら突っ込む。
 「まあまあ、繭ママさん。ところで繭ママさんは初代WWWWF王者なんですよね〜。どうです
か、あの頃と比べて今の女子プロレスは?」
 「ん〜、何というか、みんなすごく危険な技をポンポンと出してきますよね〜。わたし見てるだ
けで目が廻っちゃって‥‥‥」
 「そうですね〜、特にななっち選手の『乙女ボム98』などは危険度ナンバーワンの技のような
気がしますね。あんな凄い技を開発したななっち選手も凄いですが‥‥‥」
 「あ、あの〜‥‥『ななっち』っていう選手、わたし知らないんですが‥‥‥」
 繭ママは首を傾げながら住井に質問をする。
 「あ、そうでしたか。実はゴンザレス七瀬選手は今日からリングネームを『ななっち』に改名し
たんですよ」
 「あら、そうでしたの?そのななっち選手はすごいですわね〜。前は剣道をやっていらっしゃっ
たんでしょう?」
 「おや?繭ママさん、結構お詳しいんですねぇ。そうなんですよ、その剣道の方も六段という
凄い腕前を持っていながら、何故かプロレスに転向し、あれよこれよという間に頂点に登りつめ
てしまったという経歴を持っているんですね〜」
 「お強いですわね〜、ななっち選手は。わたしも現役時代にななっち選手みたいな方と戦って
みたかったですわ‥‥‥」
 繭ママは昔を懐かしむかの様に遠くを見つめてつぶやいた。
 「だけど繭ママさんの世代にも天沢未夜子さんという凄い選手がいたじゃないですか? まだ
MOON.とONE女が団体分裂する前のTACTICS女子プロレス時代の頃でしたね」
 「ええ‥‥でも彼女とは主にタッグを組んでいたから、真っ向から戦った事は殆どないのよね
〜‥‥‥」
 指をあごに当てて上目遣いでう〜んと考え込むような仕草で繭ママは語る。
 「おおっ! ラブリーペアですねっ! わたしは前にビデオでその戦い振りを拝見しましたよ」
 「うふふ、なんか恥ずかしいですわ」
 「天沢未夜子さんはMOON.の天沢郁未選手のお母さんなんですよね」
 「ええ、そうなんですよ。プライベートで何度もお会いしました」
 「あ、そうだったんですか〜。‥‥‥おっと、どうやらそろそろメインイベントが始まるようです!」

 実況の住井が言うや否や、リング上に立った南リングアナがマイクを構えた。
 『ただいまより本日のメインイベントを行います。青コーナーより、ななっち、川名みさき、里村茜
選手の入場です!』
 南リングアナの告知が終わった途端に場内が一斉に真っ暗になり、色鮮やかなスポットライト
の光がが場内を駆け巡る。 そして入場口から七瀬、川名、里村の3人が現れると同時に勢い
よくその廻りにスモークがシューッと噴き出す。
 「ななっち〜〜〜っ!がんばれ〜〜っ!」
 「ななっちさぁ〜〜ん、負けないでね〜っ!」
 「カッコイイぞ〜〜〜〜っ! ななっちぃぃぃ〜〜〜〜っ!!」
 辺りからは七瀬に向けて励ましの声援がやんやと沸き起こる。
 (う、う〜ん‥‥ゴンザレスに比べればマシなのかもしれないけど‥‥‥なんか間抜けな響き
が漂うのよね〜‥‥‥それにしても、何でこんなに多くの武装警官がいるのかしら? 陸上自衛
隊もいるような気がするんだけど)
 七瀬が怪訝そうに辺りを見渡すと、確かに入場口から花道、はたまたリングサイドにかけて
機動警官や自衛隊員が何十人も警備していたのだ。それは赤コーナーサイドも同じだった。

 3人がリング上に上がったのを確認した南リングアナが再びマイクを構える。
 『赤コーナーよりMOON.の天沢郁未、名倉友里、巳間晴香選手の入場です!』
 赤コーナー入場口より、コールを受けた3人がゆっくりと現れた。それと同時に自衛隊員は
肩に掛けていたライフルを手に持ち直す。とてもものものしい状況だ。
 3人は表情ひとつ変えずに黙々とリングへと歩いてゆく。その後ろからセコンドの高槻という
男が付いてきている。
 天沢、名倉、巳間の3人がようやくリング内に収まり、七瀬、川名、里村の3人と対峙する。
里村は表面上は冷静を装っているものの、その額からは汗が滴り落ちていた。川名の方も落ち
付いた表情でいたが、3人から発せられるただならぬ雰囲気を察知してか、内心大きく動揺して
いた。当然七瀬も先程から感じる強い殺気に似たような物を感じて、その表情はこわばっていた。

 レフリーはいつもの広瀬真希である。
 「いつもので悪かったわねっ!」
 
 広瀬レフリーは入念なボディーチェックを済ませると、両チームを各々のコーナーへ下がらせる。
 そして各コーナーから1人づつ先発がリング内に残った。
 青コーナーからは川名。
 赤コーナーからは巳間。
 「あ、晴香ちゃんだったよね。この前の対抗戦ではお世話になりました」
 川名は以前の名倉由依との戦いの時と同様にのんきにおしゃべりをし始めた。七瀬たちのチー
ムは東京ドーム大会の時と同じだったが、今回のMOON.のチームで以前に戦った事のあるの
は巳間晴香だけである。だが、ここにいる巳間晴香が以前とは全然違うと感じた川名はとりあえ
ず様子見で話しかけたのだ。
 「‥‥‥」
 巳間からは何の反応もない。
 「えっと、あの‥‥‥全力を尽くし‥‥あっ!!」
 一瞬の事なのでこの場にいた全員が何が起こったのか判らなかった。天沢と名倉以外には。
 川名はいきなり吹っ飛んで後方の自軍コーナーまで戻されてうずくまっていた。
 「な?」
 七瀬は何が起こったのか判らずに呆然とした。
 「だいじょうぶですか?川名さん」
 里村が川名をゆっくり揺すって意識状態を確かめる。が、反応がない。完全に失神していた。
 「川名先輩っ、 川名先輩!?」
 七瀬も川名を激しく揺すって意識を戻そうとする。
 「‥‥だめですななっち、完全に意識を失っています」
 こんな時でも冷静に七瀬をリングネームで呼ぶ里村であった。
 「くっ! こうなったらあたしがでるわっ!」
 失神している川名の肩にぽんと手を当てタッチしてリングに入ろうとした。が、七瀬の手前に腕
を差し出して里村が遮った。
 「‥‥危険です。わたしがでます」
 「あんただって危険でしょうがぁぁぁっ!」
 「いいから‥‥」
 がむしゃらに突っ走ろうとする七瀬を里村は微笑んで制した。そしてゆっくりとリング内に足を踏
み入れた。里村の表情が引き締まる。眼光が鋭くなり相手を一直線に睨む。
 「‥‥‥」
 巳間の眉が心なしかつり上がったように感じられた。そして右手を頭上に上げると、それを勢い
よくブンッと振り下ろしたのだが里村までは距離が少し開いているので完全な空振りだった。
 が、しかし川名の時同様に里村も勢いよく吹き飛ばされた。
 「きゃああぁぁーーーっ!!」
 目に見えない波動を七瀬までもがまともに受けてリング下に転落した。セコンドや下っ端レスラー
が急いで七瀬の元に駆け寄る。
 「だ、だいじょうぶですか?」
 リング上の里村も七瀬を気遣って声をかけた。七瀬は苦悶の表情を浮かべながらもすくっと立ち
あがる。
 「あたしは平気!それより今は自分の心配をしなさい」
 「はい‥‥それではななっち、あなたはリング下にいてください。そこの方が安全ですから」

 『おおっと、これはどうした事でしょうかーーーっ!?ここからではよく判りませんでしたが、巳間
選手の攻撃で里村、七瀬の両選手が吹き飛ばされましたああぁぁぁーーーっ!』
 住井が軽快に実況を続けている。
 「‥‥‥」
 繭ママは試合の様子を身動ぎひとつせずに僅かに眉間にしわを寄せて試合を注視していた。
 『繭ママさん、今巳間選手はどんな技仕掛けたんでしょうか?』
 「え?‥‥‥えっと‥‥‥ああ、わたしにもよく判りませんでした」
 この場はいいかげんに取り繕ったものの、繭ママは巳間が仕掛けた攻撃がどんなものなのか、
過去に身を持って体験していたのである。
 (MOON.もとんでもない選手を隠し持っていたものだわ。‥‥しかも3人も‥‥‥。にしても、
あの里村選手は少しはやるようね。七瀬選手もアレを受けても意識があったし‥‥ふふ、少しは
面白くなりそうね)
 繭ママは心の中でつぶやいていた。

 リング内では巳間が先程の様に腕をぶんぶんと里村に向かって振り下ろしている。が、やや距
離が開いているため空振りだった。が、今度は先程のように里村は吹き飛ばない。しかし巳間が
腕を振る度に里村の長い髪が思いっきり舞い上がる。
 「くっ、堪えるのが精一杯‥‥‥」
 同じ攻撃が通じないのを認識した巳間は里村に近づき、里村と組み合った。試合が始まって
ようやく互いの身体が接触したのだ。組み合った体勢のまま巳間は里村を自軍コーナーまで引き
ずり込んでいった。
 「ううっ」
 里村は両腕を天沢と名倉にしっかりと掴まれて身動きが取れなくなった。
 「しまった」
 そう思った時には既に手遅れだった。3メートルくらい距離を置いた巳間は両手を頭上にかざし、
一気に里村めがけて振り下ろす。凄まじい衝撃が里村を襲った。
 「あうっ!」
 まともに衝撃を受けた里村はその場でがっくりとうなだれ意識を失った。里村の身体を巳間が
掴むと、ひょいっと七瀬の方に投げ捨てるように放った。どかっとコーナーに叩き付けられる里村。
 「里村さん!」
 七瀬は声をかけたが里村はピクリとも動かない。リング下の川名も未だ意識を失ったままだ。
 「こ、このおおぉぉぉーーーっ! あたしひとりでもやってやるわああぁぁぁーーーーっ!!」
 叫びながら勢いよくリング内へ飛び込んでいった七瀬だったが、巳間まであと1メートルという所
で衝撃波によってロープに吹っ飛ばされ、そのロープの反動でまた巳間の方に戻っていった。
 巳間はラリアットの構えをとると、そのまま腕を七瀬の首に叩き付けた‥‥‥かのように見えた
が、実は衝撃波を見舞っていたのだ。七瀬はもんどりうって倒れ込んだ。
 (ぐぇぇーーーっ! な、なんなのよ、こいつはっ!? 化け物?)
 七瀬が思ったのも束の間、巳間は七瀬を無理やり引きずり起こすと腕を掴んでロープに放った。
そして巳間はドロップキックを見舞っていった。これも先程のラリアット同様物理的なキック攻撃で
はなく、足先から衝撃波を放ったものであった。
 衝撃波を胸元に食らってロープまで吹っ飛んだが、体勢が崩れていたためそのまま勢いを落とさ
ずにリング下まで転落してしまった。


 「‥‥‥ん?」
 七瀬が意識を取り戻した。
 「大丈夫ですか?」
 里村が心配そうに七瀬を覗きこむ。
 「あれ?‥‥‥あたしたち‥‥‥試合してたんだよね?」
 七瀬は身体を横にしたまま里村に問いかけた。
 「‥‥はい」
 「えと、‥‥どうなっちゃったんだろ?試合」
 全然状況が掴めない七瀬は更に問いかける。
 「負けちゃったんだよ」
 控え室と思われる部屋の奥にいる川名が里村の代わりに答えた。
 「そっか、負けちゃったか‥‥‥あはは」
 七瀬の瞳には悔し涙が滲んできた。衝撃波によるダメージで身体中が痛い。しかし試合に負け
たことによる精神的ダメージの方が遥かに大きい。
 「仕方ありません‥‥‥、相手が悪すぎました」
 「仕方ないですって? 相手が悪すぎた? 里村さん、あんたその一言で片付けちゃうの? 次
こそは勝とうとは思わないわけ!?」
 半ば八つ当たりに近い状態で七瀬は里村をなじった。
 「でも、力量差は歴然としていました‥‥‥」
 里村も負けじと睨み返す。
 「‥‥‥まあね、わかってたわ。怒鳴ってごめん」
 「いいんです‥‥」
 里村は優しく微笑んで返した。
 「でもね‥‥あたしは諦めないわよっ! いつか最強の座に君臨してやるんだからっ! それ
こそが乙女にしか成し得ない技なのよ!!」
 「わたしもがんばります‥‥‥」
 「ふぇ〜ん、わたしも今日みたいな情けない試合しないように努力しなきゃ〜」

 3人は明日へ向かっての決意を固め、新しい一歩を踏み出した。
 「あーっ、わたしもいるもん」
 『わたしもいるの』
 「ふぇ?」
 はいはい、それでは‥‥‥6人は明日へ向かって大きく駆け出した‥‥‥でいいですか?

 「それじゃあ帰ったら早速練習よっ!」
 七瀬がみんなを促す。
 『えええーーーーーーっ! きょうもぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!?』
 5人は口を揃えて言葉を発した。
 「あったりまえでしょ? ぐずぐずしないっ!!」
 七瀬を筆頭に6人は一斉に控え室を駆け出した。


 ONE女子プロレス‥‥‥明日もどこかで熱い戦いが繰り広げられることだろう‥‥‥。

 なお、近い将来たったひとりで今日の対戦相手3人と戦う事になろうとは、七瀬はこの時知る
よしもなかったのである。
 「それはそうと、結局あたしに一回も勝たせてくれなかったわね?」
 あ、ごめんっ!


                        お し ま い

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 ふぅ〜、ほんとは一回きりだったはずのこのお話しも、なぜかアイデアが出てきて4回までやっ
ちゃったな〜(^^) 前回の予告通り今回はシリアスになりました! ‥‥‥ということは、おれの
書いた作品で繭SS以外の初シリアス物ということになるのか?こりゃあすごいや(爆)
 だけど今回ようやくラストの方で少しだけプロレスっぽい事をやったので救われたような(^^;;;
 一応プロレス物だからなぁ、このSS‥‥‥。
 というわけで「戦う乙女たち」とももうお別れです!なんか寂しいですね〜(ToT)
 え?最後の語りが気になるって? ‥‥‥‥‥はは、気にしない、気にしない(^^;;;

 ではみなさん、うちのチャット(別名SS作家チャット)で楽しく語らいましょう
 ごきげんよう〜〜っ(^^)/

http://www3.airnet.ne.jp/ichigo/