みあちゃんだいすき 投稿者: いちごう
 1月8日‥‥‥
 寒さもこれから一段と厳しくなる中、椎名の通っている学校は3学期を迎えた。
 背中を丸めながら寒さを紛らわす生徒達が次々に登校してくる。

 「あ、繭ぅ〜、おはよ〜っ」
 「みゅ〜っ」
 教室に入ったみあは椎名をみつけて、その元に駆け寄って来た。
 「今日もこれまた寒いね〜。冬休みは短すぎるよね〜っ! 1年くらいあればいいのになぁ〜」
 「みゅー‥‥‥」
 「あはは、まゆって『みゅー』ばっかだね。こんなみゅーみゅー言ってるのと付き合う彼氏って
どんな人なんだろっ?」
 「みゅ〜‥‥‥」
 椎名は怒る様子もなく淡々と返事を返した。
 「あははは、怒っちゃったぁ? 冗談、冗談っ! ごめんねっ、彼氏の事バカにされたくないよ
ね、誰だって‥‥‥」
 「うん、いいよ‥‥‥」
 「ん、ごめんね、ヘンな事言っちゃってさ‥‥‥あっ、始業式が始まるっ、講堂に行かなきゃ!」
 教室内の人気が失せているのに気が付いたみあは繭を促すと、足早に教室から出ていった。


 「あ〜、やっと終わったぁ〜〜〜っ。まったくあの校長は話しがメチャクチャ長いんだから〜。
どうしてあんなに話しのネタがあるのかしらね〜」
 「うん」
 「毎週の朝礼でも同じくらいのボリュームで話しをしてるくせにね〜。貧血で倒れる子が可哀相
だわっ!」
 「みゅー」
 あまりにもみあがグチグチ言うのがおかしかったのか、椎名はほんの僅かに微笑んだ。
 「あっ! 繭が笑ったぁ〜〜〜っ!」
 「みゅ? わらってないよ‥‥‥」
 「うそだぁ〜〜っ! 今わたし見たよっ! やったやったぁぁ〜〜っ♪ 繭が初めて笑ってくれ
たぁ〜〜〜っ!」
 笑ったというみあの表現は少しオーバーかもしれないが、それも無理はなかった。なにしろ椎名
は学校に復学してからというもの、人前では笑ったことなど無かったのだ。
 「わらってないもぅん」
 「なんでよ〜っ、別に隠すことないじゃない。愉快な時、楽しい時、嬉しい時は笑うものなのよ?
それとも繭はわたしといても楽しくない?」
 「みゅ‥‥‥‥‥‥たのしいよ」
 「な、なんか間が引っかかるけどよろしいっ!」
 みあは椎名に顔を近づけてにっこりと笑った。
 「みゅ〜♪」
 みあの笑顔につられるように椎名もさっきよりははっきりと笑顔を浮かべて見せた。


 そして下校途中の帰り道でも二人は熱心に話しを交わした。といってもみあが一方的に椎名
に話しかけているのだが‥‥‥。
 「ねえ繭、なんかわたしたちさぁ、むかしからの仲良しさんみたいだよねぇ〜。そんな感じしな
い? わたしはそう思ってるんだけど‥‥‥」
 「みゅー‥‥‥むかしからの?」
 「うん、これはわたしだけの思い込みなんだけどね」
 少し照れくさそうなみあが横目で椎名を見る。
 「みゅー‥‥‥なかよしさん」
 「あはは、繭はそんな風には思ってないかもしれないけどね。だけどわたしは繭のことすごく
好きだよっ!‥‥‥そう、親友っていってもいいかなぁ‥‥‥あっ、だけど双方共に親密じゃ
ないと親友とは言わないよねぇ〜、あはははっ」
 「みゅ〜、しんみつ‥‥」
 「自分から友達になってって言っておいてずうずうしいかもしれないけど‥‥‥、わたし、繭にも
親友と思ってもらいたいんだ‥‥‥。 なんか憧れちゃうよね、親友って。生涯壊れる事のない
絆みたいで‥‥‥」
 「みゅー」
 みあの言ってる事が分っているのかいないのか、相変わらずの淡々調子で返事をする椎名。
 「繭はさぁ〜、その〜‥‥‥大切な友達っている?」
 「‥‥‥うん」
 「えっ? いるの? どんな子??」
 「えっとね、もう死んじゃったんだけどね‥‥‥白くてね、長くてね‥‥‥」
 椎名は以前飼っていたフェレットのみゅーのことをみあに話して聞かせた。みあは最初、椎名
の友達が動物と知って拍子抜けしていたが、しだいに真剣に耳を傾けるようになっていった。
 「そうだったんだぁ〜、へぇ〜っ、彼氏がお墓作ってくれたのかぁ〜〜っ、すごいなぁ〜、なんか
運命的な出会いって感じがするよね〜」
 「うんっ」
 「う〜ん、それじゃあ深い所を追求していくと、その彼氏と繭の出会いがあったからこそわたし
達の出会いもあったわけよね〜」
 「うんっ」
 「ということはわたしたちの出会いも運命的ってことよね〜」
 「うん」
 「ふふふ、繭って彼氏の事になると顔には出さないけどすごく嬉しそう」
 「そんなことないもぅ〜ん」
 「いいっていいって、照れなくっても。それよりさぁ、繭はわたしの事友達と思ってくれてる?」
 嘆願するかのようにみあは椎名に詰め寄る。
 「うん、みあはおともだちだよ」
 「ほんと?」
 「うん」
 「ほんとにほんと? やったぁ〜♪ ね、ね、それじゃあさ〜、今度の日曜日にさぁ、近くの神社
で誓いの宜を立てない?」
 「ちかいのぎ?」
 「うんっ、紙にでもお互いの気持ちを綴って交換するのっ! ねっ?素敵なアイデアでしょっ!」
 みあは一人で浮かれながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
 「うん、いいよ」
 「やった、決まりねっ! じゃあ、今度の日曜日の10時に神社前で待ち合わせでいい?」
 「うん、わかった」
 「いい?絶対だよ〜〜〜っ? 忘れたら死刑だからね〜っ!な〜んてね、じゃあまた明日ねっ」
 「みゅ〜♪」
 みあは元気に手を振りながら駆け足で帰っていった。椎名の方も落ち着きがなく辺りをきょろ
きょろと見ながら家に帰っていった。


 そして約束前日の土曜日の夜‥‥‥

 「みゅー、なんて書けばいいんだろ‥‥‥」
 椎名は机の前で明日の『誓いの宜』に使う誓約書の文面を考えていた。
 『お互いの気持ちを綴って交換するの』
 みあの言葉を思い出す‥‥‥。
 「きもち‥‥‥、みゅ〜、うまく思い浮かばないなぁ‥‥‥」
 『わたし、繭にも親友と思ってもらいたいんだ』
 「みゅ〜、しんゆうかぁ‥‥‥」
 椎名は真剣に悩んだ。いつも元気で健気、そして人一倍寂しがりやで、それでいて自分を大切
に思ってくれているみあ。そんなみあに少しでも喜んでもらおうと、椎名は必死になっていた。
 「みゅー、『みあちゃん、すきです』‥‥‥みゅ?これじゃ愛の告白みたい。‥‥‥『みあちゃ
ん、これからもおともだちでいましょう』‥‥‥みゅ、みゅ?これじゃ告白をことわるみたい‥‥
うくー、むずかしいなぁ‥‥‥」
 椎名は少し気分を休めるためベッドに転がった‥‥‥っと思いきや、すぐさま机に向かった。
 「みゅっ、『みあちゃんだいすき♪ これからもずっとなかよしさんだよ』‥‥‥うん、これでいい
や、あとは今日の日付‥‥‥みゅ、ちがう、明日の日付を入れて、と‥‥‥できた♪」
 「繭〜、電話よ〜〜〜っ! 長森さんから〜〜〜っ!」
 椎名が誓約書を書き終えて、ノートを閉じ一息つこうとしたところへ椎名の母親が呼ぶ声が聞
こえた。
 「みゅ、おねえちゃんから?」
 椎名は急いで電話に向かった。
 「みゅー」
 『あ、繭〜? わたしだよ、瑞佳』
 「みゅー、おねえちゃん」
 「あはは、元気にしてた〜? って、冬休み中も何回も遊んだっけ」
 「みゅ〜♪」
 「それでね繭、明日の時間のことなんだけど‥‥‥」
 「(みゅっ!! そうだ、おねえちゃんとの約束あったんだ、あした、忘れてた‥‥‥うく〜、どう
しよう‥‥‥おねえちゃんとの約束はみあとの約束よりもまえだったし、それに、緊急連絡網を
まだもらってないから、みあの連絡先わからないし‥‥‥)」
 「もしもし〜?繭〜っ?聞いてる〜?」
 「みゅ、‥‥‥うん」
 「9時に繭の家に行くからね〜、じゃあ明日ねっ」
 「うー‥‥‥」
 椎名は何か言いかけたが、それよりも早く長森の電話は切れてしまった。


 そして日曜日当日の午前9時‥‥‥

 長森は約束の時間ぴったりに椎名家にやってきた。
 「おはようございま〜す、長森です」
 「あらあら、長森さん、おはようございます。繭がいつもお世話になってしまって‥‥‥」
 「いえ、そんな、こちらも繭といると楽しいですから」
 「そういって頂けると、ほんと助かります。どうもありがとうございます」
 椎名の母が軽くおじぎをする。そこへ着替えを済ませた椎名がやってきた。
 「あ、繭、おはよ〜」
 「みゅ、おはよぅ‥‥‥」
 「じゃあ早速出かけようか? 帰りが遅くなっちゃいけないしね」
 「う、うん」
 「それじゃおばさん、隣町まで出かけてきます」
 「はいはい、いってらっしゃい。繭をよろしく頼みます。‥‥‥繭も楽しんでくるのよ〜」
 椎名の気持ちも知らずに母親は自分の事のように浮かれていた。

 そして30分ほどして椎名と長森は隣町までやってきた。
 「ねえ繭、どこに行きたい?」
 「みゅ、うんとね、うんとね‥‥‥」
 「あ、すぐに決めなくてもいいか、まずは適当に歩こうね」
 「うん」
 二人はぶらぶらと街中を歩いていたが、ゲームセンターの前に差し掛かった時に、ふと長森が
足を止めた。
 「そうだ繭、そこのゲームセンターのクレーンゲームやろうか?」
 「うん」
 「なんかいい景品があるといいねえ」
 「うん」
 店頭に設置されているクレーンゲームの中を二人は覗き込んだ。
 「あ、みてみて繭っ! みゅーみたいなのがあるよ」
 「みゅーっ」
 「あははっ、じゃあおねえちゃんが取ってあげるね、以前誰かにやり方を教えてもらったから
腕前はバッチリだよ」
 「だれか?‥‥‥浩平?」
 「えっ? こうへい‥‥‥って誰なの?」
 「‥‥‥なんでもない」
 浩平を覚えている人間が自分以外にはもういないことを思い知らされた椎名は少し表情が
曇った。
 「それじゃやってみるよ、繭」
 2つのボタンを操作してクレーンを操る長森。いつになく目が真剣になっている。
 「よし、ここだっ! えいっ、‥‥‥やった!掴んだよっ、‥‥‥って、あれ?」
 景品は見事にキャッチした。が、取出し口から出てきた景品はタコさんだった‥‥‥。
 「あ〜ん、どうしてえ〜〜っ、前にやった時もタコさんだったよ〜」
 「みゅ〜♪」
 椎名はタコの足の部分が気に入ったようだ。
 「あはは、ごめんね〜、これでもいい?」
 「うんっ」
 満足そうな顔をして長森からタコさんを受け取った。
 「あれぇ〜? 瑞佳じゃない」
 突然長森に声をかけてきたのは七瀬だった。
 「あ、七瀬さん、久しぶりだね〜」
 「うん、そうね‥‥‥って、ぎゃーーーーーっ!」
 「みゅー♪」
 「あ、こら、だめだよ繭、ほら、手を離して」
 椎名は久しぶりに七瀬に会ったことが嬉しかったのか、反射的に髪を引っ張ってしまったが
長森に注意されてすぐに手を離した。
 「くっ‥‥‥あんたもいた訳ね‥‥‥」
 うかつだったといいたげに七瀬は椎名を睨む。
 「はぁ〜、まあいいわ。とりあえず外は寒いからどっか店に入らない?」
 「うん、そうだね。‥‥‥どこに行こうか?」
 「そうねぇ〜‥‥‥近くにBOSがあるからそこにしましょ」
 七瀬は椎名をちらりと一瞥してから即断した。


 この日椎名は長森と七瀬に連れられるままにいろいろな場所を見て廻った。
 そして午後の4時頃になってようやく椎名はみあと約束していた神社にやってきた。しかし約束
の時間から6時間も過ぎていてはみあは当然いない‥‥‥。 だがそれでも椎名はどこかで
自分を待っているかもしれないと思い神社の周辺を探し始めた。
 「みあーーーーっ!」
 とりあえず呼んでみたが返事はなかった‥‥‥。
 「みゅー‥‥‥さむい‥‥‥」
 だんだん身体が凍えはじめたのであきらめて帰ろうとした時、神社の入り口で、石が乗せられ
た紙切れがあるのに気が付いた。石をどけて紙を手にとってみると何かが書いてあった。

 『繭のばかっ! もう絶交よっ!』

 「うぐっ‥‥‥みあ」
 椎名は心の中でみあに謝罪した。心の中で何度も何度も。
 「みあ‥‥‥このさむい中、ずっと待っていたのかな‥‥‥」
 うっすらと涙を浮かべて紙切れに書かれた文字を見つめ続ける。
 「あした‥‥‥あやまらないと‥‥‥」
 椎名はみあの残した紙切れをポケットにしまうと、重い足取りで帰路についた。


 月曜日、みあは学校を休んだ‥‥‥。

 火曜日もみあは学校に来なかった。どうやら風邪をこじらせたらしい‥‥‥。

 そして水曜日になってみあはようやく登校してきた。教室に入ってきたみあを発見した椎名は
パタパタと駆け寄っていった。
 「みあ‥‥‥」
 しかしみあは椎名と顔を合わせないようにあからさまに背けながら、さっさと自分の席に座って
しまった。椎名は何も言えずにその場に立ち尽くしていたが、意を決してみあの席に向かった。
 「みあ、あのね‥‥‥」
 「あ、ねえねえ友子ちゃ〜ん」
 椎名が話しかけようとしたが、みあは他の子の元へ行ってしまった。
 「うくー‥‥‥」
 すると椎名は自分の席に戻って、例の誓約書のノートを取り出してみあの机にそっと忍ばせて
置いた。
 しばらくしてからそのノートに気が付いたみあがページをめくって椎名の書いた誓約に目を通
した。その様子を見て椎名は少しばかり安心したが、みあが次に採った行動は椎名が予想し
得ないものだった。
 「なんのつもりよっ!」
 ノートを持って椎名のところへやってきた。
 「みゅー、おともだち」
 「よ、よくもぬけぬけとそんな事が言えるわねっ! ‥‥‥わたしあのとき2時間も待ったのよ!
だけどあんたなかなか来ないから、もしや事故にでも遭ったんじゃないかって思って電話したら
‥‥‥9時頃に友達と出掛けたって‥‥‥わたし、あんたがわたしのこと友達だって言ってくれ
た時‥‥‥すごくうれしかったのに‥‥‥なのにあんたは‥‥‥あんたは‥‥‥」
 みあの顔は怒りとも悲しみともとれる表情で打ち震えていた。
 「繭の大うそつきーーーーーーーっ!」
 そう叫ぶと、誓約の書かれたページをノートから破り取ってから椎名の目の前でビリビリと裂い
てしまった。予想外の出来事に椎名は成す術もなくただただあっけにとられていた。
 「絶交だから‥‥‥」
 そう言い残してみあは自分の席に戻っていった。
 「うー‥‥‥」
 バラバラになった誓約書を椎名は1枚残らず丹念に拾い集める。

 椎名とみあのやり取りをみていた女生徒の一部がみあのところにやってきた。
 「ちょっとあんた、最近調子に乗り過ぎなんじゃないの?」
 3人がかりでみあを取り囲んで責めはじめた。
 「なによいきなり、‥‥‥調子に乗ってなんかいないわ」
 「あら〜? だってさっき椎名さんにひどい事してたじゃない」
 「あれは、‥‥‥あれは、彼女が悪いからよ」
 「あんたはそうやってすぐに人を悪者扱いするのね‥‥‥」
 「だって本当だもんっ!」
 みあは絡まれている恐怖からか、半ば泣きそうになっている。そして、その様子に気付いた
椎名が心配そうな面持ちで状況を窺っていた。
 「それにあんた、月曜日学校休んだでしょ? なんで休んだのさ?」
 「風邪をひいてたのよ」
 「うそおっしゃい、体育がマラソンだったから、それが嫌でズル休みしたんでしょ?」
 「わたしそんなことしないわっ!」
 「しかもリアルさを増すために2日もたっぷりと休養しちゃってさ」
 「ちがうわよっ!」
 みあの目からは涙が流れ落ちていた。
 「あら〜、なにも泣くことないじゃない。あんたにひどいことされた椎名さんだって泣いてない
のに〜、ふふふ‥‥‥ま、今日のところはいいわ」
 みあを泣かせた事に満足したのか、ガラの悪い3人組は自分の席に戻っていった。みあは
机に突っ伏して泣いていた。椎名はそんな状況に堪りかねたのか、再びみあの元へやって来
た。
 「みゅー‥‥‥」
 「あんたなんか大キライよ‥‥顔もみたくないわ、あっちに行って」
 みあは顔を机に突っ伏したまま冷たく椎名に告げる。
 「ごめんね、みあ」
 今の椎名にはそれが精一杯の言葉だった。


 次の日から例の3人組がみあに対していじめをしてくるようになった。とはいっても人目に付く
ような派手な行為はしない。上履きを隠したり、黒板に変なウワサを書いたり、ノートいっぱいに
悪戯書きをしたり、陰険な手段である。
 みあが上履きを履いていないのに気が付いた椎名はスリッパを借りてきて、みあに渡そうと
したり、黒板に書かれたウワサをいち早く発見してはすぐさま消したり、ノートがなくて困っている
時には自分のノートを使うように勧めたりしたが、みあは頑なに断り続けた。


 そんな状況が1ヶ月続いたある日のこと‥‥‥

 教室移動の時に忘れ物をしてしまった椎名は急いで教室に戻ってきた。そこには例の3人組
がいて、みあの机に集まって何かをしていた。
 「ねえ、今度は机に彫り物してみない?」
 「ええ〜、それはちょっと目立ちすぎでしょ。痕が残るようなのはダメよ」
 「そっかぁ‥‥‥じゃあ体操服でもゴミ箱に入れておこうか」
 「なんかそれ、前にもやった気がするけど‥‥‥まあいいかげんネタが切れちゃったし、それ
でいいわね」
 3人は、巾着に入っているみあの体操服を取り出した。
 「だめーーーーーっ!」
 椎名は急いで3人の所へ駆け寄って体操服を奪おうとした。
 「えっ? 椎名さん?」
 「みゅーーーーーーーーっ!!」
 椎名はがむしゃらに体操服を引っ張る。
 「ちょっと椎名さんっ!離してよっ!」
 「そうよ椎名さん、みあはあんたのことひどい目に遭わせたんだよ?」
 「そうよそうよっ! わたしたちはあんたの代わりに仕返ししてあげてるんじゃない」
 「みゅーーーーっ、まゆはしかえしなんか頼んでないもぅん。全部まゆが悪いんだもぅん」
 そういうと椎名は一人の髪を掴んで引っ張った。
 「きゃああああっ! ちょっと、いたたたたたっ!」
 「みゅーーーーーっ! みゅーーーーーーっ!」
 「いたたたたたっ! は、離しなさいよーーーーーっ!!」
 さんざん七瀬の髪を引っ張り続けて鍛え上げられたのか、椎名の腕は髪を掴んだまま離れる
ことはなかった。
 「繭っ!」
 教室の入り口から突然声がした。
 「みゅっ?」
 「もういいわ‥‥‥繭」
 「みゅ、みあ?」
 「ちっ‥‥‥みんな、行くわよ」
 3人はそそくさと教室を出て行ってしまった。そして彼女らが遠ざかったのを確認したみあは
ゆっくりと椎名に近づいた。
 「あんたはなんてムチャなことするの? あの3人が本気になったらあんたかなわないわよ?」
 「みゅー」
 「さっきわたし、忘れ物取りに戻ろうとしたら、繭が走っているのが見えてね、鉢合わせしない
ように様子を伺ってたら‥‥‥さっきの場に出くわしちゃって‥‥‥」
 「ごめんね、みあ」
 「なんで繭があやまるの? わたし繭にひどいことしたんだよ? あの、あの紙だってびりびり
に破いちゃって‥‥‥‥‥‥、繭は悪くないんだよ‥‥‥わたし知ってたんだ。 繭の家に電話
した時におばさんに聞いたんだ。あの日、繭と一緒に出掛けたおねえさんのこと‥‥‥」
 「みゅー‥‥‥瑞佳おねえちゃん‥‥‥」
 「瑞佳さんっていうんだ、そのおねえさん。 その瑞佳さんって繭にとってはとても大切な、彼氏
と同じくらい大切な人なんだってね‥‥‥わたしとの友情なんか‥‥‥それに比べればまだ
まだ甘っちょろいよね‥‥‥」
 「みあ‥‥‥」
 「なんかわたし、ひとりで友情ごっこしてたみたい。あはは、なんかバカみたいだよね‥‥‥
わたしなんか、‥‥‥わたしなんか、何も繭の役に立ててないのにね、ほんとずうずうしいよね、
勝手にひとりで腹を立てて、絶交とか言い出しちゃって‥‥‥」
 みあの瞳からは止めど無く涙が溢れ出し、手はぎゅっと握られてぷるぷると震えていた。
 「なのに繭はわたしがいじめられてた時もずっと優しかった‥‥‥。ずっとわたしを気遣って
くれた‥‥‥。さっきだって‥‥‥自分の事は構わずに3人に食ってかかっていったし‥‥‥」
 「みゅー、こわかった」
 「あはは、繭はやっぱつよいよ! わたしが今まで思っていたより百億倍はつよいよ! わたし
なんかとてもあんな真似できないもん‥‥‥。 はぁ〜、やっぱりわたしなんかじゃ繭の友達と
しては不釣り合いかもね‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「そんなことないよ‥‥‥」
 「そうだ、わたしも謝っておかなくちゃ! ごめんね、繭‥‥‥友情の押し売りなんかしちゃって
さ。だけどわたしはこれからも繭のこと一方的に友達だと思い続けるからね? そのくらいは
いいでしょ?」
 みあの発言に返事をしないまま、椎名は自分の席に行って何かを探し始めた。そしてそれは
すぐに見つかり手に持って戻ってくると、それをみあに差し出した。みあはそれを黙って受け取
る。
 「あっ、これは!」
 それは以前みあが細かく破いてしまった椎名の誓約書だった。だがそれは断片ひとつ漏ら
さずにきれいにセロテープで接ぎ合わされていた。
 「みゅっ、パズルゲーム♪」
 「繭‥‥‥あんたって子は‥‥‥」
 「おともだち」
 「こんな‥‥‥どうしようもないわたしを‥‥‥友達って呼んでくれるの?」
 「みあは、まゆのおともだちだから‥‥‥」
 「繭‥‥繭ぅ‥‥‥ごめんね、ごめんね‥‥‥うわああぁぁぁーーーーーーーーん」
 みあは椎名に抱きついて思いっきり泣いた。椎名の方からも優しくみあを抱き寄せた。
 「まゆも‥‥‥まゆもね‥‥‥みあがまゆのこと、むかしからのなかよしみたいって言って
くれたのが嬉しかった‥‥‥」
 二人は次の授業のことはさておいて、教室で一時を過ごした。


 そして放課後の帰り道‥‥‥

 「ねえ繭、誓いの宜‥‥‥いまからやらない? わたしもね、実は誓約書をずっと離さず持って
たんだ」
 「うんっ」
 「じゃあ神社に行こっ!」
 「うんっ♪」
 二人は元気いっぱいに神社へと走り出した。


 『 繭へ‥‥。 いつまでもわたしと仲良くしてください。  みあ 』
 『みあちゃんだいすき♪ これからもずっとなかよしさんだよ  繭より』(継ぎ接ぎだらけ)


                      お わ り

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『誓いの宜』の元ネタというか、参考にしたのは「○○の○○」です(爆)

>まてつやさん
 >究極のSS
 ええ〜〜〜〜〜っ!あれやるんすかぁ〜〜っ(^^;;;;;

http://www3.airnet.ne.jp/ichigo/