戦う乙女たち!! 〜3 〜(後編) 投稿者: いちごう
 七瀬は、髭の言われるままにリング上へゆっくりと眼を向けた。
 「‥‥‥!? ええっ!? あ、あれはっ?? なに?」
 「ふふふ、”あれ”とは失礼ね〜」
 リング下の七瀬はリング上の物体‥‥‥いや人である、を凝視したまま固まって動かない。
 他の連中はというと、先ほどの七瀬とのスパーで散々絞られたため、今日の練習を終了して
すでに帰途についていた。
 「どうしたの? 戦わないの?」
 「あ‥‥‥あなたは、誰?」
 固まっていた七瀬がようやく口を開く。
 「あら、人として認識してくれたのね? ふふふ、嬉しい」
 「なんなのよっ!あなたはっ!?」
 七瀬は今の状況が理解できずにイライラしていた。
 「ふふふふっ、見ての通りよ。”あなた”よ」
 「あ、あたしですってぇぇぇーーーっ!?」
 そう、七瀬が相手にしている人物は七瀬にそっくり、‥‥‥というよりもそのものであった。
だが、髪の毛や肌のの色は七瀬とは明らかに違っていた。
 「どういうことなの?」
 恐ろしい形相をして七瀬が髭に向き直る。
 「んあ〜、どういう事も何も‥‥‥、今のこの現状がすべてだよ。ちなみに彼女のリングネーム
はだな〜、んあ〜『ドッペル七瀬』だ」
 「ド、ドッペル七瀬ぇ〜〜っ? な、なによっ!あたしのリングネームよりもましじゃないっ!!」
 「ふふふ、よろしくね、ゴンザレスさん」
 「いうなぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
 「んあ〜、ゴンザレスくん、試合はするのかね?しないのかね?」
 「ひ〜ん、髭社長まで〜〜〜っ!」
 「んあ〜、悪い悪い。だがこの場ではそう言わないと区別がな‥‥‥」
 「そ、そうね、‥‥‥しかたがないわね、‥‥‥‥‥‥試合、やりましょう!」


 その頃、居酒屋『永遠』では‥‥‥

 折原と住井がまたまた酒を酌み交わしていた。
 「ところでよぉ、住井ぃぃぃぃ〜、‥‥今度ONE女子プロレスのなぁぁ、小田原アリーナ大会で
なぁぁ〜、注目すべき一戦が行なわれるんだぜぇぇぇ〜〜」
 「小田原大会といえば、おれらのプロレス実況最後の仕事だなぁぁぁぁ〜〜。‥‥‥で、どんな
一戦なんだああぁぁぁ〜〜??」
 「おう、なんでもよぉ〜、あのMOON.ていう団体から新しい選手を3人送りこんできて、ONE
のエースの七瀬と試合するらしいんだぁ〜」
 「えええぇ〜〜〜っ? 3対1なのかああぁぁぁ〜〜〜〜っ??」
 「さあなぁぁ〜? まだ未定らしいがなぁぁ〜」
 「新しい選手ってのは誰なんだよぉぉぉ〜?折原ぁぁ〜〜」
 「ん〜、それは公表されていないんだぁぁ‥‥‥」
 折原と住井はすでに心が小田原大会に飛んでいた。
 「どうでもいいけど、このカニすごくおいしいよ〜」
 川名はまだいた‥‥‥。


 再びONE女子プロレス練習場‥‥‥

 リング上にはゴンザレスとドッペルが対峙し、レフェリーとして髭が側に控えている。
 「んあ〜、2人ともいいかね?」
 髭の質問に2人は無言のままコクリと頷いた。
 「んあ〜、それでは〜‥‥‥ファイトッ!!」
 いよいよゴンザレスにとってのリングネーム改変をめぐる一大試合が開始された。
 「うおりゃあああぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」
 ドゴオオオォォォーーーーーーーーンッ
 開始早々いきなり渾身のドロップキックをドッペルにおみまいする。ドッペルは勢いよくマットに
倒れこむ。そしてゴンザレスの方も攻撃を食らわせた後マットに突っ伏したままなかなか起き
上がらない。
 「げほっ、げほっ、な、なんなの?」
 攻撃を与えた側の七瀬の顔がなぜか苦痛に歪んでいる。
 「ぐ、‥‥‥ふふ、言ったでしょ‥‥‥、わたしは”あなた”なのよ」
 ドッペルも苦痛の表情をしているので七瀬の攻撃は一応通じていたようであった。
 「な、にを‥‥また、ばかなこと‥‥‥」
 ゴンザレスとドッペルはゆっくりと立ち上がった。
 「わたしの痛みはあなたの痛みなのよ‥‥‥」
 ドッペルはまるで勝ち誇ったかのようにゴンザレスに語りかける。 どうやら身体の痛みをこの
2人は共有しているようなのだが、2人を戦わせた当人である髭はこの事を知らなかった。
 「そんなことがあって‥‥‥‥‥‥たまるかあああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
 バキャアアアァァァァァーーーーーーーーーッ
 ゴンザレスは叫びながらドッペルの首めがけてラリアットを放った。
 「ぐふーーーーーっ!」
 「ぐはーーーーーっ!」
 またもやドッペルに続いてゴンザレスまで倒れ込んだ。
 「ぐふ、‥‥‥無駄、よ‥‥‥この勝負は‥‥‥わたしは勝つことはないけど、負けることも
ないのよ‥‥、それは、あなたも同じ‥‥‥」
 (うぐ‥‥‥、一体どうしたらいいのよーっ! ほんとにダメージがあたしに返ってきてるわ。
このままでは共倒れになっちゃうじゃない! 勝たなくちゃ意味がないのよ! リングネームが
かかってるんだから! ‥‥‥頭であれこれ考えたって何も出てきはしないわ‥‥‥)
 「攻撃あるのみよーーーーーーーーーっ!!」

 その後もゴンザレスはDDT、パワーボム、ジャーマンスプレックス、足4の字固め、腕ひしぎ
逆十字‥‥‥などなど、様々な技を放っていった、が、ゴンザレス自身の体力をも大幅に奪う
結果となった。
 「はぁっ‥‥‥はぁっ‥‥‥こうなったら必殺技『乙女ボム98』を食らわすしかないわ‥‥‥」
 そういってフラフラになった身体でドッペルに近づき技をかけようとしたその時‥‥‥
 「だめだよっ!留美ちゃんっ!!」
 川名がいつの間にかリング下に立っていた。
 「み‥‥みさき‥‥‥先輩?」
 「留美ちゃんっ!よく聞いて! 『TOP』だよ〜っ!!」
 「え? トップ‥‥‥ですか?」
 川名は力強く頷く。
 (トップ‥‥‥一体何かしら? あたしがONE女のトップだからしっかりしろと言いたいのかし
ら? いや、そんな事じゃないわね‥‥‥う〜ん‥‥‥トップ、トップ‥‥‥はっ! もしかした
ら‥‥‥あの事かしら? 迷ってる場合じゃないわ、少しでも可能性があるのならそれにかける
しかないわっ!!)
 ゴンザレスはドッペルと少し間合いをとって深呼吸をし、ドッペルに向かってビシッと指差した。
 「旧トップページッ!!」
 ゴンザレスは一言叫んだ。するとドッペルはガクリと膝をつき、そのままマットに倒れこんだ。
 「うぐぐぐぐぐぐっ! ぐぐああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」
 ほとんど悲鳴のような叫び声を上げながらドッペルは悶え苦しんでいる。
 「否定すればするほど苦しむのはあなた自身なのよ?」
 「ぎぃぃぃやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
 「もう、とっくに終わってたことなのよ‥‥‥」
 「うぎぎぎぎぎああああぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」
 「あなたの負けよ、ドッペル‥‥‥もう苦しむ必要ないわ‥‥‥」
 「が‥‥‥ぐ、ぐ、ぐ、ぐぅぅぅぅぅーーーーっ!!」
 「あなたはなくなる訳じゃない、あたしとひとつになるだけなの‥‥‥」
 「はぅっ、ぐふぁぁぁぁ‥‥‥ぁぁ‥‥‥」
 「さあっ!」
 ゴンザレスはドッペルに向けて両手を伸ばす。
 「ぁぁ‥‥‥ぁ‥‥‥」
 苦痛から開放されたのか、ドッペルの顔は安らかになりゴンザレスに手を伸ばすと同化する
ようにスーっと消えていった。 そしてしばらくしてゴンザレス‥‥‥いや、七瀬はペタンとマット
に座り込んでしまった。
 「みさき先輩‥‥‥ありがと」
 「どういたしまして」
 「んあ〜、これは一体どういうことだ? ドッペル君はどこへ?」
 「タクティクスの旧ホームページの今のトップページをみてもらえればわかります」
 「んあ〜??」
 髭は全然納得できない様子でしきりに首を傾げている。
 「ところで髭社長、あたし一応勝ちましたからリングネーム変えさせて下さいね?」
 「んあ〜、わかった! すでに考えてある!」
 「ええっ? あたしにつけさせてよ〜っ!」
 「んあ〜、誰もそんな約束はしていないぞ?」
 「そんなああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 七瀬の叫び声が練習場にこだまする。

 「髭ちゃん、夕食おごってよ〜」
 「ん、んあ〜‥‥‥」


                        お し ま い

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前半から間が開きすぎて申し訳ないです(^^;;;;;;  前半なんかもうリーフ図書館に収録
されてるもんなぁ〜、う〜む。 しかもこれだけ待たせておいて七瀬の次のリングネーム公表
してないし(笑) というかこのお話はリングネームを重要視してる訳ではないって事を認識して
欲しいわけです。間違っても4に引っ張って行くためではないのであしからず(^^;;;;
ちなみに今回もそうでしたが4はほとんどギャグではなくなると思います。

そういえば少し前に書いた「ファースト・キス」の直後にゴタゴタがあったため、あっという間に
ログが後ろに流れるわ、感想どころではないわであまり感想を聞くことが出来なかったのが少し
悲しかったです(ToT) 一応あれがおれにとっての最後のシリアスSSになると思うんですけど
続編の案も一応は存在してます。まあ、それは気が向いたらって事で‥‥‥。


自分のHPでリレーSSやってます。どなたでも参加できますからどうぞよろしくです〜(^^)/

http://www3.airnet.ne.jp/ichigo/