ファースト・キス 投稿者: いちごう
 「おかあさ〜ん、いってきま〜す」
 「あっ? ねぇ繭、ちょっと待って」
 「みゅ? なに?」」
 自分の部屋を出て、玄関へ向かって廊下をパタパタと走っていた繭を母親が声をかけて引きとめ
た。
 「うん、ちょっと待ってね」
 繭の母親はそう言うと居間に引っ込んで、2分程で繭の元へ現れた。
 「じゃーん! お母さんがむかし愛用してたリボンよ! ねえ、これ着けていかない? 今日はせっかく
の浩平さんとのデートなんでしょ? うんとおめかしして行かなきゃ」
 「みゅー、デートじゃないもぅ〜ん」
 「ふふ、何言ってるのよ、クリスマス・イヴに男女が楽しい一時を過ごす‥‥‥、これをデートと言
わずに何ていうのよ?」
 繭の母親は、繭の反応を楽しんでるかのように少し意地悪くクスクスと笑った。
 「おかあさんのいじわるぅ〜っ、それにまゆ、もう子供じゃないんだからそんなリボン恥ずかしいく
て着けられないよ‥‥‥」
 「え〜?そうかなあ、繭に似合うと思うんだけどなあ‥‥‥、あ!それじゃカチューシャはどう?」
 「‥‥‥うん、それならいいよ」
 繭の母親は、カチューシャもリボンと一緒に持って来ていたらしく、スカートのポケットからそれを
取りだして、一度くしで髪を梳かしてから繭の髪に丁寧な仕草で飾った。
 「いってらっしゃい、 しっかりね〜っ! 浩平さんによろしくね〜っ!」
 にこにこしながら手を振って、繭を母親が送り出す。


 浩平がこの世界に戻ってきてから2年近くの月日が流れていた。
 繭とみあはそれぞれ別の学校に進学したものの、その友情は変ることなく、それどころかお互い
親友と呼べるほどに、その仲は進展していった。
 繭と母親も、血のつながりはないものの、悲しい時や嬉しい時、その感情を素直にお互いの前で
しっかりと表現できるようになった。
 繭は、これらの環境の変化はすべて浩平のおかげと認識し、しだいに自分の心の中で浩平の
存在が増大していき、頼もしい尊敬できるお兄さんという存在になっていった。


 「デートじゃないもぅ〜ん」
 繭は道を歩きながら、先程の母親の「 しっかりね〜っ」という言葉を思い返し、心の中を複雑な気
持ちでモヤモヤさせながら、ひとりつぶやいた。
 浩平と繭はこの日、浩平が通っていた高校の校門の前で午後の5時に会う約束をしていた。が、
繭はそれより1時間も早く校門の前にやって来た。そのむかし、浩平たちの学校に通うために七瀬
の制服を受け取りにいった日も、中庭で何時間も待っていたり、浩平が消えてしまった日もハンバー
ガー屋で閉店まで待っていた前歴を持つ繭にとって、長い時間待つ事は苦痛ではなかった。
 「みゅ〜♪」
 むしろ待っている時間を堪能している繭だった。が、その時‥‥
 「やっぱり‥‥もう来てたか」
 繭は、いきなり後ろから声がしたので、少しびっくりして振り向いた。そこには、少し呆れ顔で笑って
いる浩平が立っていた。
 「ほへ?」
 突然の浩平の襲来に、繭は一瞬訳が分らずに、何とも間抜けなリアクションをした。
 「‥‥‥って、おい椎名‥‥そ、その服は!?」
 そう、浩平が驚いたのも無理はない。なんと繭は、2年前の初めて浩平と「恋人」として迎えた
クリスマス・イヴのデートで着た、あの七瀬に借りた洋服を、今日もまた着ていたのだ。
 「うんっ! みゅー‥‥‥じゃなかった、えへ、七瀬おねえちゃんがまゆにくれたの♪」
 繭は少しおどけてぺろっと舌を出した。
 「え?そうなのか?七瀬が? ‥‥‥はは、あいつらしいや」
 「うん、この間まで返すのすっかり忘れててね、返しにいったら、もういらないわ、あんたにあげる
って‥‥‥」
 「なに、そうだったのか! よかったな椎名。ちゃんと七瀬にお礼を言ったか?」
 「うんっ」
 とても嬉しそうに顔をほころばせて、繭は元気に首を縦に振った。
 「そうか〜、えらいぞ繭〜〜〜っ!」
 浩平は繭の頭を、髪がくちゃくちゃになるくらい激しく撫でまわす。
 「う〜、まゆ、もう子供じゃないもぅん」
 繭は手でくしゃくしゃになった髪を再び整えながら、ほっぺをぷーっと膨らます。
 「そうか? 身長は2年前と全然変ってないし、それに‥‥‥胸だって‥‥」
 わざとスケベったらしい表情を作り、浩平は繭の胸の辺りを覗きこむような仕草をする。
 「みゅっ、みゅっ! そんなことないもぅ〜ん! そんなことないもぅ〜ん!」
 「ははは、冗談だよ、冗談! 悪かったな!」
 胸を両手で覆いながら少し顔を赤らめて上目遣いに睨む繭に向かって、浩平は苦笑を交えながら
謝った。
 「よし、じゃあそろそろ‥‥‥」
 浩平が何か言いかけた直後、繭が何かに気が付いたのか、ある方向にいきなり走り出した。浩平
も急いでその後を追う。そして走ってる最中に浩平も、繭が向かっている先の存在に気が付いた。
 2年前の迷子の子犬の飼い主の男の子が、その先を歩いていたのだ。
 「みゅーーーっ!」
 繭は以前の口癖が抜けきらないままに、走りながら手を振って男の子に呼びかけた。すると、男
の子の方も繭のことを覚えていたのか、繭を見たとたんにその顔から笑顔がこぼれる。
 「あの時のおねえちゃん!!」
 「みゅー、こんにちは。 えっと、‥‥‥あの時の子犬は元気?」
 「え!?‥‥‥ぁ」
 男の子の、さっきまで元気だった表情が、繭の質問を聞いたとたんに陰りを見せ、そして俯いてし
まった。 その一瞬の表情の変化を見ていた浩平は何かを悟ったような感じで、チラッと繭の様子を
伺う。 繭にもだいたいの察しがついたのか、少し困惑して浩平の方に目を配らせる。
 「この間‥‥病気で‥‥‥‥‥死んじゃったんだ」
 男の子がひどく悲しそうにつぶやく。
 「‥‥‥みゅー」
 「ぼうず‥‥‥、そうか、そいつは可哀相になぁ‥‥‥気を落とすんじゃないぞ」
 男の子は浩平の声が聞こえてるのか聞こえてないのか、俯いたまま目をしっかりと見開いて、泣
かない様にこらえていた。繭にはそれを充分に窺い知ることができた。
 「みゅー‥‥‥、ぼく‥‥辛いよね?悲しいよね?」
 繭の言葉を聞いて男の子が微かに頷く。そして繭は男の子を静かに優しく抱き寄せた。浩平はこの
状況では立ち尽くしているしかなかった。というよりも、愛していた動物を失った悲しみを、身を持って
理解し、そしてその心を共有している繭にこの場を任せるのが最善と判断し、二人の様子を静かに
見つめていた。
 「みゅー、あのね‥‥ぼくは男の子だから泣くのを我慢してるの? 悲しいんでしょ?せつないんで
しょ? ‥‥‥うんとね、男の子だから泣いちゃダメなんてことはないの。泣かない子が男の子だ、
強い子だ、なんてことはないんだよ‥‥‥。 あのね、おかあさんが教えてくれたの‥‥‥、本当に
悲しい時は泣いてもいいんだよって‥‥‥」
 男の子の瞳ははすでに大量の涙で潤んでいた。
 「おねえちゃんもね、前に飼ってた動物が死んじゃってね、わーわー泣いちゃった。お友達がいな
くなっちゃったよー、また一人ぼっちだよー、って‥‥‥」
 繭も今また当時の事を思い出して、目に薄っすらと涙を浮かべて、男の子を少し強く抱いた。すると、
とうとう男の子の心の内の止金が外れた。
 「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーん!」
 繭は自分の胸の内で泣きじゃくっている男の子の頭を、優しく、何度も何度も、丁寧に、ゆっくりと
撫でてあげた。最後に泣いた日から今日までの3年間で母親から受けた愛情を、今度は他の人間に
注ぐことができるまでに、繭は成長していた。これほど急成長しているとは予想し得なかった浩平は、
驚嘆の眼差しで繭を見つめ、そしてこの時、今後の人生に関わるある重大な決意をしたのだった。

 本来だったら、この後、浩平と繭の二人だけで3年前のクリスマスに行ったレストランに行く予定に
なっていたのだけど、予約をキャンセルして、男の子と三人でファーストフード店でハンバーガーを食
べる事にした。
 「でね、でね、お正月はおじいちゃんのお家に行ってね‥‥‥」
 泣いたカラスがもう笑ってる、といった感じで、ついさっきまで大泣きしてた男の子はハンバーガー
を食べながら嬉しそうに浩平と繭に向かって話している。二人は突然の小さなお客の話を、頷きなが
ら熱心に聞いてあげていた。
 「ところでさあ、おねえちゃん達って恋人同士?」
 「みゅっ!?」
 「ぶーーーーーーーっ!」
 思わず浩平は飲みかけのコーラを吹き出す。
 「お、おいおいぼうず! ‥‥‥急に何を、って、まあ‥‥一時期そんな時もあったかなぁ?なかっ
たかなぁ〜? まあ、こいつは妹みたいなものだ」
 「う〜‥‥」
 恋人同士かと質問された繭はまんざらでもない表情をしていたのだが、浩平の返答を聞いて不満
の声を漏らして、少し寂しげな眼差しを浩平の方に向けたが、浩平の法ははそんな繭の態度には気
付いてないようだった。
 そして1時間くらい話をして、三人は店を出た。そして男の子は別れ際に繭に向かってこう言った。
 「おねえちゃん、今度いっしょに遊んでくれる?」
 「みゅ!いいよぉ、おねえちゃんでよければ♪」
 繭はやさしく微笑んで再び男の子の頭をよしよしと撫でる。浩平は、男の子が気持ち良さそうな顔
をしているのを見て、以前の繭を思い出したのか、くすくすと二人に気付かれない程度に笑った。
 そして男の子は大きく手を振りながら走り去っていった。
 「みゅ〜」
 繭は男の子が元気になってくれた事への安心感からか、ため息をもらした。
 「さて、と‥‥‥、椎名、次はどこに行く?」
 「うんとね〜」
 「どこでもいいぞ! 今日は椎名にとことん付き合うぞ!」
 「ほんと?」
 「おうっ!よきにはからえ、はっはっはっ!」
 「じゃあねぇ、‥‥‥‥‥‥みゅーのお墓」
 「えっ?」
 予想外の返答に浩平は一瞬固まった。
 「う〜、だめ?」
 「え?‥‥‥あ、う‥‥いや、椎名がお望みとあらば、みゅーの墓だろうがじいちゃんの墓だろうが
どこへだっておれは行くぞっ!」
 正直なところ浩平は、日も暮れて辺りは暗くなってしまった今からお墓参りがしたいなどと言う繭の
心境が理解できないでいた。が、どこでも行くと言ってしまった手前、行かざるを得ない状況なのも
また確かなのだ。
 「今からじゃ、あの裏山は暗くて怖いぞ?」
 「平気だもぅん」
 「やれやれ‥‥‥、わかったよ、じゃあいくぞ!」
 「うんっ」
 頑なな態度の繭に折れた浩平は、学校の裏山に向かって歩みを進めた。

 月明かりだけの学校の裏山の木々は風による緩やかなざわめきを立てて不気味にうねっている。
そんな中を二人は歩いて、みゅーのお墓の前までやって来た。3年前に浩平が目印にと置いた石
が今でもそこに置かれている。
 繭は墓の前でしゃがみ込むと、手を合わせて静かに目をつぶった。そして、しばらくして目を開くと、
お墓に向かって淡々と語り出した‥‥‥
 「みゅー、短い間だったけど、まゆのお友達でいてくれてありがとう。みゅーはまゆのたったひとりの
お友達だったから、死んじゃった時はどうしていいか分らなかった。 ほんとうに悲しかった。 うんと
ね、まゆも死んじゃいたかった‥‥‥」
 「‥‥‥椎名‥‥」
 「だけどね、みゅーが死んじゃったのはほんとに悲しかったけど、みゅーのおかげで楽しい事も
いっぱいあったんだよ。ここにいる浩平がみゅーのお墓作りを手伝ってくれたんだよ。えへ、みゅー
も浩平にお礼を言わなきゃね」
 そう言うと繭はみゅーの代わりのお礼のつもりで、いったん浩平の方に顔を向けて、目をつぶって
軽く会釈をし、再びお墓に向き直った。
 「ひょとしたらみゅーが浩平や長森おねえちゃんや七瀬おねえちゃん、そしてかけがえのない親友
のみあに引き合わせてくれたのかな? そうだとしたらまゆはみゅーにお礼を言わなきゃね‥‥‥。
ありがとう、みゅー‥‥‥ありがとう、ありがとう‥‥ありがとう‥‥‥」
 浩平も墓の前に座り込んで手を合わせてから繭の顔をちらりと見た。繭は以前のようにヒステリック
に大声を出さないものの、大粒の涙が頬を伝って次から次へと地面に流れ落ちている。浩平は黙っ
てその様子を見守ると、繭のようにお墓に向かって語り出した‥‥‥
 「なあ、みゅー。おまえは短い命の間で最高の友人と巡り会えたな。そんなおまえは世界一の幸せ
者だぞ! そしてオレからも礼をいうよ。 最高の妹に会わせてくれた事を‥‥」
 浩平の言葉に反応したのか、繭は急に顔を上げて悲しいのか嬉しいのか分らない表情で浩平を
見つめた。浩平もそれに気が付き、繭と目を合わせた。
 「椎名‥‥‥、いつ言おうかとずっと迷ってたんだけどな‥‥‥」
 「みゅ?」
 繭は浩平のただならぬ様子を感じて不安になり、顔がこわばった。
 「おれは今日の椎名の行動を見ていて決心がついたんだ‥‥‥」
 「みゅ?」
 「おまえはすごく立派に成長した! うん、心身ともにな‥‥‥。あ、身体はもう少しって所かな?
ま、それはともかくとしてだ、おまえはこれからどんどん恋をして一人前の女性にならなくてはいけ
ない‥‥‥」
 「みゅー‥‥」
 「そのためにはだな‥‥‥その‥‥‥言い辛いんだが‥‥‥」
 「???」
 「今日限りで‥‥‥オレと会うのはやめろ!」
 「みゅっ!?」
 繭はその言葉を聞いた瞬間身体をこわばらせ、驚愕の表情で浩平を見つめた。浩平はそんな繭
を正視できないでいた。
 「‥‥‥いずれは、このオレの存在が邪魔になる日が必ずやってくる。 今のうちなんだ‥‥‥。
早い方がいいんだ‥‥‥。 オレではやれない事も、今のおまえにはできる‥‥‥。 自分では分
らないだろうが成長したんだよおまえは」
 浩平は精神を弄るような言い知れぬ感覚に身体が震えていた。
 「‥‥‥」
 「おまえはもう母親さえも立派に助ける事ができると思うんだ‥‥‥」
 「‥‥‥」
 「ああ、それとだな‥‥、今日会った男の子のことをこれからも助けてやるんだぞ?」
 「‥‥‥」
 「‥‥‥」
 「‥‥‥」
 「‥‥それじゃあ帰るか?」
 浩平が帰ろうとして歩き出そうとした瞬間、繭が背中に力強く抱き着いてきた。
 「みゅーーーーーーーっ! みゅーーーーーーーーーーっ!!」
 「うわっ! お、おい椎名!?」
 「そんなのいやだもぅん! そんなのいやだもぅーーーーーん!!」
 「な?えっ!?」
 突然の繭の取り乱し様に浩平は狼狽した。
 「浩平は言ったもぅん! 合図するまで恋人同士だって、3年前の今日言ったもぅーーーん! まゆは
まだ合図聞いてないもぅーーーん!!」
 「あ!」
 浩平としては軽いお遊びのような約束のつもりが、繭にとっては3年も尾を引いていたのだ。それ
に今ようやく気が付いた浩平は、とんでもない事をしたという罪悪感で心が押し潰されそうになった。
 「まゆも‥‥‥最初は浩平のこと、ほんとのおにいちゃんができたつもりでいた。 だけど‥‥‥、
さっき浩平が言ったことは合っていたなって思った! 」
 「???」
 「まゆは‥‥‥まゆはね、浩平がすきっ!!」
 「えっ?」
 「ね? まゆは一人前の恋ができるようになったよ? 浩平が言った通り成長してたよ?」
 「し、椎名!」
 浩平は繭の突然の告白にまたも狼狽した。そして心の中で自問自答を始めた。
 (椎名はオレのことを好きだと言ってくれた。だけどオレは椎名のことを‥‥‥どうなんだ? オレは
今まで何のために椎名の世話をしてきたんだ? 椎名はオレにとって妹なのか? 椎名と別れたら
オレはどうなるんだ? 椎名はオレにとっての‥‥‥オレにとっての‥‥‥何なんだ?)
 浩平は微動だにせず押し黙っていた。答えが全然導き出されない。
 「浩平ぃーーーっ! じゃあ浩平はなんでまゆのところに帰ってきてくれたの? なんでまた消えよう
とするの?」
 (そうだ! オレが繭の元に帰ってこれたのは何故だ? あの時の繭にとってオレは絶対必要な存在
ではなかったはずだ! だとしたら‥‥‥オレが繭を必要としていたんじゃないのか?)
 「そんなのひどいもぅん! まゆ、今日はっきり分ったの‥‥‥浩平がまゆのこと、妹だ、妹だ、って
言う度に心が妙な感覚で締め付けられて‥‥‥そしてさっき、浩平がまゆとはもう会わないって言っ
た時に確信に変ったの! まゆは浩平の妹なんかじゃないっ、3年前に浩平が言ってた恋人なんだ
って‥‥‥‥‥‥」
 (オレも‥‥‥オレも、さっきもう会わないと言ってしまった時、何とも言い知れぬ恐怖感、後悔の
念、罪悪感、孤独感、せつなさ‥‥‥様々な感覚が精神をえぐった‥‥‥。椎名はオレにとって、
ただの妹ではないんじゃないのか! お互いの心の隙間を埋める事のできるかけがえのない存在の
はずなのではないのか!? ええ?折原浩平!!)
 「浩平ぃーっ! すきーーーーっ!!」
 「し‥‥‥い‥な‥‥‥」
 「まゆから離れないでーーーーーーーーっ!!」
 「椎名っ!」
 「浩平っ!?」
 「離すもんかっ!オレだって‥‥‥オレだって‥‥椎名が好きなんだぞっ、心の底から!」
 浩平のこの言葉を聞いた繭は涙で顔がくしゃくしゃになった。
 「うぐっ‥‥‥こ、うへぃぃ‥‥‥」
 「椎名‥‥すまなかった‥‥‥好きだっ!!」
 「ひぐっ‥‥‥うわああぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!!」

 繭はしばらくの時間、浩平の背中で泣いていた。そして頃合を見計らって浩平は繭を背中からやさ
しく引き剥がし、繭の正面に向き直った。
 「椎名も困ったやつだなぁ‥‥‥、椎名は今悲しいのか?」
 ぶるんぶるん、と繭は大げさに首を振る。 その、むかしのままの仕草を見て浩平は吹き出しそうに
なった。
 「お母さんが教えてくれたんだろ? 悲しい時しか泣いちゃダメだって」
 「 悲しい時しか、なんて言ってないもぅん。‥‥‥嬉しい時も泣いていいんだもぅ〜ん」
 鼻をぐずらせながらも少しばかり笑みをこぼして繭は反論した。
 「はは、おまえも随分とまぁ御都合主義だな」
 そう言う浩平の言葉にはからかうような雰囲気は一切感じられず、やさしさで満ち溢れていた。
それに安心しきったのか、繭は今度は浩平の正面から力を入れずに抱き着いてきた。 そして浩平の
両腕がそれをやさしく包む。
 「浩平、まゆをずっと‥‥‥離さないでね?」
 「ああ、もう合図なんか必要ない!いまからオレたちは正真正銘の恋人同士だ」
 浩平の繭を抱く手がほんの少しだけ強まる。
 「みゅ〜」
 繭がそれに反応し、小さく声を漏らす‥‥‥。

 どのくらいの時間がたっただろうか、二人にとって永遠ともいえる時間を抱き合っていたが、浩平
がゆっくりと抱いている手を緩めると、繭もそれに従って浩平からほんの少し離れた。
 そして今度は浩平が顔を繭の顔にゆっくりと近づけていくと、繭は精一杯背伸びをして、そっと目を
閉じた。そして互いの唇は重なり合った‥‥‥。


 みゅーの死によって互いに引かれ会う運命だった二人。恋人ごっこからちょうど3年で本当の恋人
へと昇格した。二人の人生は必ずしも平坦なものではないだろう‥‥‥。だけど二人にはどんな障
害をも乗り越えることができる絆を持っている‥‥‥。そう二人は確信しているのだ。


 12月24日
 きょうは浩平と初めてキスをした。
 てりやきの味だった♪

                                             〜終わり〜

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 お久しぶりです!いちごうです(^^)
 「戦う乙女たち〜3〜」を前編で止めておいてこんなの書いてたら、なんかこっ酷いお叱りを受け
そうですが(^^;;;  ‥‥まぁ絶対に書きますから許してください。
今回のは書きたかった2本のテーマ、「繭とのデート」と「みゅーのお墓参り」を合体させてしまった
ので、自分のSSとしては異例の長さになりました。
 例の子犬とかも勝手に殺しちゃいましたが、こんなその後もありだなっていう、まあ一種のパラレル
ワールドみたいなものですね‥‥って、後日談なんかみんなそうか(^^;;;
 あと、繭がけっこう喋りますが、これは浩平と繭ママとみあの3人の心が繭の心にピピっと届いて
2年の歳月をかけてああいう風になっていったと考えてください。繭の癖は極力残したつもりですが。
 はぁ〜、だけど繭の後日談っていうのを書くのはホント骨が折れましたよ(^^;; 繭というキャラは
ONEの中で唯一成長型だから、1年後でさえどんな風に成長してるのか想像するのが難しい。
だからとりあえず、あまり先の年に設定せずに原作のエンディングから2年も経過してないように
したんですね。
 書き始める直前までは、全編ほのぼのチックにするつもりだったんですが、あの子犬は死んで
しまったという風に書いてる途中で設定変更してしまったからさあ大変! 繭は男の子を泣かせる
わ、浩平は繭との絶交を言い渡すわで、波瀾含みの展開になっちゃいましたね〜(^^;;;
 あと、キスシーンのようなラブラブな描写も初めて書いたんで(そりゃあそうだわな〜、いつもギャグ
ばっかりかいてるんだから(笑))、かなり照れまくりです(*^^*)
 オチの日記は自分としてはギャグのつもりではないんですが、まあそこらへんはどう捉えても構い
ませんです、ハイ!

 ついでに補足しておきますと繭の一人称の「まゆ」は自分が勝手に作りましたので、イメージと
違うわっ!っと思われた方はどうかご了承くださいねっ♪

 あ、最後にひとつだけ!今回のSSはゲーム中でエッチをしなかったルートを想定して書きました
ので、なんでしたらそういう事を踏まえてもう一度読み直してみてください!(おいおい)

 え〜、それと最近の作品は未読で溜めちゃってるんで‥‥‥感想ごめちゃいっ!
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 去る10月24日にタクの東京オフがありました。ここの常連さんの中からは自分とGOMIMUSIさん
が参加しましてSSの事とかお話したんですが‥‥‥う〜ん2時間は短すぎた!もっといっぱいお話
したかったんですが‥‥残念! 他の皆さんも何か一緒のオフ会に参加する機会があったら、その時
はお話したいですね♪
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 次こそはいよいよ「戦う乙女たち〜3〜」後編を書くと思いますので(^^;;;;;
 ではでは〜♪

 ↓↓↓最近自分のHP作ってたんで顔を出せなかったんです。よかったら遊びにきてください(^^)

http://www3.airnet.ne.jp/ichigo/