日常ものがたり 第4話「死して屍拾うものなし!」 投稿者: 渡部いちごう
 オレと長森は、椎名と一緒にプレステで遊ぶために椎名の家にやってきたわけなの
だが、あいにく椎名が持っていたソフトは一人でしか遊べないRPGだった。しかた
がないからオレは一度家に戻ってみんなで楽しめるソフトを探してみる事にした。

 「とりあえずは格闘ものだな。二人でしかできないけど、交代しながらやればいい
だろ。で、もうひとつは‥‥‥よし、フライトシューティングにしよう! オレの華
麗なスーパーテクを披露して二人を驚かせてやらないとな」

 超絶ハイパーダッシュで椎名の家に戻る。

 「あ、早かったねえ」
 「みゅーっ」
 ふたりがわくわくした面持ちで出迎えてきた。そしてオレの持ってきたソフトを見
るや否や、長森ががっかりした表情をオレの方に向ける。
 「うーん、格闘ゲームなんて、わたしできないよぉっ」
 「そうか? だけどやれば絶対ハマるぞ。椎名だってほら、興味惹かれてるみたい
だぜ?」
 そう言われて長森は椎名の様子を見やる。椎名はソフトのケースを手にとり、「わぁ
♪」とか「はぇー」とか言いながら目を輝かせて眺めている。ま、実際のところは
何がなんだか分からないのだろうけど。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 で、意外とみんなゲームに熱中して,かなり遅い時間になってしまったため、椎名の
お母さんの勧めで、今日は椎名の家に泊まる事にした。その時の椎名ったらみゅーみゅー
と大はしゃぎをしてオレや長森に嬉しそうに抱きついてきた。
 そんな椎名の様子をちょっぴり悲しげな表情で見つめていた椎名のお母さんの事が
少しだけ気になったけど‥‥‥。

 そして次の日の朝を迎えたオレたちは、一緒に登校する運びとなったワケだ。
 「きのうは楽しかったね、繭。浩平の持ってきたゲーム、意外と面白かったよね?」
 「うんっ」
 「そりゃそうだ。オレさまの買うゲームにクソという文字は無いのだ!!」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。まあ確かに別の意味で楽しいには楽しかったけどな。いつも
住井たちと遊ぶときは真剣勝負になって、しまいには賭け試合にまで発展しちまう時
もあるからな。だけどきのうのは全然違う。何というか‥‥‥本来あるべき家庭の暖か
さを感じる事ができたというか、むかし失ったような気がする「何か」を感じる事がで
きたというか。
 ま、ひとつ残念な事といえば、長森と椎名が一緒にお風呂に入った時に、オレだけが
のけ者になったことくらいかな? オレも一緒に入りたかったのに‥‥‥。

 「浩平のえっち!」
 「みゅーっ」
 「って、わーーーーーっ、オレ何も言ってないぞーーーっ?」
 なんで長森はオレの考えている事がわかるんだ??
 ん? そういえば昨日と似たような展開の気がするぞ。とするとそろそろ選択肢だな?
となれば、ここはひとつ‥‥‥
 「おまえらにひとつ言いたいんだけどな‥‥‥‥‥」

   1. 長森に告白する。
   2. 椎名に告白する。

 ほーれきた! 今回こそはオレの思った通りの選択を‥‥‥‥‥って、おいっ!
ふさわしい項目がないじゃないかっ! どーすりゃいいんだよっ?
 これは困った事になったぞ‥‥‥。1番なんかを選んだら、またえらいことを告白
して通行人に笑われるかもしれないし、かといって2番なんか選んだあかつきには
長森から『ろりろり星人』の称号を無条件で与えられるかもしれないし‥‥‥。
 うーん、冷静に冷静に。
 1番を採るべきか、2番を採るべきか‥‥‥。
 2番を採るべきか、1番を採るべきか‥‥‥。
 1番か2番か1番か2番か1番か2番か‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 ズドーーーーーーーーーーーーーンッ!!

 「きゃーーーっ!」
 「ぐぼへーーーーーっ!!」
 「わあぁっ、浩平!」
 「みゅーーーっ!」
 オレは腹部に鈍いような鋭いような痛みと嘔吐感にみまわれながら、ズシャーーーッ
と頭のめりに思いっきり地面に突っ伏した。
 「がふぁーーーっ!? ‥‥‥ぐあ? な、七瀬ぇ?」
 「あ、あは、折原?‥‥‥だいじょーぶ?」
 「がほっ、お、おまえぇぇっ、みぞおちに肘鉄いれたなぁぁぁっ?」
 「えっ? あはは、え〜っと‥‥‥‥‥‥」

   1. 逃げられる
   2. 介抱される

 ‥‥‥‥‥‥ぐはぅぅっ、に、2番に‥‥‥‥‥って‥‥‥ぐ、
 「‥‥‥‥‥逃げられたっ!」
 「みゅーっ♪」
 「へへっ、椎名‥‥そうか、オレの事そんなに心配してくれるのか? だがな‥‥
オレ、もう‥‥だめみたいだ‥‥‥がふぅっ!! ‥‥‥‥ 」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
 「ほえー」
 ひじょうに気がぬけるリアクションだった。

 「もおっ、ばかなことやってないで、遅刻しちゃうよぉっ」
 「そうだぞ椎名っ! 死して屍拾うものなし、という事をわすれるな!」
 「うんっ♪」
 ‥‥‥‥おそらく何もわかってないだろうな。オレも何言ってるんだかわからない
けどな。
 「もおっ、なに意味不明な事言ってるんだよっ」
 「おお、そうだった、って、うおぉぉっ! ちょっ、ちょっと待てっ」
 「どうしたの?」
 「ふえっ?」
 「いや、さっきの衝撃で膝ロックシステムに異常が‥‥‥不自然な角度のまま固定
されてしまってだな‥‥」
 「わぁ♪」
 「そんなこと言ったって、このままじゃ遅刻だよっ」
 「なんだとぉ?誰のせいでこんな事になったと‥‥‥」
 「行くよ、繭!」
 「みゅーっ」
 「こ、こらぁぁぁーーーーっ!!」

 長森はスーパーダッシュで走り去る!
 椎名はスペシャルグレートダッシュで走り去る!
 オレは大回転ハイジャンプえび反り分身ダッシュで‥‥‥って、ぎっちょん、ぎっ
ちょん、ぎっちょん、ぎっ‥‥ズテーーーーーン!!

 ‥‥‥‥‥‥遅刻確定。

               お し ま い 

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 はい、お待たせしました第4話ですぅ。
 じつはコレを書く直前に繭シナリオを再びクリアして、思いっきり泣きまくってから
書き始めたものですから、冒頭はなんか和やかなムードになってますね。
 このゲームは、‥‥‥まあ、みなさんは充分すぎる程理解してるとは思いますが、クリア
直後は精神が凄まじい状態になるので、ギャグ思考回路はすべて断絶されてしまって、
復旧するまでに暫く時間がかかるんですね(笑)。
 ようやくシリアス地獄(笑)から脱出できたと思ったら、いきなり予定ルートから脱線
するし‥‥‥。 ほんとは告白の選択は別の展開を考えていたんですけどね。
 まあ、結果的に今回のオチに流れさせる事ができたわけだからよしとしましょう。

 えーと、ほんとはこの話書くまえに一本だけシリアス物を考えていて(これを掲載する
前の方が筋の通りが良かった‥‥‥て、ほんのりネタバレぎみ)、、それを書こうとして
たんですけどオレのギャグ作家としての本能がそれを許さなかったみたいですね(笑)。
 ‥‥‥って、オレはギャグ作家確定かいっ!!

 P.S.えっと、今更ですけど「日常ものがたり」って一応『繭SS』です(笑)。

 それでは次回は第5話かシリアス物で会いましょう。