お名前なんてーの?  投稿者:矢田 洋


「へぇ、折原に似ず可愛らしい子じゃない」
「わぁ♪」
『かわいいの』
「なんたって茜の赤ちゃんだしねっ!」
「…オレは七瀬以外呼んでいないはずだが…?」

 病室で浩平は頭を抱えていた。

「あんなこと言われてるよ二人ともっ」
「うー…じゃま?」
『お邪魔なの?』
「お前だ、柚木っ!」
「…浩平、騒がしいです」
「す、すまん、茜」

 あわてて謝る浩平の姿に、七瀬は苦笑を浮かべた。

「一目で力関係が見て取れるわね…それで、用事って何なの? まさか子供を
 見せるだけ、なんて言わないでしょうね」
「ああ、そうだったな。実は折り入って頼みがあるんだが…七瀬、女の子の名
 前、何か考えてくれ」
「はあ? ひょっとしてその子の? どうしてよ、別にあたしなんかに頼まな
 くたっていいじゃない」
「いや、それがな、茜の家って意外と保守的というか…『そちらの家の子供で
 すから、どうぞそちらで良いように名付けてください』なんて言われちまう
 し、由起子さんも『あたしは子供なんて生んだことも名付けたこともないん
 だから、あんたらの好きにしなさい』ってな調子でな。それで生まれたのが
 男の子なら茜が、女の子ならオレが名前を付けることにしたんだが…」

 視線を向けられた茜が、困ったような表情で続ける。

「…浩平が『独創性あふれる他に類を見ない名前を付けてやろうと思うんだが』
 などと言い出して…」
「まあ、茜に却下されてな。そこで七瀬、お前の出番というわけだ」
「いやよ、面倒くさい」
「そうか、お前なら乙女に相応しいセンシティブな名前を思いつくだろうと
 思ったんだが…。無理なのか、残念だな」
「出、出来るわよっ、もちろんっ」
「なら、考えてくれ」
「だから面倒だって、言ってるでしょ」
「本当に出来るのか…?」
「だから出来るって!」
「うそだ」
「ほんとう!」
「じゃぁ、いいじゃないか。考えてくれても」
「…分かったわよ…」

 渋々、七瀬が頷く。

「まあ、そうね…浩平と茜じゃ1文字ずつとって、ってわけにもいかないか。
 女の子なんだし、『茜』に合わせて色から、なんてのはどう?」
「妥当なところだな。色というと…赤とか」
「赤ねぇ…って、シャレじゃないでしょうが! 真面目にやりなさいよ、まっ
 たく。名前に付けるなら緑、紫、菫、蒼、藍、萌葱、浅葱…。『茜』に近い
 色というと赤系だから、桜、桃、朱、紅…」
「イマイチどれもピンとこないなぁ。合わせるのは意味じゃなくてもいいだろ、
 母韻を合わせるってのはどうだ」
「いいんじゃない。それで、具体的には?」
「ワカメとか」
「サザエさんかっ!? 真面目に考えろって言ってるでしょ、アホっ!!」
「…七瀬さん、ここは病院です」
「ご、ごめん…。えっと、じゃあ…あやめ、さなえ、まさえ…」
「高目、堅め、眺め…」
「あたし、帰るわっ」
「すまんオレが悪かった」
「浩平、少しは大人になろうよ〜」

 花瓶の水を替えて戻ってきた瑞佳が、呆れたように割り込んでくる。

「ところで、ねえ浩平、わたしっ、いい名前があるんだけどっ…!」
「ばかっ、大事な娘に猫の名前なんか付けられてたまるかっ」
「馬鹿は浩平だよっ、女の子にそんな猫の名前なんて付けないもんっ」
「とにかくだよもんのおばさんクサいセンスなんぞに用はない」
「うう、ひどいよ浩平〜」

 …実のところ、浩平には瑞佳の意見を採用できない理由があるのだ。茜の入
 院中、食事の用意や掃除洗濯などの家事全般は瑞佳がしてくれており、病院
 でも茜の世話をしていたりする。それは茜も感謝しているようではあるが…
 結婚している男の家に上がり込んで家事をこなす『只の』幼なじみ、なんて
 存在をどう思っているものか。恐い。はっきり言って恐い。そのうえ子供の
 名前まで瑞佳に付けさせたら…考えるだに恐ろしい。

「それじゃあ澪、繭。なんかないか?」
『美緒は?』
「ゆうひ♪」
「他社ネタはやめいっ!! く、仕方ない…聞きたくはなかったが柚木、どう
 だ、いい名前の候補はあるか? 全然まったくこれっぽっちも期待なんかは
 してないが、一応聞くだけ聞いてやろうと言わないこともなくはない…って、
 おい、何やってる!?」
「あはっ、まだ首も据わってないねぇ♪」<カックンカックン
「その代わり目が据わってるぞ」
「…据わってません」
「さらに肝も据わってるんだ」
「…据わってません」
「根性も…」
「浩平」

 茜が浩平の言葉を遮る。

「…いいんですか?」
「ほぉら、高い高ぁ〜い♪」
「どわあっ、そうだった! よせ柚木、首がガクガクしてるぞ!!」
「えぇ〜、せっかく喜んでるのにぃ…」
「はぁ…いいから名前を考えてくれ…」
「あたしにちなんで『詩子さん』なんてどうかな」
「ナゼにおまえにちなまねばならんのだっ!!」
「…それに『さん』づけはどうでしょうか?」
「……茜、そこはつっこむところじゃない…」

 浩平は疲れた表情でしゃがみこんだ。

「ふぅ…やはりここはオレが独創性あふれる…」
「絶対に嫌です」
「ダメだよ、浩平っ」
「ま、子供の将来を考えると、ねえ」
「そうそう♪」
「聞きもしないでおまえらなぁ…ん、どうした澪?」
『聞きたいの』

 キラキラと期待に目を輝かせている。

「みゅー、なんてつけるの?」
「ぐあ、椎名もかっ!?」
「…そうですね、真面目に考えるのでしたら」
「うん、聞いてみたい、かな?」
「あんたのセンスじゃマトモな名前は出てきそうにないけど」
「『詩子さん』でいいのに…」
「くっ、どこにも逃げ場はないのかっ」
「観念してください」

 微笑む茜に背を向けると、浩平は窓から外を眺めた。
 
「………『みさお』………」
「え…」
「そうだな、『みさお』でどうだ?」
「みさお?」
「どっから出てきたのよ?」
「…浩平の、妹さんの名前…です。確か、幼い頃に亡くなられたとか…」
「ああ…」

 そう、茜だけは知っている。永遠の世界、そこへ旅立つ原因を。

「そう、なんだ…」
「…ふーん」
 えとえと。
「ほえ?」

 誰もが言葉を失う中で、ただ一人マイペースな人物がいた。

「じゃあ、よろしくね、みさおちゃん♪」
「…うん、そうだね。これからよろしく」
「父親に似たら駄目よ」
『よろしくなの』
「ふいふい♪」
「…いいんですか、浩平」
「茜さえ良ければ、だけど」
「後ろ向きなのは、浩平らしくありません」
「やっぱりダメか…?」
「…でも、いい名前です」

 優しい笑みを浮かべて。

「それがいいです。浩平の、大事な名前。大切な思い出…」
「そっか…じゃあ決まりだな」
「はい…浩平?」
「ん、なんだ?」
「今度は、失くさないようにしましょう。絶対に」

 そうだ、もう二度と失わない。この子も、世界も、もちろん茜も。
 絶対も、永遠も、ありえないとは知っているけれど。
 決して自分から手放しはしない。

「ああ、絶対に、な」



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(おまけの替え歌)<まあ同じ名前ネタということで


 誰?「み」の歌(ドレミの歌)


 「み」は瑞佳の「み」

 い〜え みさおの「み」

 七瀬 留美の「み」!

 『わたしの「み」なの〜』

 みさきの「み」だよ〜

 深山の「み」だわ〜

 住井の「み」だぜぇ

 さぁ誰のでしょ?



(コメント)

 いまさら書くまでもないけど、名前に「み」のつくキャラ、多いですよね?



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ヨウ「久々に一発ネタじゃないマトモな作品を投稿できてひと安心な≪ジーク
   ジオンな流離いのときめきすと≫矢田洋です。うーん、ほぼ一ヶ月ぶり
   になるのかな?」
らな「内容がマトモかどうかは別だけど。…ってこれいつも言ってるような。
   サポート役の矢高らなです。ホント久しぶりよね。しかもオマケをつけ
   る余裕まであるなんて。悪いことが起きなきゃいいけど」
ヨウ「…もう起きたわ、バカ者!!」
らな「ああ、あれ? 金曜日の朝イチで来た客が精○異○者だった、ってヤツ」
ヨウ「昼まで半日、そいつ一人にかかりきりだぞ、まったく。『スパイと間違
   われて命を狙われているから名前と住所と戸籍を変えたい』なんて妄想
   並べ立てるわ、届出書に転居先が書いてないから訊けば『あなたに教え
   る訳にはいかない』なんて言い出すわ、あげくの果てには『あなたじゃ
   話にならない』『税金泥棒』『コネで入って仕事もせずに給料もらって
   るくせに』『これだからお役所の人間は』ときたもんだ。そんな相手で
   も市民には違いないから笑顔で応対して、ひたすら頭を下げて、なだめ
   て…泣けるぜ。キチ○○よりはヤ○ザの方がまだマシだ、さすがに市役
   所の中では暴力ふるわないからな、あの連中も…まあ、時々しか」
らな「あのねぇ、ここでグチってどうするのよ。つまんないこと書く前に感想
   書きなさいよね」
ヨウ「ん…まあ書くだけ書いたらスッキリしたし。では読者の皆様、大変失礼
   いたしました。ひとつ笑い話と思って軽く流してくださいませ」
らな「それでは感想、どうぞ」



>ひささま

○終わらない休日 第22話
 >足を付ける…着ける、の方が良いのでは。着地という言葉もありますし。
        間違いではない、とは思いますが。
 >軽快さ微塵も×:軽快さは微塵も○

 え、もう1話読める? やったあ!! 構想が膨らむのは良くあることです、
 頑張ってください。 

>北一色さま

○乙女の秋(前編)
 >立たずむ×:佇む○ …でも難しい字を使うよりひらがなの方がいいかも。

 こんなところで「緒  トメ」の名前を目にすることになろうとは…長生きは
 するものじゃのう……(笑)

 そういえばSS拳法の投稿、ありがとうございました。いや、ここで書くこ
 とではないような気もしますが。ホント、感謝です。実は、誰もネタにして
 くれなければ、自分で『修正してやるっ!!』とか名付けて投稿する気だっ
 たという(笑)

>WTTSさま

○一方その頃…広瀬(第35投稿)
 >大まかなの×:大まかな○

 あれ? (仮入選)って? 投票されてから取り消された、とかでしょうか。
 まさか0.5ポイントずつ、ってことはないですよね(笑)

○一方その頃…住井(第36投稿)
 >行っちまったたため×:行っちまったため○

 あ、やはり広瀬ファンは食中毒派ですか。自分は下剤派ですが…まあ確かに
 嫌がらせにしては無理があったりしますしね。

 感想…あうう、ありがとうございますぅ〜。
 いや、あそこは自分でもマズいと思いつつ、ネタ切れ時間切れでそのまま投
 稿してしまったもので。やはり推敲には力を入れないといけませんね。それ
 と確かにエンディングでした(恥)。これも不注意としか言い様がありませ
 ん。失礼しました。

 ところで、ご指摘の部分を修正してから某所に投稿してもいいですよね(笑)

>PELSONAさま

○起きないから奇跡って言うんですよ
 いやまあ、小さいのが好きって人もいるんだし、ねえ。

○奇跡ってそんな安っぽいものじゃないんです
 …って書いたら、浩平もかっ!? ま、自分も貧乳より微乳、微乳より無乳
 の方が好きだったりしますが(爆)

○少ないけど、感想
 はい、感想どうもありがとうございます。たれぱんだ…いいかも。
 ところでゆ○ひ調といえば、某所のSSも読みましたよ〜。いや、いまさら
 某所なんて書いてもバレバレですが(苦笑)

>はにゃまろさま

○世界は永遠
 いつもながらその構成力には脱帽です…。言葉の使い方、とか。文章の組み
 立て方、とか。毎回行き当たりばったりで書いてる人間には、とても…。

○ラインツ・ヘイルマン博士の永遠講座
 浩平も、永遠の世界でみずか相手になにをムキになってるんだか。無意味な
 ことに一生懸命なのは知ってたけど、それこそ『永遠に』続けるつもり?
 なぁんて言ってみたりして(笑)

>D&Pさま

○EinsturZ DeR WelT(2)
 >気に求めないで×:気にも留めないで○
 >しばらくする問いを×:しばらくすると意を○

 合作の都合上、間が空くのは仕方がありませんね。次はいつになるか、のん
 びり待ちましょう…作品は、のんびりなんて言ってられない内容ですが。

 ところで、D(覆面みさき)&P(仮面葉子)さんって、ダーク神凪さんと
 PELSONAさん、でしょうか? 違います? ってここで答える訳には
 いかないでしょうけど。でも「それ」を「其れ」と書くところとかが…。

>いばいばさま

○感想投稿+おまけSSです
 >ワフッル×:ワッフル○

 ううっ、茜さま凶悪…しかもエンドレス(笑)とは。ヒロイン達のコワレっ
 ぷりが最高です。

 感想、ありがとうございました。とらおねは七瀬が失敗でした…『青い髪』
 『一人だけ違う制服』『月明かりの下でダンス』などの共通点を生かせずじ
 まい…。次は別の場所(笑)でやってみたいような気もしますが、今はここ
 だけでせいいっぱいですし、こっちではやはり知らない人も結構多いみたい
 なのでもうやらないつもりですし。う〜ん、どなたかの個人ページにでも置
 かせてもらいましょうか…?

>Tromboneさま

○月は無慈悲な夜の女王
 >少年を来るのを×:少年の(が)来るのを
 >少女の切望していた乙女にした…少女を〜〜
  あるいは、乙女にしてくれた、などではどうでしょう? 

 ハインラインですか、懐かしい…。読んだの14、5年前かな?
 悲しい詩ですね、七瀬というとギャグにされることが多いのですが、本当は
 一番けなげなヒロインなのかも。

>高砂蓬介さま

○「○作」<○が並んで見づらいため、カッコをつけさせていただきました

 あの二人の「美学」からするとFARGOは合わないんじゃないかなぁ、
 なんて思ったりして。しかしエ○フといえば年末の某新作、本当に期待し
 て良いのかなあ…ノベル系は絵よりシナリオだと「加○」のヒドい原画が
 証明したし…って自分は「○奈」のシナリオを評価してませんが(爆)

 それと前回の投稿の際も書きましたが、私信です。えー、メールにお返事
 書いたつもりでしたが、届いてません? テスト明けでヒマになるであろ
 う頃にまた連絡するつもりではいますが…。どうもメール(というかサー
 バー)が信用できないもので、刑事版にでも書き込んでいただけると助か
 ります。届いた・届いてないだけで結構ですので。

>犬二号さま

○戦術小犬日記・10/11
 >会談×:階段○
 >カラス×:ガラス○

 「防衛(幽玄)漫玉日記」が元ネタ(というか計画名が「タクティクス小説
 犬二号日記」)ということは、<小犬>は「こいぬ」ではなく「しょういぬ」
 ですね? いえ、ちょっと気になっただけですが。

 うわーっ、読んであわててF先生のHPの掲示板チェックしてきましたよ。
 絵描きさんのサイトは掲示板まで見ていないもので…。量も多くなかったし
 五月まで遡って全部の発言を<ヒマ人
 なるほど、ゲーメストばかりかファンロードも(笑)処分とは…いやそんな
 ところじゃなくて、創作についての考えとか、読ませていただきました。プ
 レッシャーをかけるつもりはありませんが、本当に将来には期待してます。
 そのまま真っ直ぐ突き進んでください。自分などとは違い、プロを目指す時
 間も下地もあるのですから。

 それからもひとつ。「極東学園天国」お読みになってるようですが、前作の
 「プラスティック解体高校」はどうでしょう? あれは傑作です。まだなら
 早急に入手されることをお勧めします。…しかし「カイジ」ネタといい、ヤ
 ンマガ派のようですね。

>から丸&からすさま

○飛び続けた鳥の話
 あの、「一匹」とか「毛並み」とかは鳥には使わないのではないかと。

 で、これをここに投稿することの是非はおくとして、ですね。読んでいつも
 思うのですが…もったいない、です。すごく。すごい才能を感じるのに、そ
 の才能に文章が追い着かない、そう思えます。よけいなお世話かもしれませ
 んが、その創作の才能に文章力が加わったらと考えると…もっともっと上達
 して欲しい、そう思います。まあ、一ファンの一方的な要求に過ぎないので
 すが。失礼な発言、お許しください。



ヨウ「さて、感想おわり。次回はまたまた未定だったりします…いいかげん、
   エターナルファイターを完成させたいところですが」
らな「執筆中のコードネームが『みずか120%』というアレね」
ヨウ「QOH’99の体験版プレイして、やる気だけは上がったんだけどな。
   あと2キャラ、広瀬と氷上がどうにもこうにも…」
らな「ま、なんとかするのね。他人には頼れないんだし」
ヨウ「そりゃそうだ。それでは皆様、また来週」
らな「駄文におつきあいいただきまして、ありがとうございました」



yadayo/19991025/ss013