<あらすじ:佐織とつきあった浩平。誰からも忘れられ。消え行く間際、氷上がいた理由を知るために屋上に向かう。そして、佐織と『再会』する…ってなんか違う気も(^^;。以下、最終回です> ○ 部室 さっきから止まる事無く、佐織は喋り続けている。 クラスの話、友達の話、学校の話。そのどれもこれもが、どうでもいいような事。オレも佐織も。ただこんなことを、心から欲していたんだな。 けれど、もう、そろそろだった。 「…それじゃあ、な」 行こうとした時、服の裾を掴まれていた。 「…ずっと考えてた。どうして、あの時うちに来てくれなかったのか。愛されて無いんじゃないか、って思って。忘れる前に忘れようと思った。でも…考えて、考えてるうちに、なんとなくわかったんだ」 消えていくから。忘れられていくから。それなのに、 「帰ってこないつもり?」 押し当てられた唇は、とても愛しくて。 離れたくなくて。いつまでも一緒にいたくて。けれど、それが叶わない事なら、傷つけたくなくて。でも、 「帰ってくるよね」 大好きだから。 絶対、だなんて事は言えない。けれど、それが初めから諦めていい理由になんてならない。そうだよな。そんなの、初めから全部、佐織は分かってたのに。分かっていて、受け入れてくれようとしているっていうのに。 「…ああ」 <Hシーン> 繋がる手と手。触れ合う暖かさ。 立ち上がったオレは、ゆっくりと離れる指を見ていた。震え続ける佐織の指は白くて、闇の中に浮かび上がる。それは、とっても綺麗で。 「それじゃ、またな」 伸ばしたい手をひっこめて、軽く挙げる。けれど、その手は両腕でしっかりと抱き締められて。オレの顔を見た佐織が、鼻声で言う。 「うん。またね」 大好きな人。大好きな人が、目に一杯の涙を浮かべて。それでも、笑顔でいてくれたから。信じてくれていたから。だから、 「…浩平?」 だからきっと、 「浩平っ!」 帰ってこれる <遠いまなざし> ○ 佐織 春が来た。 新入生達の列を見ながら、みんな頑張れよ〜なんて思ってみたりする。色々あるけど、結構楽しいぞ、って。 夏 高校最後の夏だから、って。瑞佳と一緒に遊びまわった。 海の家で食べたかき氷は、潮の香りがした。 秋 図書館の帰り。勉強道具を入れた鞄を抱えながら歩いていると、足元で落ち葉が音を立てる。かさ、かさって。トンネルに入ると、後ろから誰かついてきているみたいな音が聞こえた。 振り返っても誰もいなかった。 冬 鬱陶しいくらいに降る雨を見上げる。 隣で瑞佳が、雪になったらいいね、と白い息を吐きながら言う。はーって息を吐くと、真っ白な息が広がった。競争しようよ、って言う瑞佳にあわせて、息を吐く。はーって。息が苦しくなるくらい、はー、って。 「…佐織?」 「なに?」 苦しいのは息だけのはずなのに。 「泣いてるの?」 「ちょっと、息がつまっちゃっただけだって」 なのに、涙は止まってくれない…どうしてなんだろうね。 そしてまた、春が来る。 昼休みになった。 私は、いつものようにみんなで昼御飯を食べる。食べ終えて、また、いつものように屋上に向かう。 大好きなあの人が、あの時、見ていたもの。それが何か見つかるまで、通おうと思っている。年明けから始めたこんな事も、また、ってつくようなことになってるんだな。 「あんな奴のどこがいいんだか」 …いつもと違う言葉をかけられた。 「え? 格好いいよ」 七瀬さんと瑞佳のやりとりに、足が早まる。廊下でぶつかった先生に謝りながら、まっすぐ屋上に。ドアを開けて、私は、なんだかわかんないうちにいきなり泣き出していた。 「よう」 また、会えたから。だから、とりあえず一言だけ。 「おかえりなさい」 ○エンディング 「…それで?」 オレはとてつもなくいやな予感がしていた。美味しい喫茶店を見つけたのは、よく分かった。分かったから、どうしようというんだ? 「一緒に行こう、って事だけど。時間無い?」 いや、時間はあるぞ。時間は、あるんだけどな。 降り注ぐ陽の光。木の葉の隙間を通った証拠が、地面に落ちている。隙間だらけの影を、笑顔ですくって佐織が笑う。財布の中身なんかわかってるよ、ってふうに。 「大丈夫。そんなに高いのは頼まないから」 やっぱり奢る事に決まってたか。 腕にしがみついて、べたべたと歩く佐織に、大きくため息をついてみせる。 「どうかしたの?」 「別にいいんだけどな」 佐織が、不意に足を止める。 腕をしっかり掴まれているから、引っ張られるようにしてオレも立ち止まった。なんだろうと思って振り返ると、唇に感触が伝わってきた。 「大好き」 オレも、大好きだ。 …って言うには、周囲に余りに人が多過ぎるんだけどな。 「あ〜。何も言ってくれない」 「ばか」 「照れてるな〜」 「悪かったな」 「悪くないよ」 こんなふうにして、オレ達は過ごしてゆこう。いくつもの季節、いくつもの日々、いくつもの時間を。流れ過ぎ去って、留まることの無い時間の中を。 一緒に、な。 <輝く季節へ> _____________________________________ いやあ、止まった止まった(^^;。 1に時間、2に気力。次いで、迷いです。書き上げたのは随分前なんですけど、しっくり来なくて。 よっぽど、いろいろなことに言及しようかと思いましたけど、やめました。「なんかよくわかんないけど、佐織もいいかも」と思って頂ければ幸いです。ラスト、ちょっと浩平らしさを捨てたのはご愛嬌(^^;。 このコーナーを提供して下さっているタクティクス様、感想を頂いた皆様、読んで下さった皆さん。本当に、ありがとうございました。 ちょっとだけ感想 ken-1さん『届かぬ想い届いた想い』 はじめまして。どっちかっていうと、詩な書き方ですよね。選んでる言葉とか、面白いです。ただ、はじめの「」連呼は、ちょっとずつ変えても面白いかも、って思いました。 から丸&からすさん『魔法使いと女の子のお話』 正直、読み難いです。すいません、変な事言って(^^;。頭の方、改行、変じゃありません? 根底にダークさがあるのが、童話らしいと感じました。 苦悩者さん『暁のハネムーン』 人称視点と心理描写の曖昧さも、狙い、なんですかね。周囲を取り巻く中に、不安、じゃありませんけど。曖昧な雰囲気が味になってますね。 Tromboneさん『その瞳にうつるもの〜不安〜』 誰で来て、何を見させるのかが主点ですよね。深山さんが、って事だと…いや、違うかな。ところで、会話文毎に改行置いてるのって、何か意味があるんですか? <上級カルトクイズ> 私のHNの読み方を当てて下さい(メールのみ)。正解者の方全員に、お詫び申し上げます(^^;。不正解の方には、この件については反応出来ませんのであしからず。「あれ?」と思われてた方、多分いらっしゃるかと思います。一度、ミスしましたし(^^;。 それではっ! http://garden.millto.net/~yusiro/