<あらすじ:佐織に告白してつきあった浩平。退屈な毎日。おだやかな日常。けれど、滅びは確実に迫ってきて。絆を求めるためだけに利用するのを嫌った浩平は、佐織を抱かず。そして、住井にも忘れられる> ○ 屋上 もう三月だというのに、屋上は寒かった。 気温は暖かい方なのかも知れない。それでも、体は凍えるほどに寒くて。 手擦りに寄りかかって、こちらに背を向けている。後ろ姿だけで、誰だか断言出来る相手。大好きな人。けれど、オレは安心するどころか、ますます寒く感じて。 「よう」 名前を呼びたかった。 ただ君の名前を呼んで、君にオレの名前を呼んでもらう事。ただそれだけの事が、オレの中でどんなにか大きかったか。今になって、分かるなんて。 振り返っていつものように笑顔を浮かべる君。 「…」 まだ昼飯を食べていないオレをののしって。それから、仕方なさそうな笑顔を浮かべ、一緒に食べようと誘ってくれる。ただ、なんてことの無いそんなこと。失うことなんてありえないと思ってた、日常。 けれど、 「…悪い」 オレを見る佐織の目は、 「邪魔したな」 他人を見る目だった。 ○ 階段 「ごめんなさい」 「いや、こっちこそ」 床に倒れている女生徒と、なんとも無いオレ。どう見ても、オレの方が加害者だろう。本心を言えば、すぐにも逃げ出したかったけれど。手を差し出して、相手の腕を取って引き起こしてやった。 「本当にごめんなさい。大丈夫ですか?」 こんな喋り方、するんだな。 「気にするなって。お前こそ、怪我とか無いのか?」 「あ、はい。ごめんなさい、急いでたせいで」 「どうかしたのか?」 「友達を探しているんです。佐織って女の子なんですけど、知ってます?」 普通、知ってるとは思わないだろう。見たことも無い奴に、そんなことを尋ねてどうする。いつも心配だと言ってくれていた。でも、オレはお前の方が心配だよ。 「佐織だったら、屋上にいたぞ」 「え? えっと…佐織のお友達か何かなんですか?」 幼馴染みだよ。 「じゃあな」 「はい」 …お前もな。 もう、オレのいる場所は無くなっているみたいだった。 クラスメートにも、親友にも、長年一緒だった幼馴染みにも忘れられて。そして、大好きな人に忘れられて。 大好きで、かけがえが無くて、大切にしたいと思っていた。ただ傍にいるだけで嬉しくて、声を聞いているだけで幸せだった。ずっと一緒にいたいと思ってた。 けれど、もう。オレの居場所は無くなってしまったんだな。 ○ 自室 <夜> 電話が鳴っている。 …切れた。 ○ 自室 <朝> 指先でかろうじて、この世界にしがみついているだけに過ぎなかった。 怖く、は無かった。辛く、も無いはずだった。 未だにこの世界にしがみついている自分が、不思議に思えてくる。このまま消えていくのも悪く無いかも知れない。そう思って、オレは目を閉じた。閉じた瞬間に浮かぶ、いや、ずっと浮かんでいる女の子の顔を振り払うと。同じ部活の奴の顔が浮かんだ。 氷上、とかいったよな。 そういや、あいつ… ○ 屋上 ここで一体、氷上の奴は何をしていたんだ? 辺りを見ても何も無い。屋上になんて、何も無いはずなのに。クリスマスの日、佐織はここで氷上に会おうとした。だとしたら、最後の瞬間。氷上はなんで、この場所に来たっていうんだろう。 不意に吹きつけてきた風に顔をしかめ。別に風が見えるわけでもないのに、風の吹いてきた方を見る。 …ああ、これだったんだな 夕焼け 誰にだって訪れる世界。幻想は幻想では無く、それは現実で。 その繋がりを、少しでも近く見つめる事で。氷上は、そこから離れようともがいていたんだな。何かを願ったのかも知れない、自分がいなくなる世界に。今のオレが、そんな気分だからそう思うだけだけど。 不意に、背中に体温を感じた。 「見つけた」 その満足そうな声に、思わず口から苦笑がもれる。首筋に当たる水滴に、ばかだな、と思う。胸がつまる。ああ、オレはこの娘が好きなんだな、って。 振り返ると、涙を浮かべた佐織が笑っていた。 _____________________________________ …遅れました(^^;。 描写訂正するだけだったんですけど…まいりました。説明増えるとつまらないんですけど、少ないと意味不明で。上の、わけわかんないですね、すいません。 ただ、あんまり放り出しておいても申し訳無いので。とりあえず終わらせる事にしました。次回完結。延ばすと、またごちゃごちゃ考えちゃいますので。明日出します。 感想…は、パス(^^;。これ、感想不要ですので、お構い無く。 http://garden.millto.net/~yusiro/