佐織 vol.7  投稿者:由代月


<あらすじ:佐織に告白してつきあった浩平。退屈な毎日。おだやかな日常。けれど、滅びは確実に迫ってきて。絆を求めるためだけに利用するのを嫌った浩平は、佐織を抱かず。そして、住井にも忘れられる>

○ 屋上

 もう三月だというのに、屋上は寒かった。
 気温は暖かい方なのかも知れない。それでも、体は凍えるほどに寒くて。
 手擦りに寄りかかって、こちらに背を向けている。後ろ姿だけで、誰だか断言出来る相手。大好きな人。けれど、オレは安心するどころか、ますます寒く感じて。
「よう」
 名前を呼びたかった。
 ただ君の名前を呼んで、君にオレの名前を呼んでもらう事。ただそれだけの事が、オレの中でどんなにか大きかったか。今になって、分かるなんて。
 振り返っていつものように笑顔を浮かべる君。
「…」
 まだ昼飯を食べていないオレをののしって。それから、仕方なさそうな笑顔を浮かべ、一緒に食べようと誘ってくれる。ただ、なんてことの無いそんなこと。失うことなんてありえないと思ってた、日常。
 けれど、
「…悪い」
 オレを見る佐織の目は、
「邪魔したな」
 他人を見る目だった。

○ 階段

「ごめんなさい」
「いや、こっちこそ」
 床に倒れている女生徒と、なんとも無いオレ。どう見ても、オレの方が加害者だろう。本心を言えば、すぐにも逃げ出したかったけれど。手を差し出して、相手の腕を取って引き起こしてやった。
「本当にごめんなさい。大丈夫ですか?」
 こんな喋り方、するんだな。
「気にするなって。お前こそ、怪我とか無いのか?」
「あ、はい。ごめんなさい、急いでたせいで」
「どうかしたのか?」
「友達を探しているんです。佐織って女の子なんですけど、知ってます?」
 普通、知ってるとは思わないだろう。見たことも無い奴に、そんなことを尋ねてどうする。いつも心配だと言ってくれていた。でも、オレはお前の方が心配だよ。
「佐織だったら、屋上にいたぞ」
「え? えっと…佐織のお友達か何かなんですか?」
 幼馴染みだよ。
「じゃあな」
「はい」
 …お前もな。
 もう、オレのいる場所は無くなっているみたいだった。
 クラスメートにも、親友にも、長年一緒だった幼馴染みにも忘れられて。そして、大好きな人に忘れられて。
 大好きで、かけがえが無くて、大切にしたいと思っていた。ただ傍にいるだけで嬉しくて、声を聞いているだけで幸せだった。ずっと一緒にいたいと思ってた。
 けれど、もう。オレの居場所は無くなってしまったんだな。

○ 自室 <夜>

 電話が鳴っている。
 …切れた。

○ 自室 <朝>

 指先でかろうじて、この世界にしがみついているだけに過ぎなかった。
 怖く、は無かった。辛く、も無いはずだった。
 未だにこの世界にしがみついている自分が、不思議に思えてくる。このまま消えていくのも悪く無いかも知れない。そう思って、オレは目を閉じた。閉じた瞬間に浮かぶ、いや、ずっと浮かんでいる女の子の顔を振り払うと。同じ部活の奴の顔が浮かんだ。
 氷上、とかいったよな。
 そういや、あいつ…

○ 屋上

 ここで一体、氷上の奴は何をしていたんだ?
 辺りを見ても何も無い。屋上になんて、何も無いはずなのに。クリスマスの日、佐織はここで氷上に会おうとした。だとしたら、最後の瞬間。氷上はなんで、この場所に来たっていうんだろう。
 不意に吹きつけてきた風に顔をしかめ。別に風が見えるわけでもないのに、風の吹いてきた方を見る。
 …ああ、これだったんだな
 夕焼け
 誰にだって訪れる世界。幻想は幻想では無く、それは現実で。
 その繋がりを、少しでも近く見つめる事で。氷上は、そこから離れようともがいていたんだな。何かを願ったのかも知れない、自分がいなくなる世界に。今のオレが、そんな気分だからそう思うだけだけど。
 不意に、背中に体温を感じた。
「見つけた」
 その満足そうな声に、思わず口から苦笑がもれる。首筋に当たる水滴に、ばかだな、と思う。胸がつまる。ああ、オレはこの娘が好きなんだな、って。
 振り返ると、涙を浮かべた佐織が笑っていた。

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 …遅れました(^^;。
 描写訂正するだけだったんですけど…まいりました。説明増えるとつまらないんですけど、少ないと意味不明で。上の、わけわかんないですね、すいません。
 ただ、あんまり放り出しておいても申し訳無いので。とりあえず終わらせる事にしました。次回完結。延ばすと、またごちゃごちゃ考えちゃいますので。明日出します。
 感想…は、パス(^^;。これ、感想不要ですので、お構い無く。
http://garden.millto.net/~yusiro/