佐織 vol.6 投稿者: 由代月
<告白相手に佐織を選んだ浩平。浩平が消える事を知りながら、それに応えた佐織。なんでもない日常の続く中、予感は。崩壊は。既に始まっていた>

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○ 教室 <放課後>

 誰もいない教室。
 冬の夕暮れは、時計を見て驚くぐらいに早い。とても澄んだ大気のせいか、空を染める赤は、とても綺麗だった。
 赤。夕焼けの赤。赤い夕暮れ。
 机も、椅子も、黒板も。目に映る全てが赤く染まっている。佐織の髪を揺らして、オレの頬をくすぐる風も。赤い色をしているみたいだった。
 赤い世界。
「綺麗だよね」
「ああ」
 言葉は特にいらなかった。肩を寄せて寄りそう佐織は、うっすらと開いた目で夕陽を眺めている。とても近く感じる佐織は、優しくて暖かかった。
 なんでもない時間。特別な事なんか一つも無い時。ただ穏やかに流れるだけの、安らかなひととき。ごくあたりまえの時間。どこにでもある日常。誰にでも訪れる、安らぎ。こみ上がる暖かい気持ちが、そのまま涙となって流れていく。
 失う。そんな日常を失ってしまうのか…どうして?
「願ったから」
 …そうだな
「私ね、浩平とこんなふうに一緒にいることを、願ってたんだ。だからだよね。だから、願いが叶ったんだよね」
「そうだな」
 願いは叶う。叶う願い。それが、純粋なものであればあるほど。そして、振り返ればあんなにも遠い時にあるから。だから、願いが叶うというのに…ぼくは…

○追想

○ 帰宅路 <夕方>

「それじゃな、佐織」
「あ? え、ええっと…」
 ん?
 ここで左に行けばオレの家だ。右に行って商店街を抜ければ、佐織の家に着く。ここのところ、毎朝のように迎えに来るくせに。帰りにオレが送ってやろうとすると、佐織は恥ずかしいと言って断る。いつもならそうだ。
 けれど、
 今日は繋いだ手を離そうとせずに、絡めた指を動かしている。それから、何か踏ん切りをつかせたみたいに体を寄せると。ゆっくりと顔を上げてきた。
 …真剣な目だ。
 まっすぐにオレを見るその瞳は、泣きそうなくらいに潤んでいて。じっと見続けられないかのように、すぐにそらす。けれどまた、オレの顔を見る。そらす、見る。呆れるくらいにその動作を繰り返す佐織から、何故か目を離せなかった。
 なんというか。佐織の熱が、伝わってくるみたいだった。
「今日、家には誰もいないんだ」
「そうか」
 それだったら…

<選択肢 「送る」>

「家まで送っていくか」
「う、うん」
 さっきから、ため息ばかりついている佐織は。やたら強調するように、何度か頷いた。一人では歩けなくなってしまったみたいに、オレの腕に両手でしがみついて。
 なんというか。両手両足を動かすのも、ぎくしゃくしている気がする。
 商店街中の視線を、浴びているような気がする。気のせいだと思おうとして、ふと横を見ると。ぬいぐるみ屋の店員が、にやにや笑いながら見ているのが目に入った。自分の顔から熱が出てるのが分かる。
 なにせ、つまり。佐織の家に誰もいなくて、それで。それでつまり、佐織が送ってもらいたがったって事は、つまりは…だから佐織は。オレは佐織の事が大好きだし、何よりも大切にしたいと思っている。だから、オレは…
 …オレは?
 オレはどうする気なんだ。

<選択肢 「ここで分かれる」>

「それじゃ、な」
「え?」
 足を止めたオレに。唐突過ぎたオレに、佐織が戸惑った顔を向ける。
 商店街をもうすぐ抜けるから、佐織の家は後ほんとうに少しだった。行ったことは無いけれど、佐織からどれがそうなのかは聞いているし。だから、家の前まで行く事だって、大した労力じゃない。
 けれど、
「また明日な」
 オレは多分、
「う、うん」
 怖かったんだ。
 佐織の事が好きだから。大好きだから。だから。だから、絆を求めたがった。けれど、オレは自分で分かっていた。この世界にすがりつく手段を求めているんだって事に。佐織を求める事が、その手段とは関係無いと言い切れないことが怖かった。
 勢い良く走り出した佐織が、振り返って大きく手を振る。オレはそれに、手を振り返していた。

○屋上 <昼>
 長森と『おかしの国』の会話。(七瀬シナリオと同じ)

○ 自室

今朝、佐織が起こしに来なかった。
 つきあいはじめてから、決まって毎朝起こしに来ていたっていうのに…ということで、来るまで待っていたら、昼になってしまった。由起子さんが折角作ってくれた弁当だけれど、家で一人で食べるのも味気無い。だから、学校で食べる事にした。

○教室 <昼>

 教室に入る。声をかけてくるクラスメートはいない。
 誰かがふと、オレに気付いて、友達に誰だったかと尋ねる。そしてその返事が、だんだん曖昧になっていくことが。聞くつもりも無いのに、授業中に聞こえていたしな。
「よう」
「ん?」
 住井に声をかけると、妙な顔でオレのことを見返してくるだけだった…そう、か。
「…何か用か?」
「ああ。佐織いるか?」
「佐織? ああ、佐織に用があるのか。悪いな、さっき屋上に行くとか言って出てったよ」
「ありがとう。助かったよ」
 屋上を目指す。
 寒かった。凍えるような空気に、両手で腕をつかむけれど。指の隙間からこぼれ落ちていくみたいで、暖かさを留める事は出来無かった。行き交う生徒達の顔は、見ないようにする。そこに、オレの知っている顔を見たく無かったから。

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 いつもより長くてすいません(^^;。
 後二回で終わらせます(^^;。お暇な方だけ、おつきあい下されば幸いです。わざわざ感想を頂いた方、本当にありがとう御座います(^^;。私はどうも書けませんし。飛ばして頂いて結構ですよ(^^)。

>ちょっと
 WTTSさんのカルトクイズ。自分の名前が出てるのに、分かりませんでした(^^;。
 ひささんは、本当。感想に気合い入っておられましたよね(^^;。無理は、なさらないで下さいね〜(^^;。

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