<!――#前回までのあらすじ。告白相手に浩平が選んだのは、佐織だった。クリスマスの日、佐織に手をひかれて浩平が向かった先は…>
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○ 屋上
「あれ?」
扉を開けて屋上に着いた途端、佐織が不思議そうな声を出した。ま、まさかこいつ、誰もいない事に驚いてるんじゃ無いだろうな…
こんな寒いってのに屋上に来るなんてのは。何の目的か全然分からない女と、そいつに無理矢理連れて来られた奴だけだと思うぞ。何にしても、寒い。っていうか、既に人間の棲める世界じゃ無くなってる気がする。
「どうした?」
さっきから屋上をうろうろとしている佐織に、オレは声をかけていた。理由は、まあ、なんとなく分かってる。放っておいたらどうなるか、佐織の表情を見れば多分、オレじゃ無くても気付いただろう事。
「…いない」
「誰が?」
「…わからない」
結局、オレは声をかけてやれなくなっていた。
色々といじめてやったが、長森が泣いたところを見た事は無い。女の子ってのはよく泣くものだが、それに対処を求められる事なんて。今までのオレには無かった事だから。
「嘘…冗談だと思ってた。あり得ないって思ってた…だから、真面目に聞かなかったし、今日ここに折原君を連れてきて。それで、笑っちゃえば済んじゃう事なんだって…そう思ってたのに」
取り乱して、涙を流し続けて、両手を振り回して。佐織は多分、自分で何をやっているのかにも気付いていないんだろう。
『思ってた』と言ってるけれど。それが本当は、『思いたかった』という事なんだとオレは気付いていた。それはつまり…
「どうして? どうしてここにいるはずだった人の事、思い出せないの?」
それが誰だか、オレには分かっていた。
「ねえ、折原君……」
まっすぐにオレを見つめてくる佐織の瞳は、とても澄んでいて。オレにも分からない疑問を、そのままぶつけてきていた。そして、その理由も分かった…いや、とっくに分かっていたんだ。
「本当に消えちゃうの?」
いつの間にか、こんなにも好きになってたんだな。オレ達。
○ 公園<夜>
虫の声もしない冬の夜は、とても静かだ。
とても張り詰めた澄んだ空気が、静けさを増しているみたいだった。風も吹かないから、物音なんて何一つしなくて。こんな空気が、オレは結構好きだった。胸いっぱいに吸い込むと、すっとするような感じがして。
「折原君が、真面目に部活やってないって話を聞いてたんだ。瑞佳からだった、かな? あれ? とにかくね、それで部室に顔を出してみて。それで、色々と聞いたの」
「そうか」
かなり長いつきあいになる佐織だけに。オレが説明出来無いでいる理由は、分かってくれているようだった。オレにだって分からないんだから。
「ところでだ、佐織」
オレは真剣な顔をして佐織を見た。怯えた子供みたいな目をしていた佐織は、震える肩を止めようとしながら。オレの方を向く。視線は確かじゃ無かったけれど。
「いつからオレの事、折原君なんて呼ぶようになったんだっけ?」
「はい?」
いや、真面目に聞いてるんだから、そんな変な顔をされても困るんだけどな。
…と思ったら、笑い出した。失礼な奴だ。オレはいたって真剣なんだが。
「いつからだったっけ?」
尚も笑いながら、佐織は続けていた。笑ってる理由に見当はつく。別にオレの質問がおかしかったんじゃなくて。こんな時に、こんな事を尋ねるオレがおかしかったんだろう。全く、失礼な奴だ。
「いや、昔は別の呼び方だったような気がするから…純然たる好奇心からの質問なんだが」
「瑞佳が浩平って呼ぶようになってからよ」
それで何で、佐織がオレの事を折原君と呼ぶようになったか尋ねる事に…するほど、オレは鈍いわけじゃ無い。しかし、まあ…そういう事だったとは。
「折原君が、例の『告白』をしたじゃない? あの時、瑞佳がね。『良かったねぇ』ってしみじみ喜んでくれたの。余裕なのかな? とか、色々思ったんだけど…あの娘はあの娘で、私に気を遣ってたんだな…って思って、ね」
だから『付き合う』事にしたのか。まあ、何にせよ。そういう関係が、オレ達らしいといえばオレ達らしいのかも知れない。結局、傷つくのが怖かったんだよな。
「それじゃ…」
気がついた時、オレの顔は佐織の手の中にあった。両手で優しくオレの顔を持った佐織が、顔を近づけてくる。そして、唇が触れた。
ちょんと、唇と唇が触れあうだけのキス
「よろしくね、浩平」
盟約
有限の盟約だ
「ああ」
佐織の顔が赤いのは、照れてるのもあるんだと思いたい。決して、止まらなくなってしまった涙のせいだけじゃないって。
なんたって、オレ達は恋人同士なんだしな。
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書けましたぁ!。いやぁ、ようやく書きたい部分を書く事が出来ました。後は無くてもいいです(をい)。この後、ラブを挟んで、別れがあって、EDですから…後、三回ぐらいで終わる…かな?。
感想を頂いた皆様、ありがとうございます(あ、勿論読んで下さった方も)。
私、ほとんど読めて無いんですよね(^^;。結局、HPへのUPも後回しにしっぱなしですし(^^;。手直しに回す余裕が無くって(^^;。
屋上で佐織が会おうとしてたのは、シュンです。クリスマスって事で、ばればれかなぁ…とも思ったんですけど、上手く隠せてたみたいで上出来、上出来。
今回、感想書けませんでした(^^;。はじめましての皆さん、はじめまして(^^)。
非常にゆっくりペースの連載です。お暇な方は、気長におつきあい下さい。http://garden.millto.net/~yusiro/