傷口とナイフ (夕焼けSS)  投稿者:吉田樹


 流されてる。
 いつからだろう、そんなことが気になり出したのは。何がきっかけ、というわけでも無い。けれど、気がつけばそれはいつも俺の中に存在していた。
 右を見ても左を見ても、どこにでもいるような奴ばかりで。
 そうして見まわしてる自分自身が、その、どこにでもいる下らない奴だと知っていた。知っているから。まるでそれは、自分自身で突き刺したナイフみたいに、いつも俺の心の奥を抉っている。
「でな、俊哉。俺はお前達の披露宴会場で、祝宴の挨拶をしてるんだ、これが」
「ああ、はいはい」
「少しは真面目に聞けよ」
「お前の夢の話を、なんで真面目に聞かなきゃならないんだよ。いつもいつも」
 傷口から流れ出るのは、なんなんだろう。
「これは大事な話なんだぞ」
 京平の話を、聞くでも無く楽しそうにしている周囲の女子達。傍から見れば、俺は彼女達と同じはずなんだ。京平の友達なんだし。
 けれど。参考書を眺めて、冷めた顔をしている水上さんと同じように。いや、同じで。
 俺は本当は、こちら側の人間なんかじゃ無いという気持ちが時々強くなる。本性をさらけ出せば、多分。水上さんと同じように、誰からも話しかけられない、そんな奴。こっち側であるなんて顔をしているだけで、それは、許されないことなのかも知れない。
「いざ実際に、お前と涼香の結婚式になった時に、同じ過ちを繰り返さないために…」
「無い。無いから安心しろ」
 一人は怖いから。
 今みたいに、京平の冗談口調に合いの手を入れて。周囲で聞いている女子達に、くすくすと笑われて。そんな中にいられるように、周囲を。なにより自分を、偽ってるんだ。
「だけどお前、あんな事を本当に披露宴でやったら恥ずかしいぞ?」
「…勿体ぶるなよ」
「聞きたいか?」
「聞きたくない」
「聞きたいだろ」
「聞きたくない」
 周りと同じ。みんな平等。落ちぶれた奴は、切り捨てて。抜きん出た奴の頭を叩く。そんな平均。みんな同じ趣味、みんな同じ行動、みんな同じ、同じ…
 それに嫌悪感を感じてるのと同じ位の強い気持ちで。こちら側からはみ出したく無いなんて考える自分に、反吐が出そうになる。はっきり、自分自身で言いたくなる時がある。
「聞いてくれよお…」
「ああ、もう。うっとうしい奴だなあ」
 お前って、嘘つきなんだな。

 夕暮れの空はどこか儚くて。
 手を伸ばせば、そのまま引き摺っていかれそうになるくらい。本当に、心の底から恐怖を感じるくらいに美しかった。それが、どこから来ている気持ちかなんて事に興味は無い。無いけれど。
 惹かれる、という自分が怖かった。
「結局、小林が夢で見た、とても恐ろしいことってなんだったの?」
「それに答える前に、一つだけ質問していいか?」
「なになに?」
「…なんでお前と一緒に帰らないといけないんだよ」
「あたしが一緒に帰りたいから」
 笑顔を浮かべるのは簡単だ。笑うのも。
 ただそれが、『本当』の笑顔なのか。『本当』の笑いなのかと尋ねられたら、多分、俺は答えにつまると思う。
 俺だって笑う。
 そう言いきりたい。けれど、つきつめて考えた時。それが本当に、本当の笑顔なのかなんていうことには自信が無い。本当の笑顔。多分、俺以外の奴は苦労なんかしなくても出来ること。
「俺は別にお前と帰りたくなんて無い」
「嘘。一条の顔に、はっきりと書いてあるよ」
「…なんてえ?」
「死にたい」
 …
「あはは、何を固まってるの。別にそんなこと書いて無いって」
「あ、いや。悪い。ま、別にな」
 藤宮に言われて、ふと思ったんだ。
 俺が死んだとして、それがなんだというんだって。周りの奴だって、悲しむかもしれないけれど。別に、俺はいなければならないなんて奴じゃない。俺で無ければならないことなんて、何一つとして無いんだ。
「これ。何か喋りなさいって」
「…っていうか、既に決定なのか?」
「なにが?」
「お前と一緒に帰るって」
 …俺がいるだろ。
 俺がいなければ困る奴は、俺がいるじゃないか。
 お前って、本当に嘘つきだよな。

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みさお「『夕焼け - November -』発売延期記念SSっ!」←笑ってる
 …延期記念ってあんた(^^;
 ほとんど情報無いのに、こんなの書いてる自分もなんだかなあ、って思いますけどね。ちょっと、状況説明のモノローグほとんど無しで書いてみたくて。で、夕焼けだったらやれるだろうと思いまして。雰囲気とか。
みさお「…さすがに怒られるんじゃない?」
 鈴うたの時も、発売前にSS書いたもん(笑)
 イメージ壊さないように気をつけてはみたんですけど…一条俊哉は、こんなに自分につっこみを入れないとは思います(^^;
みさお「いい夢、見てくださいねっ」
 ではでは

>ちょっと感想
・ パルさん『向日葵の笑顔(第1話)』
 いくつかつっこみたい(笑) けど、パルさんらしいほのぼのですね
・ サクラさん『永遠はいつもみずかとみゅー』
 小ネタですね。七瀬かと思ったのは内緒。
http://denju.neko.to/index.html