風が気持ち良い。 ここに来るのも久しぶりだよね。でも本当、雪ちゃんたらひどいよ。 『卒業しても母校に入り浸ってるOBなんて、嫌われるよ』 って言ったら、怒るなんて。私、雪ちゃんのつきそいで、こんなに来てるのに。 学校にはよく来ているのに、最近、屋上には近寄らなくなっちゃったな。なんでかな。寒かった冬には、あんなにここに来てたのに。 「あ、ごめんなさい」 「え?」 扉の開く音に続いて、誰かに謝られちゃった。女の子の声だけど、誰だろう。聞き覚えの無い声。 聞き覚えは無いのに、なんだか見覚えがあるような気がする。 「どうかしたの?」 おかしいよね、目なんか見えないのに。 「あの。わたし、ちょっと屋上に来ちゃっただけで。邪魔する気なんてなくって」 「別に邪魔じゃないよ」 「あ、えっと」 「みさきーっ!」 やばい、雪ちゃんだよ。 ちょび髭を描いたこと、まだ怒ってるのかな。似合うと思ったんだけど。もしかして、掃除さぼったことかな。私が悪いんじゃないよ、面倒なのが悪いんだよ。 足音が近づいて来る。怖いよ、極悪非道だよ。 「いないって言ってね」 「え?」 灯台もとくらし、だよね。 屋上のドアの横に、ちょんと座り込む。ここだったら、ドアを開けばその影になって、私の姿は見えなくなるよね。うん。なかなかいい考えだよ。 「みさきっ!」 バンッ! すごい大きな音がして、ドアが開いた。昔から思ってたけど、雪ちゃんってとてつもない力があるよね。女の子にしておくのは勿体無い、っていつも私が言ってるだけあるよ。 「…なにやってんの?」 み、見つかっちゃった。 見えないけど、恨みがましい顔を屋上に来た女の子に向けてみる。これから私、どんな目に合わされるんだろう。という顔で。 「あの…隠れるんだったら、反対側なんじゃ…?」 女の子の指摘した通り。屋上のドアは、私と反対側の方に開いていて。ドアを開いた雪ちゃんから、私は丸見えになっていた。 「びっくりしたわよ」 演劇部の部員さんがみんな帰っちゃった部室。気になるのか、ごみを掃除しながら雪ちゃんがそう言った。 「なにが?」 「上月さんのお友達と話してたら、急に走って行っちゃうんだもん」 里村茜さん。 見えないのに変な話だけれど。澪ちゃんのお手伝いに部室に来ているという彼女と、今日初めて会った。初めて会ったのに、見覚えがあった。 さっきの女の子も、もしかして。そうなのかも知れないな。 「よ、用事を思い出したんだよ」 「…どもってるけど?」 「人の噂も七十五日だよ」 「ぜんっぜん関係無いと思うんだけど?」 え、えとえと。他に上手い誤魔化し方なんて、思いつかないから。どうしようかな、って思いながら。それでも、自然と。里村茜さんの事に考えがいく。 「ま、いいけど。里村さんに何か言われたの?」 言われたんだよ。 「別になんでもないよ」 「過食症で、食べたもの全部吐いてるなんてこと。気にしちゃ駄目だからね」 「違うよ」 そんな事じゃないよ。 おさげのふさふさした彼女は、別にそんなことを言ったりしなかったよ。だって、そんなこと言われても、別に傷つかないから。あんな風に、責めたりされなければ。 「…もしかして、目のこと?」 「違うって」 するどいな、雪ちゃん。そんな君には、エースストライカーの称号をあげよう。 …ヘビー級チャンピョンの方が喜んでくれるかな? 「いいならいいんだけどね」 「いいならいいんだよ」 だって里村さんは、間違ったことは何も言ってないんだから。 『この世界が、そんなに嫌いですか?』 嫌いなわけじゃないよ。 『どうして、何も見なくなってしまったんですか?』 真っ直ぐな質問だよね。 でもね、私がちょっとでも見えるってことは。里村さん自身が、消えかかっているからだと思うよ。今までも、忘れてしまったけど。何人もいたから。はっきり見える人のことって、それからすぐに忘れちゃうんだけどね。 多分、私は耳無し芳一なんだよ。体中にお経を書いて、耳まで書いたけど。目だけは書けないからね。だから、連れて行かれちゃったんじゃないかな。 「…って、みさき。聞いてるの?」 「掃除をさぼったのは、悪かったと思ってるよ」 「いつの話をしてるのよ」 私のこの目で、全然見えない雪ちゃんが大好きだってこと。 そういうお経が、目には足らなかったんじゃないかな。でも、里村さんに言いたいことが一つだけあるよ。 見えなくても、大好きだよ。この世界。 _____________________________________ ちわ〜、SSです。 みさお「間に合ってますっ」 …ずーっと前に同じネタやったよね。 みさお「えー?」←笑ってる いつだかの由起子さんの話に続いてのアフターズです。想念だけ、説明無しに繋げちゃってるんで、かなり意味不明ですけど…まあ、なんとなくってことで。 昔っから、いつも感想書かれてるWTTSさんには、頭が下がります。 みさお「…書いたら?」 ごめんなさい(><) みさお「感想を頂いた皆様、読んで下さった皆さん、ありがとうございますっ」 貰うと嬉しいのは本当なんですけど、私のは飛ばしちゃって構いません。自分が感想書けないのに頂くのも、おこがましいですし。 みさお「ではでは」 http://denju.neko.to/