すずが「うたう」日 投稿者: 吉田樹
 ミーンミーンミーンミーン…
 ジジジジジジジジジジ…
 シャワシャワシャワシャワシャワ…
 格子戸の外から洩れ聞えてくる蝉の声は、蒸し暑さを更に増加させているようだった。首を振り続ける扇風機が、時折抗議の声を上げているが。予算の関係上、まだそれを外す事は出来無かった。
 ポケットから取り出したハンカチで額を拭った千夜子は、振り返って呟くように言う。
「そろそろ自白(うた)って、楽になったらどうなんだお?」
「すず、しらないんだよ」
 蒸し暑さと続く緊張感から、ふうっと千夜子は息を吐き出す。被疑者であるすずの前に座った岡田が、机を叩きつける。
 勢いで灰皿が飛びあがり、すずもびくっと身を震わせる。
「とっととうたわんかい、こんぼけえ!!」
「う…おかだちゃん、こわいんだよ」
 涙目になってしゃくりあげ始めたすずに、尚も岡田は詰め寄ろうとする。その肩にぽんと手を置くと、千夜子は格子戸のところへと歩いていった。
 口に加えていた煙草を、こすりつけるようにしてもみ消すと。岡田は、腕を組んで椅子にのけぞった。その様子を、すずが怯えた目をちらっと上げて見ている。
 岡田のでかい鼻の穴から出た、でかい鼻息に。再びすずが、びくっと身を竦ませた。
「故郷のおふくろさんも、心配してると思うお」
「すず、おかあさんのこと、しらないんだよ」
「…カツ丼でも食うか?」
 岡田がぼそりと呟くと、すずはにっこりと笑って頷いた。

「強情ですねえ、どうします?」
 交代して外に取調室の外に出た岡田が、ネクタイを緩めながら千夜子に言う。もじゃもじゃと生えた胸毛に汗が光って、見ていて暑苦しい事この上無かった。
 千夜子はその暑苦しさから目を逸らすと、ふっと廊下から窓を眺める。
 岡田の目から見れば、それは熟練刑事の『溜め』にも見えているようだが。千夜子はただ単純に、岡田の暑苦しくてかてか光る毛を見たくなかっただけのようだった。
「時間を待つお。拘留期間はまだあるお。延長してでも、絶対にうたわせるお」
「しかし…別件ですからねえ」
「岡田!」
「は、はい!」
 鋭く発せられた口調に、岡田は背筋を整えて千夜子を見る。千夜子は、ぶかぶかでずり落ちた眼鏡の下から、光る目で岡田を見上げて言った。
「このアタシをなめない事だぉっ」
「はい」
 千夜子の経験に裏付けられた自信を前に、岡田は信頼に満ちた頷きを返していた。

 裁判所の容認した拘留期間も、既にぎりぎりの最終日となっていた。
 ただ、未だに凶器と見られる刃物が発見されていない。このまま公判に持ち込んでも、勝率は半々。腕のいい弁護士が出てくれば、どっちに転んでもおかしく無い情勢だった。
 検察の要求は、日に日に厳しくなっている。
 公判で矢面に立つ彼らが上に唾を飛ばせば、それは倍重ねになって、現場の千夜子達にものしかかってくる。
 事件現場周辺の聞き込みを続けながらも。犯人の自供を引き出して、凶器を見つけ出すのが一番なのであった。
「…お互い、正直にならないかだお。りんりんだって、このままここにいるのは辛いと思うお」
「うう…でも、すずはしらないんだよ」
 困って泣きそうな顔をしているすずを見るうちに、千夜子の脳裏に疑問がかすめる。本当に、彼女は知らないのでは無いのか?
 しかし。現場で、ガイシャである桑原裕児の傍に座っていた彼女が、重要参考人である事は間違いが無いのだ。彼女が犯人で無いにせよ、ホンボシを見ている可能性は高いのだ。
「正直に白状した方が、身の為だお。凶器の刃物は、どこに置いたんだお?」
「だいどころの、ながしのしただよ」
 沈黙。
「岡田!」
「は、はいっ!」
 椅子にかけていた背広を掴んで立ち上がった岡田を、急かすようにして千夜子は部屋のドアノブに手をかけた。今日はこれから、暑い一日になりそうだった。
 ふと疑問に思ったらしい。
 部屋を振り帰った千夜子は、逆に急かしてくる岡田を黙らせてから。椅子にちょこんと座っている、長い髪を扇風機の風になびかせて笑顔でいるすずに言った。
「…どうして急に自白する気になったんだお?」
「すず、『うたう』ってなんのことか、しらなかったんだよ」
 沈黙。
「なめんななめんななめんなだぉーっ!!」

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 ごめんなさい(^^;
みさお「しょーもないもん書いて(^^;」
 あははははははははははははははははははは(^^;;;;;;;;;;
>挨拶
 犬二号さん、神楽有閑さん、から丸さん、北一色さん、サクラさん、Sashoさん、SOMOさん、シンさん、高砂蓬介さん、どんぐりさん、はなじろさん、本間ゆーじさん、Matsurugiさんはじめましてっ☆

 挨拶まだだった方って、これぐらいだと思いますけど…抜けてたらごめんなさい(^^;

http://denju.neko.to/