伝えたいこと vol.6 投稿者: 吉田樹
 カシャア!
 いつものようにカーテンの開けられる音。そして、目の奥を貫く陽光。聞こえる、
「ほら、浩平ちゃん。いい加減に起きなさい!」
 由起子さんの、声…
「あれ? どうしたの? なんか顔色悪いけど」
「あ? いや。別に」
「はは〜ん。さては、いつも通りに長森さんが起こしに来ないから、調子が出ないんでしょう。残念だったわね、彼女、部活の遠征とかで他の学校に行っちゃったわよ」
「長森の奴、転校したんですかっ!? これは、早速送別会の準備をしなければ…」
「はいはい。ばか言ってないで、仕度する。遅刻しちゃうわよ」
 布団を引き剥がされるので、オレも寒さに耐えられずに着替えを手早く済ませる。
 毎朝毎朝、飽きもせずに幼馴染みに起こされる。それは、オレにとって。ごく当たり前の事だったんだな。何より、それが与えられるものだと信じきっていて。退屈な事だと。いい加減飽き飽きだなんて、安心しきっていたけれど、
「今日は、風邪でも引いたんですか? それとも、遠縁の親戚が亡くなったとか?」
 いずれ長森だって、オレの事を忘れてしまうんだ…
「言っとくけど、浩平ちゃんと違ってずる休みなんかしないわよ、私は」
「オレだってしませんよ」
「出来ないだけでしょ? 可愛いお出迎えが、毎朝来るから」
「別にオレが頼んでるわけじゃ無くて、長森の奴が勝手に」
「ほらほら、ばか言ってると遅刻するわよ。せっかく起こしてあげたのに」
――えいえんはあるよ
 長森の奴が勝手にした事なんだ、オレが頼んだわけじゃない。
――ここにあるよ
 でも、な。あいつは、おせっかいだからな。別に頼まなくたって、寂しそうな奴とか見つけたらかまっちまうんだろう。オレがあの言葉に救われたのは、本当だしな。でも…だからと言って、交わしたかどうかも分からない約束なんぞに縛られて。なんでオレが消えなくちゃならないんだ。
 引っ越してきたオレが、公園で泣いてばかりいた幼い日。四月のある日。雨の日も晴れの日も、小雨のぱらつく日も。ずっとオレの傍にいた彼女。そして彼女と交わした盟約。
 あれが長森だというんなら。オレは何故、長森の前からも消えるんだ?
「はいはい、いってらっしゃーいっ!」
「まだ着替え終わって無いんですけど…」
 幼い頃の約束に、ずっと縛られてるなんて…澪じゃあるまいし。
 オレは違う。約束なんて、破る事もあるんだ。なんで澪は、昔の約束をずっと覚えてるんだよ。そんなものに縛られる事、全く無いんだぜ?
 まあ、オレだって。彼女の言葉を、ずっと覚えてたんだけどな。

 放課後。
 以前なら誰かを誘って帰るとか、なにか寄り道を考えるなどして迷っていたものだが。最近のオレは、一味も二味も違う。舞台が来月に迫ってからは特に、毎日部活がある。一度もさぼらないなんて、オレも真面目になったものだ。
「浩平! 掃除さぼっちゃ駄目だよ」
 教室を出ようとした時に後ろからかけられた声に、オレは余裕の笑みで振り返る。なにせ、オレはこれから部活に行くんだからな。
「甘いな、長森。オレは部活があるんだ。ファーストキスの相手だからってな、部活に行くのを止めるような権利は無いぞ。オレは、ごく真面目な生徒だからな」
「ば、ばかっ、なに言ってんだよ」
「部活に真面目に行く生徒のどこが、ばかなんだよ」
「ち、違うよ。き、キスなんて言ったって、子供の頃の話だもん!」
 長森が慌てるのも良く分かる。なにせ、周りにはまだ帰ってない生徒や、掃除をしている生徒で一杯だからな。全員が聞き耳を立てている事は分かるが、オレに止める気なんか、これっぽっちも無い。
「子供の頃だろうがなんだろうが、お前が無理矢理してきたんだぞ。それを忘れられちゃったんじゃ、オレのファーストキスも泣いてるぞ」
「な、なに言ってんだよ。学芸会の劇の練習の時、リアリティの追及とか言って本当にキスしてきたの浩平の方だもん!」
「…公園じゃ無かったか?」
「なんで、公園で学芸会の練習するんだよ」
「転校してきてすぐだったから、こっちの娘は進んでるものだと思ってたんだが」
「違うもん。全然覚えて無いんだね、小学校の五年生の時だよ」
 いや、その出来事はよく覚えてる。そうじゃ無いんだ。
 つまり長森は、もう忘れてしまったという事なんだろうか。そうだとしたら、オレにはもう、盟約を解消する術も残されて無いんだな。でも…
『部活なの』
 いつものように目の前に突き出されるスケッチブックに、オレの思考は中断された。見ると、澪の奴は、なにやらご機嫌斜めのようだった。
「ええっと、聞いてたのかな? 違うよ、そういうんじゃ無いんだよ。子供の頃の話だからね」
 何故だかやたらに焦った顔の長森はそう言うと、教室掃除へと戻っていった。じっと疑惑の目を向ける澪を、オレもじっと見返してやった。そのうち、何故だか急に澪が顔を逸らす。気のせいか、目の辺りがほんのり赤く染まっている。
 オレの疑問そうな顔の前に、『部活なの』というスケッチブックを突き出すと。腕にしがみついてきた。良く分からんが、まあ、いいだろう。
 とりあえずオレは、当初の予定通り部活に向かう事にした。腕にしがみつく力が、いつもより妙に強い澪をぶら下げて。

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 うーん(^^;;;
みさお「納得いってない顔ね」
 …今回はもう一つ、何か足りない気がして(^^; ミスって一度消しちゃった方のが、まともに書けていたような(^^;
みさお「どっちもどっちだって」(←笑ってる)
 ま、しょうがない。これ以上間が空いてもなんだしね(^^; 次のvol.7では引っ張りまくっていた「私の見た本編」を御披露しますっ! これだけじゃ、まだ完全には分かり難いとは思いますけどね(^^;
 感想を頂いた皆様、読んで下さった皆さんありがとうございます。ではでは

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