伝えたいこと vol.5 投稿者: 吉田樹
「浩平、今日は部活無いから、一緒に帰ろうよ」
 ホームルームが終了すると同時に、長森の奴がオレのところへやってきた。しかし、こいつはいつになっても理解出来ないようだな。教えを垂れるべく、オレは言ってやった。
「悪いが長森、オレは部活なんだ」
「へえ〜。なんか本当、感心しちゃうよ。だって、浩平だよ? あのいっつも部活さぼってた浩平の口から、こんな言葉が聞けるなんて…長生きはするもんだねぇ」
 オレと同い年では無かったのか? 長森…はっ! も、もしや。そうか。色々な事情があって留年したものの、それを悟られたくないと言う事か。うん、わかったぞ。
「どうしたの?」
「わかったぞ、長森。オレは口が固い事で有名だからな」
 疑問符を浮かべている長森を無視して、オレは自分の思いつきを検討してみる…いや。いくらなんでも、これほど長い付き合いの幼馴染みが留年してたなんていうのは無理があるか。長い付き合い…そういえば、長森の奴は覚えているんだろうか?
「長森、オレと最初に会った時の事、覚えてるか?」
「え、う、うん…」
 何故か言い難そうだ。しかも照れているようにも見える。そうか、そういえばファーストキスの相手は長森だったっけ。
「クラスの男の子達がね、学校の裏庭で。猫を頭だけ出して地面に埋めて。それで、石をぶつけてたんだよ…私も、止めさせたいと思ったけど。怖くて言い出せなかった…」
 え? なんだ、それ。全然覚えてないぞ。
「その時ね。転校してきたばかりの浩平が通りかかって。男の子達と喧嘩して、猫を助けてくれたんだよ。転校してきてからずっと、無口で無愛想だったけど。だから私、お友達になりたいな。一緒に遊びたいな、って思ったんだよ」
「それで、オレの家の下まで来て、わざわざ石をぶつけたのか?」
「わ、わざとじゃないもんっ! 呼び鈴鳴らしても返事が無かったから、それで浩平の部屋に向かって石を投げてただけだもんっ!」
「じゃ、お前はガラスを割ろうとしてたのか。呼び鈴鳴らして返事が無ければ、ガラスを割ろうとするとは、空き巣だな。さてはお前、空き巣長森だなっ!」
「はぁ〜」
 何故そこでため息をつく。まあ、確かに今のはあんまり面白く無かったな。
 ぼんやりとだが、光景が思い出せてきた。そう、確かにそんな事もあったような気がしないでも無い。ただ…それなら、あれはいつだったんだ? オレを救ってくれたあの言葉は、石をぶつけられた前だと思っていたんだが…
 不意に考えを中断させられたのは、制服の袖が伸びる事が心配になったからだ。手加減というものを知らんな、こいつは。顔を見ようと顔を向けると、目の前にスケッチブックが突き出されてきた。
『部活なの』

 活気に満ちた部室で、澪はひどくつまらなそうな顔をしていた。
 だがまあ、それも少しの間の事で。すぐに一生懸命、台本を片手に稽古を始める。いくつか出来あがったセットがあるので、それを前にして本番のイメージを膨らませているようだ。
 セットの骨組みに釘を打とうとして、ベニヤ板に埋まり。衣装を縫おうとして、糸に絡まり。直しの台本を印刷にかけて、藁半紙の中へ雲隠れする。なかなか器用な事を続ける澪に、結局、部長は演技の稽古をするように命じていた。
 澪の専属コーチであるオレは、当然付き添うつもりだった。ま、オレが演劇部に入ったのはそれが理由なんだしな。ただ、部長が自主トレも必要だと言うので、オレも無理にとは言えなかった。
 まあ、部長の気持ちも分からないでも無い。澪が怪我でもしたら大変だからな。これは三月の舞台当日の準備の時も、澪は自主トレだろうな、と思う。コーチであるオレが、その時までついていてやれればいいんだが…
「ところで部長、みさき先輩は?」
「あの娘もこれから大変だからね…」
 オレの隣で釘を打ちながら、部長が答える。確かに。先輩は、この学校の中なら自由に走り回れるって言ってた。でも、いつまでも学校にいるわけにもいかないしな。
「分かるでしょ? 色男さん」
「はあ?」
「朴念仁ね。いい? 望んだもの全てが手に入れられるわけでは無いの。一つのものを求めるのが、二人以上いた場合。一人以外は得る事なんて出来ない。分かるでしょ?」
 オレは自分に対して言われた事を、他人事のように受け止めていた。まあ、実際の先輩の気持ちがどうあれ。最近は全然、会ってない。すぐに、オレの事を忘れてしまうだろうな…
 質問を受け付けない素振りで部長が作業を進めるので、オレも作業を続ける。ただ、どうしても気になった事があったので、尋ねてみる事にした。
「部長は、他の三年の部員がみんな辞めて、悩んだりとかしなかったんですか?」
「悩んでなんとかなるなら、いくらだって悩むし、泣きもするわよ。でも、悩んでもしょうが無いでしょ、そんな事は。要は、自分のやれる事をやれるだけ精一杯、やるだけよ」
 その言葉に何かを尋ねたかったのだが、他の部員に呼ばれてオレは質問を中断していた。まあ、数少ない力仕事の労働力だからな、オレは。それに、こんなふうにして頼りにされるのは、嫌いじゃ無かったりもする。
 澪を放っておけないのも、頼られてるからだったりしてな。
『助けてなの』
 呼ばれていった先では、出来たばかりのセットに澪が埋まっていた。

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 てなわけで〜♪ 早くも、その5をお届けにあがりました〜(^^)
みさお「間に合ってますっ」
 そ、そんな事言わないでさあ(^^; お金取るわけでも無いんだし、隅の方に置いておいて貰えればいいんだから(^^;
みさお「あんまりしつこいと、警察呼びますよ?」
 そこまでせんでも(^^;
 感想を頂いた皆様、読んで下さった皆さんありがとう御座います。刑事版が死んでますので、復活までうちの掲示板を代用にしちゃって下さい♪
 ではでは

http://denju.neko.to/