伝えたいこと vol.2 投稿者: 吉田 樹
 オレは今、月面基地にいた。
 そう。オレは、宇宙開拓移民の先駆けとなって活動している。先週は、みさき隊員が大食い星人である事が発覚したり。新たに澪隊員が派遣されてきたりと、色々あった。
 澪隊員の故郷の風習なのか。出会った時には、背中にラーメンをかけられるという、ひどく熱い思いをさせてもらった。ま、制服は洗濯されて翌日には帰ってきたのだが。なんというか、元気がありすぎて、人に迷惑をかけるものの。憎めないというか、見てて飽きない娘だ。
 トゥルルルル…トゥルルルル…
 オレの耳に、遠くから警戒警報が聞こえてくる。ま、まさか。全滅したと思われていた狂悪な宇宙人、だよだよ星人が来襲したのだろうか。オレは腰に差したシャーペンを確認しながら、受話器へ向かう。しかし、いつも思うが悪趣味なシャーペンだ。
 トゥルルルル…トゥルルルル…
 そう、そして…何故受話器に向かうんだ?
「ん?」
 ぼんやりと、見慣れた景色が目の前に広がっていく。机の上やら本棚の中やらにごちゃごちゃと物の置かれた、オレの部屋だ。カーテンの閉まった窓は、ぼんやりと外の光を伝えている。
 ふと、オレは何かをしようとしていた事に気がついて、腰に手をやった。だが、なんでそんな事をするのか、訳がわからずに。この謎を徹底追求しようとして、何故だか宇宙のイメージが広がっていき。更に混乱するオレの頭に、電話のベルが聞えてきた。
 これはきっと、だよだよ星人の襲撃を告げる警戒警報だ。
 なんとなくさっきの夢を思い出し。これは夢の続きなんだと思おうとしたが。時刻を見ると十二時過ぎ。日曜のこの時間でベルが鳴り続けているという事は、由起子さんはまた仕事だったのだろう。電話の相手に見当をつけながら、オレは階段を駆け下りていた。
 七歳の時に引き取られて以来、叔母である由起子さんにはお世話になり続けている。ずっと仕事で忙しい分、こうして電話などをかけてきては、オレと接点を保とうとしてくれていて。オレの事情の、全てを知った上での事では無いだろうけれど。今のオレには、それはひどく、有難い事だった。
「もしもし、折原ですけど」
「あ、浩平? ずっと出なかったって事は、やっぱり寝てたんでしょう。明日はもう試験なんだから、ちゃんと勉強しないと駄目だよ。本当、誰かが傍にいてくれないと心配だよ」
 ぐあ…まさか、本当にだよだよ星人だったとは…
「お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめに…」
「はぁ…さっき名乗ってたじゃない」
「長森っ、よくぞ見破った!」
 出会ってから、もう十年にもなろうかという幼馴染み。彼女の、家に押し掛けて来そうな勢いを。オレは華麗な話術でことごとくかわしていく。だが、何故か長森の奴は、ずっと呆れたようなため息をついていた。

 カシャアッ!
 いつものようにカーテンの開けられる音。そして、目の奥を貫く陽光。聞こえる幼馴染みの声。
「ほら、浩平。起きてよ」
「あと三千年寝かせてくれ」
「ひからびちゃうよ」
 ぐあ…
 長森の見事な切り返しに敬意を表するつもりで、オレは身を起こした。制服と鞄を受け取るつもりで出した手は、長森の服装に気がついて途中で止まっていた。いつも見慣れた制服とは、余りに違う格好をしている。
「いつの間に制服が変わったんだ?」
「これ、私服だよ」
「私服で学校に行くとは、不良だな。さてはお前、不良長森だなっ!」
 思いきり呆れてため息をつく長森に、オレの方がため息をつきたい気分だった。カレンダーに目をやるまでも無く、今日は十二月の二十三日だ。昨日、演劇部の入部届けに日付けを入れたのだから間違い無い。つまり、全国的に祝日なのだ。いくらオレを起こすのが趣味だとはいえ、祝祭日はその趣味もお休みにして欲しい。
「試験期間中、遊びに行かなかったから。今日、ぱたぽ屋にクレープ食べに行こう、って言い出したの浩平だよ?」
 言われてみれば、そんな約束をした気がしないでも無い。
 制服の代わりにジーパンやらを渡されたオレは、長森が部屋を出た後で着替えながら思った。あと、どれくらいの時間。こうして過ごしていられるんだろう、って。
 『いっぱい伝えたいことあるの』という澪の言葉に、何かを感じて。手のかかる妹のような澪を、オレがこの世界にいられる最後まで、見守ってやりたい。そう、思っている。まあ、本当に妹がいるわけでは無いオレが、妹のようなと言ったところで。いるとしたら、という想像に過ぎないのだが。
 みさき先輩と学食でお昼をとっていた時に、オレの背中にラーメンをぶっかけ。制服を強奪していった小柄な女の子は、翌日に洗濯した制服を返してくれた。オレが来るのを、下駄箱で待っていたらしい。学年もクラスも知らない相手を見つけるには、なかなか賢い選択だった。
 上月澪。スケッチブックにそう書いた彼女は、自分が喋れない事を教えてくれた。
 後日、一緒に帰った時には。今はまだ、あいまいな何かを大勢の人に伝えたくて、演劇部にいると。他の人より、気持ちを表現する事が下手だから。だから、舞台でその何かを伝えたい、と。自分の事を、スケッチブックを使って色々と伝えてくれた。
「浩平? 寝ちゃったの?」
「おう、待たせたな」
 長森の心配したような声が部屋の外から聞こえると、オレは部屋の扉を開けていた。いや、まだ着替えは終わって無いんだけどな。

参考文献:よもすえさん
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 てなわけで続きです。
みさお「なんだか、わけわかんない話になってきたねっ」
 本当(^^; 感想を頂いた皆様、読んで下さった皆さんありがとう御座います。すいません、感想返したいんですけど書けなくて(^^; あと、てやくのさん、ヒロイン大戦の事、了解しました。
 ブラック火消しの風さん、長期連載終了、お疲れ様でした。楽しませて頂きました(^^)
みさお「では皆様っ、また次回にお会いしましょう」
 この話、仕掛けだらけです(笑)。次も早いといいな(^^; ではでは