【91】 〜茜のバースデープレゼント〜
 投稿者: みー ( 男 ) 2000/4/3(月)18:11
浩平「お〜い、茜〜。」
茜「…はい。」
6時間目が終わり、後は放課後を過ごすのみとなった。
住井たちはとっくに帰ったし、瑞佳も、浩平が茜と付き合うようになってからは、
あまり声をかけて来なくなった。
瑞佳「浩平、いい人が見つかってよかったね。」
そう言っていたのを思い出す。
(まったく、本当に母親気取りだな。嫁をもらった息子みたいに言いやがって。)
まあ、それでも内心は満足しているが。
茜「どうしたの?」
茜が不安気に聞いてきた。
浩平「あっ、悪い。ちょっと考え事してた。」
茜「……。」
浩平「それでな、帰りに、またワッフルでも食いに行かないか?」
茜「…ごめんなさい。今日は用事があります。」
浩平「え、そうなのか。」
茜「はい…。」
浩平「何時頃終わるんだ?その用事。」
茜「…分かりません。」
浩平「そうかぁ〜。残念だな。」
茜「ごめんなさい。もう行きます。」
浩平「ああ、それじゃな。」
浩平は片手をあげて挨拶した。
茜「さようなら。」
茜は浩平の方を振り返って、そう言った。
浩平は一人、教室に残ってしまった。どことなく寂しいので、窓の外を見た。
そこには……。
浩平「柚木!?」
なんと、詩子が校門の所に立っていた。おそらく茜を待っているのだろう。
しばらく見ていると、靴を履き替えた茜が、詩子に駆け寄った。
それから二人で歩いて行ってしまった。
浩平「……。」
浩平は二人をしばらく目で追っていたが、見えなくなって来たので、
鞄を持って教室を後にした。
帰り道、浩平は茜が自分の誘いを断った事を気に病んでいた。
浩平「茜の奴、柚木と何処に行くつもりなんだろ?」
家に帰るまで、浩平は一人で悩んでいた。
……一方、茜たちは……
詩子「ねえねえ、何処に行くの?」
茜「商店街…。」
二人は商店街に向かって歩いていた。
詩子「商店街かあ。でも、何しにいくの?」
詩子が当然の疑問を口にした。すると、茜は少し恥ずかしそうに俯きながら言った。
茜「…浩平の、誕生日プレゼントです…。」
詩子「へえ、あいつの誕生日プレゼントね。ところで、あいつの誕生日っていつなの。」
茜「3月24日です。長森さんに聞きました。」
詩子「ふ〜ん。じゃあ、茜の方がちょっとだけ年上だね。」
そう言いながら二人は商店街に辿り着いた。
詩子「じゃあ、手分けして探そうか。あ、でもあいつの好きな物ってなんだろ?」
茜「分かりません。」
二人は悩んでしまった。
茜「明日、また長森さんに聞いてみます。」
詩子「そっかあ。じゃあ、今日はお別れだねっ。」
茜「はい…。」
詩子「じゃあね。バイバイ。」
茜「さようなら。」
二人は商店街から少し歩いた所で別れた。
……次の日……
浩平「茜、一緒に帰ろうぜ。」
茜「…ごめんなさい。」
浩平「また用事か?」
茜「…はい。」
浩平「う〜ん、残念だ。」
浩平は肩を落として行ってしまった。その様子に、茜はちょっと胸が痛くなった。
でも、浩平に誕生日プレゼントを渡すまでは、どうしても浩平にそのことを
知られたくなかったので、仕方なく浩平の誘いを断っているのだ。
茜「浩平、ごめんなさい。」
そうつぶやくと、茜は教室を後にした。今日は詩子が来れないので(どうやら追試らしい)
茜は一人で商店街に向かった。
その途中、思いがけない人物とは……!?
声「あ。里村さんっ!」
後ろから声をかけられて茜は振り返った。そこにいたのは瑞佳であった。
茜「…こんにちは。」
茜は反射的に挨拶をした。
瑞佳「こんにちは、里村さん。」
茜「長森さん、どうして商店街に?」
瑞佳「今日、里村さんが浩平の好きな物聞いて来たでしょ?それってもしかして浩平の
   誕生日プレゼントは何がいいかなって聞いてるのと同じかなって。」
図星であった。
瑞佳「だから、一緒に探してあげようかなって思ったの。」
茜「いいんですか?」
瑞佳「うんっ。だって浩平の為でしょ。手伝わない訳にはいかないじゃない。」
わたしは浩平の幼馴染みなんだから、と付け加えた。
茜「ありがとうございます。」
そして二人は浩平の誕生日プレゼントを選び始めた。
……二時間後……
茜「ありがとうございました。」
茜はそう言って会釈した。手には何かの包みを持っている。
瑞佳「いいよ、お礼なんて。」
そう言って瑞佳は笑った。
瑞佳「明日休みだね、頑張ってね。」
3月24日は、翌日が終業式なので休みだった。
茜「…はい。」
茜は真っ赤になって俯いた。
瑞佳「それじゃ、さようなら。」
茜「さようなら。」
二人はそれぞれの家路へついた。
……そして、3月24日を迎えた……
浩平「…ふわぁ。」
浩平は目を覚ますと、枕元にある目覚まし時計を見た。
8時。うっかりスイッチを入れてしまったらしい。
浩平「しまった、いつも通りの時間にセットしてしまった。」
もう一度寝るか…、そう思い、布団を被った瞬間…、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
浩平「誰だ、こんな朝っぱらから。」
ぶつぶつ言いながら浩平は玄関のドアを開けた。
すると見知った顔があった。
茜「おはようございます。」
茜はそう言うと
「おじゃましてもいいですか?」
と聞いてきた。
浩平「別にいいけど、でもどうしたんだ?こんな日に。」
茜「……。」
どうやら浩平は今日が自分の誕生日だと言うことを忘れているようだ。
茜「浩平に会いに来ました。」
少し恥ずかしそうに言った。まあ、間違いでは無いが。
浩平「俺に?それは嬉しいな。」
素直に喜んでいるようだ。しかし……、
浩平「ふわあぁ、眠い。」
そう言って大きなあくびをした。
茜「寝てないんですか?」
浩平「ああ、昨日は深夜番組に見入ってしまったからな。」
茜「……。」
茜は何か考えていたが、やがて何か思い立ったように言った。
茜「浩平、お昼ご飯作ってあげます。」
浩平「えっ!?」
浩平は驚いた。まあ、休みの日に女の子が来て、しかも昼飯を作ってくれると言うのだ。
これで驚かなかったら、よほど慣れているか、あるいは鈍いかのどちらかである。
浩平「で、でもいいのか。」
動揺を隠しながら訪ねる。
茜「構いません。」
だが、茜ははっきりと答えた。
浩平「そう言うなら、頼む。」
茜「はい。」
二人は家の中へ入っていった。リビングに着いてから茜が言った。
茜「浩平、眠そうですね。」
浩平「ん…、ああ。」
そう言ってまたあくびをした。さっきよりも眠そうである。
茜「もう少し寝てきたらどうですか?お昼ご飯出来たら起こしますから。」
浩平「ああ、そうさせてもらうよ。おやすみ。」
茜「おやすみなさい。」
そう言って浩平は部屋へと戻っていった。
声「あら!」
突然リビングのドアが開き、見慣れない女性が入ってきた。
茜「あ、おじゃましています。」
そう言って茜はお辞儀した。
女性「いらっしゃい、ゆっくりしていってね。」
茜「はい。」
そう言って、女性はキッチンの方へ歩いていった。
茜「あの…。」
茜が遠慮がちに訪ねる。
女性「あら、どうしたの。」
茜「由起子さん…ですか?」
女性「ええ、そうよ。あなたは里村 茜さんよね。」
やっぱり…。茜は心の中で思った。
茜「この間は…、ご迷惑をおかけしまして。」
由起子「ああ、いいのよ。浩平の頼みだもの。」
そう言って由起子は笑った。
由起子「ところで、今日はどうしたの?わたしにお礼を言いに来た訳じゃなさそうだけど。」
そう言って由起子は茜がなにやら包みを持っているのを見つけた。
由起子「もしかして、浩平の誕生祝い?」
由起子がそう言うと、茜は真っ赤になった。
由起子「まあ、あの子も隅に置けないわね。」
茜「……。」
由起子「あっ、いけない!遅刻しちゃうわ!!」
由起子は時計を見て叫んだ。
五分後、由起子は支度を終えて、リビングにいる茜に声をかけていった。
由起子「じゃ、浩平のことよろしくね。台所は適当に使っていいから。」
それだけ言って由起子は家を後にした。
由起子が出かけてからしばらくして、茜はまずケーキ作りに取りかかった。
……2時間後……
茜は出来上がったケーキをテーブルの上に置き、次の料理に取りかかった。
……さらに2時間後……
茜「これで最後です。」
茜はミトンをつけて、オーブンから小型のローストビーフを取り出した。
(材料費は、由起子が2万円くれた。)
料理をテーブルに並べると、茜は浩平を起こしに、二階へ上がっていった。
浩平の部屋に入り、ベッドで寝ている浩平を見つけると、茜は揺すり始めた。
茜「浩平、起きてください。」
普段なら起きないだろうが、浩平はあっさりと起きた。
浩平「う〜ん、おはよう、茜。」
茜「おはようございます。」
朝の挨拶(?)をした後、二人は台所へ向かった。
浩平「あれっ?」
浩平はテーブルの上を見るなり、驚いた。見たこともない料理が並んでいるからだ。
浩平「こ、これは一体?」
茜「浩平、忘れたんですか?」
茜が少し呆れたように言った。
浩平「忘れたって、なにを?」
本当に忘れているようだ。茜は溜息と共に呟いた。
茜「今日は、浩平の誕生日です。」
浩平「あっ!!」
そうだったという顔をした。
浩平「そうか。そう言えば今日だ。」
浩平は一人で頷いている。
茜「それで、プレゼントもあります。」
そう言って茜は包みを取り出した。
浩平「開けてもいいか?」
茜「はい。」
浩平は包みを開けた。中身は、やや時期はすれだが、白い薄手のセーターだった。
茜「お揃いです…。」
茜は顔を真っ赤にして呟いた。よく見ると、茜は白いセーターに、チェックのスカートという服装だった。
う〜ん、私服の茜はいつもより可愛いな。
浩平「ああ、早速着てみよう。」
そう言って浩平は上着を脱いで、セーターを着た。ジーパンに白セーターというのも
悪くないコンビネーションだ。
茜「もう一つ、プレゼントがあります……。」
言い終えると、意を決したように浩平の方を向き、そして……
浩平「!?」
浩平は動揺を隠しきれない。当然だ。あの茜が自分から唇を重ねてきたのだから……。
浩平「あ、茜。」
浩平は茜の顔を見た。まさに、顔から火が出そうなほど真っ赤だった。
……その後、二人は茜の作ったご馳走を食べ、リビングで世間話をして、
日が沈む頃、茜は家路についた。
浩平にとって、忘れることの出来ない誕生日だった……。