【44】 Blessing |
この一年、ほんとに長かった。 茜と同じ大学を目指すために、俺はかなりの努力をした。その甲斐あって無事に大学に合格し、今日という日を迎えることができた。 そして俺はなんとなく卒業式の終わった体育館にひとり立っている。 なんでこんなことをしているのか分からないが、まいいか、そこが自分らしいし。などと感慨に浸っていると、ぎぎいっ、ときしんだ音を響かせて誰かが侵入してきた。 「……浩平」 その声は反響する音に遮られてほとんど聞こえなかったが、俺には誰の声だか分かっていた。だから俺は振り返らなかった。 「不法侵入者は髭に掴まるぞ」 「大丈夫です、あの人はペンギンが入ってきても何も言いません」 「そうだな」 笑みがこぼれる。改めて振り返ると、そこには俺の予想通り茜が微笑みを浮かべながらこちらに向かってゆっくりと近づいてくるところだった。 「どうしたんですか、こんなところで」 とすぐそばまで来て立ち止まる。 「……高校生活が終わったな、と思ってさ。人より一年多くいたから名残惜しさも一年分多いんだ」 そう言いながら体育館を見まわした。茜も懐かしそうに視線を動かすと、 「これからは私と一緒ですね」 「よかったよ、茜が女子大に入らなくて」 「私も、浩平と一緒にいたいですから」 そう言って俺の胸に顔をうずめてきた。茜と触れ合った部分から起こる甘い波が全身に広がっていく。 ぽろん。 そのとき俺たち以外には誰もいないはずの体育館の壇上からピアノの音が聞こえてきた。はっとしたように茜が頭を上げる。 「スポットライトが欲しいところだけどね」 冗談めかした言葉とともに奥から柚木が姿を現す。いつもながらの神出鬼没ぶりに俺たちは苦笑するしかなかった。 「詩子、こんなところにいたんですか、探しましたよ」 「何言ってるの、探していたのはあたしじゃなくて折原君の方じゃない」 茜の顔が赤くなったのをからかうような目で見ると柚木は再びピアノの前に座った。 「これはあたしからの卒業祝いよ、感謝しなさいよね」 そう言って柚木は鍵盤の上に指を滑らせる。やがて柚木の10の指が鍵盤の上で華麗に踊り始めた。 いつもと違う柚木の姿に戸惑いながら、俺は優雅な旋律が体育館に広がっていくのを心地よく感じていた。俺にはなんの曲だか分からなかったがそんなことはどうでもよかった。ただ純粋にこの時間を楽しむために俺は目を閉じた。 しかしいきなり曲が変わる。 「こ、これは」 いわゆる結婚式で流れるあれだ。 「ゆ、柚木、なんの真似だ」 「考えてみたら、ふたりにはこっちの方があっていたわね」 こっちを見ようともせずにそのまま演奏を続ける。俺が固まっていると、ぎゅっと俺の背中に回された茜の手に力がこめられた。 「浩平」 潤んだ瞳に見つめられて俺はますます動けなくなってしまった。 「あ、茜」 そういえば俺たちはずっと抱きあったままだった。それに気がついたとたん茜の甘い香りが鼻腔をくすぐり、ごくりとつばを飲みこむ音が頭の中で反響する。 ピアノの曲はすでに変わっていたがそれに気づく余裕はすでになかった。茜の瞳に捉えられた俺は本能のおもむくままに顔を近づけていく。 「こらあっ!! なにをしてるんだ!!」 名も知らぬ教師の怒鳴り声がすべてを台無しにしてくれた。 このあと浩平たちはどうなったんでしょうね。 ……眠いなあ。 展開が強引だと思った方すみません。 今回のは詩子がピアノが得意らしいので弾かせてみたかったんです。 ウエディングマーチとブライダルマーチ、どちらを弾いたのかは気にしないでください。 ……あれ、今日はなつきがいないな? なにやってるんだろう。 まあ、静かでいいか。 じゃあさっそく感想へ。 ……おや、41がないぞ。 >丸作さま いつもお世話になっていますが、ここでははじめましてですね。 うーん、いきなりハーレムとはやるな浩平。 この後どんな波乱が待ちうけているんでしょう。 まさか夢オチ? >スライムさま 感想ありがとうございました。 新入生のときの期待と不安が半分混じった独特の雰囲気、懐かしいです。 今回フルネームで出てきたキャラクターは物語に関わってくるのでしょうか。 榴は澪と再び友情を結べるのか。 続きが待ち遠しいです。 >ベイル(ヴェイル)さま 前回は思いっきり勘違いしていたようで申し訳ありませんでした。 あとなつきのたわごとは気にしないでください。 夕焼けにも「音」がある、そこで感心してしまいました。 思わず夕焼けに照らされた瑞佳の姿を想像してしみじみ。 次は誰かなあ。 >ひささま しかし一回で聞き取れるとはこの店員は只者じゃないですね。 やはり泣く繭には勝てませんか。 しかし繭がしっかりした人とは瑞佳もすごい。 そして2395にこだわる浩平がなんか哀れでよかったです。 |