【31】 かくれんぼ |
「茜、今日は好きなだけワッフルを食ってくれ」 「どうしたんですか、急に?」 俺の言葉にさすがの茜も驚いた表情を見せる。ホームルームが終わったばかりの教室にはまだ多くの生徒が残っていた。 「今日はホワイトデーだろ、だからバレンタインのお返しを考えていたんだが、実は何も思いつかなくてな、いつものでいいかなと思ったわけだ」 「そうですか」 うなずいてくれたものの、あんまりうれしそうじゃないな。でもしかたのないことなんだ、俺にはあのぬいぐるみにはとても手が出せないんだ。 「へえ、ありがとう折原君。じゃあ遠慮なく食べさせてもらうね」 「ああ、任しとけ……って、柚木、おまえいつの間に現れた!?」 「いつだっていいじゃない」 この悪意のない笑みが曲者なんだ、こいつは。これにだまされて不幸になる奴がいるんだろうな。 「お前には関係ない、さっさと帰れ」 「澪ちゃん、そんなこと言ってるよ」 えぐえぐ。 「み、澪冗談だぞ、俺は柚木に言ったのであって……」 と言うよりいつの間に現れたんだ? まだホームルームが終わってまもないんだぞ。「あ〜あ、女の子泣かすのってさいてー」 「いや、ほんとに悪かった……ってなんで俺のせいになるんだ!!」 「あっ、気づいちゃった?」 柚木につかみかかろうとした俺の袖をちょいちょいと澪が引っ張る。 『あのね』 「なんだ?」 『澪もワッフル食べたいの』 「そうか、じゃあ行くか」 うれしそうに飛び跳ねる澪。それを見て柚木が唇を尖らせて文句を言ってきた。 「ずっる〜い、なんであたしのときだけうなずいてくれないのよ〜」 「それはね、詩子さんだからだよ♪」 にっこりと柚木のまねをする。たまにはあいつをやりこめてやりたいと思ったのだが、美男子星人の技のきれはいまいちだった、と言うか駄目駄目だった。 ……頼むからそんなに怯えたような目で見ないでくれ澪。 そのとき、その様子をなぜか穏やかな目で見ていた茜が俺の方を向いた。 「ほかの人にはちゃんとお返しをしたんですか」 「ああ、長森の奴にはミルクキャンディー、七瀬にはキムチせんべい、椎名には照り焼き味のポテトチップス、みさき先輩にはカレー、これ以上はない見事な選択だと思わないか」 「上月さんには何をあげるつもりだったんですか?」 「学食でラーメンでもと思ったんだが……やっぱ駄目か」 「あまりホワイトデーには関係ないと思います」 「いいんだよ、ようは喜んでくれればいいんだからな」 「それもそうですね」 「なっ」 「はい」 顔を見合わせて俺たちは微笑みあった。 『さみしいの』 「澪ちゃん、あたしがいるじゃない」 飛び跳ねるのをやめた澪の肩に柚木が手を置いた。その視線がなんか妖しいような気がするのは……まあ、気にしないことにしよう。 いつまでも教室にいてはワッフルが売りきれてしまうかもしれないので俺たちは急いで山葉堂に向かった。道の途中で俺だけが先に行って並ぶことにして、茜たちは公園で待つことに決める。残念ながら茜のスピードに合わせるのは危険だ。 俺が山葉堂に着いたときには結構長い列ができていた。最後尾に並びながら息を整えて、大人しく順番を待つ。そこで俺はあることに気がついた。 何を頼むのか相談してなかった……。 「まあいいか、適当に買っておけばいいだろう」 独り言を呟きながら、何気なくメニューを見てみる。するとそこに新しいメニューが追加されているのを発見した。……ホワイトワッフルってなんだ? あれこれ想像しながら並んでいるうちにようやく俺の順番がやってきた、さっそく気になったことを訊ねてみる。店員の方も今日はこの質問をよくされたのだろう、よどみなく答えてくれた。 「はい、これはホワイトチョコレートソースと細かく刻んだマシュマロを入れた生クリームをトッピングしたものです。今日だけの限定発売ですよ」 ふむ、わりとおいしそうだな。 「じゃあそれを4つと、ココナッツとストロベリーとチョコレートと例のやつを1つずつください」 「かしこまりました」 店員はうなずくとてきぱきと作業をこなす。やがて俺の手には甘い香りの立ち込める袋が渡されることになった。さっそく茜たちのところに向かうとするか。 「折原君遅いよ〜」 公園に急ぐと人の気も知らずに柚木の奴が文句を言う。 「うるさい、文句を言う奴には食わせてやらんぞ……それより、柚木、おまえはあとでちゃんと金払えよ」 「ええ〜、なんでよ?」 ふくれっつらをするな。 「おまえはバレンタインに何もくれなかっただろうが」 「じゃあ、今度の折原君の誕生日に素敵なプレゼントをあげるから」 あいつがそんなことを言うとは思わなかったから正直俺はびっくりした。明日は雨が降るな。 「へえ、なにをくれるんだ?」 「あたしの愛なんてどう?」 「ぶっ!?」 あぶねえ、危うく袋を落とすところだった。 「ゆ、柚木悪い冗談はよせ」 「そうよね、そのプレゼントは茜がするはずだもんね」 にやにやとしながら俺のわき腹をこづく。その向こうでは茜が真っ赤になっていた。 「詩子、ひどいです」 「ごめんね〜、でもそうなんでしょ?」 だからその目はやめい。 『早くワッフル食べたいの』 「おっとそうだったな」 もしかして気をきかせてくれたのか? 俺を気を取り直してまだ温かいそれを袋から取り出した。 「あれ、何それ? もしかして新製品」 はじめてみるワッフルに柚木たちが好奇の目で近寄ってくる。 「今日だけの限定発売らしい」 そう言いながらまずは茜に渡す。 「愛されてるねえ」 「柚木、いちいちうるさいぞ」 次は澪に。 『ありがとうなの』 そして柚木には例のやつを。 「ちょっと、なんであたしのだけ違うのよ、それにこれって!?」 「すまんなあ、おまえの分は買ってくるのを忘れてたんだ」 そして自分用に買ったものを取り出す。 「……そこにあるじゃないの、あたしにもよこしなさ〜い」 こういうときの女のパワーには驚かされる。抵抗空しく奪われてしまった。ちっ、たかがワッフルひとつで大人気ないやつだ。 「折原君には言われたくないなあ」 うるさいぞ。 「それじゃ食べるとするか」 「ちょっと待った!」 ベンチに座ろうとした俺を柚木が制する。 「なんだよ?」 中腰のままで返事をすると柚木がとんでもないことを言ってくれた。 「かくれんぼしない?」 「はあ、かくれんぼ?」 『そうなの』 ……澪、おまえはまともだと思っていたのに。やっぱり柚木に関わるとろくな人間にならなくなるんだな。 「ん〜で折原君が鬼ね」 「ちょっと待て、俺はやるとは一言も言ってない……」 抗議する俺を、柚木と澪が強引に桜の木のところまで引っ張っていく。 「はい、ちゃんと30数えてから探すんだよ」 『しっかり数えるの』 「俺の意見は無しか?」 「それじゃ澪ちゃん隠れるよ〜」 『分かったの』 相変わらず聞く耳を持たないやつめ、なにを考えるのか知らないがここは従うしかないだろう。俺は仕方なく目をつぶって数を数えはじめた。 「1、2、3、4……」 しかし寒い、寒すぎる。いい年した高校生がやることじゃないぞ。 「……15、16、17、18……」 これが終わったら、必ずくだらないことにつきあわさせたお返しはさせてもらうからな。 「……27、28、29、30、よし終わった!」 決意を胸に勢いよく振り返ると……そこには必死に笑いをこらえている茜の姿が。 「まさか素直に数えているとは思いませんでした」 そう言ったきり身体をくの字に曲げて笑いはじめた。 「……俺は素直な人間だからな」 くそ〜、めちゃめちゃ恥ずかしい。 「それであいつらはどうした?」 とにかく気になってることを聞く。すると茜は顔を赤くさせたまま、 「これを見てください」 と一枚の折りたたまれた画用紙を俺に手渡す。 畳まれたそれを開いてみるとそこには、 『お幸せに』 と大きな文字で書かれてあった。 私のはバレンタインネタとまったく関係ないです(笑)。 適当に出したホワイトワッフルがほんとにあったりして。 なつき「ちょっと、なつきの話は?」 おまえばっかり書いてられるか。 いてっ! なつき「だめだよ、なつきネタでここを埋め尽くさなくっちゃ」 そりゃ無茶もいいこと……だからその掃除機はやめい!! ……ええい、このまま感想だ。 なつき「ずるいよ」 >から丸&からすさま 瑞佳が不幸すぎ……。 はたして浩平は瑞佳を救うことができるのでしょうか。 そこで澪がどうするのかが楽しみではありますね。 次回の浩平の活躍にも期待しています。 なつき「そこでなつきがちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍が」 はじまるかい、んなもん。 >変身動物ポン太さま なるほど、そうなったのね。 ホワイトデーに鯛焼きを贈るとは、その展開は読めませんでした。 前回のうぐぅに引っかかってしまいましたよ。 さすがです。 それにしても中崎と南森のどこが気にいられてるんでしょうね。 なつき「眼鏡キャラとして、プロフェッサーには負けられないね」 どう見てもおまえの負けだよ。 >スライムさま いきなり澪が流されているという、衝撃的な始まりに目を奪われてしまいました。 澪が話せなくなっていることを知ったとき、榴がどんな行動に出るのか。 しかしひどいこと言ってますね、あってるけど。 なつき「目の悪いキャラとして、榴には負けられないね」 そればっかりかい。 >ひささま あっ、佐織だ(笑)。 それにしても瑞佳は可愛いですね。 ひささまの書かれる瑞佳は幸せにあふれてていいです。 お幸せにとしか言いようがないです。 瑞佳には牛乳ははずせないということでミルクキャンディーがかぶってましたか。 まあいいや(笑)。 なつき「なつきにはなにかくれないの?」 なんでだあ! |