【18】 Cocoon |
それはあるうららかな春の日のことだった。 「なあ、椎名、おいしいか、その照り焼きチキンバーガー」 俺がポテトをつまみながら何気なく話しかけると、繭は手を止めて悲しそうな顔をみせた。しまった、すぐに自分のあやまちに気がつく。 「みゅー、約束……」 「……そうだったな、おいしいか繭」 「うん♪」 「じゃあな繭、また明日な」 手を振りながら消えていく繭の後ろ姿を見送ると俺は自分の家への道を歩き始めた。 (しかしまだ明るいんだな) ついこの前までは暮れていた空も、まだオレンジ色のグラデーションを描いている。 (今日は由起子さん帰ってるかな) 少し急ぎ足になりながら、今日の夕食のことをぼんやりと考えていると何者かにいきなり肩を掴まれた。 「ねえ、あなた」 (誰なんだ、いきなり?) 振り返ると緩くウエーブのかかった赤い髪がまず目に入った。外見は間違いなく俺よりも年上だな、ボリュームのある胸をセーター包んで……。 「ちょっと、どこを見てるのよ」 おっとやばいやばい、きついまなざしで俺を見ている。 しかしいきなり知らない人に話しかけられるとは思わなかった。でも何故か初めて会ったとは思えなかった。どことなく誰かに似ている気がする。なんかすごく身近にいるような……。 「ねえ、さっきの子ってあなたの恋人?」 「ええ、そうですけど」 考えこんでいた俺はつい反射的に返事をしていた。 「ねえ、少し私とお話ししない?」 「……もしかしてナンパですか?」 俺がそう言うと、その人は目を丸くすると次に吹き出しはじめた。 「はっはっは、それもいいかもね。でも残念、そうじゃないんだ」 愉快そうにひとしきり笑うと、急に真剣な表情に変わって、 「お願い、少しでいいから」 と言ったかと思うと俺の腕を引っ張って歩き出した。 「ここらでいいかな」 俺が連れてこられたのは高台にある公園だった。誰もいない公園に男と女が二人、普段なら心ときめくシチュエーションなんだろうが、とてもそういう気分になれない。 「ねえ、さっきも聞いたけどさっきの子はあなたの恋人?」 「そうですよ」 なんだこの人は? さすがの俺もだんだん腹が立ってきた。 「でも、周りから見ると恋人って感じには見えないわねえ。せいぜい仲のいい兄弟ってところかしら」 「そんなの……あんたには関係ないじゃないですか」 「あなたもしかしてロ……」 バチーン!! 限界だった。 「あんた、俺と繭との間のことも知らないで勝手ことを言うな!!」 「……ありがとう」 「えっ?」 いきなり頭を下げられて、そのときの俺はすごく間抜けな顔をしていただろう。 「正直ね、ずっと私不安だったのよ。あの人が私を大事にしてくれたのは分かるけど、私を選んでくれた理由を聞くのが怖かった。周りには私なんかよりもとても素敵な人がいたしね」 「……は、はあ」 「ほっとしたら気が抜けちゃったな……さて、そろそろ帰らなくっちゃね。あの人も心配してるだろうし」 その人はくるりと振り向いた。髪がたなびいて辺りに甘い空気をまきちらす。一瞬だけ俺はその香りに酔ってしまっていた。 「ああそう……女っていうのはね、すごくわがままなものなのよ。……またね、浩平」 「えっ?」 信じられないことにその人はまばたきする間もなくそこからいなくなっていた。 「なんだったんだよ、幽霊なのか? 時期が違うだろ」 自分の乾いた笑い声にさらに寒くなった。 「繭、遅いじゃないか、今日は俺とおまえとの大事な日なんだぞ……って、それはどうしたんだ!?」 「これ? これはね、大切な思い出よ」 赤く染まった頬をなでながらにこやかに笑う。 「くそ! 誰だこんなことをしたのは!! 俺がぶん殴ってやる!」 「ふふっ」 「……な、なんだその笑いは」 「ううん、ありがとうね……浩平、私とても幸せよ!!」 そう言うと繭は浩平に思いっきり抱きついたのであった。 はあ、はあ、はあ。……ふう、やっと逃げ切れたあ、というところでみのりふです。 今回は半分反則な手をとったようですがどうでしょうか。 息を整えながら感想に行きます。 >PELSONAさま わざわざどうもありがとうございます。 なつきも草葉の陰で喜んでいることでしょう(死んでない)。 浩平の絆を結ぶ相手って一体誰なんでしょうね。 文章の展開が巧みで素晴らしいなあと思っています。 続きを楽しみにしています。 >から丸&からすさま おお、新連載ですね。 相変わらず執筆スピードの速さに感心してしまいます。 また独自の世界観に引きこんでください。 戦闘シーンがすごくよく書かれていて臨場感が伝わってきます。 うーん、ほかのヒロインたちがどう関わってくるのかなあ。 >WTTSさま 思わずにやりとさせられました。 「すず歌」は知らないのですがすごく雰囲気が伝わってきました。 これからもなつきの支持者として頑張ってください。 なつき「見つけたあ!」 し、しまった。感想に気を取られてて……くう、どうしよう。 なつき「なんで逃げたんですかあ?」 うーむ、そうだ!! なつき、これを見てみろ! なつき「へ?」 WTTSさまがおまえを支持してくれているぞ。 なつき「ほんとだ」 こういうことはめったにないんだから、 WTTSさまの所に行って感謝の気持ちでも述べてこい。 なつき「それもそうだね」 ファンは大切しないといかんぞ。 それにPELSONAさままでイメージアップ作戦を立ててくれている。 これはちゃんと挨拶回りにいってこないとな。 なつき「そうかあ、じゃあ、いってくるよ」 おう、しっかりとするんだぞ。 なつき「じゃあね」 ということでよろしくおねがいします。 |