七瀬さんには彼氏がいない
投稿者: みのりふ  投稿日: 2月26日(土)23時36分
「ふう、ようやく放課後かあ」
「浩平、帰りに商店街にでも寄っていこうよ」
「ああ、そうするか」
 変わりのない日常に改めて戻って来れたんだなあと思う。そんなことに感謝しつつ鞄を取ろうとすると、ふと住井のやつと目があった。
「……いいなあ、おまえら仲良くて」
 机に突っ伏しながら深い溜め息をついてみせる。
 ……暗い、暗すぎる。
「どうしたんだ、おまえには稲木がいるじゃないか」
「そうだよ、なんでそんな暗い顔をしてるの?」
 そう、驚いたことに俺が永遠の世界から帰ってくると住井と稲木がいい関係になっていた。後で瑞佳から話を聞いたところ、落ちこんでいる瑞佳を二人で励ましている間にってことらしい。
 ちなみに夏に海に行ったことも聞いてよっぽど住井を殴ろうか迷ったほどである。
 おのれ、瑞佳の水着を見ていいのは俺だけだ!
 ……いやもとい、
「……実は、急に佐織が別れようって」
 なるほど。そういう……、
「……なにい!? あのアツアツカップルがどうしたんだ!? そうか! おまえまさか、いやがる稲木をむりやり、へっへっへ、奥さんいい身体してますなあ……」
「するかあ!!」
 ぼかっ!!
 住井に怒鳴られ、瑞佳に殴られた。
「あいたたたた……瑞佳、なにするんだよ」
「くだらないことを言ってるからだよ」
「何を言うか、これはくだらないことではないぞ」
「そ、そうなの?」
「そうだ、付き合ってばっかりのカップルが別れるといったらだなあ。やはり住井のやつが嫌がる稲木をむりやり、へっへっへ、お嬢ちゃんいくら叫んでも助けなんか来ないんだよ……」
「同じようなことを繰り返すな!! 絶対に違うわ!」
 住井君、そんなに青筋たてて怒らんでもええやねん。
「じゃあ、なんなんだよ。おまえには心当たりがないのか?」
「あったらこんなには悩まないぞ」
「そんなときは本人に聞くのが一番だ。おい、稲木」
「なに?」
 どうやら都合よく日直だったらしく自分の席で日誌をつけている。ちなみに俺は日直の仕事なんてものを真面目にやったことはない、それが美男子星人である俺の宿命。
「折原君?」
「……いいからちょっとこい」
「私は今日直の仕事しているんだけど」
「話ぐらいはいいだろ」
 俺はそう言うと稲木の腕を掴んだ。すると諦めたらしくシャーペンを置いて大人しくついてくる。しかし住井とは目を合わせようとはしない
「なあ、稲木。どうして別れようなんていったんだ?」
 あたりさわりなく聞いていくなんてまだるっこしいことは俺にはできん。こう言うことはさっさと解決するのがいいのだ。
「だって……」
「だって?」
 うつむいてしまった佐織に、瑞佳も心配そうな顔で優しく話を促す。
「だって私には瑞佳と違って絵がないんだもの。こんな私じゃ立ち絵のある護には釣り合わないの!」
「なっ!」
 衝撃の事実に住井が硬直した、っておい。
「なんだよ、そんなことで」
 くだらないと言いかけた俺の口は佐織の叫びによって塞がれた。
「折原君に何がわかるっていうの!? 私のつらさが」
 と言うなり佐織は顔を手で覆って泣き始めてしまった。
「折原、よくも佐織を泣かせたな」
「俺か? 俺のせいなのか?」
 そこに瑞佳が緊迫した雰囲気を壊すような明るい笑みを浮かべた。一体何を言うつもりだ?
「佐織、それなら心配いらないよ」
「えっ?」
 ぽんぽんと沙織の肩をたたく。そしてあっさりと、
「だって浩平にも絵なんか無いもん」
 と言った。
 ガーン!!!!
「そ、そう言えば」
 佐織がぱっと顔をあげる。うっ、そんな目で俺を見るな。
「だから別れたいなんて思わなくていいんだよ」
 おい。
「そうね」
 こら。
「すまない、佐織、おまえの気持ちに気づいてやれなくて」
 沈痛な面持ちで沙織の肩を抱く住井。
「私が悪いのよ」
「いや、佐織が悩んでいることに気づいていさえすれば」
「もう終わったことなのよ。ありがとう、護」
「佐織」
「護」
「愛してる」
「私も」
 こ、こいつらは……。
「公衆の面前で堂々と抱き合うなあああ!!」
 俺が怒鳴ると、
「何を言う折原、愛する二人は無敵なのだ、なあ佐織」
「そうよ、護。さあ一緒に帰りましょ」
 二人はうなずき合い、手を繋ぎながらスキップをして教室を去っていってしまった。
「チャ、チャーミーグ○ーン!?」
「二人とも元に戻ってよかったねえ」
「あの光景を見て言いたいのはそれだけなのか」
「まあ、いいじゃない、それよりもわたしたちも帰ろうよ。早くしないと日が暮れちゃうよ」
「……そうだな」
 ああ、くだらないことに時間を割いてしまった。



 残された教室にたたずむふたつの影。
「ねえ、広瀬さん」
「何、七瀬さん」
「どうしてあたしたちには彼氏がいないのかしら」
「さあ」
「なんか理不尽じゃない」
「そうよね」 
「はあ、あたしって魅力が無いのかしら」
「そんなことはないわ!!」
「ひ、広瀬さん?」
「心配しないで。あなたの素晴らしいところは私が一番理解してるもの」
「あ、ありがとう、でもそう言う広瀬さんも素敵よ」
「七瀬さ……いや、留美って呼んでいい?」
「いいわよ、真希」
「留美」
「素敵よ真希」
「あなたこそ」
 またひとつカップルが誕生したようだ。
 めでたし、めでたし。







掲示板も春休みのようでなんだかさみしいなあと思う今日この頃、
先日のはシリアスなものというには何かが違う気がしたみのりふです。
とりたてて言うこともないのでさっさと感想に行きましょう。

>変身動物ポン太さま
こちらでも浩平争奪戦が繰り広げられてますね。ポン太さまのは素直に楽しめるものとなっていてやはり年季が違うなあと思います。
浩平は幸せ者ですねえ。澪ちゃんに迫られて断るとは思わなかったですよ。
髭兄もしつこく再登場してるし。
なかなかでてこない氷上が不気味ですね。裏で何を考えているのでしょう。
どちらにしろろくなもんじゃないと思いますが。

>雀バル雀さま
七瀬の前向きな姿勢が強く伝わってきました。
しかし最後の「20分」というのがすごく意味深ですね。
うーん、残念ながら私には分かりません。
七瀬の家から公園までにかかる時間を表すのかなあ。
それと明日は頑張ってください。