耐える! 乙女たち 中編  投稿者:みのり


「さあ、いよいよやってまいりました! 折原浩平争奪我慢大会をこれより開催したいと
思います! 司会は私、住井が務めさせていただきます」
 プールサイドに設けられた放送席の真ん中で住井がにこやかに挨拶する。
「ちょっと待てえええ!!」
 湧きあがる観衆の中、住井の横で芋虫状になった浩平が抗議の声を上げた。浩平の額に
はキョンシーのごとく粗品と書かれた紙がはられている。住井は横目でそれを見た。
「なにかな、賞品」
「貴様〜、いきなり俺をさらってロープで縛るとは何考えてやがる!!」
「逃げ出されると困るから」
「それに賞品ってのはどういうことだ!!」
「いやあ、だって参加するメンバーを見ればこうなるのは必定だろ。俺は手間を省いてや
ったんだ。感謝しろ折原」 
「できるかーー!!」
「おい、南、うるさいからガムテープでもはっておけ」
「住井覚えてろよ! この借りはもががが!! ふぐう!! 」
「南、ついでに袋でもかぶせておけ」
 冷酷に指示をする住井。作業がすむとこほんとひとつ咳払いをして間を取ると今度は反
対側を見た。そこには居心地悪そうな様子で眼鏡をかけた少女が椅子に座っている。
「……静かになったところでゲストの方を紹介したいと思います。今日のゲストは眼鏡の
奥では何を考えている!? 誰もその存在を顧みることはない、おまけヒロイン、いやヒ
ロインと言うもおこがましい、清水なつきさんです!!」
「……しくしく」 
「おや、どうされました?」
「私だってあっちのほうに出たかったのに……」
「いやあ、それはよしたほうがいいでしょう、あなたの存在感なんて所詮あの南以下なん
ですから」
 にこやかに応える住井。ついになつきは机にのの字を書き始めてしまった。当然のごと
くそれを無視する住井。
「ではさっそく、選手を紹介しましょう!! まずは長森瑞佳さんです!!」
 住井の声とともに更衣室から登場する瑞佳の目は決意に満ちていた。観衆の声援も聞こ
えない様子でプールサイドに立つと浩平の姿を捜し求める。その姿は一月だというのに体
操服姿であった。だから我慢大会なのであるが。
「続いては、七瀬留美さんです!!」
 以下、順番に選手が紹介される。みんながみんな体操服姿であった。そして最後に登場
したのは、
「浩平君は僕が貰うよ」
 氷上シュンだった。彼だけは制服姿であったが、プールサイドに上がると制服を一気に
脱ぎ捨てた。
「おおっーと! これは日本男児の必需品赤ふんだー!! 氷上選手の意気込みがここま
で伝わってくるようです!!」
 マイクを握り締め絶叫する住井、すると今までいじけていたなつきが住井の袖を引っ張
った。
「ちょっと、あの人はいいんですか!?」
「ん? 面白いからわりとオッケー」
「……しくしく」
「さて、選手もそろったところでさっそく勝負方法を説明いたします! みなさん、プ−
ルにご注目ください!」
 その言葉とともにプールを覆っていたシートがはずされる。そこには長細い机におかれ
た人数分のかき氷と、座布団の形をした氷の塊が置かれていた。ちなみにひとつだけやた
らと量が多いかき氷があるがそれはみさきの分だろう。
「ルールは簡単! 氷座布団の上に座って早くかき氷を食べきった人が勝ちです! シロ
ップはご覧の通りさまざまな種類を用意いたしました。これで里村さんのニーズにもお答
えできるでしょう。また川名先輩にはハンデとして他の人の10倍の量を食べていただき
ます」
「望むところだよ」
 みさきが余裕たっぷりに笑う。
「さらにこの氷でできた数珠をつけていただきます。ルールはこれだけ、いかなる妨害も
オッケーです! 張り切っていってもらいましょう!」
 いよいよ勝負の時が迫り、ばちばちと見えない火花が飛び交う。
「みんなには負けないんだもん!」
「望むところよ、乙女の力見せてあげるわ」
「……冷静になってみればなんでこんなことをしなければならなかったのでしょう」
 溜め息をつく茜の息が白くけむっていた。
「ああっ!! 里村さんがはあっ、てしてる! ますます許せないんだもん」
『寒いの、でも負けないの』
 すっかりみんなが瑞佳に引っ張られている。
「みゅー♪」
 繭もはしゃいでいた。
「さて、みなさん所定の位置についてください」
「ああー! 冷たい!」
 氷座布団の上に座ったとたん留美が奇声を上げた。横では茜が青い顔をしている。
「寒くないの?」
「……そんなことありません」
「ああっ、やっぱり無理してるでしょ!」
「してません」
 さらにその茜の隣りではみさきが困惑したような声を上げていた。
「あのー、これってシロップがかかってないのかな?」
「それなら私がかけてあげます」
 これ幸いと茜が立ちあがる。
 そして数分後。
「……こんなものでしょうか」
 満足げにうなずく茜に、みさきの隣りに座っている澪が震えていた。
『里村先輩、なんて恐ろしいの』
 みさきのかき氷はえたいの知れない液体と化していた。
「みゅー♪」
 繭はかき氷に照り焼きソースをかけていた。なんでこんなものがあったのだろう。さら
に繭はそれを持ったまま隣りの澪のかき氷を見る。そこにはまだ何もかかっていなかった。
「みゅー♪」
 澪が我に返ったときには目の前のかき氷は照り焼きソースの匂いが立ち昇っていた。
『ひどいの』
「おおっーと! ゴング前から激しい足の引っ張りあいだあ!!」
 住井は立ちあがると南が持ってきたゴングを手に取った。それをいじけているなつきの
耳元で勢いよく叩く。
 カーン!!
「きゃああああああ!!」
 試合が始まった。




どうも、みのりです。
そしてなぜか中編です。
間もしっかり開いてしまいましたし。
なつきも出してしまいました。
いいのでしょうか?
……うーん、こういうときアシスタントがいてくれると誤魔化せるんだけどなあ。