成人の日 七瀬スペシャル  投稿者:みのり


「おりはらー、折原ってば」 
 ゆさゆさ。
「ぐー、……う? ……すやすや」
「折原、ちょっと。起きなさいよ」
 ゆさゆさゆさ。
「う、ううーん、あと3キロバトルだけ寝かせてくれ」
「……あんた、漫才でもやる気?」
「七瀬、お前がいつも通りやれば5週勝ち抜きも目じゃないぞ。……むにゃむにゃ」
「どういう意味よ!! とにかく、早く起きなさいっての!」
 ボゴッ!!
「ぐわあ!!」
「起きた?」
「『起きた?』 じゃないわー! 一体なんのつもりだ! え……?」
「ん? どうしたのよあんた、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「すいません、どちらさまでしょうか」
「はあ? なに言ってんの?」
「ああ、そうか。俺は夢を見てるんだな。はっはっは、そうかそうか」
「あっ、こら寝るんじゃない。……いい加減にせんかー!!」
 ドキャ!!
「……その拳の感触は間違いない。お前、やっぱり七瀬なのか」
「当たり前じゃない。なに言ってんのよ」
「その格好は一体なんだ? 仮装行列にでもでるのか?」
「そんなわけないじゃない! 今日は成人式だから振袖を着てるだけじゃないのよ。はあ、
せっかく迎えに来てあげたのに」
「ば、ばかな! お前は腰蓑に鼻輪をつけた格好で参加するはずじゃなかったのか? 俺
はお前の槍さばきを楽しみにしてたのに」
「そんなわけがあるかあっ!! それが仮にも付き合ってる彼女に言う台詞なの!?」
「大体俺は行くとは一言も言ってないぞ。成人式なんか面倒くさいだけじゃないか」
「ええー、だって瑞佳も来るって言ってたのよ。それに里村さんだって、みんなに会いた
くないの?」
「あいつらこっちに帰って来てたのか?」
「うん、この前電話があったもの」
「しょうがねえなあ、じゃあ、行くとするか」
「……ちょっと。折原、顔がにやけてるわよ。まさか……」
「なんでもないぞ、俺は住井たちと旧交を暖めようと考えていただけだ。……ははあ、や
きもちか? ふっ、可愛い奴め」
 メキョ!!
「いいからさっさと準備する! 下にいるから早く来なさいよ!」
「……はい……」



「うわあ、七瀬さん久しぶり! 髪形変えたんだあ。すっごく似合ってるよ」
「ありがと瑞佳。音大に入ったって聞いてるけど、どう?」
「うん、楽しいよ。充実した毎日って感じかな」
「よう、長森」
「あっ、浩平じゃない。七瀬さんとうまくいってるの? 彼女を泣かせちゃだめだよ」
「……その通りです」
「うわっ、茜か!?」
「やっほー、私もいるよー」
「……詩子、私にしがみつくのはやめてください。着物が崩れます」
「その気崩れた感じがまたなんとも言えないのよねえ」
「……詩子、おじさんくさいです」
「あっちには佐織や住井くんたちだっていたよ。さっき挨拶してきたけどみんな変わって
なかった」
「そうなんだ。ねえ、折原向こうへ行ってみない?」
「その必要はないみたいだぜ」
「え?」
「……里村さん、やっぱり綺麗だ……やはり俺と」
「……嫌です」
「ガーン!」
「その振られぶりは沢口か。久しぶりだな」
「だから俺は南だと……」
「まあそんなことはいいじゃないか。よお、折原、まさかこの住井様を忘れたわけじゃあ
るまいな」
「ああ、相変わらずくだらないことを考えていそうなその顔をこの俺が見忘れるわけがな
い」
「ふふふ、さすがだな折原。それでこそ我が永遠のライバルだ」
「で、今日は何をやらかす気だ?」
「特にたいしたことではないぞ、ただこのあとお前の家で内輪の同窓会としゃれこもうと
考えているだけだ。ははは、お前が来てくれてよかったぜ」
「へー、そうなんだ。茜、私たちも参加しようよ」
「……別に構いません」
「なにぃ、それなら俺も行くぜ! そして、……くっくっく、楽しみだなあ」
「うわっ、沢口が自分の世界に入りこんだ」
「こうなったらしばらく元に戻らないな」
「それじゃあ、他の人にも声をかけてみようよ」
「そうだな」



「……んー、まあこんなもんか」
「佐織は駄目だったよ、なんか用事があるって言ってた」
「それにしても……お前が参加するとは思わなかったな、広瀬」
「別にいいじゃない。私が来ちゃ変だって言うの」
「そうは言わないが、いつもの取り巻きファンネルはどうした」
「なによそれ」
「まあまあ、いいじゃない折原、こういうことは人数が多いほうが楽しいんだし」
「……七瀬さん」
「じゃあ、人数もそろったし、そろそろ行こうか」
「えっ、住井くんもう行くの? まだ式典は終わってないよ」
「別にいいじゃないか」
「ねえ、お昼はどうするの?」
「……山葉堂がいいです」
「「「…………」」」
「……どうしてみんなして黙るんですか?」
「えっ? いやあ別に、なあ住井」
「なっ、俺にふるな、……え、ははは、そう、里村さんの気のせいだよ」
「……確かに昼食にするには少し変だけど過剰な反応ね」
「広瀬さんは知らなかったんだね、里村さんは大の甘党なんだよ」
「それが?」
「必ずあの練乳蜂蜜ワッフルを食べるんだよ」
「え、練乳蜂蜜ワッフルって、あの?」
「そう」
「あれって人間の食べるものだったの、……はっ!?」
「……広瀬さんひどいです」
「え、えーと、あ、長森さん逃げないでよ!」
「わ、私は無関係だもん」
「里村さん深い意味はないのよ、つまり……」
「……別に怒っているわけではありません」
「そ、そうなの? よかったあ」
「ただし、一緒にワッフルを食べてもらいます。そして美味しいということを証明してあ
げます」
「そ、そんなあ」
「広瀬さん、気の毒にね」
「え、えっとあなたは?」
「あ、そうだったね、私は柚木詩子さんだよ。茜の幼馴染なんだ、よろしくね」
「私は広瀬真希よ。ね、ねえ、里村さんの幼馴染って言ったよね。だったら」
「あはは、悪いけど私には無理だよ」
「そ、そんな……」
「ま、まあ気にするな広瀬、こんなのは犬に噛まれたとでも思ってだなあ」
「……住井さんも一緒に食べたいのですか?」
「いや、俺は甘いものはちょっと苦手なんで」
「……残念です」
「……うーん」
「どうしたのよ折原」
「……うん? いやあ、七瀬。おまえ今日はやけに大人しくて変だと思ってな。いつもの
ように壇上にいるお偉いさんをぶっ飛ばして『最高ですかー!?』と叫んでみてくれない
か」
「するかっ!!」
「おー、いつもの七瀬に戻った」
「くっ、振袖を着ながら周りに愛想を振り撒く、乙女にしかなせない技よ」
「もう、乙女って年じゃないだ……」
 ドガッ!!
「少しは口を慎めっ、あほっ!」
「……七瀬さん、みんなが見てる……」
「えっ!? おほほほほ。さっ、さあ、みんな行くわよ」
「……どこへですか?」
「ぐっ、里村さんのつっこみって厳しいわね……。そ、それはもちろん、折原の家よ」
「それはいいけど……、お昼はどうするの? 浩平のうちにはたぶんなにもないよ」
「それじゃあ、商店街によってなんか食べてからにしようぜ」
「……山葉堂は?」
「いや、おやつじゃなくてちゃんとお腹のふくれるものにしようぜ。山葉堂にはそのあと
でもいいだろ」
「住井くん、それは勘弁して、じゃないと……、う……、分かったわよ、練乳蜂蜜ワッフ
ルでもなんでも食べてあげるわよ!」
「広瀬さんがきれた……」
「じゃあ行こうか」
「そうだね」
「えっ、まだ式典は終わってないよ」
「瑞佳は真面目なんだから」
「そうそう、そんな役にも立たない話なんか聞いてたっていことなんかないよ」
「そうかなあ……」
「いいから、いいから」
「じゃあ、どこにするか」
「私はねえ……」



「……はっ!? いかんいかん、ついトリップしてしまった。……あれ? みんなは? 里
村さん? えっ、俺ってもしかして忘れられた? そんなあああ!!」



「……すっかり飲みすぎちゃったなあ」
「じゃあな、みんな気をつけて帰れよ」
「ううう、わらしらってね、つらいことらってあるのよ!!」
「……広瀬さん大丈夫かなあ」
「ちょっろ、人の話聞いれるの?」
「うーむ、なにかやなことでもあったんだろうか」
「まあ、なんとかなるだろ」
「しかし、里村さんってお酒強かったのね。あんだけ飲んで顔色ひとつ変わってないじゃ
ない」
「……そうですか?」
「そうよ、でも乙女としては頬をはんのり赤く染めて、『私酔っちゃった』と言えるように
ならなくっちゃ駄目ね」
「ふーん、そういうもんなんだあ、まあいいや、茜、帰ろう」
「そうですね」
「おお、気を付けろよ」
「……でねえ、これら傑作らろよ」
「広瀬さんは俺が送ってやんなきゃ駄目だな」
「あ、あたしも行くよ。途中まで一緒だし」
「それは助かるなあ」
「じゃあな長森に住井、それに広瀬」
「んー? わらしのころ呼んだあ?」
「それはいいから帰ろう」
「それじゃあ、またね浩平」
「ああ」
「……ちょっと広瀬さんそっち行っちゃ駄目だよ」
「そうらの?」



「……じゃあ、七瀬、送ってやるよ」
「うん」
「俺としては泊めてやりたいところだが、着物の着付けなんかできないしなあ」
「な、なに言ってんのよ」
「ははは、照れちゃって、うりゃ」
「ちょっろ、ひろの頬ひっはらないでよ」
「ははははは」
「うーーー」
「怒ったか? ごめんな」
「ねえ折原」
「ん、どうした?」
「寒い」
「そうかそうか、特別に手を繋いでやるぞ」
「うん、ありがと」
「じゃあ、行くか」
「うん」
「う−む、ほんとに寒いなあ」
「そうね、こういうときって雪が降るのよね。……ほら、こんなふうに」
「……七瀬、残念だがこれは雪じゃない」
「えっ?」
「残念ながら雨だ」
「えっ? えっ? どうして? この雰囲気でどうして雨が降ってくるの?」
「諦めろ、おまえには似合わないということだ」
「なんでよ!!」
「いいから戻るぞ」
「私じゃなにが似合わないって言うのよおおお!!」 




どうも、みのりです。2度目の投稿です。
今日は成人の日ということでこんなものを書いてみました。
出来としては今のところこんなものでしょうか。

>ひろやんさん
感想ありがとうございます。
繭って書くの難しいですよね。
でも、うまく繭の傷つきやすさがえがかれていると思います。
母親は偉大だ。