雨月物語〜浅茅が宿〜第5話  投稿者:まねき猫



第五話


「くそっ」
懐にある物を握り締めながら浩平は毒づく。
一日掛かりで真坂峠を越えた直後、盗賊が現われ、持っていた物を殆ど奪われてしまったのだ。
油断していた自分を呪いながら、また成すすべなく荷を奪われた自分を情けなく思いながら浩平は他の道を通ろうと道を戻っていた。
だが、聞けばこれから東の殆どの道には新しい関所が置かれているという。
しかも旅人の通行も許さないらしい。
「これじゃ、文も送れないじゃないか!」
苛立たしげにそう言うがどうなるものでもなく、仕方なく道を引き返していった。

道すがら、何か故郷の茜の安否を知るすべがないかと、人々の噂話に耳を傾けたり、或は自分から聞いてまわったりしたが目新しい事は何も分からなかった。
連絡を取る手段も無く、様子も分からないとあって不安に苛まれたりしたが何も出来ない。
そんなこんなで美濃の半ばまで来た時に浩平は懐かしい顔を見た。
「あれは? ……柚木かっ!?」
一休みしていた浩平は、茜の幼なじみの柚木詩子が後ろから追うようにやって来ていることに気づいたのだ。
当の詩子は全く浩平に気がついてなかったが。
こっちから声をかけるのはもしかして始めてではないだろうか? そう思いながらも浩平は詩子に呼びかけた。
「おー―いっ! 柚木――っ!!」
その時の浩平は何故こんな所に詩子がいるのかということをあまり気に留めてはいなかった。
ただ茜の安否が知りたかったからである。
だがそのためか、浩平を認めた詩子が驚愕から立ち直ると、表情が消えていたことに気がつかなかった。
「……折原君、こんな所で何してるの?」
「何って、休憩してるんだが?」
「茜をほっぽっといて、こんな所で何してるって聞いてるのよっ!!」
初めて聞いた詩子の怒声に浩平は思わず相手の顔をまじまじと眺めてしまった。
「茜はちゃんと納得してくれたぞ? それよりお前……」
顔が赤いぞ、熱でもあるのか? と続けられるはずの言葉は、詩子の声に遮られた。
「……茜は、あんたを待ち続けて……村ごと焼かれたのよっ!!」
詩子は思い出したように激昂し、浩平につかみ掛かる。
「茜が……茜が苦しんでいた時に……あんたは一体どこで何をしてたのよっ!!」
胸倉を掴んだまま、浩平を揺さぶりながら言い立てる。
「何とか言いなさいよっ…なんとか……茜っ、茜ぇ……」
やがて親友の名を口にしながら詩子は逃げるように駆けていってしまった。
一刻ほど過ぎ、浩平はよろよろと動き出した。
表面上は変化が見られない。
だがその足はふら付いて覚束なく頼りない。心なし肩を落しているようにも見える。
そしてわずかに視線を落しながら浩平は上方へ向けて歩いていった。

近江の国も半ばまで来たころ浩平は自分の体の不調に気が付いた。
本当は二、三日ほど前からおかしかったのだが自分では気が付く余裕が無かったのだ。
これも自分のまいた種と諦めかけたが何とか思い直し、目的を果たすまではと病身に鞭打って歩き続けた。
何とか武佐(滋賀県近江八幡市武佐)まで辿り着くと、その地に住む南明義に助けを求めた。
南家は住井の妻の実家にあたり、一度は住井の言伝を伝えに来ていたことから顔見知りでもあった。
南は見捨てず労ってくれただけでなく、医者を迎えてひたすら薬養に心を尽くしてくれた。
やがて熱は下がったが起き上がれるほどではなく、その年は思いがけなくこの地で春を迎えることになった。
いつのまにかこの里にも友ができ、生まれつきの気性からか何年もこの地に住んでいるかのように打ち解けていった。
その後は京に出ては住井の世話になり、近江へ帰っては南の家に身を寄せる。
そんな感じで7年の年月を夢のように過ごしてしまった。


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住井「…奴はどうした?」
ちびみずか1号「いないよ」
住井「いい加減出てくる気はないのか?」
1号「ないんじゃない?」
住井「まあ、いい。それより今回のは不味いんじゃないか?」
1号「なんで?」
住井「柚木さんがそれらしく見えないんだが…」
1号「ああ、それね。ほんにんにきいたら、にげちゃった」
住井「・・・・・・」
1号「おわり〜♪」
住井「な、ちょっとまてぃ!」

―――――幕(笑)―――――

追記:ポン太さんの後に置くのは心苦しいなぁ…