雨月物語〜浅茅が宿〜第三話 投稿者: まねき猫
第三話


「詩子、やっぱり先に行って下さい」
一刻ほど歩いたところで茜はそういった。
「茜?  何いって……」
問い返そうとして、詩子は声を飲み込んだ。
「先に行って下さい」
もう一度繰り返す。いつになく真剣な表情に詩子が怯む。
「浩平が戻ってくるまで、家を空けるわけにはいかないです」
「何言ってるのよ!  いつ帰ってくるかも分からない人を、あんな危険な所で待つことはないでしょ!?」
我に返った詩子は、常にない大声をあげて詰め寄る。
「秋には帰ってくるといってました」
「こんな危ない場所に戻ってくるの?  茜だって避難したと思うに決まってるよ」
「帰ってきます。……約束してくれましたから」
詩子は何とか説き伏せようと言葉を尽くすが、茜は頑として受け付けない。

  四半時も説得し続けたが、一向に受け入れる気配のない茜にとうとう詩子は諦め、妥協案を出した。
「……じゃあ、秋になったら迎えに来るから。その時は必ず一緒に逃げよう?」
「浩平もですか?」
「茜がそう言うなら、それならいいでしょ?」
「はい」
「必ずだよ?」
「はい」
「絶対だよ?」
「はい」
「何があってもだよ?」
「……詩子、しつこいです」
「うっ……と、とにかく迎えに来るからね!  嫌だって言っても無理やり引っ張っていくからね!」
最後に(何度も)念を押すと、詩子は帰っていった。

  詩子が去ってからかなりの日が過ぎた。
近隣の不穏な雰囲気に茜は気が気ではなかったが、浩平の「秋には戻る」の言葉を頼りに、その日を指折り数えて暮らしていた。
そしてついに待ちわびた秋になったが夫からは便りもなく、恨めしく思いながらもなにか事情があるのだと自分に言い聞かせて待ち続けた。
手紙も書いてみたが送る手立てもなく、都へ向かうという人に言伝を頼むのが精一杯であった。
「奥様、只今買い物から帰ってきました。ここに置いておきますね」
「ありがとう、今日はもう十分です。帰ってゆっくりやすんでください」
「ではそうさせて頂きます。……そうだ、都の噂を聞いたんですけど」
「都で!?  都でも戦が起こったんですか!?」
茜の剣幕に多少驚きながらも、下女の真希は噂を話して聞かせた。
「では戦が起こったのではなく、戦を鎮めるために都の公方様から御旗が下されたのですね?」
「はい。何でも下野に知行地をお持ちの方で、千葉様の御親類だそうです」
「そう……少しでも早く騒ぎが納まれば良いのですけど」
そう言ってまた沈み込む茜に多少嫌気が差しながらも、真希は丁寧に頭を下げて出ていった。
「そろそろ潮時かな?  この辺も危ないみたいだし、何より金の切れ目が縁の切れ目ってね」
真希はそう呟きながら帰っていった。だがそう言いながらも少ない給金で今まで世話をしてきたのも事実である。

  世の中が物騒になるに連れて人の心も荒れてゆき、たまに茜を尋ねてくる人もその容貌を見ると言い寄ったりもしてきた。
だが茜はそんな言葉には耳も貸さず、言い寄る人たちをすげなくあしらい、最後には戸を締め切って誰にも会わなくなった。
下女の真希もとうとう来なくなった。鎌倉の近くに住む遠戚の所に行く事になったのだ。
一緒に来ないかと誘われたが茜は断った。そしてこれまでお世話になったからと、僅かながらも餞別も渡し送り出してやった。
それから暫く経っても何故か詩子は現われず、少し寂しいながらも何処かほっとしていた。
だがついには蓄えも尽き、年が暮れてしまった。

  その年、上杉氏を支援していた今川憲忠が死去し、益々戦乱は混迷を深めていた。
そのうえ前年の秋、京都の将軍家から命で美濃の国郡上の領主、東下野守常縁(とうのしもつけのかみつねより)に討伐の御旗が降りていた。
常縁は下野の知行地へ降り一族の千葉実胤と図り御所側を攻めたが、結局落とせなかった。
話は前後するが1月19日には足利成氏が千葉氏を下総国市川城に攻めた。二、三里ほどしか離れていない所での争いに茜もかなり不安だったが結局この地に留まった。
戦いはいつ果てるとも知れず、野伏の類がここかしこに砦を築き、放火をし、財宝を奪った。
関八州安らかな所はなく、瞬く間に七年の月日が過ぎ去っていった……


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ちびみずか1号「おはようございます♪」
住井「唐突だが、この話歴史の話しかしてないんじゃないか?」
1号「そうかな?そうかもね(わらい)」
住井「これじゃ、誰も面白くも何とも無いんじゃないか?」
1号「いいんじゃない?もんくいわれるのはまねき猫なんだから」
住井「…なんか、それでかまわないような、どこかおかしいような…?」
1号「せつめいのしようもないし、これでおわりにしよう?」
住井「感想は?」
1号「かいてないって。まえみたいになるとたいへんだからって、かかないつもりみたいだよ?」
住井「・・・・・・」
1号「じゃあね♪」