終わらない日常 〜メビウスの輪〜 投稿者: ケット・シー
「…悪いけど、作業の邪魔だからどっかに行ってくれないか?」

 …私は…。

「ここにはな、家が建つんだよ」

 …待ち続けるための場所さえ奪われた…。

「勿体ないだろ、これだけの土地を遊ばせて置くのも」

 今の私にできること。

「周りの土地だって立派な家が建っているだろ?」

 それはただ、静かにあいつの帰りを待つだけ…。

「あれにも負けないくらいの家が建つぞ」

 あいつのいない日常に再び身を投じて…。


 あいつの言葉を信じて…。


『じゃあ、大学に行くことに決めたんだ』
「……はい」
『そっかぁ。同じとこ行けるといいね』
「はい」


 春

 桜の花びらが雨にうたれて舞い落ちる。
 濁った空は春の訪れを拒むように、ただ冷たい雨を降り積もらせていた。

 夏

 祭り太鼓を打つ雨の滴。
 大勢の足跡が残る地面に、雨だけが落ちる。

 秋

 銀杏並木の回廊を、しとしとと細い線が流れる。
 無残に踏みつけられた銀杏の葉を、雨が覆う。

 冬

 最初は雪。そして雨。
 白い地面を貫く、冷たい雫。


 私は決して、孤独ではなかった。
 詩子が毎日のように電話をしてくれたり、時には泊まり込んできたり、同じクラスの南明義という人と友達になったり。
 受験勉強をしたり、商店街や公園へ遊びに行ったり、やらなければいけないこと、やりたいことは山積みだった。
 まずは料理の腕を上げること。
 苦手な教科をなくすこと。
 風邪を引かないように丈夫な体を作ること。
 それから……
 忙しいことで、孤独を紛らわそうともしていた。

 受験は見事に第一志望に受かることが出来た。
 詩子や南君と勉強を頑張った結果だった。
 春からは詩子と同じ学校になる。
 南君は私達より高いレベルの学校に行くことになる。
 本格的に数学の勉強をしたいのだと、言っていた。


 そして…。

 季節は再び春。


 卒業間近の放課後。
 私は詩子と会う約束をしていた。
「ふぁ〜、いい天気だね」
 伸びをしながら詩子が欠伸をする。
「…もうすぐ春ですから」
「そうだよね、もうすぐあたしたちも卒業だし」
「…はい」
 あいつは結局、卒業に間に合わなかった。
 一緒に卒業したかったのに……
「これでまた新しい学校だね」
「…はい」
「クラスの人たちと別れるのは寂しいけど…」
 春になれば就職の人、進学の人、近くの人、遠くへ行ってしまう人など様々だ。
「でも、またどこかで逢えるからいいよね」
「……」
 ……あいつは?
 あいつはいつ、帰ってくるのだろう?
「そうだ、瑞佳さんとか澪ちゃんとか元気にしてる?」
 話がそれて、内心ほっとしていた。
「…はい」
「よかった…。最近会ってなかったからね」
 クラスに乱入していた詩子は、いつの間にか長森さんと仲良くなっていた。
 よく長森さんを困らせては、私に逃げてきて…あいつのように……
「みんな寂しがってました」
「嘘でもそう言ってくれると嬉しいなぁ」
 長森さんは本当に寂しがっていた。
 いつも騒がしくしていたけれど、結局最後まで詩子の面倒を見ていた。
 世話好きなのかもしれない。
「…本当です」
「ありがとう」
 にっこりと嬉しそうに笑う。
「そういえば、瑞佳さんとは3年にあがってもまた同じクラスだったんだよね」
「…私の学校は3年にあがるときにクラス替えないから」
 3年になってばたばたとクラス替えはせず、受験に集中できるようにとの学校側の配慮だった。
「ないの?」
 驚いたように目を開く。
「…ないです」
「そっか、なんか変な学校ね」
「…そう?」
 一回馴れてしまった方が、私に話しかけようとする人が少なくていいと思うけど。
「だって、新しい人がいたほうが絶対に面白いよ」
「…はい」
 そうかもしれない。
 けれど…私はまだ、こだわっているの?
「…でもさぁ」
 詩子ははぁ、とため息をつきながら腰に手を当てる。
「クラス替えがないってことは…またあいつと同じクラスだったの?」
「……え」

 …忘れたはずの名前…

「…そういえばさ、ずいぶん長いことあいつの顔見ないよね」
「…あいつ…」

 …出るはずのない言葉…

「そう。賑やかで、自分勝手で…」
「……」
「いつも顔合わせたら私に文句ばっかり言ってたけど…」

 …一緒にいたい人…

「…いないと…寂しい…?」

 …本当に好きな人…

「ううん、あたしは全然寂しくない」



 日常はメビウスの輪のようで、同じ所を廻り続ける……

「茜、僕は日常は“メビウスの輪”じゃなくて“螺旋”だと思うんだよ」

 あの人の最後の言葉……



「…私は…」
 あいつが、帰ってきた……?
「…私は…寂しいです」
「…茜…?」
「……」
 言葉が続けられなくなってしまう。
 詩子がおろおろしているのが、妙におかしい。
「…茜、泣いてるの…?」
「…はい」
「ど、どうしたの?」
「…嬉しいから」
 あいつは帰ってきた。
「…約束守ってくれたから」
 誕生日にプレゼントをくれると。
「…帰ってきてくれたから」
 帰ってきてくれた…私のために、というのは傲慢かもしれない。
 それでも……
「ああっ!」

 詩子が私の後ろを指さしながら、驚いた声を上げる。

「やっぱりねぇ」
 なにやら納得したように頷く。
「あいつは噂をすれば現われるようなタイプだと思ってたのよ」

 振り返ると、そこにあいつが立っていた。
 そして、ばつが悪そうに照れ笑いを浮かべながら、
 私に言ってくれた。
「ただいま」って…。
 だから私も、精一杯の笑顔で…。

 お帰りなさい…浩平


,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,


 ついに最後……遅れてすみません(^^;
 こんにちは、ケット・シーです。

 エンディングの部分の補足、自分なりのですけどね〜
 この後は私には書けないです(^^; アルジー(爆)
 某k●nonの8000円のぬいぐるみは果たしてアルジーなのか……

 感想ありがとうございます……まだ読んでないです(^^;
 すみませんm(_ _)m 絶対読みます。

 では♪