「……この世界は嫌い? この日常はあなたにとって意味のないものなんですか?」
壊れた鳩時計が時間を指す。そろそろ起きないと、学校に遅刻してしまう。
それでも私はベッドの温もりから離れたくなかった。このまま眠っていたいと思った。あいつがいないのなら……
「だから……! あなたを忘れます。名前も、顔も、声も、温もりも……思い出も、全部、忘れます」
私は重い身体をゆっくりと起こした。
外は雨。昨日から降り続けている。
いつものように顔を洗い、いつものように髪をとかし、いつものように……
変わらない、日常。
あいつのいない日常。
それが当たり前になっている、世界。
「……さようなら、本当に……本当に好きだった人」
傘を差し、家を出る。空き地は工事中で、入ることが出来なくなってしまった。
あいつの消えた場所。
空っぽな空き地は、まるで私みたいで、
心が悲鳴を上げる。
「……いや、どうして……どうしてっ……! どうして私を置いてゆくんですか……どうして、ひとりぼっちにするんですか」
もう二度と会えないのなら、どうして私は忘れてしまわないのだろう?
時が哀しみを癒やすと言うけれど、私の心はあの日に置き去りのまま。
私の時間は止まっている……壊れた時計のように。
あの日に、留まったまま。
『ねぇ茜、最近元気ない?』
「……どうして?」
詩子は時々心配して電話をくれる。
『……あたし、行こうか? そっち』
詩子が来たら、私は頼ってしまう。
そんなことじゃ、あいつを待っていられなくなってしまう……
「……いいえ、大丈夫です」
あの人とは違う。
私はそれを信じたい。
『……』
「……」
長い沈黙の後に。
『あたし…出しゃばってる?』
聞き取りにくい、かすれた声。
「いいえ」
詩子は自分が優しいことを知らない。
『そっか……』
安堵して、深く深呼吸する。
「詩子……」
『ん?』
「……ありがとう」
私は不覚にも泣いてしまった。
『あ、あかね……?』
「ごめんなさい…大丈夫です」
『ああーっ、もうっ! 心配だなっ』
急に怒ったように怒鳴るから、私は驚いた。
「詩子……?」
『動かないでねっ、動いたら怒るから!』
「……もう怒ってます」
どうして詩子は怒っているのか、私には理解できない。
『今、家でしょ? 今から行くから!』
「……もう夜の11時です」
『今日は泊まりっ』
ばたばたと慌ただしい音がして、『おかーさーんっ』と叫んでいる。
「……」
恐らく、詩子は本当に泊まりに来る。
私は泣きながら、笑ってしまった。
詩子は私に元気をくれる。
いつだって力になろうとしてくれる。
あの日。
あいつが消えた、あの日。
詩子は私を心配して、ずっとついていてくれた。
泣きながら、私を叱ってくれた。
一人きりじゃないと。
空き地から歩きだす。
また、雨が降ったら立ち止まってしまうけれど……
同じ過ちを繰り返したくないから。
あいつはきっと、帰ってくるから。
あの人とは違う、真摯な瞳で私を見つめてくれたから……
私だけでも信じなければ、あいつは本当に帰って来れなくなってしまう。
たとえこの心が壊れてしまっても、
この心が砕けてしまっても、
構わないから……
だから……
終わらない、日常。
終わらない、メビウスの輪。
いつまでも変わらず、巡り続けるのならば……
ならば、せめてまた逢えるように。
たとえ、また消えてしまっても……
再び、巡り会えるように、祈る
蒼い…月……
,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,
こんにちは、お久しぶりのケット・シーです。
続き物なのに間を空けてすみません(^^;
今回は、作中の時間としては詩子さん、南の話の後にあたります。
あと、最初の方の台詞はゲーム版ではなく、小説版から引用しました。
理由は……時間がなかったんです(^^;
セーブデータなくなるし、またやり直しだと大変だから。
って怠惰です、ごめんなさい(^^;
次の作品は早めに投稿します。
では♪