今日も街は雨に閉ざされる。
私は起き上がり、さ乱れ髪を軽く撫で付ける。
今は、雨脚はそれほどではない。
時計を見ると、いつもよりやや早い時間だった。
簡単に支度を終えると、お気に入りの傘を手に家を出た。
薄暗い梅雨空の下、私はいつもの空き地へと歩き出す。
人通りの少ない道を淡々と行く。
登校する生徒の数もまばらで顔見知りはいない。
そのことに少し安堵しながら、それでいて少し残念に思う。
声をかけてくれる人は居ないのだから。
飛びはね、はしゃぎながら楽しそうに駆けて行く小学生達。
雨に濡れないように小走りに駅を目指すOL。
草臥れた背広に転々と雨痕を残し歩くサラリーマン。
そんな中、私は肩を落し俯いたまま誰にも気にされず一人でいる。
そして私は水を吸い込んだ土の上で一人佇む。
傘が雨を弾く音だけがする。
滴る雫が、みなもへと吸い込まれ波紋を広げていく。
無数の波紋が踊り狂うさまを、私はただ眺めていた。
ただ、眺めているだけだった。
「……永遠に隠れた。と、言われ……」
はっとなって顔を上げる。
教壇には物理の教師がいつものように横道にそれ、古代の日本の話をしている。
どうやら今日は大国主命の国譲りがテーマらしい。
――――永遠――――
……どうしてもこの言葉に反応してしまう。
あの人も、そしてあいつも。それを求めていた。
それがどんな物なのかは私には分からない。
どうしてあんな風になってしまったのかも。
だけど確かに存在していたことが証明できない。
唯一分かっていることは、私では楔にならなかったということだ。
この世界に繋ぎ止める為の楔に。
私は引き止めることが出来なかったのだ。
二人とも……
放課後になっても五月雨は静かに降り続けていた。
なんとなく空き地に寄ってみる。
ぼんやりと、朝来たときの足跡を探してみる。
だけどすぐに諦めた。
湿った風が髪を梳いていく。
降り注ぐ雨の音を草木が静かに吸い込んでゆく。
草木から染み出した水は一つに交わり、流れ、土に染み込みどこかへと消えて行く。
まるで……あのときのように……
ほんの少し前迄はたとえ雨の日でも楽しかった。
傘を忘れたあいつと同じ傘の下、帰ったこともあった。
さらに前は、複雑ではあったけど待ち遠しかった。
空き地で一人でいる私を見つけて話し掛けてくれたから。
雨が降るたびにあいつが近づいてくる気がした。
だけど今、一人で聞く涙のしらべは心をただ冷やしていく。
普段の取り繕っている私を雨は洗い流していく。
残るのは傷だらけの私。
ふいに我に返る。
私はここで何をしているのだろう?
あいつのおかげで、一歩踏み出せた筈なのに……
こんなことはあいつも望んでいないかもしれない。
それでも私はここへ来てしまう。
それでも……私は終りの無い思考の渦に捕らわれている……この場所で。
そしていつ帰るとも知れないあいつを待ち続ける。
いつまでも、いつまでも……
いつか世界の終りが来ても、私はここで待ち続けるのだろうか?
いつ帰るともしれない、本当に帰ってくるかどうかも分からないあいつを……
……私は間違っているの?
問い掛けても答える人は居ない。
私は忘れられた二人のためにもここで待ち続けたい。
せめてこの場所がある限りは……
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一応補足。二行目の“さ乱れ髪”というのは、五月雨のように乱れた髪という意味です。
お久しぶりのまねき猫です〜
今日はこんだけで勘弁してください(^^;
では〜♪