「ふぅ・・・」 ため息を吐くと、俺は何気なく見ていた前の席の青い髪の女生徒から、窓の外へと目をむけた。 (どうして、こうなってしまったんだろう) 外は青い空、白い雲、こんなにもいい天気だというのに・・・ (何がいけなかったんだろう) 俺の心の中はどうしようもなく荒れていた。 前の席の女生徒に視線を戻すと、その女生徒は(七瀬留美という名だ)何かを熱心に読んでいるようだった。 その時、教室のドアが乱暴に開けられる音がして男子生徒が、続いて女子生徒が入ってきた。 しかし俺には関係ない。また思策にふけることにする。 (何故こんなことに・・・) 「おい」 誰かが、さっき入ってきた男子生徒が話し掛けてきた。が、聞こえない振りをする。 (何で、いったい何故・・・) 「こら、聞いてるのか!」 うるさい奴だ、人が考え事をしている時に。 なおも無視すると、また窓の外に目をむけため息を吐く。 と、さっきの女生徒もやってきたようだ。 「どしたの浩平?」 「長森、これを見ろ」 「これ? 住井君でしょ? それがどうかしたの?」 「ここは俺の席だろーが!」 「心の狭い奴ね。そのくらいのことで喚かなくてもいいでしょ?」 二人の会話に七瀬さんが加わったようだ。どうでもいいが静にして欲しい。 その時また教室のドアが開き、女生徒が入ってきた。里村茜さんだ。 「よう、茜」 「里村さんおはよう」 「・・・おはようございます」 挨拶を交わすと、里村さんは席についた。途端、南が里村さんの方に向き直り話し掛ける。 (許せん、やっぱり納得できん!!) 「いったい何故なんだ!!」 「どわっ」 「きゃっ」 折原と長森さんが悲鳴を上げ、慌てたようにこちらを見る。 「どうした住井、何が何故で何がどうしたなんだ?」 「浩平、意味不明だよ!」 俺はそのまま折原の席を飛び出し、里村さんの席・・・の前の席に駆け寄る! 「何故だ、南!!」 「うわっ! 急になんだ!? なにが『何故』なんだ?」 「答えろ南! 何故おまえばかりが救済されるんだ!俺の立場は、どうなるんだ〜〜〜!!」 そして俺は教室を飛び出し、(途中で髭を跳ね飛ばしたような気がしたが)いずこへと去っていった。 「なんなんだ今のは?」 「そんなの私が知るわけないよ」 「それより里村さん、今日一緒にかえ・・」 「嫌です」 ・ ・ ・ ・ ・ (昔は良かった、昔はもっといい役が多かったからな・・・ なのに今はWILYOUさん以外まとも(?)な出番はほとんどない。 折原はまだいい、主人公だからな。多少痛めつけられても出番が減ることはない。 長森さんも、七瀬さんも里村さんも、三人ともヒロインキャラだ。 繭ちゃんもそうだし、川名先輩や上月さんもそうだ。 あったことはないが、氷上もメインキャラの一人だ。・・・と思う。 柚木さんは、里村さんのシナリオの重要人物だし、深山先輩は川名先輩と、上月さんの二人のシナリオに出てくる。 なのに何故・・・ 名字が出た以外、ほんの二口三口喋っていただけの・・・たったそれだけの南が・・・) 「何で主役を張れるんだ!!」 (夕焼けがやけに目に染みるぜ・・・) 学校を飛び出してから、河原でひとしきり悩んでいた俺は、昼頃になってある結論に達した。 (こうなったら、南と、ついでに折原を抹殺してくれる!) そう、あの二人さえいなければ、俺も主役になれる。俺はそう考えたのであった。 後から考えるとばかばかしい限りだが、その時は真剣だった。 ・ ・ ・ ・ ・ その晩、俺は学校の理科室に忍び込んだ。爆発物かなんかがないかと思ってだ。 計画としては、折原の席に爆弾を仕掛けて、南の席には毒針でも置いておくつもりだ。 何故なら、下手に南の席に仕掛けたりして里村さんに何かあったら・・・永久に出番が無くなるかもしれないからだ。 その点、折原の席なら大丈夫だ。周囲に名のあるキャラクターはいないし、七瀬さんだったら 「このくらいの爆発なんでもないわ! あたし、七瀬なのよ!!」 というふうに無傷ですむだろう・・・と折原が言っていた。 「ええっと、オシロスコープに熱電対、スライダックに圧力計・・・」 (しっかし、なんでこんなにぐちゃぐちゃに置いてあるんだ?) 「なんだこりゃ? 『磁性るつぼ』? なににつかうんだ?」 幾ら探しても爆発物など見つからなかった。当たり前といえば当たり前だが。 「これは? ディフラクトメーター? 隣にあるのは・・・クライストロン?説明書は何処だろう」 名前だけでは良く分からなかった俺は、奥の棚にある機器の取扱説明書の保管場所へと向かった。 「なになに、ディフラクトメーター、真空管の陰極と対陰極との間に高電圧を加え、陰極を熱して出てくる熱電子を加速して対陰極に当てると対陰極からX線が放射される。・・・クライストロンの方はマイクロ波の発生装置か・・・」 俺は奥の方にしまってあった変な機械の説明書を読んだ時、新たなる考えが浮かんだ。 (確かX線を大量に浴びると被爆するんだったな・・・なら俺も安全に計画が実行できる) 折原の席に爆弾を仕掛けると、隣の席である俺にも被害が出るということに既に気づいていた。 だから、これなら自分は怪我をせず、折原や南を抹殺できる。そう考えたのである。 しかし、その機械は”実験用の”X線発生装置であることに気づいてなかった。 「これを使えば、折原・・・いや南も」 「どうするんだい?」 突然話し掛けられて俺は動揺した。とっさに近くにあった、手で持てそうなものをつかみ振り返った。 X線の装置は教卓より重そうだったからだ。 「そんな物を何に使うのかな?」 俺は問いを無視し、手に取ったピコピコハンマー(?)を相手に振り下ろした! ピコッ 間抜けな音が響き、辺りは死にすら似た静寂に包まれた。 空には月が輝き、星が煌き、自衛隊機が空を舞っていた。 (そう言えば近くに自衛隊の飛行場があったな。でもなんでこんな所にピコピコハンマーが?) 「その機械を何に使うんだい? 住井君」 「なっ、何で俺の名前を・・・! まさかおまえは!!」 「そう、僕は氷上シュン。良く分かったね」 「・・・なんだ沢口じゃないのか」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・で、なんの用だ?」 「・・・・・折原君が気が合う奴だと言う理由が分かったような気がしたよ」 「! 折原の手のものか! 皆の者曲者じゃ、出らえ!!」 「ここは深夜の理科室だよ。誰も来るわけないと思うけど」 「ならおまえはなんだ?」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「やはり曲者! このX線発生装置で息の根止めてくれる!!」 日頃から、折原との会話で鍛えられている俺には、相手を沈黙させることなど容易だった。 俺は機械に向かうと、それを動揺(絶句)している氷上に向けようとした。 「無駄だよ。夜間は電源が落とされているからね。それにそれは実験用、とてもじゃないけど人に向けるなんて事は出来ないよ」 「なっ!」 「それに・・・被爆するまでどれくらいの時間がかかると思ってるんだい?」 「・・・・・」 今度は俺が沈黙する番だった。確かにホンの二、三秒で被爆するはずはない。 それに、被爆するまでじっと浴びていてくれるなんて、七瀬さんぐらいだ・・・と折原がいっていた。 「俺の負けだ、一思いに殺せ!」 俺はそう言った。覚悟を決めると、なんだか何もかもがどうでもよくなるような気がした。 「折原君達を消しても君の出番が増えるとは思えないよ」 気のせいだった。 「なんだと! ならどうしたら俺の出番が増え・・・主役になれるんだ!!」 「無理だよ」 「なぜだ!!」 南に対するものとニュアンス的に近い問を発する。俺は冷静さを失っていた。 (何故俺は主役になれない!) 俺は氷上の言葉に怒り狂い興奮し、返答次第では「折原、南抹殺計画(仮)」の名称を変更する気でいた。 「それは君が”いい奴”だからだよ」 「!」 「君には主役は無理だ。それは君がこのゲームで一番の名脇役だからだ!」 「一番の・・・」 「そう、それは君にしか出来ない。だからこそ多くのSS作家さんたちに愛され、脇役の中の脇役として活躍してきたんだ!!(・・・多分)」 「そうだったのか・・・」 「わかってくれたかい?」 「よく分かった! 俺は脇役の中の脇役! 助演男優賞も夢ではない!!」 「そこまで言ってないけど・・・」 「なんかいったか!?」 「いやなにも・・・」 ・ ・ ・ ・ ・ そして次の日。 「ふぅ、何とか間に合ったな」 「浩平がちゃんと起きてくれないからだよ」 「長森がちゃんとおこさないからだろ! ぎりぎりにくるからだっ」 「ちゃんといつも通りについたよ!浩平が部屋のドアを板で打ちつけたりするからだよ!!」 「なんだと」 「なによー」 「ふかーっ」 「うーっ」 「よっ、おふたりさん朝から痴話喧嘩か?」 「すっ住井!?」 「どっどうしたの住井くん、にやにやして」 「ふっ、俺は昨日までの俺ではないのさ。New住井君と呼び給え」 「・・・・・」 「・・・・・」 「では、俺は忙しいからいくぞ」 俺は生まれ変わった。俺の新たなる目標はずばり、世界一の脇役だ!! 「わっはっはっはっは、めざせ!脇役の星!!」 ・ ・ ・ ・ ・ 「・・・・・」 「・・・・・」 「住井君昨日から変だよ?」 「いつものことだ、気にするな」 「でも脇役の星って・・・」 「死ぬ気なんじゃないか?」 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 えっと、初投稿です。 もしかしたらもう投稿しないかもしれないけど・・・ 住井って、気にも留められていないぶん南よりかわいそうなんじゃ そう思ってSSにしてみました。 即興で書いたのでかなり乱雑な文ですけど読んでもらえるとうれしいです。 では