悪夢という名の現実 投稿者: メタルスライム
前回の「なぞせま」に載せる予定だった、おまけSSです。
全ての澪ふぁんに捧げよう!
メタル澪『大げさなの』
では、どうぞ〜


・悪夢という名の現実


「ねえねえ、おかあさんーっ!」
「なぁに? ・・・澪ちゃん、そんなに先行っちゃ駄目よ」

パタパタパタッ・・・
公園を満面の笑顔で走り回る女の子。
上月澪――当時4歳、初春の出来事であった。

「みお、すべりだいやるのっ」
「はいはい。お母さん、下で待ってるね!」

よいしょ、よいしょ、と滑り台の階段を登る。
「なの、なの、なの・・・」

「澪ちゃん、気を付けるのよ」

「気を付けるの」
母の言葉に小さな声で、自分に言い聞かせるように言う澪。
そして・・・・・・ぶんぶん、と手を振る。
だいじょうぶ〜、ということらしい。

・・・・・・。
「ほえ〜、たかいの」
滑り台の頂上で辺りを見渡す。
普段見ることが出来ないその景色に、澪は呆然と立ち尽くしていた。
「すごいのっ」

「ほらっ! 横の手すりにつかまって、危ないわよ」
「ほえ〜、ほえ〜なの」
澪は新鮮な光景に気を取られていた。

ビュウウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

その時―――突風が公園を通り抜けた。
春の訪れを知らせる、春一番と呼ばれる風だった。

「きゃああ、・・・・・澪? 澪ちゃんっ!!」
砂が目に入り、澪の安否が確認出来ない。
目を開き、再び滑り台に目を向けた時・・・・・悪夢がそこにあった。


・・・・・

リボンがほどけ、宙に流れていた。

飛んで行くリボンの端を掴もうと、幼い手が伸びる。

その場所が――滑り台の上であることを忘れ、ただお気に入りのリボンを追って。

何もない。

何もない、空に向かって足を踏み出していた。

誰も悪くない。

そして、誰も責めることが出来ない。

悪夢。

そう、全ては悪夢だったんだ・・・・・。

・・・・・


「・・・脳性麻痺ですね」
「脳性麻痺?」
「はい。左前頭葉後方下部の局所的損傷が原因です」

大学病院の、とある一室で澪の母は主治医の説明を受けていた。
隣に座っている澪の父は、ただ黙って足元を見つめている。

「ブローカ(運動性)失語という症状です」
「あの、そ、それは?」
「・・・左前頭葉後方下部は、言語中枢があるところでしてね。そして、ブローカ失語症と言いますのは、その部分を損傷することによって起こる障害でして、言葉の理解も唇および舌の運動も保たれているにもかかわらず、言葉を話すことが出来なくなる脳性麻痺の一種なんですよ」

(言葉を話すことが出来ない・・・)
心の中で、その言葉が反復する。
(私の、私の不注意のせいでっ! 澪は・・・)

「治るのでしょうか?」
沈黙を保ってきた澪の父が口を開く。
「・・・・・・・・残念ながら、現在の医学では」
主治医がそう言うと、澪の母は泣き崩れた。
(そ、そんな・・・。やっと言葉を覚えて、幼稚園にも通い出したのに・・・そんな)
「幸い、他には症状は見られません。一応月一回、当院にお越し下さい。では・・・」


「ねえ、澪ちゃん。お母さんのお話聞いてね」
「・・・・・・」
口をぱくぱくさせて、言葉をつむぎ出そうとする澪。
「・・・・・・?」
一生懸命喋ろうとするが、それは音にはならない。
「澪ちゃん、ごめん、ごめんなさい。お母さんが悪いの、お母さんが全部悪いのよ!」
澪と一緒に泣き出す。
この日から―――
澪は浩平に会うその日まで、『言葉』を失った。
そして、澪は笑顔も忘れたのだった・・・・・。


 end,


う〜ん、どうでしょうか?
こういうわけで、澪は高所恐怖症になって、リボンを取るのを嫌がるようになったというのは。
メタル澪『なの』
実はもう一つ考えたんですが・・・
澪は自分でリボンを結べないから、というのはどうでしょう?
メタル澪『失礼なの。一人で出来るのっ』
そうですかぁ。
では、次回「なぞせま」お楽しみに!
メタル澪『感想ありがとなの☆』
・・・たぶん年明けだな、次回は。
メタル澪『良いお年を〜なの』