「そういえば、あと1週間だね」
「卒業式?」
「うん、早いよね」
「卒業式か……今まではピンと来なかったけど、今年は少し違うな」
やっぱり先輩と出会ったからだろうな……
「浩平君は。卒業式に出席するの? 在校生代表で何人か参加できるみたいだけど」
「ああ、先輩の門出だしな、絶対出席する」
「浩平君……絶対に来てね」
「ああ……約束する」
「忘れたら……怒るからね」
『約束だからね』
でも……俺の存在はもう、希薄になっていた。
在校生代表どころか、俺はこの学校の人間だとはもう……誰にも認識されない。
学校の授業に出席することもできず……
俺の存在がその日までは消えないことを祈るしかなかった。
2月25日……
いつものように、先輩の帰る時間を見計らって学校へ行った……
2月26日……
先輩と電話で話した。
2月27……28……
3月1日……2日……そして……
3月3日の朝……
目覚ましの音と共に、俺の意識は覚醒した……
良かった……まだ、存在している。
でも、希薄なっている自分の存在がわかる……
もしかしたら、1分後に消えるかもしれない……
登校中に消えるかもしれない……先輩に会えずにこのまま……
やめよう、考えるだけ無駄だ。
『約束だからね』
先輩との約束さえ守れれば……
しかし……甘かった……。
簡単に体育館にくらい入れるかと思っていた……
先輩の門出の姿を祝福できると……見届けられると思っていた……
だが……体育館の扉の前にいたのは……
……髭だった……
髭だけはまずい、以前学校に忍び込んだとき、顔を見られている……
不審侵入者として……
くそ、どいてくれ、髭!
くそ、他に入れるところはないのか?
体育館を1周する……ダメだ。
どこも閉まってる……
髭はまだ扉の前にいる……
くそ、トイレでもなんでもいい、そこを少しの間だけ離れてくれれば……頼む
だが、俺の祈りもむなしく……髭は、時間までそこを動かなかった……
そして……
バタン……
その扉は閉じられた……
いい天気だった……
雲一つない空ってのはこういうのを言うんだろうな……
屋上……俺は空を見ていた……
いや、ホントは何にも見ていなかった……
何時間そうしていたのか……
空はすっかり赤くなっていた。
このまま消えてもいいかな……
もう、俺がこの世界にいる意味なんて……ないのかもしれないから……
でも、そんな俺の視界を影が映る。
「夕焼けきれい?」
「ああ、きれいだぞ」
「良かったね、明日も晴れるよ」
いや、俺が言いたいことは、こんなことじゃないんだ……
「卒業おめでとう」
「ちゃんと約束守ってくれたんだね」
「ああ」
「本当にありがとう」
無邪気で屈託のない笑顔。
「ああ、約束だったからな」
嘘だった。
罪悪感はあったけど、この方がいいと思ったんだ……
先輩と最後の校舎を歩く。
「今日で最後だと思うと、何もかもかけがえのないものに思えるんだよ」
最後か……
「浩平君もあと1年経てばわかるよ」
……今でもわかるよ。
だって、俺にとっても最後の学校なんだから……
「……俺、先輩に嘘ついてた」
校舎が闇に包まれていた。
「卒業式に来てくれなかったこと?」
「え……どうして?」
「浩平君、嘘つくのへタだからね」
……ごめん、約束守れなくて……
「卒業式に来てくれなかったのは残念だけど、式の後でいっしょにいれただけでも、嬉しいよ」
「……先輩」
「それにクリスマスのときに、わたし、言わなかったかな?
『約束ってね、結果じゃなくて、守ろうとしたかどうかが大切だと思うんだよ
浩平君はわたしのためにがんばってくれたんだよね。だからわたしは本当に嬉しいよ』って」
ああ、覚えてる。
クリスマスツリーを用意できなかったときでも、先輩は……
「今回も、がんばってくれたんでしょ」
だから……わたしは、今も浩平君がわたしとの約束を守ろうとがんばってるんだって信じてる。
必ず帰ってきてくれるって……
『俺は、何があっても、最後には絶対先輩のそばにいる! 約束する!』
『約束ってね、結果じゃなくて、守ろうとしたかどうかが大切だと思うんだよ
浩平君はわたしのためにがんばってくれたんだよね。だからわたしは本当に嬉しいよ』
☆★☆★☆
あとがきゃ
「自分より寂しい人がこれ以上増えないように……」
そんな悲しいことをみさきさんには言わせたくないです(言ってないけどさ)
つらすぎですよね、みさきさん。うん、ホント。
広瀬の感想ありがとうございました。
広瀬に都合のいいSSなんでななぴ〜とあっさり仲良くなったりしてますが
DNML化しようにも、川原とか広瀬の立ちCGとか少なすぎなので
まったく無理です(TT)
会員は常に募集中、増えないよ〜(TT)>広瀬FChttp://www.geocities.co.jp/Playtown/1331/